虎族星域防衛戦 発艦式のあれこれ
虎族外縁では、“敵”のフクコンが現れようとしている。虎族とその応援にかけつけた龍族、猫族、鎧獣族のそれぞれは…
6-3-3 虎族星域防衛戦 発艦式のあれこれ
するどい刃物をイメージさせる女性が3人の前で会釈した。そして口を開いた。
「本当に、お三方からのお言葉は“なし”でよろしいのですか。」
純白の軍服の主が大きく肯く。
「いや、ホントに挨拶って苦手なんです。すみませんが名前の紹介だけで終わらせて下さい。」
「シヴァイがそういうなら、私も“なし”でいいニャ。イェズウはどうするニャ?」
「お二方を差し置いて、私のようなものだけ挨拶できようはずがござらん。拙者も“なし”でよろしくお願いしたい。」
三人三様の言いぶりがおもしろかったのか、女性はクスッと笑みを浮かべた。
「それでは、そのように虎姫様にお伝えいたします。それでは、もうしばらく、おくつろぎ下さい。」
女性は身を翻し、軽快にドアの向こうに消えていった。
「あ~、助かった。虎族の大観衆の前で直接あいさつなんて出来ないわー。」
先ほどまでよりいっそう雰囲気を崩したシヴァイは、両手を組んでそれを天井に伸ばしながらつぶやいた。
「私は慣れているニャー。族長はそういうのも仕事にゃ。イェズウはホントは挨拶したかったんじゃないのかニャ?」
「め、めっそうもありません。実はわたくしも格式張ったことは苦手でございまして…しかしシヴァイ様がそのような方とは夢にも思いませなんだ。」
「シヴァイはけっこう大雑把なヤツだニャ。“龍族最強”とか“銀河宇宙最高の知将”というアダナと実像はかなり離れているニャ。」
こくこくと何度も肯く鎧獣族の次期族長である。彼自身“荒武者”のアダナとは大違いの礼儀正しい好青年であることを自覚していないのであるが。
ここは虎族の本星“虎の牙”。虎姫城の前にある大広場に接する迎賓館の一室である。他の種族の主立った者が来星した際に使われる最高級の客間である。しかし何度もここを使用して慣れているアシュバスがいるおかげで、シヴァイ達も緊張せずに時間を過ごせている。
「ふーん。フー・スーというのか。なかなかの者だったニャ。」
突然アシュバスがつぶやいたので、両脇の男二人は「えっ」と声を揃えた。彼女は“妖精”と会話していたらしい。
「さっきの女ニャ。どうせ虎姫様の“影虎”だと思って、ウチの子に調べさせたニャ。その報告が今、届いたニャ。」
「影虎?」
まったくわかっていないシヴァイに対して、イェズウはさすがに少しは知っていたようである。ゴクリと唾を飲み込む。
「あ、アサッシンなんですか。先ほどの女性が??」
「うん。それもかなりの上位…指揮官クラスだニャー。自分の目で私たちを見ておきたかった、というところかニャ。」
思わず立ち上がるイェズウ。あたりをキョロキョロと見回す。
「わ、私たちは虎族に協力に…味方に来たのですよ。それなのにアサッシンを使いに回すなんて…。」
「慌てることないニャ。最強の刃物は最強の防具でもあるニャ。彼女も、私ら三人を守るために一度直接見ておこう、程度だと思うニャ。」
へー、という程度にしか感じていないシヴァイ。図太いのかバカなのか微妙である。彼の頭脳はまだちっとも回転していなかった。
「そうか、では妾の演説も短めにしておくとしよう。」
同じ迎賓館の最高ランクの控え室では、虎姫様が忠実な部下に対してそう告げたところだった。
「で、自分の目で見た三族からの応援、主立った三人の様子はいかがだった?」
虎姫と同じ衣装を着て、同じ髪型をしたフー・スーは軽く微笑んだ。
「アシュバス様はすぐに私の役割に気づいたようでした。背中の毛が軽く立っていたところが、かわいらしかったです。」
「ふふふ、まだまだ子猫よのぅ。…で、本命は?」
虎姫の瞳が鋭くなる。獲物に跳びかかる寸前の猫科の生き物特有の目つきだ。それに対して、フー・スーの眼も厳しいものとなっていく。
「私の身分にはまったく気づいていないようでしたが…緊張感や不安感は全く感じませんでした。」
「大会戦を控えているというのに、か。」
ちょっと感心したようで、緊張感がほぐれた虎姫の口調に、フー・スーは大きく肯いた。
「あれほどの剛の者は我が軍全体にもあまりいますまい。金虎、白虎に匹敵する肝の持ち主と思われます。」
「そうか、知将とは言いながら、頭でっかちのずる賢いだけの猿とは違うようか。」
「は。このたびの戦いで、それなりに使える者と思いました。」
地球から来た若者たちの前では決して見せない、もう一つの姿のフー・スーが溜息をついた。虎姫様の計画では、あの男を虎族に引き入れたいとのことであるが、強い方に簡単になびく、軟弱な心の持ち主ではなかった。態度はふにゃふにゃであったが…。
そのフー・スーの表情から何かを察したか、虎姫は頭を切り換えたようである。
「では、今回は心強い客将軍としてのみ対応しよう。それならばよいな。」
「は。味方にすれば心強き者と思います。」
二人の目が合ったとき、ドアの外から侍女の「お時間でございます。」という怯えた声が届いた。虎姫は返事をすると準備を始めた。
「えーーーー。あの虎姫様、影武者だったのーーー。」
「これ、シュン、声が高い。マニャ、何か飲み物を頼む。」
しばらく全員が無言で飲み物を口にするフー・スーを眺めていた。
「私が演説をしている間に、虎姫様は護衛たちと安全に旗艦に戻られた。あんな暗殺して下さいと言わんばかりの場所に姫様を出せるか。」
一番力強く肯いたのはナホさんであった。一流のスナイパーだけに、狙撃の可能性を考えたのだろう。
それにしてもマニャとフー・スーさん、この二人しばらく同居していただけなのに、なんかもう姉妹みたいだなー。じゃなくて、さっきの式典で僕たちや他のパイロットたちも虎姫様と思い込んでいた女性は、この目の前にいるフー・スーさんだったって…?思わずガン見してしまう。まったく気がつかなかった。辺りを見回すと、ユカリもミキもまだ目がテンになっている。いや、丁度居合わせたイッセさんも口を開けて「まさか…」とつぶやいたきりだ。
高速シャトルで巡洋艦「ネムルアルカト34」に立ち寄ったフー・スーさんは「戦闘に入ったら、顔も見られないからな。」と僕たちを呼び出した。イッセさんも入室を許されたのは彼がフー・スーさんの腹心の証拠だろう。
「いや、ホント肩がこったわー。顔は“妖精”の力でコピーされているから安心だけど、身振りなど動きは王族っぽくしないといけないからな。」
「…全然わからなかった…」
女性陣のつぶやきにニンマリと微笑むフー・スーさん。女王の風格をいつでも出せるって、女としてワンランク上なんだろうなー。女子高生では勝てんわ。
「…イッセさん、女性ってコワイッスねー。」
「…種族を越えて、同意する。」
「どういう意味じゃ?」
そのあと、僕たちはフー・スーさんに今回の作戦の概略を聞いた。ビックリの内容がいくつもあった。我が「ネムルアルカト34」の艦長も知らないことを教えるために、彼女は僕たちに直接会いに来たのだと、ここでやっとわかった。
「承知したか。この戦いは虎族の運命を握る戦いである。しかし、絶対に死んではならぬ。まだこの次があるのじゃ。私はおぬしたち五人に期待している。虎族の力になってほしいというのはこの戦い限りではない。わかったな、必ず生き残れ。」
フー・スーさんの真剣な言葉に、僕たちは力強く肯き返した。その様子に彼女は満足したようだった。そして目線を変える。
「ついでにイッセ、お前も死ぬなよ。お前の仕事はまだまだ残してある。全て片付けるまでお前は私の奴隷だからな。」
「は、はい。」
感動したような、怯えたような、泣き笑い顔のイッセさん。この二人の間には一体何があったのだろう??
猫族旗艦アフマルガに立ち寄ったシヴァイは、アシュバスの真剣な瞳を正面から見つめた。司令官室は二人きりだった。
「シヴァイ、この戦いが、この戦いが終わったら、私と…。」
しかし、その口をシヴァイの手のひらが封じる。ふがふがと言葉を続けられず、目が怒りでつり上がるアシュバス。
「アシュバス様、戦い前にそういうことを言うと、フラグが立ってしまいます。」
「?なんのことニャ???」
地球では当たり前のことが宇宙ではまだまだ知られていない。それが不思議で、シヴァイは小さく微笑んだ。その微笑みを何と勘違いしたか、アシュバスは微笑み返す。
「アシュバス様、絶対に生き残りましょう。地球には楽しいことが山のようにあります。二人で全部見て回るまで、アシュバス様を手放しはしませぬから。」
「うむ。シヴァイはウソをつかない男ニャ。この戦いでも、シヴァイの言うとおりに我が猫族は、そして私は、全力で戦うニャ。」
アシュバスの頭をなでながら、シヴァイの脳はフル回転を始めていた。銀河宇宙最高と言われる知将はここに来て、やっと考え始めたようであった。
日本は宇宙人に侵略されました。宇宙が赤く染まる日が近づいていた。
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