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男女高校生の日常

そのころ、日本では…

5-9-2  男女高校生の日常


「フク、俺の面談終わったぞー。お前も汗流して、行ってこいや。」

 訓練場の分厚いドアを開けるなり、そう言ったのは、元バスケ部キャプテンの大串であった。彼は片手に提げていたスポドリで軽くのどを湿らせると、準備運動を始めた。その横に、フクと呼ばれた男が近づく。元バレー部キャプテンの福田だ。

「サンキュー。まぁ名前順だから、そんなに急がなくてもよさそうだよな。」

「いや、けっこうテンポ早いぞ。」

 今日は3年生の二者面談の日であった。学級担任と進路について話合う。もう町の景色は秋一色のこの時期、最終の進路決定の時期である。

「大串は、なんて言ったんだ?」

 福田はだらだら流れる汗を拭き、一気にスポドリを流し込んだ。市販のスポドリとは違い、それぞれの個人が排出する汗の成分を分析して作られた、専用のスポーツドリンクである。プロのスポーツ選手くらいにならないと飲めなかった専用スポドリが、“妖精”のおかげで自宅で簡単に作れるようになった。「あ、もちろん就職だよ。」

「どこに。」

「このご時世、自衛隊しかないじゃん。」

 丁寧に屈折運動や柔軟運動を行う大串。かつての体育の授業や部活の前ならば、準備運動を適当にこなす存在もいたであろうが、これから行う訓練は命がけの戦いに向けての訓練である。本番で万一、と思うと準備運動一つでも手が抜けない。これも「以前とは変わったなー」と思うことの一つである。

「ビーム銃・剣やパワードスーツを製作する企業って進路もあるじゃないか。そちらも給料はいいし、安全だぞ。」

「うん、それ担任にも言われた。だから言ったんだ“自国を守る、なんて偉そうなことは言えないけれど、自分と自分の周囲の人間を守るために、自衛隊に入隊して、宇宙から降りてくる“虫”と戦いたいです”ってね。」

「……それ、このあいだ俺が話した内容じゃないか…パクったな~。」

福田の口調は怒りに満ちているが、目は笑っていた。彼らの間柄=戦場で命を助け合う関係で、その程度のやりとりは普通である。

「うん。俺もそう思っていたし。いいじゃん、お前も担任にそう言えや。」

「あほ!俺がパクったように思われるわ!くそーなんか違う言い方考えんとアカンやないか…」

「ははは、まぁ、おもしろい志望理由考えろや。」

 この高校は元々は進学半分、就職半分の雰囲気の学校であった。それが今では、ほとんどが就職になり、その大多数が自衛隊志望である。宇宙から来る“虫”対策にいくらでも人出のほしい自衛隊はほとんどの者が入隊できる。また製造関係の就職も恒常的に人手不足の状況である。面談はほんの形だけのものにすぎない。

「フク、知っているか?ウチの高校の入学志望率、県内ダントツって。」

「え、知らなかった。なんでだ?こんな田舎の高校に、町の中学生が入りたがっているのか?」

「ウチだけじゃない。となりのA高校も志望率ウナギ昇りだってよ。弟が嘆いていたわ。」

「ああ、準くんもう中3か~。でもそんな人気高校になるなんて信じられないなー。」

 時計をちらちら見ながら、会話を続ける二人である。実際には、時間が来れば“妖精”経由で直接呼び出しがあるだろうから、あまり気にしていない。

「弟の話によると、ウチとA高校はパワードスーツの着用率が高いだろ。配備率が県内トップだから。」

「そうか、なるほど。」

 自衛隊に完全配備が終了したパワードスーツ=自衛隊での呼び名は機動歩兵である、それは現在日本各地の大学や高校にも配備が始められていた。現に、今から大串が行う訓練もヤクトルからの機種変更訓練である。 

「中3で、やる気のあるヤツほどパワードスーツに乗りたいと思う。また死にたくないと思うヤツも、生身やヤクトルで戦うよりもパワードスーツの方を選びたいと思う。結果、ウチの高校がなんと人気ナンバー1の学校に!!」

「アホやなー。帰還率は高いけれど、出撃率も高くなるんだが…まぁ、その帰還率が高いのもウチの高校の特長のひとつか。」

 二人は空を見上げた。

「あいつらが“虫”それぞれに合わせた最適な戦闘パターンを作ってくれたからなぁ。」

「“虫”が降りてくるようになってすぐ、日本中の民間戦闘員は大変な被害を受けた。でもウチはあいつらのおかげで生還率も高く、一人一人が戦闘を繰り返すことで、熟練兵になっていけた。」

「ほんと、シュンたちには感謝だよな。」

 シュンと村上、石尾の3人が宇宙に上がって、すでに数ヶ月。彼らが地球に帰ってくる様子は全くなかった。噂では学校に各家から休学届けが提出されているとか。どれくらいの期間、宇宙で過ごすのか保護者もわからないと言っていたらしい。

「虎族の星でも、思いも付かないアイデアで戦っているんじゃないの。」

「で、手放してもらえないか…ありえる話だなぁ。」

 話している二人の所に、ジャージ姿の女子が現れた。元女子卓球部のキャプテンである。ただし、元の意味が男子二人とは異なっている。3年生になって次の主将に引き継いだわけではなく、卓球部、あるいは部活動という存在がなくなってしまったのである。頻繁に“虫”の降下や孵化が行われるようになった日本や世界の各地からスポーツの大会はなくなっていった。命がかかっている毎日では余暇活動も意味が変わってくる。ワールドカップやオリンピックはかろうじて形を残しているが、そのオリンピックの種目も戦闘に関連した種目が増えている。ヤクトルによる射撃や、パワードスーツの模擬戦闘など、実戦に役立つ日頃の練習の成果が発揮できる種目が多くなっている。

 元女子卓球部主将の新川は人を探しているようで、大串と福田に尋ねてみる。

「すみません先輩方、上田さんと川崎さんがどこにいるかご存じないですか?」

「ああ、あの二人なら今日は会議だよ。O市の宇宙局に向かっていると思うよ。」

「あ、そうなんですか。ありがとうございました。」

 礼を言って、頭を下げて立ち去ろうとする新川を、福田が呼び止める。

「新川さん、ちょっと時間いい?」

「はい。」

「新川さんって、シュンたち3人と仲良かったよね。」

思いもかけない質問に、一瞬だけ間があく。しかし新川はすぐに答える。

「はい、ユカリとは保育園から一緒ですし、マニャとシュンとは中学が同じです。高校でも同じクラスだから…」

「なかなか帰ってこないけど、何か連絡ある?」

さびしそうに首を横にふる新川。「そうか~」と男子二人がハモる。

「心配だよね。」

「えーっと…3人揃っていれば、きっと戦いには生き残ると思うんです。」

「そうだよなー」

腕組みしたまま、うんうんと肯く男子二人に「でしょ」とつぶやく新川。

「それより心配なのは、このあいだ習った“ウラシマ効果”ってやつです。」

しばらく顔を見合わせた男子二人は新川に向き直すと、口を開いた。自分たちも座学で習ったことを思い返す。

「えーと、宇宙で(地上でも)光速に近いスピードで移動すると時間の流れが遅くなる。つまり周りの時間の流れが速くなる。」

「それが光速に近いほど時間の流れが遅くなって、周りの時間が早く流れる…すると宇宙から帰ってきたとき自分は年を取ってないのに自分の幼馴染などはみんな死んでいたり、時代が変ってたりする…っていうあれのこと?」

「そうです。ユカリたちは宇宙人の艦に乗って、ワープとか繰り返しているんでしょ?」

「そうか、あっちの数日は地球の者にとっては数週間か。」

「こちらで数年がたっていても、あの3人は数ヶ月だったりするのか…。」

新川は、少し憤慨したような顔ぶり、口調で続けた。

「私だけ年とって、3人が若いままだったりしたら、どうするんですか。」

「いや、どうすると言われても…なぁ。」

 それからしばらく新川はぶつぶつと愚痴り、男子二人はそれを聞かされる羽目になった。

 ようやく新川が落ち着き、その場を立ち去ると、男子二人は、「はぁ~」と溜息をついた。

「女の子って…わかんねー。」

大串は単純にそう言ったが、福田は考え込んでいた。

「どうした?」

「いや、自衛隊に入隊して、宇宙戦艦に搭乗するようになったら、俺たちも他人事じゃないなーって思ってね。」

「…戦い終えて、地球に戻ってみたら、家族はもう寿命でしたとか…彼女も年とっていたりして…。…そうか・・・。」

 二人は、ほぼ同じことを考えていた。自分の命を守るのは一番である。でもそれと同じくらい大切な人を守りたいから戦うつもりなのだ。しかし、その守りたい相手と二度と出会えないとしたら…自分だけが生き残った社会、日本は楽しいものになるだろうか。

「シュンたちは、このことわかっていて、宇宙に出たのかな。」

「村上さんは賢いから…残り二人はどうかな。でもウラシマ効果のことは当然二人にも伝えているだろう。3人で話し合って宇宙に出たんじゃない?」

再び、空を見上げる二人。

「それでも、生きて帰れよ。3人揃って、地球に帰って来いよ。」

そのつぶやきは、どちらの口からもれたのか。二人とも同じことを考えていたのでわからなかった。



日本は宇宙人に侵略されました。

今回もご訪問、ありがとうございます。

「お気に入り」「評価」ありがとうございます。おかげでエネルギーが100%になります…しかし今回はネタがなかなか降りてこず、苦しかったです。でも頑張りますので、次回もよろしくです。

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