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部室にいたのに、パトカーに先導されて

宇宙人に日本が侵略されて、いろいろなことが起こると思います。大学生は就職どうなるんだ、とか高校生や中学生は受験どうなるの、とか。

高2や中2は最初に何を考えるでしょうか。

新聞部の部室は、作戦会議場のようになっていた。デッド・ストームというゲームを協力して進めるようになり、戦国時代まで辿り着いたわけだが、一番ポイントを稼いでいた僕の登録アドレスにある日、

「ポイントをウェブマネーに換金しますか」

というメールが届いたのだ。話に聞いていたとおり、十億ポイント=1マネー、程度であったが、ゲーム内の通貨がリアルマネーになるという噂は事実だったわけである。それを部員に伝えたところ、全員の目がケダモノになった。そして、誰が言い出したわけでもなく、全員協力態勢&もうけは山分け、というルールが発生した。(反対意見は黙殺された)みんなの心が一つになるというのは美しい表現だと思っていたけれど、そうではない例もあるということをしみじみと実感した。

「冷静に考えればアルバイトする方がはるかに効率いいんだけどね。」

真っ先に人間に戻った村上さんの言葉であったが、

「ゲームでお金を稼げるなんて…そりゃ、自宅警備員の人にとってはスゴイことよ。なんで大騒ぎにならないのかしら…。」

 真っ先に情報を持ち込んだ石尾さんは鼻息が荒い。確かに、校内新聞レベルのスクープではないのかも。

「でも、誰一人このことを漏らさないのは…。宝探しは少人数の方がいいということかしら。」

「この情報をリークしようとすると、どこからともなくヒットマンが現れて…。バキューンって。」

 深江さんの真っ当な意見を内本の馬鹿理論が打ち消した。しかし、全否定も出来ない気がした。ちょっと胸に不安が発生。

 しばしの沈黙の後、村上さんがこちらを向いた。

「瞬くんは昨日も一番遅くまでゲームに参加していたんでしょ。どこまでいったの?」

「四国統一は無理だった。残念無念。」

 このゲームで高ポイントを得るための一つの条件に、味方をムダに失わない、がある。それはかなりの重要度のようで、無茶な作戦で味方を多く死なせると、勝利してもポイントを大幅にマイナスされる場合がある。だから、四国統一の最後の国、讃岐は城を完全に包囲して、降伏を呼びかけたのだが・・・

「ふつうのシミュレーションゲームならコンピューターAIが降伏を選ぶほどガッチリと包囲したのに相手は最後の一人まで徹底抗戦するんだ。その分、自軍の損傷も多くなっていって…。こりゃダメだと強制終了した。包囲状態でセーブは残ったけれど、今晩はinできない。」

 ヤバイ状況で、セーブ前に強制終了、というズルもこのデッド・ストームでは頻繁には使えない。一日につき一度だけ。そのズルを行うと、丸一日はゲーム再開出来ないのだ。このゲームは何かがおかしい気がする。リアルなようなリアルじゃないような。

「俊くん以外のみんなはどうなの?」

 そういう村上さんは薩摩からじわじわと北上している。どの国も順調に統治を進め、上手くすれば今日明日にでも次の隣国に攻め込むであろう。しかし、他のメンバーは・・

「AIの統治している国はなんとか攻め落とせたんだけど・・・。」

「人間の操作で国作りされていると、どうすればいいものやら。」

「忍者がつかえないのがつらいでゴザル。内乱に乗じて攻め込むのが得意なのに…。」 

「ごめん、私はあっという間に負けちゃった。鎌倉時代からやり直しって言われて、寝ちゃった。」

 けっこうゲーマーな鍵野や石尾さんでも難しいのか。確かに、このレベルになると向こうも賢い人や経験豊富な人が多いようで簡単には勝たせてもらえない。

「あのさ、私たちみたいな学生とか、働いている人の国は昼間はどうなっているのかな?」

「一度、パソコン教室から覗いてみたんだけど、僕たちがゲームに参加していない間は、どの国もAIによる自動統治状態だった。」

「えっ、じゃあ俺たちが相手している人たちは、同じ時間帯にしかゲームに参加していないってことか。」 

 そうか。昼間、AIに統治を任せている間に攻め込まれたりはしないのかと覗いて見たのだが、昼間は一人も参加者がいないというのも不思議なことかもしれない。平日の昼間からゲームしている人も多いはずなのに…?

 あれ??よくわからない。固定されたサーバーに入ってゲームするのではなく、参加したメンバーで、その都度新規にサーバーが作られる仕組みなのだろうか。でも、そんなことすれば可動サーバーを大量に作り続ける羽目になっていく。そんなことすれば膨大な演算処理能力が必要になるんじゃないのか。聞いたことがないぞ。そういえば、パッチを当てているところも見たことがない。どんなハイスペックな運営会社なんだ??

 

 そのとき、部室のドアをノックする音が聞こえた。


「?」

 部員はみんな揃っている。引退したセンパイならば、いきなり開けるだろう。ということは、顧問の先生か。無言の連携プレーでで、女子は机上のお菓子類をすぐに片付けている。さすがだ。

「どうぞ。」

 女子が片付け終わったのを確認して、ドアの向こうの存在に声をかける。社会の谷村先生が現れると思っていたのだが、そこにいたの・・・

 

「えっ・・僕たち、何も悪いことしていませんよ。」


 なんとか声を出せたのは僕だけで、他の部員は完全にフリーズしている。内本は何を考えているのか、両手を上げて固まっている。

制服姿の警官二名。が先頭きって入室し、ついで上から下まで黒スーツにサングラスの二人。さらに後ろには機動隊であろうか、透明な盾を持ち、ヘルメットをかぶった人たちが数人ドアの向こうに待機している。何か大事件でも起こったような人数。テレビドラマ以外に、一般的な高校生が見慣れている光景ではない。


「王塚俊くんと村上由香里さんは、ここにいるかね。」


 黒眼鏡の一人が僕の名前を呼んだ。無言で手を挙げる。村上さんも同じタイミングで片手を上げた。他の者は声も出せない。警官二人は片手を銃から離さないし、ドアの向こうの筋肉ムキムキのみなさんはギラギラした目をこちらに投げかけている。

「ああ、驚かせてすまない。我々は警察の者だが、君たちを連行、いやつかまえたりに来たわけじゃない。」

 僕たちは少しだけ空気がゆるまった。しかし、警官や機動隊の人たちは緊張を全く解いていない。それくらいは解る。彼らは部室の中ではなく、周囲に目を配っているように見える。

「突然だが王塚君と村上さんのお二人は、我々についてきてほしい。」

 丁寧な口調ではあるが、否定の出来ない厳しい口調。これまでの人生で親や先生に叱られたことは何度かあるが、こんな威圧感は初めてだ。

「警察署ですか。」

 村上さんの方が度胸がある。よくも震えずに声が出せるものだ。

「あぁ。このメンバーならそう思うのも無理ないが、違う場所だ。」

 そういうが、彼らの背後には、音こそ出していないが、赤いライトが回転している白黒の車が見えている。アレに乗せられて行く所なんて他にあるのか?

 僕の視線に気づいたのか、もう一人の黒眼鏡の人が口を開いた。

「パトカーは先導用だ。あれに高校生を乗せたりはしない。だいじょうぶ、我々と一緒に普通の車に乗ってもらうよ。」

 拒絶の選択肢は用意されていないようだ。しようがない、付いていくしかないか、と自分についてはあきらめたが。村上さんは…

「家に連絡してもよろしいでしょうか。定時に帰宅しないと心配をかけると思うので。」

 僕よりも彼女の方が、覚悟を決めるのは早かったようだ。しかし、

「お二人のご両親には既に連絡してあります。我々の身分も伝えていますし、事情もきちんと伝えましたので、こころよく了解をいただきました。あ、もちろん学校の先生方にも伝えていますので、二人が変におもわれることはありません。おうちの方には車の中からでも、電話して確認してください。」

 用意周到、という四文字熟語が浮かんだ。もう決定済みじゃないか。

「なら、私はかまいません。どこにでも行きます。」

「ぼ、僕も、大丈夫です。」

 次に浮かんだ四字熟語は、即断即決。ただし村上さんがそうであって、僕はまだ 優柔不断 ぽい。

「では、急いで車に乗って下さい。」

 その言葉を聞くやいなや、警官二人はパトカーに乗り込み、エンジンをかける。いや、エンジンはかけっぱなしか。パトカーにも真っ黒の車にも、別に運転者がいたようだ。黒服の二人はその真っ黒の高級そうな車に向けて僕らを誘導する。ぐずぐずしていたら手を引っ張りかねない雰囲気だ。機動隊のような人たちは、気のせいか僕ら二人を何かから隠すように、つまり守るようにして一緒に移動する。二人が車に乗り込むなりドアを急いで閉め、発車するまで、周囲をチラ見し続けていた。

 何気なく、振り返り部室を見る。いつもの青いドアが開かれていて、みんなが外に出ていた。心配そうな表情、っていうのは、ああいう顔か。となりで村上さんが小さくつぶやいた。

「まにゃ、泣いていたわよ。」


うん、気づいてた。何か借りが出来たような気がして、複雑な気分。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。運動部については、じっくり書くつもりですが、文化部や帰宅部がどうなるか、どうするか、悩んで書き進めています。「事件なう」

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