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民間戦闘員 星へ10

日本から宇宙に上がった5人の宇宙戦艦での一日です。

5-5-10  民間戦闘員 星へ10


 つまり、虎姫様は「幾つかの虎族艦隊はシヴァイ=龍族預かりの猿族の一人、に指揮運用させる。」と言ったようである。そして、虎族の方々のプライドは“それはイヤだ”と。虎族の方々は不機嫌になると喉を鳴らすので、とてもわかりやすいけれど、近くでそれを聞かされるととってもコワイぞ~。

「虎族が、猫族の下に付くというのか、断じて認められん。」

 龍族宇宙軍は猫族宇宙軍と連係することが多く、仲は緊密である。指揮系統上、猫族が虎族に命令することもありえる…それもイヤなんだろうか。猫と虎の関係やプライドとか、チキュウ人の僕たちには今ひとつわからない。

「チキュウ人=猿族が虎族の指揮を執るなど、虎族の永遠の恥である。」

どうも猿族は銀河宇宙全体で、一段見下ろされているようである。僕たちはこの星に来る前、フー・スーさんとの出会いから、いい人たちに巡り会ってきたようだ。銀河宇宙軍における猿族の悪口は、虎族本星に来てから、一般人から聞くこともあった。“ヤツらはこズルくて、戦い方も卑怯だ。”という趣旨が多かった。うーん、僕たち地球人も猿族に含まれるからなー。

「知将シヴァイなどと呼ばれているが、運がよいだけではないか!」

 あやしいとは思っていたんだけど、シヴァイって純粋地球人だったのかー。ただ、彼が銀河宇宙軍で連戦連勝なのは、この星に来て、戦技指導員…先生のケアイダさんから、たくさんの戦いを学ぶ上で何度も出てきた話だった。

 “敵”との長い長い戦いの歴史の中で、圧倒的勝利を収めた例はシヴァイの参戦以前はなかったそうである。

 しかし。知将シヴァイか~。カッコいいなぁ。僕も「なんとかのシュン」なんて呼ばれてみたいもんだ。「蒼き彗星」とか「赤の巨星」でもいい。…どうも僕の精神面はまだ疲れがとれていないようである。うっかりするとバカなことばかり考えてしまう。シャワーのあと、体力検査機=別名体力快復器、で身体の中で欠乏している栄養素やビタミンを補給したはずなんだけど、人間の身体はそんなことだけでは回復しないみたいである。

「しかし、これは虎姫様から持ち出された話なのじゃ。我々艦長のミーティングでも反対意見が多かった。今ここで反対しても無駄だと思うぞ。」

 バツリ艦長に穏やかに言われ、しかも虎姫様、直々の一言と言われれば、さすがに逆らうことも出来ないようである。偉いさんたち…参謀とか情報将校のみなさんは相変わらずブツブツ言いながらも肯いていった。

 ケアイダさんが僕たちの方を向いた。そして少し厳しめの口調で尋ねてきた。

「ここに来てもらったのは、チキュウ人の戦法についてあなたたちに教えてほしいからなの。チキュウではどのような方法で戦争をするの?」

 ケアイダさんからは僕たちは、戦術・戦略・戦闘技術などを学んでいる。その過程で地球の戦争の歴史などを雑談してきたことは多い。彼女の言葉は自分に対してではなく、ここにいる艦長はじめ、偉いさん方に地球の戦争について語れ、という意味のようである。

 そこから先は村上さん=ユカリと伊庭さん=ミキの独壇場だった。西洋における個人戦から集団戦への戦略・戦術の変化とそれに合わせた装甲や武器の変化…そういったことを二人は簡潔に手際よく説明していった。う~ん、こういうことさせると、この二人はほんと、頼もしい。

 ちなみにファンタジーゲームで革の鎧から鉄の鎧へとレベルアップするのは伊達ではないのである。武器もその鎧を貫くために長槍や弓の発明がされて、進化していく。そして遠くまで飛んだり、威力が強く武器を避けるための騎馬戦術が生まれていく。

 次に日本の話はミキが中心となった語った。名乗りを上げての一騎打ちの時代から弓へ、火縄銃へと武器が進化していくに従い、戦法は複雑化していった。そして明治維新前の日本では火縄銃とは比べものにならない強力な火砲が戦いの中心となっていったこと。そして一気に第二次世界大戦。戦車の登場や戦艦の登場、として空母による艦載機攻撃へ。その戦闘機もバリバリ進化していって、騎士同士の一騎打ちのような戦法から集団戦、遠距離戦に移り変わっていったこと…。チキュウの歴史って、戦争の歴史といわれても言い返せないなぁ。ホント戦争が好きな生き物のような気がしてきた。

 宇宙人に侵略されたあとの日本では、こういうことを授業で学ぶようになった。過去の歴史の上に今がある。そして過去の戦争の知識を“虫”との戦いに生かすためである。身体を鍛えるだけが戦闘ではないのである。先生をしてくれていた自衛隊のみなさんはそう話してくれた。西洋や東洋のいろいろな名勝負や武器の発展の授業は、とてもおもしろかったので自然に身についていった気がする。そしてそれは“虫”との実践で自然に発揮されていった。僕たち5人が今も生き残れていて、この虎族本星“虎の牙”にいられるのは、それなりに必死で学んだおかげも多いと思う。

 二人の“チキュウ戦争歴史ばなし”が一段落したとき、虎族の皆さんはあっけにとらっれた顔をしていた。戦法がそんなに進化するなんて虎族としては考えられないそうである、といつだったかケアイダさんが話してくれた。

「ワシら虎族は祖先の頃から“戦いは自分の力、爪と牙で”というのが当たり前じゃからのう~。はぁ、チキュウ人は戦争上手なわけがわかった。」

 バツリ艦長にひどいこと言われているような気もする。でもケアイダさんから学んだのだけど、虎族の戦い方は今も基本変わらないらしい。武器を持っての肉弾戦は爪と牙の延長だし、虎族の戦艦の戦い方は、虎のそれに似ているそうである。虎族の中には集団戦を行う祖先もいたそうであるが、それは一部であり、今も気風としては“一騎打ち”が好まれるそうだ。やっぱり、虎なんだなー。

 ユカリとミキの話一段落し、二人がぺこりと頭を下げると拍手が起こった。そして、戦艦内の偉いさん方は口々に話し始める。

「そういった知識があるからシヴァイは強いのか。」

「いや、それだけではあるまい。参謀部に入る者には才能があるように、あやつにはそういう才能があるのだろう。」

「虎族も戦略や戦術の学習をもっと強化していかねば。」

 ここで僕たちはケアイダさんに目で合図されて、作戦会議室を出ることが出来た。やれやれである。

「あー、二人ともおつかれ~。」

 マニャとナホさんが口々に二人を褒める。ホント、村上&伊庭コンビは賢い。

「きみら二人、いつか艦長や提督になるかもね。」

 ナホさんの言葉は全然冗談に聞こえなかった。

「それにしても、虎族本星も暑かったけど、戦艦の中も暑いわねー。」

 マニャが胸元を軽く開けて、ぱたぱた仰ぎながら言う。幼なじみだから言わせてもらうが、こいつはすでにオバサン化している。

「虎だから、暑いのが好きなんでしょうね。でも私たちには気温30度で生活するのは厳しいわ~。」

 チキュウ人用の部屋…戦艦に入っても、ナホさんとユカリ、マニャとユキが同室である。僕も相変わらずイッセさんと同室で、いつも彼に無理言ってクーラーを強めにしている。そのためか、彼は寝るとき以外は部屋に戻ろうとしない。ごめんねイッセさん。 

 僕たちは酒保に入っていった。えーと…日本の自衛隊ではPXと呼ぶらしいのだけど、パンダ先生は酒保と訳している。基地や戦艦内の売店や食堂のことである。食堂部分は24時間営業だし(実は虎族の1日は24時間ではないのだけれど、僕たちの“妖精”はそれを24分割して体内時計を調節してくれたそうである。ほんと“妖精”ってスゴイ。)自動販売機は色々なモノが入っている。虎族本星の各お店は、なんか地球の古き良きヨーロッパや中近東アジアの雰囲気があったけれど、戦艦内はけっこうメカメカしい。東京や大阪の大きな駅の構内に似ている。(ふふふ修学旅行くらいでしか行ったことないけど) いつものように、マニャはスイーツを選んでいた。伊庭さんは抹茶によく似た飲み物を選び、奈保さんの選んだジュースと一口交換したりしている。ちなみに奈保さんはチャレンジャーである。日本にいた頃もコンビニで見たお菓子や飲み物の新製品は必ずチャレンジすると言っていた。今彼女は虎族の飲み物制覇を目指しているようである。村上さんは…バナナに似た果物を食していた。というか、果物まで自販機で出てくるのか…宇宙文明おそるべし。僕は炭酸がほしくなって、コーラに似た飲み物を選んだ。自販機の読み取り機の上に身分証をかざすとお給料から引かれていく。といっても僕たちの給料はどうなっているのか、よくわからない。宇宙に上がってからお金に困ったことはないからだ。身分証をかざして「残金が不足です」なんて言われたらどうしよう?

「シュン、一口ちょうだい。」

「自分で買え!そしてみんなの2倍甘いものをとって太れ!」

 …先ほどの二人の演説に比べて、情けない幼なじみとの会話だ。実際には厳しい訓練を毎日続けているし、機体内のゼリーが身体内の余分なエネルギーを吸収するので、5人とも太ったり痩せたりはしていない。しかし、女の子はどうも「やせる」というのが記号的に好きなようで、今でも「太ったー」とか騒いでいるのをよく聞く。(脂肪が筋肉に変わって、重量が増したのだろうなー。でもこう言うと、総スカンをくらいそうだから言わない。)

 このあと5人で1時間近くしゃべった。宇宙に来てから一番心からリラックスできる瞬間である。自分の部屋で一人になるのも悪くないけれど、“友人と何でもない時間を共有できること”がこんなに素晴らしいことだと、のちに振り返る輝いた時間である。

 こうして、宇宙戦艦での一日が今日も終わろうとしていた。


 

 日本は宇宙人に侵略されました。その宇宙人はけっこう切羽詰まっている、とあとでわかりました。

今回もご訪問いただき、ありがとうございます。

うれしいことに、また「お気に入り」して下さった方が増えました!!

頑張って続きを書く気力が湧いてきます。

今後もよろしくお願いいたします。

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