戦闘員の日常7
世界征服を目指す“ゾッカー”は悪の組織である。日本の各地でゾッカーは悪の限りを尽くすのである。
5-6-7 戦闘員の日常7
めちゃくちゃ強い“猿族”とやらの宇宙人と戦った翌日、オレは集中力散漫だった。学校の予習は全く出来ずに登校したもんで、午前中の授業で英語は初見で翻訳失敗し、古典の現代語訳もまったくできなかった。まぁ、もともと文系教科は苦手なんだけどね。(ホントにあいつらのせいで…)むしゃくしゃした気分で、昼休みをむかえたオレは、朝、駅前のコンビニで買ってきたサンドイッチとかを机の上に並べはじめた。
「健人くん、午前中はさんざんだったね。」
「久良木の“わかりません”なんてめったに聞いたことないから珍しかったワー」
オレの机の前に女子が二人近寄ってきた。前田と橋本のコンビだ。この二人とは修学旅行も同じ班だったし、座席も近くになることが多く、気軽に話せる貴重な異性の友人である。二人は机を反対側に回し…つまりオレと向かい合う形になって、弁当箱を広げはじめた。ああ、一緒に食べるつもりか。
「健人くん、バイトで疲れ切ってない?」
前田…綾だっけ、下の名前まで覚えるのは苦手だ。彼女は上手に作られたキャラ弁を開きながら尋ねてきた。そのキャラ弁を見て隣の橋本…下の名前は出てこない。なんだっけ?、が「うおーニッヒーちゃんだ。かわええ~」と騒ぐ。その彼女自身の弁当も豪勢である。いつだったか誰かに、橋本はお金持ちの娘さんだときいたような覚えがある。橋本はオレのコンビニ飯を見て、「恵まれない男子にボランティア。」といいながら、おかずを幾つか分け始めてくれた。親切半分、ダイエット半分だな、と思いながらも丁寧にお礼を言う。すると前田の方もお弁当からひょいひょいとおかずをくれる。食べ盛りの男子高校生にとっては、とても良い友人たちである。
「バイトでは疲れないんだけどなー。」
「え、じゃあ何?恋の悩みとか?」
橋本はそういった方面の話題が大好きである。すぐにそっちに話を回すし、前田とオレをカップリングすることも多々ある。修学旅行二人っきりで歩いたときは何を話していいか、本当に困ったもんだった。
「恋の悩みはないなー。今、それどころじゃないジャン。日本は宇宙人に絶賛侵略中だし。」
前田の顔が複雑な顔のあと微笑んだ。そしておかずの追加をくれた。ホント、いい子だー。感謝。とりあえず、拝んでおく。
「久良木ってば基本、成績は良いしねー。運動神経も民間戦闘員になれないのが残念って体育のカバも言っていたし。」
外見でアダナをつけるのは、どうかと思うが伝統のアダナでもあり、体育科の某先生ごめんなさい。
「じゃあ、家事が大変とか?…お手伝いしてあげようか?」
「ううん、慣れたもんだし。オレ、一人暮らし歴長いからね。掃除や洗濯は好きな方だし。」
「…だから、他人の気持ちにうといんだよ、アンタは?」
最後の橋本の言葉は今ひとつイミフだったが、その日、オレは昼食を満腹で終えられた。お礼に紙パックのジュースをおごることにして、一緒に食堂に向かう。3人ともヨーグルッチを選んで、笑いあったあと、流行の音楽の話やファションの話をしていたら、昼休みは終わった。今日の午後は体育=戦闘訓練や戦闘補助の授業だけだ。ゾッカーの戦闘員であるオレにとっては余裕の内容ばかりである。二人のおかげで、気分が晴れて、午後に立ち向かえそうだった。
「綾、もっと積極的に行きなさいよ!」
「京子はギリギリなこと言い過ぎ!ヒヤヒヤしたよー。もう!!」
その日もアルバイト先「未来製作無限会社」にたどりついたオレはまず、お茶の時間から始まった。しかし、そのあとがいつもと異なった。戦闘員の定期訓練の日だったのである。ん?オレたちゾッカーの戦闘員は日々身体を鍛えている。何かおかしいか?そして戦闘員の中でオレは班長を任されている。班員たちの訓練をしなければいけない日だったのである。
オレは地下の格闘訓練場や、射撃訓練場で汗を流した。どちらも得意分野だから、手本指導も相手するのも問題なかったが、頭の中の悩み事がときどきオレの手足をにぶらせた。しかし、“妖精”使いとなった今では、一般戦闘員とオレでは天地ほども能力に差がある。多少のミスは“妖精”モップのおかげで軽々とカバーして、オレは班員たちの訓練メニューを終えた。
「グレイ班長、今ちょっといいですか?」
この支部では戦闘員の班長は色で名前づけられている。オレは灰色ってわけだ。そしてオレに話しかけてきた彼女のコードネームは…「黒たんぽぽ」である。さらに彼女は一般戦闘員ではなく、ゾッカー生活班のメンバーである。負傷した戦闘員の治療補助や、出撃前の食事なんかで一生懸命働いてくれているわけだ。
「ん、ちょうど班員訓練終わったところだからいいよ。」
「あの…よければ、格闘訓練してほしいいんですが。ダメですか?」
オレたちゾッカー戦闘員は訓練や出撃時には黒いマスクをかぶっている。そのマスクにはボイスチェンジャーも付いているため、彼女がどんな口調で頼んでいるのか窺い知れなかったが、オレは気軽に了解した。彼女、黒たんぽぽはこれまでに何度も格闘や射撃の練習をオレに願い出ている。護身術も兼ねて、と言っているが、護身術に射撃はいらないだろう…いや、宇宙から“虫”が降りてくる昨今は必要かも知れない。
1時間弱、一緒に汗を流し、それぞれシャワーを終えたオレたちは約束通り食堂で待ち合わせた。ゾッカーのルールで、二人ともマスクのままである。ゾッカーはドレスコードに厳しい組織なのである。南部さまもよく言うのだ。「服装の乱れは心の乱れ」と。悪の組織の一員たる者、ゆるんだ服装や心では世界征服など覚束ないであろう。
マスクの口の切れ目からジュースを飲みながら、オレたちはしばらく雑談をした。その最後に黒たんぽぽが尋ねてきた。
「グレイ班長、悩み事でもあるんですか?」
「え、…すごいなたんぽぽちゃん。顔は見えないし、声も変えているのになぜわかったの?」
「あ、いや、いつもより技にキレがない気がしたし…いつもなら私なんてボコボコにされるのに今日は手加減してくれたみたいだったんで…。」
いつも外から見えるようなところにスリ傷や青あざを作るようなことは絶対にしないが、確かに今日はいつもよりもユルかったかもしれない。オレの注意力散漫はまだ治まっていないようだ。いかんなー。まだまだ青いわ、オレ。
「黒たんぽぽちゃんに気づかれるようでは、オレもまだまだだな。反省!!」
「ひどい、そこまで言わないで下さいよー(笑)」
挨拶をしてオレは立ち上がった。2階の事務室にまだ少しだけ仕事がある。南部さまに報告もあるのでオレは急いでエレベータに乗った。
「黒たんぽぽちゃん、どうだった?」
「あ、クジコ様。見ていたんですかー。」
マスク越しにでも赤面したことがわかる身振りをし、黒たんぽぽは席を移動した。このゾッカー支部のナンバー2か3にあたる、“クジコ大使”がにこやかに話しかけたからである。気さくな人柄で、クジコは部下たちには信望厚い。年齢不詳の美貌の持ち主は足を組み替えながら黒たんぽぽに話しかける。
「健人くん、学校ではどうだったの?」
「はい…やっぱりなんか悩んでいるようでした。元気がないっていうか…覇気がない?」
「あいつに覇気がないのはいつものことだけどねー。アイツが一番元気になるのは正義感に燃えているときだけだから。悪の一員のくせに。」
ここ数日、特にあの事件以来の健人の微妙な変化をクジコは察していた。そしてクジコが気づくということはその上司であり、人柄の練れた南部さまにとってはなおさら明瞭な出来事であり、心配しているのだ。
「組織を裏切ったり…」
「え、そんな。健人くんがそんなことするわけないじゃないですか!」
「冗談よ。あいつは南部さまの一番の身内だしねー。性格的にも無理だわ。でも、なんかあるみたいよね。」
こくこくと肯く黒たんぽぽは本当に心配そうである。
「黒たんぽぽちゃんがあいつの彼女なら話が早いのになー。」
「ええ、そ、そんな…私なんて、まだまだ…。私は好きですけど」
「あはは、かわいい~黒たんぽぽちゃんのそういうとこ、いいわー!うんうん、お姉さん応援しちゃるからね♪」
ゾッカー戦闘員専用食堂は今日も平和である。
事務室に着いたオレは、また肩から力が抜けた。
「じゃあ、キノコモンガーさんの“日本キノコ覆い尽くし作戦”は中止なんですね。」
「うん。あのキノコ、砂漠の緑化事業にすごい成果を発揮したんだって。なんか、カビビンさんの“水吸収強力カビ”と組み合わせたら大成功だって。砂漠の国から引き合いが多すぎて、作戦どころじゃないって。だから、健人くんの次の出動は“なし”ねー。」
南部さまは淡々と言うが、オレは少しショックだった。気分転換にキノコモンガーさんの作戦で全力出してやろうと思っていたからだ。“妖精”使いになったオレは訓練ではもう全力を発揮できない。ストレス発散の方法がほしかったのだ。今度の作戦はそれに丁度良かったのに…。
「ドクターニシガミは、“虫”のせいで病院が忙しすぎるってこぼしていたし。怪人の改造手術のヒマもとれないって。」
「ヒマつぶしで改造されたら、その戦闘員は、たまったもんじゃありませんけどね。」
事務員さんも大きく肯く。あの博士の改造は健康と長寿も目指しているから、悪いことではないのかも知れないけれど…それでもなー。
「それより、健人くん悩み事とかないの?少し痩せたみたいだよ。」
さすが、するどい。
「南部さま、引き締まった、と言って下さい。訓練の成果ですよ。」
「それならいいんだけどね。悩み事があれば、すぐに言うんだよ。ここにいる大人たちはみんな健人くんの味方だからね。」
無言の事務員さんの両目もオレを直視している。本当にありがたい職場である。オレは少しジンときた。
しかし、この秘密だけは、誰にも話すことが出来ない。地球の、いや、宇宙の勢力図に影響する内容だからである。今頃覆面ライダー“ウィーズ”ことワタルさんも悩んでいるだろう。二人で決めていいのか、誰か相談できる相手はいないのか…
日本は宇宙人に侵略されました。のんびりと世界征服に向けて頑張れた頃がなつかしいです。
今回もご訪問いただき、ありがとうございます。
小説の資料用に巨大ロボのプラモを作ってみたら嵌ってしまいました。
小説書く時間がほしいのにー。




