虎族星域防衛戦 打ち合わせ会議
宇宙での新しい戦いが始まりそうです。
6-3-1 虎族星域防衛戦 打ち合わせ会議
「なんか、地味な話が続くニャー」
入室するなりつぶやくアシュバスであった。思わず聞きとめるリュトゥー。
「アシュバス様、何か?」
「いや、こっちの話ニャ。」
場所は旗艦シヴァイガの司令官室。艦長室よりも立派で広いその一室に5人が集まっている。
猫族族長のアシュバス。鎧獣族族長のガネーザ。龍族族長代行としてリュトゥー。そしてこの部屋の主シヴァイ。ホステス役としてシヴァイガの副官アソオスも脇に控えている。気心のしれたいつものメンバーであり、リュトゥーとしては龍族の支族会議よりもよほど居心地の良い空間である。
「それじゃあ、各部族の選抜メンバーの話をしましょうか。」
シヴァイがこれまたいつものように暢気に話し始める。虎族の星系外縁部にフクコンが出現しそうな状況であり、それは大艦隊戦になることを前提としているはずであるが、シヴァイの口調からは緊張感はみじんも感じない。
(ま、だからこそ頼もしいのだけどな)リュトゥーは小さく笑みを浮かべる。
シヴァイの言葉に真っ先に反応するのはアシュバスである。しかしいつもの彼女とちがって元気よくではない。
「猫族からは、当然私が参加するニャ。あとは第4、第5艦隊を連れて行く。でもこれが精一杯ニャ。すまないニャ。」
元々大部族ではない猫族は前の戦いで少なからぬ被害を受けた。総旗艦アシュバスガが沈むほどだったのである。部族全艦隊を立て直すのに必死の状況であるはずだ。それをわかっている参加メンバーは全員首を横に振った。
「いえいえ、アシュバス様はじめ、今回も猫族のご協力には感謝しかありません。」
リュトゥーの言葉に何度も肯くシヴァイやガネーザである。脇ではアソオスもこくこくと肯いている。
「しかし、アシュバス様の御座艦はどうなさるおつもりなのですか?」
シヴァイの疑問にアシュバスは肩をすくめて応える。
「アシュバスガの2番艦の完成には時間がかかるニャ。今回は第一艦隊の旗艦を借りていこうかと思っているところニャ。」
その言葉に、顔を見合わせてにんまりするシヴァイとリュトゥーである。それを見て残りの3人は不思議そうな顔をする。
「普通の旗艦ではアシュバスガの代わりは務まらないのではありませんか?」
「それはそうニャ。しかし他に代わりがない。」
「そこで、龍族族長アフマール様から伝言がございます。『よろしければ、アフマルガをアシュバス様にお貸しする用意がある』だそうです。」
これまた二人以外の3人の表情は驚愕以外の何ものでもなかった。総旗艦を貸すということは、その部族の秘密をそのまま見せることに他ならない。龍族の最高機密を猫族にオープンにすると同意であるのだ。
「そ、そんなこと許されないニャ。それに、龍族の総旗艦なんて、猫族には使いこなせないニャ。」
「無論、龍族の方が進んでいる医療班などはメンバーもそのままお貸しします。機関部など専門性の高い部門も同じです。ご安心下さい。」
アシュバスにとっては考えられない好条件である。
「なんで、アフマール様はそこまでしてくれるのニャ?」
「これまでの猫族の龍族へのご支援、それに応えるため、最大限のお気持ちかと思います。」
リュトゥーの言葉にシヴァイが続ける。
「アシュバス様、これはアフマール様だけでなく、龍族全員の気持ちでもあるのです。ぜひアフマルガをお使い下さい。」
「か、感謝するニャ。」
ひとすじ、ふたすじ涙が流れるアシュバスであった。それを見て何度も肯くガネーザやアソオスである。リュトゥーはガネーザの方に向き直り、背筋を伸ばして口を開く。
「ガネーザ様、この気持ちは鎧獣族に対しても同じでございます。龍族はこのお二方の率いる2部族に心より感謝しております。いつなんなりとお申し付け下さい。」
にこにこと微笑むガネーザ。リュトゥーの言葉には微塵もお世辞は感じられないからである。しかし、ガネーザの顔が少し曇る。
「そこまで言って下さったのに、すまないが今回の戦いに私は参加出来ない。支族長会議が荒れそうなのだ。」
どこの部族も一枚岩ではありえない。龍族自身が支族間に大きな壁を抱いているのだ。それを思い小さく肯くリュトゥーである。
「代わりと言ってはなんだが、長子イェズウに4艦隊を率いさせるつもりである。シヴァイ殿、よろしくお導きあれ。」
(イェズウ様と言えば、鎧獣族には珍しく“荒武者”のアダナがつけられていたっけ?)
「イェズウ様のご参加とはこれまた心強い。頼りにさせていただきます。」
「残りの3艦隊の提督はみなイェズウを幼少時から見守っていた安心できる者ばかりじゃ。思う存分使って下され。」
記録しているアソオスに向けてリュトゥーが深く肯く。猫族も鎧獣族も出来る限りの最大の協力を尽くしてくれている。シヴァイの積み上げてきた人徳が表れているのだ。
「龍族からは誰が参加するのニャ? ヨンガンやアソオスの父上などは無理であろう?」
どちらもシュコン防衛戦では艦隊のほとんどを失うほど猛戦したあとである。とても連戦はかなわない。アシュバスの疑問にリュトゥーが答える。
「黄龍族からはイグニスとリヤーフが参戦いたします。」
「ほう、火のイグニス殿に風のリヤーフ殿か。黄龍族の若手2枚看板を出してくるとは…黄龍族は好意的であるのだなぁ。」
龍族の事情に詳しいガネーザは小さく何度も肯く。しかし、リュトゥーの続ける言葉に眉をひそめる。
「緑龍族からはタキトゥス提督、青龍族からはディロス提督のお名前が上がっています。」
どちらもあまり評判のいい提督ではない。戦場の後方をなんとか任せられる程度の将である。しかも…
「タキトゥス提督はかつてシヴァイ閣下の上官だった時期もあります。やりにくいでしょうなぁ。」
つい独り言を発してしまったリュトゥーである。そのリュトゥー自身は真っ先に参戦に手を挙げたのだが、アフマールの護衛のためにとシヴァイにしかりつけられてしまった事情がある。
「それと慎重といえば聞こえはよいが、実際は臆病なだけのディロス提督か…シヴァイ殿も大変であるのぅ。」
ガネーザの言葉に苦笑いで応えるしかないシヴァイであった。青龍族長アズラックが赤龍族に強い反意を抱いていることが、この人事一つでわかる。
「でも、若手二人の戦いぶりを見られるのは楽しみニャ。なんでもとても仲良し二人組という話は聞いたことあるニャ。」
真逆である。ケンカばかりして、そのくせ戦果が得られるという不思議な運の持ち主たちであった。アシュバスもそれを知っているのであろう。
「虎族は全40艦隊全てが参戦することは無理でしょうね。」
「うん、降下してくる“虫”からの防衛隊も必要だろうし、予備戦力も考えれば25艦隊あるかないか、そんなところだろうな。」
「こちらの総戦力は40艦隊足らずか…。それでもシヴァイ殿が総指揮官ならば安心なのじゃが。」
「虎姫様が後ろで大人しく見ているだけとは、とても思えないニャ。」
「うん…。」
女性ながらも猛将の名高き虎姫様が作戦を立て、それに従うとなるとどのような結果になるか。それを考えると顔が曇る5人であった。
「鼻がムズムズする。誰かが噂しておるの。」
その虎姫様である。両脇には虎族の誇る 老練な猛将サーナダベトと若虎将軍ノモゥダベトが控えている。
「それでは姫様は近衛隊と予備隊として10個艦隊をお願い申し上げます。」
「うむ。わかった。二人も10個艦隊ずつ指揮し、“敵”の前衛艦隊を蹴散らすがよい。」
深く頭を下げる二人の猛将である。しかし、サーナダベトの方が口を開く。
「シヴァイに貸す艦隊は本当に新兵や老兵ばかりの艦隊でよろしいのですか?」
肯く虎姫様であった。
「シヴァイの力など借りずにすめば一番良い。万が一の場合でもあやつには知恵を出してもらえれば十分ではないのか?“敵”を撃ち払うのは虎族の役割である。」
「その通りでござる。シュコンですら退けた我ら虎族艦隊、フクコンなど恐るに足らずでござる。」
しかし、老練な分、サーナダベトは慎重である。
「今回は【九尾】も【犬神】も参戦はない。万全の策と準備を整えておかねばな。」
「うむ。それでは全提督を集め、会議を始めようではないか。
「「は。承知いたしました。」」
“敵”は前衛艦隊が惑星に“虫”を降下させ、全ての生き物を食い尽くす。それがすむと、今度は恒星の全エネルギーそのものを吸い取っていく。その力を持って、異世界よりシコンやソッコンを延ばしてくるのである。
しかしシュコンの場合は違った。異世界よりのエネルギーそのものでこの宇宙にシュコンは現れようとした。“敵”艦隊を退けたことにより、なぜかシュコンは元の世界に戻っていったが、フクコンはどのような現象を引き起こすのか想像もつかない。シコンやソッコンとは比べものにならない、しかしシュコンほどではない変異ゆえにフクコンと想定しているだけなのである。
そして、シュコン防衛戦の最後に現れた人型の存在。彼(彼女?)はどのような意味を持つのか。
傍から見ると、ぼーっとしているか、昼寝寸前のようにしか見えないシヴァイの頭の奥では様々な作戦や展開がうずまいていた。それをわかっている他の4人は考えていた。「この人がいれば」と。
日本は宇宙人に侵略されました。
今回も読みに来ていただき、ありがとうございます。
ここのところ「早く先を書きたい」一心でキーボード叩いていますので、文章は荒れまくっていると思いますが、ご容赦下さい。
それと、お時間のある方、作者への叱咤も込めてポイントつけていただけるとうれしいです。(けれど5段階ってイヤだなー)




