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のんびりは続かない

日本に宇宙人が攻めてきたら?

そして侵略されてしまえば、日本人はそして地球人はどうなるのか。

あっちこっちで様々な計画や実行が進んでいくと思うのですが。

2-7

「さて、次は京映の撮影所だ。スーアクの岩高さんと、本坂監督に会えるといいなぁ~。」

 銀河宇宙軍の司令官であり、現在は日本の最高権力者は車の中で、とても上機嫌であった。

 彼らが移動に使っている車は見かけとは異なり、宇宙軍の戦闘車両がホログラフ偽装して、マイクロバスに見せかけたものであった。その車は、練馬区の通称多泉撮影所と呼ばれる場所に向かっていた。そのあまりのご機嫌ぶりに、副官のリュトゥーの表情は苦笑いと微笑のブレンドで構成されていたが、突如、顔色を変えた。彼にとっては通常モードすなわち臨戦態勢である。

「シヴァイ司令、緊急連絡です。至急いずれかのボールにお戻りを願います、と連絡が入りました。」

 リュトゥーが話しかけている間に、リュトゥーの“赤龍”からシヴァイの“銀髪”にデータが送られ、“銀髪”はシヴァイの意識野に直接情報データを注ぎ込んだ。

 

 脳内の生体電流の速度は髄鞘を持つ神経では秒速120m、(通常の電流は秒速約30万km)高性能な経頭蓋直流刺激などの機器を装着したとしても、人の脳に情報を伝えるには、たとえゼロコンマ数秒であっても、いくらかの時間が必要である。にもかかわらず、二匹(二人?)の“妖精”がリレーする時間とシヴァイが認識した時間は両方を合わせても、ゼロであった。

(『ワタシからオマエヘノ転送時間がゼロ秒ナノハ当然デアル。』)

(『ワレワレがコノ世界ノ時間軸ニ束縛サレルハズガナイのダカラ。ナノニ、コノ人もゼロ秒デ。』)

(『コノ人間モ時間ノ座標ジクカラ外レタ存在ト考エラレル。』)

(『自ラ外レタノカ、ソレトモ外サレタノカ、ドチラデショウか。』)

 シヴァイやリュトゥーは、まったく気がついていないが“妖精”同士の、この会話はこれまでに何度も繰り返されてきたものである。そして、人間たちにはまだ告げられない秘密の一つであった。


「んー。猫姫様からの連絡、それも機密レベルが5級以上となると、確かに、ここでは受信できないね。ジークの言うとおり、一番近くのシャトルに入ろう。どこかな。」

 さきほどまでの上機嫌が綺麗に拭い去られている。シヴァイの顔はここしばらくでは珍しい真剣味を帯びたものだ。両目だけはいつもの微笑み状態であるが。

「池袋駅上空。不可視状態で滞空しているボールが一番近くです。」

「じゃ、それに拾ってもらおう。ん、あれ?今現在、日本国内には幾つくらいのボールがあるんだっけ。」

 あの日、日本各地の上空に現れた、巨大な球体のことである。見上げていた人間たちには遠近感を狂わせるほどの大きさであったが、その巨大さにもかかわらず、実際は宇宙と地表を結ぶ、ただのシャトル機にすぎなかった。

「各県に5~10ですね。首都圏や大都市には警護も兼ねて多めに浮かばせたり着陸させていますので500以下ということはありません。あ、723機だそうです。」

 “赤龍”がチッとつぶやいたのが正確な機体数だったのだろうか。

「スターなんとかコーヒーのお店よりは少ないのか。でもこちらは砂丘の上にも派遣しているから、エライ。」

「?」

 数分後、シヴァイたちを乗せた車は不可視状態になり、同時に空中に浮遊した。同じように不可視状態で飛行してきた巨大な球体が速やかに収容する。車内に同乗し護衛をしていた数名は待機室に入って小休止であるが、司令官とその副官は休む間もなくボールの指揮所に移動する。

 二人が入室し、背面のドアが締まると同時に、正面スクリーンが光を放った。南国特有の黄色く透明で暑さを伝える光だ。背景はどこまでも広がる青空。

「アッシュバス提督、お久しぶりです。」

 シヴァイの挨拶と同時に、シヴァイ本人とリュトゥーが敬礼をする。両のこぶしを顔のやや下あたりで打ち合わせる、古代中国の拝礼に似たポーズだ。両手に武器を持っていないことを示しているのだろうとシヴァイは考えたことがあったが、画面中央の人物もその拝礼を行った。こぶしではなくて、肉球を打ち合わせて。

「シヴァイごめんにぁ。あなたの艦隊も休養期間まだまだあるよね。呼び出してゴメンにぁー。」

 画面に映っているのは、妙齢の美しい女性である。メリハリのあるプロポーション。さらにそれを引き立たせるデザインの軍服。大人の色気が自然にあふれ出している。気になるのは両耳が頭部の側面ではなく、上面にあるのことくらいか。整った顔立ちであるが、気品あふれる『猫』としか連想できない美人である。

「いえいえ。アシュバス提督もまだまだ休養期間ですよね。」

「そりゃそうにぁ、この間の会戦は私とあなたの艦隊で大勝利だったんだから。ホント助かったにぁ。今は南国でひなたぼっこ中。」

 大人の女性のウインクは破壊力がある。だが、猫っぽい顔つきのおかげで彼女のそれは、カワイイの方にやや傾いている。

「いやぁ、こちらこそ。部下たちもアシュバス艦隊とは気が合うみたいですから。」

「お互い、たくさん生き残れるのが一番ですからにぁ。」

アシュバス・シヴァイ連合艦隊は銀河宇宙軍の中でも有数のコンビネーションを誇っている。同規模の会戦の場合、他の二連合艦隊に比べると常に三割以上の生還率を示す。シヴァイ艦隊の兵士の多くがアシュバスの写真やポスターを自室に貼っている理由は美人だからという理由だけではない。

「で。緊急のご用件は?」

猫姫提督の目の色が変わる。瞳孔の広さが変わったからだ。

「あなた程ではないけれど、気の合う提督の艦隊がピンチにぁの。」

「ん?どなたでしょうか。現在戦闘状況下にある艦隊というと…。」

銀河宇宙軍には一〇〇以上艦隊があり、常にその半分近くは戦闘中か寸前の待機中である。シヴァイはまだ顔と名前が一致しない提督が多いため、すぐに思いつかない。

「ガネーザ提督よ。でかくてあんまり声を出さない彼。」

 提督になって日の短いシヴァイを気遣ってか、すぐに答えてくれる。これも彼女が機嫌のいい様子である。

「ガネーザ閣下は常に手堅い用兵がお見事な提督です。ですが、それゆえ簡単に危険な状況になるとは思えませんが。」

 思わず呟いてしまったリュトゥーに猫姫提督が視線を移動させる。

「そう、本部もそこのドラゴン君と同じように安心して一個艦隊で赴任させたのだけどね。休養中のウチの子の母星がその近くの太陽系国家で、帰郷するなり、急いで情報を送ってくれたの。」

 一個艦隊だけでの派遣となると、戦闘というよりも様子見の状態と判断されたのだろう。それが危ないと見えたということは。

「コンリューが飛び散っているように思えるって。そのウチの子って、情報部に出向経験がある子だから数多くのパターンデータを持っていて、一気に膨張するパターンと一致が多いって連絡くれたわけ。報告中その子のシッポがずっと膨らんでいたから、かなりの危険度だと判断したの。信頼できる子だから、髭をかけても良いわ。」

 猫姫提督の口調から「にぁ」が無くなってきている。緊急度が高いときの癖である。ヒゲをかけると言うからには余程であろう。

「わかりました。我が艦隊は傷病兵や疲労度の高い兵を除き、緊急発艦できる部隊を編成します。アシュバス艦隊との合流は・・」

「現地集合でOK?。」

「了解です。それでは良い旅を。」

 ウインク一つとシッポぱたぱたを最後にスクリーンはブラックアウトした。それと同時に、銀髪の“妖精”が空間に発生する。

「ピクシー、全将兵に連絡。戦闘配置可能数の報告と発艦準備をするように。ジーク、参謀部を集合。現地への航路計算と問題の宙域に合った戦術パターンを検証。大至急よろしく。」

「了解しました。」

即座に退出しようとするリュトゥーをシヴァイが呼び止める。

「ごめん、海自の自衛艦隊司令官と空自の航空総隊司令官に連絡を取り、何名か乗艦してもらおうと思う。宇宙での戦闘を直接見てもらった方が今後の訓練教程考案に役立つだろうから。ビデオだけでは、ね。」

「はい。あー、陸自はよろしいのですか。」

「揚陸艦や宇宙海兵隊はまだ当分先のことになるだろう。陸自には日本本土の直接防衛に集中してもらうと思うから…ただし海・空の司令官が必要と言ったなら、該当する自衛官の参加も依頼しよう。」

「そうですね。では至急連絡いたします。」

 今度こそドアが閉まるなり、銀髪が発言する。

『司令、出撃可能ナ艦隊ノ選別とソノ準備を発令イタシマシタ。』

「何割くらいが戦闘に参加出来るかな。」

『無理スレバ七割以上デスガ、コノ星ノ防衛モ考慮シテ55%程度デイカガデショウカ。』

 銀河宇宙軍の一個艦隊の基本数は千隻とされている。前回の戦闘で失われた艦艇の補充はまだなので500隻以下の参加となる。それに“妖精”は高速移動が可能な艦艇のみを考慮して算出したであろうから、猫姫艦隊と合計しても一個艦隊になるかどうかくらいであろうか。

「んーOK。猫姫様の部下が不安に思ったという問題のデータは受け取っているね。至急解析よろしく。」

 銀髪の乙女は声に出しては返事せず、目を閉じて作業を始めた。その邪魔をしないよう、シヴァイは全周全天スクリーンの星の海を眺めていた。いつもよりさらに目を細めて。 




2-8  暗い部屋で。

「副作用の全くない自白剤、もしくは傷一つ残らない自供装置のどちらかを使えば、容疑者の白黒はすぐにわかるわけです。」

「それは、人権的にいかがなものか。」

「全自動浮遊型の防犯カメラを増やせば、犯罪発生時の犯人探索も早まりますし、犯罪の抑止効果も望めます。被害者の網膜を経由して記憶野に納められた画像と照らし合わせられるように防犯カメラを増やすことで困るというのは、どのような人なのですか?」

「・・・そうですね…。それと、死刑をなくす代わりに、超長期刑罰を設定とありますが、これも人道上問題になりそうですが。」

「犯罪者の再犯防止の決め手は本人の自戒が一番です。深層意識に暗示をかける方法もありますが、我々の科学をもってしても、永久ではありません。二度としない、と思わせるためにはそれなりの・・・」

「痛みや恐怖を与えるのですか。それは断固許されません。」

「あなたが考えておられるような罰ではないと思います。」

「二度としないと思わせる拷問ではないのですか。」

「違います。残念ですが、今後の日本及び地球の状況を考えると悠長な教育刑を施したり、どこかに隔離させるような設備を作る余裕は全くありません。戦時中の臨時措置として犯罪者には、適度な作業労働や運動と適切な食事と睡眠をとってもらいます。」

「どこが罰でしょうか。労役のみですか?」

「健康な身体を維持してもらい、血液生産を担ってもらいます。罪によって変わるでしょうが、100年単位で。」

「・・・・・・・・・ヒドイ!」

「我々の医学と科学ならば、300年程度の延命は可能です。300年間の血液を供給する単調な生活です。娯楽はあまり期待できません。」

「300年間、血液を作り続けるのか・・・。死刑よりもひどい。」

「この星より進んだ科学医療を早急に広めるのは、最前線で闘う兵士の治療や延命、そして国民の健康と安全が目的です。どちらも重要です。そのためにはありとあらゆる方策を断固推し進めます。我々の科学による再生医療は地球とは格段の違いですが、血液製造は天然の方が早く安全です。」

「そうかもしれないが…(まるで吸血鬼だ。)」

「犯罪者や他国からの妨害者たちが安穏と過ごさせるような余裕は今後日本から一切なくなるでしょう。それに、このことを国の内外に告知することが犯罪減少の一助となれば幸いではありませんか?」

「・・・一体、この国、いや地球に何が起こるというのだ。そろそろ、それを教えてもらえないだろうか…。」

「その発表は全世界に同時に行います。今すぐに発表すると、世界のあちこちでトラブルが発生することは目に見えています。世界同時テロや内紛、あるいは国家間戦争をあなたは望みますか。」

「それほどの内容ということか…。どのみち、我々はあなたたちに侵略された立場だ。今のところ、あなたたちによって、理不尽な殺傷や略奪行為などは一切行われていない。それどころか行政や司法面では大変革が推し進められている。」

「はい、我々の目的は世界征服や人類滅亡ではありません。」

「では、警察庁の長官に至急連絡を取り、警察庁から全国の警察署を通じて、国民への周知を進めます。」

「司法関係は、我々がかなり手を入れていますのでスムーズに伝わることと思います。」

「マスコミへの対応は…。」

「それも我々宇宙人が行う方が良いでしょう。上層部が他国の支配下にあったテレビ局や新聞各社の調査は完了しています。広告やICT関連企業にも国民をマイナス誘導してきた会社が多々あります。先ほどの新しい刑罰を知らしめることで、逮捕を恐れて、正直に語ってくれる人も増えるのではありませんか?」

「私の立場では、その言葉に否定も肯定も出来ません。」

「それと、日本国有放送の件ですが。」

「NHKも解体するのですか!」

「いえ、我らの司令官閣下からの伝言です。『NHKとNHK教育には今後も頑張ってもらいたい。特に優れたアニメ作品製作にに期待している。それと・・・」

「それと・・?」

「時代劇専門のNHKをひとつ作ってもらいたい。正しい日本の歴史を視覚的に伝え、保存する効果を期待している。』だそうです。」

「はぁ。NHK時代劇ですか。わかりました。」

「あ、まだです。『その時代劇には、特撮ドラマ経験のある若手俳優をばんばん使って下さい。』だそうです。何が言いたいのか、私には今ひとつ理解できないのですが、あなたには解りますか?」

「あ、あまり…。後半は閣僚たちよりも、秘書たちに尋ねた方が早いような気もします。相談してみましょう。」

「善処お願いします。」

「了解いたしました。」


日本は侵略されています。今のところは平和なようです。


今回も最後まで読んで下さった方、ありがとうございます。少しずつですが、アレっぽい話やソレっぽい話になるようがんばります。

それと風邪ひきました。つらいです。季節の変わり目ですので、みなさんもご注意下さい。


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