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マイナス1話 開場準備

オープニング 変えてみました。

マイナス001話


 地球と月、そして太陽のラグランジュ点。重力の釣り合うその宙域から地球艦隊が出撃していく。

 出発地点の名称は第一地球防衛宇宙基地。簡潔すぎると非難されることが多い。

 特定の神話や宗教から名付ける案や意見も出されたが、誰もが納得する建築物名は見いだせなかった。

 地球、いや世界はまだまだ一つになっていないのだ。それと…。

 「チュウニくさい名前はやめましょうね」

 ある重要人物がつぶやいたため、準備された仮称が慌てて削除されたという噂もある。


「イングランド艦隊の“ジャバウォッキー”と“バンダースナッチ”が遅れています。」

 艦外情報官の声が巡航艦橋に響き渡る。

 出港時は準戦闘態勢であるため全員“妖精服”を着用している。そのため大声は必要ないのだが習慣は変え難い。

 情報官の言葉に対して「ふぅっ」と溜息をついた艦長は艦隊司令に目を遣った。同じタイミングで顔が向き合う。

 いつも通りの微笑顔で艦長に話しかける。

「艦隊進行はこのまま。距離が開き続けるようなら火星公転軌道付近で考えましょう。」

「承知しました。」

 艦長の語尾が微かに震えた。

 艦隊司令とのつきあいは短くない。だが司令官からの威圧にはまだ慣れない。

 彼に傲岸不遜な態度は微塵もない。立場を考えれば謙虚すぎるとも言える。

 それなのに圧倒されるのは戦歴であり人脈であり、あるいは存在そのものか。

 艦長は艦隊司令を前にすると自分が新兵、いや小学生のようにも感じる。

 (この人は何を見てきたのだろう。そして何処に行こうとしているのか。)

 横目で窺う艦隊司令の表情は…イタズラ小僧が悪巧みしているようにしか見えないのだが。

 艦長は頭を振って意識を切り替える。出撃中の、この戦艦の運用、そして艦隊機動に集中する。

 巡航時用艦橋はざわついている。私語は皆無であるが細かい報告が途切れず、折り返す指示は際限がない。

 宇宙服でもある“妖精服”は完全透過状態なので全乗組員の表情は一目瞭然で全員が張り詰めていることがわかる。

 地球軍宇宙艦隊の総出撃。

 

 地球、いや銀河系全体への攻撃を迎え撃つ時が来たのだ。


「英国艦隊旗艦“ジャバ”は最新鋭戦艦だよね~。言い換えると練度が…っと。これは失言。」

 わざわざ声に出しているのは聞かせるためであろう。艦長が言葉を引き継ぐ。

「英国以外にも遅れる宇宙艦があるやもしれません。」

 地球の各エリアの復興度は差異が大きい。欧州連合でさえ、よく間に合わせたというところだ。

「出遅れる艦隊はゾッカー…じゃなくて、“エスクリダオ”に任せましょう。」

(世界征服を企んでいた悪の組織が宇宙艦隊を率いていて、地球連合艦隊の面倒を見てもらうのか。)

 艦長は何度目か数え切れない嘆息をこぼした。

 〈〈ピキーン〉〉〈〈ピキーン〉〉〈〈ピキーン〉〉〈〈ピキーン〉〉〈〈ピキーン〉〉〈〈ピキーン〉〉〈〈ピキーン〉〉

 突然の警戒音が艦長の、いや艦橋員全員に緊張を叩きつける。

「未確認高速飛翔体、急速接近! ハ、速いですっ。そく…」

「各砲塔迎撃準備、艦載機は出撃態勢っ」

 情報官が言い終えるより先に、戦術長が声を発した。間髪置かず、

〈〈・J隊大串機出撃しま~す!〉〉

〈〈・同じく福田機発進っ。〉〉

 同時の返信。命令した戦術長自身が驚く早さ。いや…発進命令は下したか?

 振り向く戦術長の目に映ったのは「うん、いいよー」と微笑み艦隊司令の顔。

 戦術長は艦長に目を移す。この艦隊司令の了解は越権行為ではなかろうか。

「戦術長、あの2人は特務隊でもある。司令閣下の直命と判断する。」

「了解しました。」

 指揮系統の乱れよりも、今は未確認飛翔体の方が先決事項と艦長は自身を納得させたのだ。 

 艦隊司令の傍らにいた短髪の女性が話しかける。

「閣下、J隊の今の2人は…?」

「うん、優秀な“妖精使い”だろ。情報官よりずっと先に気付いて発進態勢にいたんだねぇ。」

 女性副官は訝しむ表情。

「どしたの?」

「いえ…。そのわりに2人には緊迫感がない…総司令の顔もいつも通り弛んでおられます。」

 その言葉を聞くなり、司令は両手で自らの両頬をはたいた。

「さすがは、我が副官殿だねえ~。…いつも通りはヒドイや。」

 艦橋は混乱が支配していた。

 通常の艦運用と艦隊旗艦として山のような作業中に“来襲”である。

 各砲塔や後続迎撃機に矢継ぎ早やの指示を下す戦術科。

 情報科の班員たちの顔は次々に報告される大量のデータの分析に目と手が間に合わない。

(うん、いい訓練になったね~・・・なんて声に出したらまた『不謹慎です』って怒られるか。) 

 

 射出口から飛び出たJ隊の戦術機は高速で接近する対象へと迫っていく。

 大気圏突破速度はマッハ15。大串、福田と名乗った二人の機体は一挙動でその速度に達し、さらに加速していく。 

だが、しかし。

 迫り来る未確認飛翔体は更に速い。

 巡航艦橋の中央立体画面に大串機と福田機からのデータ映像が広がる。

 2機のクロスレンジによって位置だけでなく対象物も映像化されるはずが、霞んだようにしか映らない対象物体。

 相対速度が速すぎるのだ。超超超高性能戦略戦術支援電子頭脳““妖精””の処理能力が追いつかない存在。

 大串機と福田機は必死に未確認物体に接近を繰り返すが、それをあっさりと振り切る高速機動。

 ブリッジ・クルーの全員のノドから絞り出すような呻き声が漏れる。

 これが、銀河宇宙の戦闘レベルなのか、と。

「…あっ…。」

「あれって…。」

 巡航艦橋から戦闘艦橋への移行を命じかけた艦長が気付いた。続いて戦術長が。

 副官は小さく「はぁ~」とため息。

 ガクッと前倒しになる頭部を支えるように右手で額を押さえた艦長はフンと鼻から息を吐き出した。

「フクッシーコンビの“妖精”で捉えられない存在って滅多にないよ。“虫”の上位種でもあの二人ならば捕まえ…」

 司令に最後まで言わせないかのように“妖精”通信が事態を見つめる全員の脳に響き渡った。

 声と同時に謎機体は艦橋の真横に静止。そのまま艦の航行速度と同速で移動し続ける。


〈〈〈お騒がせしました。こちらは【猫族】遊撃艦隊所属“北斗”です。地球艦隊の皆さんハジメマシテ。〉〉〉


 地球艦隊は実質寄せ集め艦隊である。

 それでも総数は100を越え、中央の艦隊旗艦を厳重に包囲守護する陣形をとっている。 

 偵察艦の目を潜り抜け、哨戒機に気付かれず、護衛艦も戦列艦も跳び越えられて旗艦に一直線に到達されたわけである。

 全艦の情報担当と戦術担当はその場での馘首も覚悟した。

「事前連絡どころか識別信号も出さずに現れましたねー。これは無礼極まりないですねー。即時撃墜されても文句は言えませんよ。」

 “妖精”通信に対し、指揮座から立ち上がって答える艦隊司令は言葉を続けた。 

〈〈〈【猫族】最強の剣士、クラキ殿。わざわざ御挨拶においでになるとは。地球艦隊一同いたみいります〉〉〉

  (注「いたみいる」とは: ① 相手の親切・好意に恐縮する。② 相手の厚かましさにあきれる。さて、どっち?)

 艦隊司令からの“妖精”通信に対し、艦橋の中央に人影が出現する。背景は【猫族】戦術機“機敏兵”の操縦席だ。

〈〈〈【猫族】近衛艦隊所属クラキ・タイラ。ご無礼つかまつりました。〉〉〉 

 パイロットは苦笑しながらキリッとした敬礼をとった。

 艦橋の全員が慌てて答礼する。立体映像でも実在本人と同様に扱うのが銀河宇宙の常識である。

〈〈〈ですが女王陛下の御命令なので…なにとぞ御斟酌お願いいたします。〉〉〉

 その言葉に胸をなで下ろす艦長以下一同であった。

【猫族】からの勅使に傷一つでも与えていたならば…外交問題どころか地球存亡の危機に至っていたであろう。

 勅使自身が先に謝ってくれたことで、今回の騒ぎは記録に残さない、と暗黙に了承されたのだ。

 艦隊司令は苦笑を通り越して大笑いしている。

『ははは。地球艦隊の練度…防御力の確認ですか。』

〈〈〈はい、アシュバス陛下は閣下を地球艦隊に預けることを今も反対しておられますゆえ。〉〉〉

 先進種族【猫族】の政治形態は君主制に似ている。その女王の発言は穿孔銀河全域に大きく響くほどだ。

 しかし当の地球艦隊司令は肩をすくめるだけだった。

 その仕草をクラキは即座に理解し、同じポーズ。日本人的な意思疎通。

 知らない一部の艦橋員は【猫族】のクラキの仕草に違和感を感じた。

『クラキ殿はご理解いただけた、かな。』

〈〈〈こちらの2機、なかなかの動きでした。速いだけでなく嫌なところを突いてくる…。〉〉〉

 【猫族】の戦術機兵はやや小柄で機動性重視である。地球軍の機兵は【龍族】に準じて火力重視で鈍重なのだが。

『二人は【犬神】のク・シュンの友人だよ。あ、先輩だったっけ?』

 大串、福田の両機も戦艦と同じ速度で巡航し続けている。クラキ機に非礼のない距離を保ちながら。

〈〈〈ほぅ。“五爪”のミキ殿とは一度試合いました。なかなかの手練れで…このお二人の技量、納得しました。〉〉〉

 飛行を続けながら、J隊の2機は敬礼する。巡航機動を続けながら、クルリと振り返り礼を返す【猫族】機敏兵。

 つづけて艦橋の立体映像も敬礼をする。 

〈〈〈女王陛下からの御命令は無事に果たしました。これにて失礼いたします。地球艦隊の航行に幸運がありますように。〉〉〉

 艦橋の一同がビシッと足を揃え背筋を伸ばし最敬礼する。

『【猫族】艦隊の進路の先に木天蓼がありますように。』

 艦隊司令の言葉に副官が顔をしかめる。

 【猫族】機敏兵は敬礼の姿を解くなり、一直線に消え去っていく。

〈〈フクッシーのお二人、ご苦労様でした。お二人の技量にクラキ殿も納得いったでしょう。〉〉

 司令が話しかける様子を尻目に、副官のアソオスは通信で部下に何かを命じはじめた。【龍族】特有のキツい目つきがさらに厳しい。

『え、何?格納庫にすでに? 操縦席はもぬけの殻??』

 “妖精服”の一部を叩いて通話を切ったアソオスは司令官に目を向けた。その目に映ったのは…。


「にゃにゃにゃーーー。久し振りなのニャー。」


 地球艦隊総司令官、シヴァ・ウィの首元に跳びかかり、ぶら下がる【猫族】女王の姿だった。


「じ、じょ女王陛下の来臨…って、ばかな・・・。」

「ほ、保安部…守備兵は何をしていた!」

 再度雑然とする艦橋内を余所目に、アシュバスはシヴァ・ウィに抱きついたまま離れようとしない。

「にゃ、この艦はまだまだ鍛えようが足りないのニャ。ウチがしばらく住み着いて鍛えてやるから感謝するのニャ。」

 艦内情報担当や守備兵が今頃駆け込み報告を始めるが密航者が目前にいて、それも銀河宇宙に知らない者のいない【猫族】のアシュバス陛下である。目を白黒させるか副官アソオスのように天を仰ぐしか態度に示せない。

「ん? シヴァイはわかっていたのニャろ。」

 【猫族】の好みの位置、その中でもアシュバス陛下の大好きな首の後ろの左側をカキカキしながらシヴァ・ウィはため息をついた。

「はいはい。大好物の“金の匙”シリーズはこっそり私の部屋に山積みです。」

「ニャッター。それでこそ銀河宇宙の知恵者シヴァイにゃ~。」

 宇宙戦艦はどれほど大きくても、持ち込む重量物は厳重にチェックされる。『これは同質量の酸素や水よりも重要なのか?』と尋ねられて即答できないような物は不要品とされるのが慣例である。

「職権乱用と言われたくないから知恵を絞ってネコ缶を持ち込んだんですよー。」

 副官がつぶやく

(銀河有数の知謀の使い方がおかしいわ)

「にゃにゃにゃ、これで安心して地球艦隊と【猫族】艦隊は銀河深淵へと出発できるのニャ。艦隊、発進!!」

 アシュバス女王陛下の言葉を慌てて艦長は復唱する。

〈〈『地球艦隊、発進!』〉〉

 艦橋員は慌てて司令官席の二人から目を逸らし、自分の担当任務に没頭する。

 この先に待ち構える【鎧族】艦隊と【龍族】艦隊と合流が最初の目的である。

 銀河最強戦力団【虎族】と【犬神】は本当に動くのか。

 銀河宇宙で最も古い【九尾】の総帥は現在どこにいるのか。

 

シヴァ・ウィの背後に“妖精”が実体化した。物質体も感情もない霊子知性体“妖精”が眉をひそめる。

 [【猫族】ノ女王ガ、何故ココニ・・・人ノ行動原理ハ予見デキナイモノダガ、ソノ中デモ別格ダナ…。]

「ニャアー。背後霊の分際でバカにしたニャー。ウチの“毛玉”はかわいいのに、コイツは生意気ニャ。フー。」

 [【猫族】ノ女王トハ言エ、私カラ見レバ仔猫ニ過ギマセン。貴女ノ悪意モ私ニハ甘噛ミナノデス…]

 言葉とは裏腹に“妖精”銀髪の様子は非人間的な通常の姿から程遠い。

 この二人(?)の相性が最悪なのは銀河宇宙軍トップシークレットである。

「アシュバス様、銀河人類と“妖精”の共同戦線の約定をいきなり反故にするような発言はおやめください~。」

「にゃ、シヴァイはこいつの味方するのか?」

 [見解ノ相違デス。我々“妖精”ガ人類ヲ補助スルコトニナッタノデス…。]

 こっそり横目で覗うブリッジ・クルーたちは、この二人と一柱が階層銀河全てを救う存在になろうとは夢にも思わない。 


 こうして地球連合宇宙艦隊は大宇宙へ向けて発進した。


日本は宇宙人に侵略されました。 


3ヶ月かかりました。


現実世界でまさか大事件が起こるなんて・・・

今も続行中なのが問題なのですが。


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