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険土重来

リアル志向だと悲惨な未来しかないので、こんな感じに



 俺は逃げた。



 伝説の勇者でもタフな戦士でも一攫千金を夢見る冒険者でも腕利きのスパイでも使命感に溢れる警察官でも血に餓えた傭兵でもない俺が、あんな訳の分からないものと戦える訳がないだろう?


 最初に長靴に噛み付いてきたのは、アレの小さいバージョンだったんだろう。



 それを考えるとたぶん、不意さえ突かれなければそれほど強くないと思う。

 長靴で蹴って踏ん付けてで動かなくなったしな。




 だが、考えてみてくれ、あんなのが居たんだ、もっと変でもっと強いやつが居てもおかしくはないだろう?



 せめて何か武器になる物でも持たなきゃ観察するにせよ、戦うにせよ出来ないだろう?

 単に見て回るだけと軽い感じで来たので、刃物どころか木の棒すら持っていないのだ。


 

 攻めてきた相手に無闇に突っ込むのはガキの頃のアシナガバチ相手で懲りた。

 花火と殺虫剤で武装していても刺されたのだ。


 母ちゃんに怒られ、姉ちゃんに馬鹿にされて笑われた。


 右の眉の上にぽっこりと蜂に刺された痕が今でも残っている。



 ホント、マジでここどこなんだよ。


 ゾンビゲームの生物兵器研究所か?


 それともフィクションでおなじみの異世界ってヤツか?


 物置ごと?



 落雷のショックで異世界なんて、昭和のジュブナイルでも無いぞ?



 あんな変なものが居ると分かった途端、今までのどかな南国リゾート風に見えていた景色が急に恐ろしげなものに感じる。


 海から巨大な化け物が出てくるんじゃないか?


 森の中から恐ろしい獣が出てくるんじゃないか?



 物置まで辿り着いた時には、俺はすっかり疲れきっていた。



 起きた時点で高い位置にあった太陽も西へとかなり傾いている。


 これから更に探索を続けると途中で日が暮れてしまうかもしれない。


 懐中電灯がまともに使えるかどうかすら試していないし、電池がどれだけ残っているかも分からない。



 例えば夜間にヘリコプターや船が近くを通った時に、懐中電灯を振り回せば気付いてもらえるかもしれない。


 来る保証も無いが、絶対に来ないと言える材料も持っていない。


 その時になって後悔しても遅いのだ。

 なるべく懐中電灯は使いたく無い。



 日が暮れる前にと寝る為の体勢を整える事にする。


 束ねた漫画をバラして、物置の中の物を外に出し、物置の床にその漫画を敷き詰める。


 金属の床に直接寝るよりマシだろう。


 100人乗っても大丈夫なのだ、獣とか寄ってきても熊とかで無い限り中で寝れば安全だろう。


 少なくとも外の地べたで寝るよりはよっぽどいい。



 俺は漫画の寝床に、エロ本の枕で、雨合羽を掛け布団代わりに物置の中で寝た。




 

 ◆

 ◆





 締め切ってしまって、開かなくなるのが怖かったので少しだけ開けておいた物置の扉の隙間から入ってくる光で目覚めた俺は朝になっている事に気付いた。



 起きたら自室のベッドの中という事も無かった。


 外に出ると昨日適当に外に出した物置の中にあったものたちが目に入る。


 起きて「小」の方の欲求を感じるが、しばらく居る事になるかもしれない物置の周りでは用は足したくない。


 川なり小川なりあればそこでする所なのだが・・・海しかないか・・・。



 幸い足元は長靴だ。


 波が寄せるラインに立っても問題は無い。



 俺は綺麗な海を環境汚染した・・・。





 腹は減っているもののまだ、それほど切実ではない。

 防災セットの乾パンを食べるのは、食料を見つけるか、手近に食料が無い事を確認してからにしたい。



 幸い、多少とは言えオレンジジュースとビールがある。


 長期はともかく、短期ならなんとかなるだろう。


 ビールはアルコール抜きをしたいトコなんだけどな。


 やり方も分からないし、寝る前にでも飲む事にしよう。

 飲みすぎで太るっていうくらいなんだから、カロリーなり栄養なりは、それなりにあるはずだ。少なくとも何も飲み食いしないよりマシな筈。炭酸で腹も膨れるだろうし。



 オレンジジュースはあるとは言え、飲める水も確保したいトコだ。

 まあ、賞味期限怪しい防災セットのミネラルウォーターの方がまだ安全だろうが・・・。


 これだけ植物が周囲に生育しているのだ、水はかなりある筈だし、地表を流れているものも有るはず。

 


 という訳で本日の探索を開始する事にする。


 昨日の所まで行って、周囲を確認しながら更に海沿いに東に行く予定だ。



 昨日の草原の変なヤツ。

 対抗手段として刈払機とスコップを持っていく事にする。

 軍手はあらかじめ装着した上で、予備を2セット。


 着ると暑いが防御力を多少でも高める為に雨合羽を着る。


 漫画を縛っていたビニール紐でスコップを背負い、作業用のベルトで刈払機を半固定する。


 その上から防災セットのリュックを背負うが、その前に懐中電灯を中から出して点くかどうかの確認をする。


 リュックから出し入れするのは面倒だが、ポケットに入れたりして落とすのも怖い。

 またリュックの中に戻し、リュックを背負う。

 

 燃料を入れ忘れていた事に気付き、刈払機を下ろし燃料タンクのキャップを外して混合燃料を入れる。


 試しにエンジンもかけてみる。


 親父がきちんと燃料を使い切ってから収納したお陰で問題なく動いた。

 刈払機が動かなくなる一番の理由がこの残った燃料から沈殿したものがこびりついた結果らしい。


 男の子なら、この手のエンジンついた道具とか、必要ない時ほど動かしてみたいもんだろ?

 

 使って働けって言われると急速に色あせるんだけどさ。


 まあ、そんななんで親父にちょっとやらせてくれ、って頼んだ時にそんな手入れとかの話をされて、ダメ出しされたんだよ。


 なもんで、その辺の事は頭に残ってた。


 エンジンを切り、装備する。



 やっぱ、結構重いな。


 まあ、あんな変なのが居るんだ、手持ちで最強の武装(な気がする物)は持っておくべきだろ?


 鉈とかナイフとか物置にあれば、尚良かったんだが、大工道具すら無いんだもんな。

 


 装備を固めてなんか強くなった気分の俺は、再度の探索へと歩き出した。





 ◆

 ◆




 リベンジという訳ではないが前日のあの変なヤツが居た辺りに来た俺は、刈払機のエンジンをかけた。


 藪に先端を突っ込む感じで左右に振る。

 ガツンッ! と何かがぶつかってくる。


 ヤツだ。


 左右の草を刈り払うとその姿が見えてくる。


 カチカチと歯噛みしながら動いている部分以外はどう見ても普通の草だ。


 パッ○ンフラワーに似ている。


 あっちは二分割、こっちは四分割だけどな。



 俺は隙を窺いつつ、どう見ても弱そうなその茎部分を刈り取ろうと刈払機を振るった・・・。






 超・弱すぎるんですけど・・・。


 これ怖がってたって「ビビリ君」認定受けても仕方ないレベル。


 動ける範囲が限られてる上に攻撃を仕掛けてくる実なのか花なのか分からない部分以外は普通の草と変わらない。



 スコップでも十分対応出来る。


 なもんでスコップを装備して刈払機は背負う。


 流石、塹壕最強兵器。


 もはや、こいつは敵ではないと確信した俺は探索を続けるため海沿いを更に進んだ。


 この海岸、昨日は気がつかなかったけれど蟹とか貝とかも居ない。


 海鳥を含めた鳥も居ない。


 生き物っぽいもので目にした物はヤツくらいだが、あれは植物だ。


 

 そう少し気が抜けた状態で歩いている時に、そいつが森の中からひょっこりと姿を現した。

 


 うん、そろそろ現実逃避はやめよう。


 ここ・・・地球、少なくとも俺の生きてた時代の地球じゃねーわ。


 

 ヒョコヒョコと跳ねる様に現れたその生き物。


 前足より長い後ろ足が前足より前に出た四足歩行だ。


 言葉にすると分かりづらいな・・・。


 

 つまりバッタみたいに長い後ろ足が、人間で言うトコの肩の上を通って胴の下で蛙みたいに揃えられた前足より前に来ている。

 でもって、その足を前後交互に動かして歩いているわけだ。


 結果、胴体部分は地球上の四足歩行の動物の様に地面に対して水平な状態になってなくて、人間に近い、地面に対して垂直な状態になっている。


 まあ、そういうお化けというかモンスターとしか思えない生き物なのだ。


 

 こんなの生物兵器とか言って遺伝子弄っても地球の生き物からは生まれねぇよ・・・。


 地球の人間からすると違和感バリバリだ。


 これに比べれば想像上のモンスターの方がまだ既存の生き物に似てる。


 目玉とかあるのか?


 胴体の上にあるのが頭部なんだろうが、タコとかの様に頭部に直接手足がついてる可能性もある。


 俺が胴体と思っている部分が頭部かもしれない。



 SAN値って意外と削れないもんなんだなぁ、等と俺が考えている内にその生き物はドッタンドッタンとでも言うしかない不器用そうな動きで俺に近づいてきた。


 危険かどうか等は分からない以上、危険なものとして対処するしかない。



 俺が思い切りスコップをバッティングの要領で振り払うと、丁度いい具合にそいつにぶつかり、まるで剣で斬った様に切れた。




 ・・・弱い、弱すぎる。

 せいぜいが払い飛ばす程度だと思っていたのだ。


 余りの弱さに、俺は「人懐こい犬の様にじゃれにきただけなんじゃ?」と罪悪感に襲われた。




 その罪悪感とほぼ同時のタイミングで「ちゃらららっちゃっちゃ~♪」と8ビットぽい電子音のファンファーレが鳴った。


 脱力した。


 なんかシリアスやってる時にこういう音鳴ると力抜けるよな?


 俺の目の前に紙が降ってきた。


 拾って見てみる。


 汚い手書きの文字で「物置の主はレベルが上がった。HPが20増えた。MPが8増えた。力が3増えた、素早さが4増えた。賢さが欲しければ地道に勉強しろ? あと、お情けで『マッチ一本』の呪文を覚えた事にしておく」と書かれている。



 ふざけてんのか、それになんだ、この汚い字・・・って俺の筆跡じゃねぇか!

 汚くて悪かったな!

 ・・・自分の突っ込みに自分でキレる醜態をさらしちまった。


 いや、でも何、何なのこれ、レベルって何、ゲーム、ゲームなのか!?


 ここゲームの世界?


 あ、また紙が降ってきた。


 「物置の主はそいつの肉を手に入れた、装備しますか? はい いいえ」



 肉を装備ってなんだよ!

 てか、死体消えて切り身が直接地べたに落ちてるじゃねーか!

 砂まみれだぞ!

 これ、食えってのかよ!


 あの生き物「そいつ」って名前なの?


 

 「なあ、誰か居るんだろ? この紙落としたヤツ! 俺に何をさせたいんだよ!」


 紙は降ってこない。


 会話は無しって事か・・・。


 ゲームとかのシステムメッセージみたいのしか紙が出てこないのかもな。


 まあ、裏が使えるかもだし、取っとくか、書いてある内容、なんか腹立つけど・・・って消えた!


 降ってきてちゃんと確認しないと内容確認する前に消えちゃうかもって事?


 せめてここがどこか教えてくれよ!



 紙が今度は二枚降ってきた。


 一枚目の紙はこれまで通りのメッセージで「物置の主は白地図を手に入れた! 行った場所が自動で埋められる優れものだ、ある意味物置の主にとっては宝の持ち腐れ?」と書かれている。


 2枚目はなんか白い紙の下の方だけグネグネとした線が入っている。

 上になんか書いてあるな。



 「無人島」



 固有名詞も何も無し、ってか、ここ島なの?

 しかも無人島・・・?


 

 このグネグネってもしかして海岸線で、俺が今まで歩いてきた部分?


 ああ、ここに「物置」って書いてある。


 つまり、地道に調べれば地図が埋まっていくって事か?


 いや、それはいいんだが、変なメッセージといい、この地図といい、なんか誰かが俺の今の状況に手を加えてるんじゃね?


 

 なんか疲れた・・・。


 今日はここまでにして物置に帰ろう。






前回の後書きあっさり裏切って主人公が無人島だと知りました

ただ自分で確認した訳でも無い上に胡散臭いメッセージによるものなんで、半信半疑です

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