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台風一禍

異世界に行った後、無人島に行くとかは有っても、いきなり異世界の無人島って話は見た事ないなぁ・・・と思っている内に書いちゃました^^;


 季節外れの台風がやって来た。


 既に暴風雨圏内に入って風は強いし雨粒も大きく、傘なんて無駄、雨合羽ではカバーし切れない顔面にビシバシと雨がぶち当たってきて結構痛い。


 別に台風が来て野生の血が蘇って思わず外に出た訳でも、「田んぼの様子見てくる」と死亡フラグ上位の行動を取っている訳でも無い。


 というか行き先、庭の物置ですし・・・。


 いざという時の防災グッズ。


 本来手近なトコに置いておくべきモノを「邪魔だから」と我が家の最高権力者である母ちゃんが物置にしまってしまったのを、「あんた採って来なさい!」と取りに寄越された訳だ。


 ちなみに親父は電車が止まるかも云々(既に一部私鉄は運休・徐行による運行本数削減となっている)という話で、かなり早い時間に今日は会社に泊まりこむという連絡が来ている。


 家に居るのは母ちゃん、姉ちゃん、俺・・・まあこの状況じゃ俺が外に出るのは確定だろ? 

 無駄な抵抗もせず、雨合羽を着たけれど、この降りじゃどうせびしょ濡れだしと滑ってコケるのも嫌なんでゆっくり慎重に歩く。

 分厚い雨雲に、まだ日が落ちる時間では無いが相当に辺りは暗い。


 狭い庭なんですぐに物置に着く。


 「象が踏んでも壊れない」・・・じゃなかった「100人乗っても大丈夫」な物置だが、頑張っても30人どころか20人くらいしか乗れそうも無いサイズ。

 扉を開けても中は良く見えないし、同じ様なダンボールが多過ぎ、ガサガサやっていると刈払機が倒れ掛かってきた。続いて竹箒まで倒れ掛かり、腰の辺りにスコップの持ち手が直撃した。


 意外に痛い。

 早く防災セットを見つけないと防災セット探しで災難に会うという、笑うに笑えない状況に陥る。

 

 懐中電灯までこっちに入れるなよなぁ・・・。

 「ひとまとめにしておいた方がいいでしょ!」と防災セットのリュックの中に放り込みやがって、まったく母ちゃんは・・・。



 その時、物置のすぐ側、ウチで一番高い、柿の木に雷が落ちた。

 直撃はしなかったものの凄い轟音。

 咄嗟に物置の狭さも忘れて飛びのいた俺は頭をぶつけて気を失ってしまった。


 薄くなっていく意識の中で、「人生初気絶だなぁ・・・」などとくだらない事を俺は考えていた。


 

 ◆

 ◆


 

 気が付くと雨が上がっていた。


 というか周囲がやたら明るい。


 げ、そんな長時間放置されてたのかよ、俺。


 いくらなんでもそりゃ酷過ぎねぇか母ちゃん!


 しっかりと目を開け、物置の外に出る。


 

 「どこだよ、ここ・・・。」



 寝ている間に流されでもしたのだろうか?


 物置ごとか?


 有り得ねえだろ?


 運良く中に俺が入った状態で流されたにしても、それなら物置がもっとドロドロでボコボコになっていなければおかしい。


 見た感じ、中の物は崩れたり散らかったりしていない。


 

 さっきから耳に入ってくる音、華麗にスルーしてたんだが、直視すべきかな?

 物置から出て来たら、臭いまでしてきたしねぇ・・・。



 ◆

 ◆



 うん、海だな。


 青い空に白い砂浜、透明度の高いエメラルドグリーンの海。


 いつの間に俺、南国リゾートに来たんだ?


 姉ちゃんが海外旅行に行った時にデジカメで撮ったのを見せてくれたタイのなんとかって島みてぇだ(その写真を見せてやったのがお土産だとか言って、なんもくれなかったんだよなぁ・・・)。




 物置は何か森? の中のちょっと開けた場所にあって、もう設置したといっていいくらい大きく傾いたり、木の根に乗り上げたりする事なく立っていて、そこから出た俺は波音のする方へと歩いて(まあ直接は見えなかっただけで家からバス通りまで出るより近かったんだけど)この海岸へと出た訳だ。


 これが旅行に来たのだったら泳いだり、日に焼いてみたり、のんびりと昼寝をしたりするところなんだろうが、訳の分からない状態で物置ごとここに居るのが現在の俺である。

 割と呑気だとは言われるが、流石に今、この状態で遊ぶ気にはなれない。


 これだけの綺麗な海を前に遊べないのは悲しいものがあるが、まずは現状把握が一番だ。


 砂浜を西に歩いてみる。


 別に方位磁石を持ってる訳では無い。

 出発地点(分からなくなると嫌なんで着ていた雨合羽を(暑いし)脱いで中心部分を除いて砂に埋めて目印にした)で太陽に向かって立った際に、右手のある方向だったから西と看做しただけだ。

 長靴は歩きづらい、長時間歩くのは厳しいかなぁと思ったが、さほど歩かない内に山と言うか崖と言うか、高い部分が海まで張り出した場所にぶち当たり、船でも無いと行けなくなった。


 途中でも水平線に島影等何も見えず、浜沿いに出発地点を同じ感じで森が広がっていて、特に目に付いた物は無かった。こちら方面の砂浜沿い、収穫ゼロである。


 仕方ないので出発地点へと戻る。


 海に魚居ないかな? と思って見てはいるものの、透明度は高いものの太陽の反射が強く、水中はあまり見えない。


 喉が渇いて来た。


 自販機も売店も無い。


 というか文明の気配すら無い。


 車のエンジン音も沖合い通る船も上空を横切る飛行機も無い。


 仕方ないので物置に戻る。


 何か飲むもの・・・。


 意識すると渇きが我慢出来ないレベルに感じられる。


 こんな時にあっさり見つかる防災セット。


 この中にもミネラルウォーターが入っているが、賞味期限大丈夫なんだろうか?


 そして酒屋からケース買いしている瓶ビール。


 いくら俺が馬鹿でも喉が渇いている時に酒は、一時しのぎにはなっても逆効果だということくらい分かる。


 こっちのケースはキ○ンオレンジか・・・。

 この状態で味の濃い飲み物はとも思うが何も飲まないよりマシだろう。


 感謝して飲もうとして栓抜きが無い事に気付く。

 防災セットにも入っていない。


 こんな事なら持ってる奴を馬鹿にせず、俺も十徳ナイフを持っておくんだった・・・。


 思わず手近な硬いものにブチ当てて割って飲もうかとも考えるが、変に割れて中身がほとんど確保出来ない未来しか想像出来ない。


 乾きと戦いつつ物置を漁る事しばし、ペンチを発見した俺は、錆びて固くなったペンチと格闘しつつ何とか栓を抜く(というよりひん曲げると言った方がいい有様だったが)事に成功し、ジュースを飲んだ。


 オレンジジュース生ぬるいけど美味ーっ!!!


 いや、本当、風呂上りに冷蔵庫にこれしか入って無くて文句を言った事を謝ります、マジで。

 

 よし、防災セットのリュックにこのジュースとペンチを入れて背負っていこう。

 あんま大量に持っていても疲れるし、2本にしとこうかな?

 お、軍手もあるな・・・てかあり過ぎ、まとめ買いお徳だからって買いすぎだよ、母ちゃん、20セットも軍手買って物置放置かよ!


 

 まあ、わけわからん状況だし、一そろいは持っていくか、ケツポケットにでも突っ込んでおけばいいや。

 

 あと何持って行くかな?


 刈払機・・・持ってってどうするんだよ、おい。親父が触らせてくれないから動かしちゃみたいけど・・・。

 スコップ・・・海岸に落とし穴でも掘るのか? 現状はまるの俺だけだぞ?

 灯油入りポリタンク・・・俺は放火魔じゃねえぞ?

 軽油とガソリン混ぜた刈払機用燃料の入ったポリタンク・・・だから火遊びはしねぇって!

 クーラーケース・・・生ぬるい飲み物しかない現状で何の意味が?

 竹箒・・・俺はレ○レのおじさんでも魔女でもないぞ? 箒を標準装備する趣味も無い!

 脚立・・・いや、この程度の高さ上ってどうすんのよ? それに結構脚立って持ち運びし辛いぞ、体にかなりぶつかるし・・・。

 石油ストーブ・・・担いでいっても筋トレにしかならんな。

 姉ちゃんの高校の時の教科書・・・なんで捨てずに取ってるんだよ、取っとくなら取っとくで自分の部屋に保管しろよ!

 捨て忘れた束ねた漫画雑誌・・・まあ、暇潰しにはなるけど、そんな事態じゃねえよ!

 捨て忘れた束ねたエロ本・・・俺の部屋から消えたお宝はココにあったのか「もう捨てちゃったよ!」と母ちゃんに言われてどれだけ落ち込んだことか!

 ビール1ケース・・・半分は無くなってるな、親父飲むペース早過ぎね? 月末禁酒モードだぞ、このペースじゃ・・・。

 オレンジジュース1ケース・・・おいしかったが既に必要な分は持っている。

 コ○ドーム1グロス・・・親父ぇ・・・使ってるのか! 知りたくなかったぞ、実の所!

 キックボード・・・場所考えずに乗り過ぎて俺がガキの時に没収された奴じゃねぇか。物置のこんな奥に入っていたとは!

 女子校の制服・・・だから、姉ちゃんは何で物置にこんなもん保存してるんだよ! 大事に取っとくか捨てるか、どっちかにしろよ! なんなんだ、この中途半端な扱いは! 真空収納だっけ、海外旅行行く前に買ってきて袋に持ってく服詰めてたけど、最終的にこんな使い方かよ! 本当、大事なんだか、要らないんだか訳わかんねーぞ!



 ◆

 ◆


 

 エロ本という予想外の収穫はあったものの、他は大した物は無かったな。

 その割に俺の精神ダメージは大きかったが・・・。



 ・・・まあ、いい。ともかく海沿い逆に行ってみよう。



 

 なんか嫌な予感がしてきたぞ?

 自然溢れ過ぎじゃね?


 ウチが割と田舎とは言え、これに比べりゃまだ文明の香りはするぞ?



 大体、海にある漂着物が木とか海草しかねえじゃねえか!

 日本だったら、結構真面目に掃除してるトコでも瓶とか、缶とかポリ袋とか、まあなんらかの人工的なものが漂着してるだろ?


 まあ、こんだけ綺麗な海にそんなもん有ったら興醒めだけどさ・・・。

 



 ・・・かなり歩いた。

 内陸側へ湾曲している海岸線に沿って歩いていると海と反対側に広がっていた森が途絶え、草原の様なトコ(草薮と言った方がいいかもしれん)が砂浜近くまで広がっている。

 ようやく海と反対側で視界が開けた場所に出たのだが・・・左右に森、後ろは海、正面は山だ・・・。

 送電線もアンテナも鉄塔も無い、というか自然物以外高いものが無い。


 道も無い、建物も無い・・・マジでここどこだよ、本当に日本なのか!?



 フラフラと草むらに足を踏み入れた俺の足に「ガツッ!」と突然衝撃が走る。


 なんかに掴まれるか噛み付かれるかしたみたいだ!


 反対の足で妙な弾力を感じる見えないそれを蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、落ちたのを、踏む、踏む、ストンピングの雨を降らせる。


 固体っぽい足応えが液体っぽくなったのに気付いたのは、実際にそうなってから相当時間がたっての事だったのだろう。


 俺はようやく足元を確認した。


 草?


 え、俺ビビって恥ずかしい事やってたの?


 

 ガサっっと音がした。

 ちょっと後ろに下がったのは幸運と言っていいだろう。


 目の前で「カチ!」っと歯の噛み合わさる音がした。


 ラグビーボールを一回り小さくした様な緑色の物体。


 「うわぁ!」咄嗟にぶん殴る。


 パンチングボールの様な手応え。


 距離の開いたその物体が縦横に裂ける。


 いや、裂けたのではない、「開いた」のだ。


 開いた緑色の物体の中には、まるで牙の様な白い鋭そうな物体が密集していた・・・。




実の所、主人公が「無人島だ」と把握するまでかなり時間がかかります

下手すると無人島だと確認するより先にダンジョンに突入するかもしれません

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