ヤスミ
翌日。
「はぁ・・・・・」
ゆううつだわ。
泣きたくなるわ。
「はぁ・・・・・」
「どうされました?ため息なんてつかれて」
私の憂鬱の元凶が声を掛けてくる。
「なんですか?睨みつけて」
「はぁ・・・・・」
思い出すだけで恥ずかしい。
リクトにお姫様抱っこされたんだよね。クラスメイトたちの目の前で。他のクラスや上級生達の目の前で。
私の事情も考えてよ!
言い訳どうしようかな・・・。
でも、抱っこされて嫌じゃないって思ってる自分が居るから嫌なのよね。
はぁ・・・・・・。
「本気でどうしたんですかお嬢様」
「あんたのせいで・・・・」
「地獄から悪魔が這い出してきたみたいな声は止めてください」
「あ、聞こえた?」
「聞こえますよそりゃあ」
はぁ・・・・。
「で、おれが何かしましたか?」
「お姫様抱っこ」
「それは仕方がなかったことでしょう」
「そうだけど、お姫様だっこって。他にもあったでしょう」
「足を使わせない運び方が他にあるなら」
・・・・・。
「おぶるとか」
「・・・・」
ちょっと!目をそらすって何!?思いついてたけど、あえてお姫様だっこしたとか!?
あ、でも、おぶられなくて良かったかも。
おぶられるってことは、つまり、リクトに密着するってことで・・・・。
「どうされました!?」
「いや、なんでもない」
何を考えてるんだ私は!
うー。どうするかな。
「お嬢様、失礼します」
「あ、ハクさん」
ハクさんはうちの医者。足を診てもらうためにきてもらった。
「どうですか?」
「うーん。酷いですね・・・・。一週間、とまでは行かなくても最低でも三日は動かさずにそのままにして欲しいですね」
「三日!?」
三日も学校休むの!?
「最低でもですから。それ以上は休んで欲しいですね」
「えー!」
「無理に動かしてずっと学校行けなくなるのと、一週間だけ休むのとどっちがいいですか」
「一週間で」
なんでうちの使用人たちは無言の脅迫ができるんだろう?無駄に怖いよ。
でも、一週間か・・・・。
ま、噂が収まってるといいんだけど。
「ねぇ、聞いた?」
「あ、エミリィが今日休みなんでしょ?」
「そう、そのエミリィなんだけど、昨日きた執事のリクト様と日曜日デートしてたらしいよ!」
「えー!マジ!?」
「だから、昨日あんな仲良さそうに・・・」
「お姫様抱っこされてたんでしょ!?」
「え!?いいなぁ~!」
「てか、その日曜日のデートについて聞きださなければ!」
!?
「どうされました?」
「今、ものすごく寒気が・・・・」
何!?怖!
「寒気?風邪でも引きましたか?」
リクトが私のおでこに自分のおでこを当てる。
近い、近い!自分がイケメンであることを自覚しろ!この馬鹿執事!
「熱はなさそうですがって、顔真っ赤ですよ!?」
「別に一週間休むんだから関係ないじゃない。とりあえず私は寝る!」
ちなみに昨日戻ってきてからずっとベッドに居る。
リクトがすぐそばで見張ってるから下手に動けない。
「お休みなさいませ」
寝るって言ったけど・・・・。
ついさっきまで寝てたしなぁ。
「眠れないんですか?」
「まぁ、考えてみれば当たり前よね。さっきまで寝てたんだから」
うーん。ヒマだなぁ・・・・。
「お嬢様、失礼します」
「あ、ユリアさん」
ユリアさんは部屋に一歩入って私に礼をするとリクトに向き直った。
「リクト、リシェさんが呼んでる」
「あ、わかった。お嬢様、足を使っちゃダメですよ」
私に一言言ってからユリアさんと一緒に出て行く。
・・・・・・・・・・・。
ガランと部屋が広がる。
この部屋、私には広いんだよね。今足使えないから余計に。
「ゴホッゴホッ」
あれ?もしかしてほんとに風邪ひいちゃったかな?
寝転がってればそのうち寝ちゃうかな。
お嬢様の部屋に戻るとお嬢様は寝ていた。
何の夢を見ているのかとても笑顔だ。
「ムニャ・・・・ト・・・」
ほぼ蹴り飛ばされている布団を掛けなおす。
「リクト・・・・、ありがとう・・・・」
!
おきてるんじゃないのか?
「にゃはは・・・ムニャ」
寝てるな。
いつまで寝てる気なんだろうか。
起きるまでにお嬢様が退屈しない遊びを考えとかないとな。
「うぁ・・・・くぁ~~」
ん、目が覚めたな。
「リクトー。あれ?まだ戻ってきてないのか」
今何時なんだろう?
てかどれだけ寝てたんだ?
「あ、お嬢様起きられましたか」
「リシェさん」
リシェさんが洗面器を手に持って部屋に入ってくる。
「熱は・・・、下がったみたいですね」
「あ、やっぱり風邪引いてたの?」
「えぇ、リクト君が大騒ぎしてましたよ。気持ち良さそうに寝てたのにいきなり咳き込み始めて顔が真っ赤で、汗かきはじめたって」
「大騒ぎ?」
「ふふっ。コレで汗拭いてください」
ぬらされたタオルを手渡される。
額を拭いて首筋を拭く。背中も届く範囲は拭いておく。
「拭き終わりました?」
「うん」
「貸してください。まだ寝てたほうがいいですよ」
「失礼します」
あ、リクト。
「あ、お嬢様。おかげんはいかがですか?」
「ん。大丈夫」
「あ、リシェさんクロードさんが呼んでましたよ」
「クロードが?何の用かしら。お嬢様失礼します」
リシェさんが部屋を出て行く。
くろーど?誰なんだろう?
「ねぇ、リクト。くろーどって誰?」
「一応・・・・、おれの上司ってコトになるんでしょうか?多分」
「リクトにもよくわからない存在と」
「勉強不足で申し訳ない」
「それは?」
リクトが持ってきたグラタンの器を指差す。
「あ、おかゆ作ってもらってきました。お嬢様は朝食も昼食も取られていませんので」
「あ」
グゥ~~~~
「・・・・・・」
「・・・・・・」
思い出したらおなかすいた・・・・。
「どうぞ」
「ありがとう・・・」
リクトからおかゆを受け取って無言でぱくつく。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
あぁ、無言。
静かーーーーーー。
「ごちそうさまでした」
「じゃ、おれ片付けてきますね」
「うん。お願い」
リクトが出て行くとまた一人。
うーん。ヒマだし静かだ。
食べてすぐに寝ると太るって言うし・・・。
ちょっと起き上がろうっと。
「っつぅ!」
わ、忘れてた・・・・。足痛めてるんだった・・・・。
「うぅ・・・」
涙目になって足をさする。
はぁ・・・。足が使えないって不便だなぁ・・・。
そういえば今、汗臭いな。着替えようっと。
足を使わないように、膝ついて、四つんばいで・・・。
よし、クローゼットまではたどり着けた。服は・・・掛けてあるのは取れないな。ハンガーまで膝立ちじゃ届かない。
引き出しから出すか。シャツとかも出さないと。
で、背に乗せてまた四つんばいでベッドに戻って着替えるっと。
ガチャ
「「あ・・・・・」」
着替え中にリクトが戻ってきた。
「「・・・・・・・・・」」
二人とも一瞬止まる。
で、リクトの顔が面白いほど真っ赤になって、
「も、申し訳ありません!」
瞬時に出て行った。
多分あたしも同じくらい顔真っ赤だ。
なんか、どっかでありそうなトラブルだな。
そんな事を思いながら私はさっさと着替えた。
なんかオチをつけないと!って思ってたら最後こんな事になりました。




