マチ
さっきからお嬢様がずっと考え込んでいる。
何を聞いても曖昧な返事しかしない。
手紙をやはり見られたんだろうか。
けれど、ウソをついているようには見えなかった。
そういえば、この二ヶ月でお嬢様のことを色々知った気がする。
ウソをついていたら、左手で右腕を掴む。信じて欲しかったら体の前で両手を組む。嫌いな物が食事に出てもすました顔をして食べて、部屋に戻ってから机に突っ伏す。やりたいことがあったら意地でもする。その他諸々。
「少し、図書室にいってくるわ」
「承知しました」
急に席を立ち、図書室へと向かったお嬢様。そのお供をする。
本でも読めば、心が落ち着くかと思った。
「意味ナシね」
「はい?」
「いや・・・」
うーん。考えても意味ないかな?
「明日、街に行こう!」
「明日、ですか?」
「明日。リクトに拒否権はない!」
「別に拒否権はもともとないですよ」
確かにそうね。
「とりあえず部屋に戻るか」
「それがよろしいかと思います」
それでその日は終わり。
次の日になるのをワクワクしながら寝た。
今日お嬢様が悩んでいたのはなんだったんだろうか。
明日は街に行くんだ。敬語を使うな、か。
難しいな。お嬢様相手には敬語が染み付いてるからな。
ふと、前にある鏡を見る。
苦虫を噛み潰したような顔をしている俺が映っていた。
二ヶ月で敬語は染み付くものなんだな。普通に笑えてるし。
・・・・・。
俺、仕事を果たせるのかな・・・・。
次の日。
「お嬢様、失礼します。あれ?お出かけですか?」
リシェさんが部屋に入ってくる。
「うん。街に」
「リクト君とですね?いいですねー」
「なんで?」
部屋を片付けるリシェさんに聞き返してしまう。
「だって、リクト君。イケメンさんじゃないですか」
・・・・・。
リシェさんのプロフィールを思い出してみる。
名前、リシェ・サルト
年齢、三十代後半 独身。
あぁ。
「なんか失礼なこと考えてませんかー?」
「いや?でも、少しだけ疑問に思ったかなー」
「何故ですか?」
「だって、リシェさん綺麗だし年齢に比べてずっと若く見えるのになんでど」
「黙りなさい、エミリィ。あ、申し訳ありません手が滑ってしまいましたわ」
顔の横に刺さったナイフがリシェさんの怖さを思い知らせる。
リシェさんを今まで感じたことも無いほど恐れちゃったよ。怖すぎるよリシェさん。
「とりあえず、私は出かけるね」
「いってらっしゃいませ」
リシェさんは私の背中に礼をした。
「リクト探さなきゃ」
屋敷中を探し回った。
「あ、ユリア!」
「リクト」
「お嬢様知らないか?探してるんだが・・・」
「その服で会うの?」
訝しげに俺を見ながら聞いてきた。
「あぁ、街に行くんだ。その条件がこれ」
「私服で行くって事?」
「いや、『普通』でいること」
「『普通』?」
「お嬢様もドレスじゃないしな」
「ドレスというよりワンピースじゃない?」
「どっちでもいいさ。あんな豪華だったら」
「はは」
「ま、とりあえず門で待つことにするよ」
ユリアと別れ、門へ向かう。
「ユリアさーん」
「あ、お嬢様」
リクトとわかれた途端にお嬢様から声がかかる。
「どうされました?」
「リクトしらない?街に行くから探してるんだけど・・・」
「門で待つことにするって言ってましたよ」
「あ、そう?ありがとう!」
そういってダッシュでいってしまった。
「あ、リクトー!」
門へ向かうとリクトがいた。
「お嬢・・・、エミリィ」
お嬢様という言葉を飲み込むようにエミリィと呼ぶリクト。
・・・・。
「どうし・・たんだ?エミリィ」
「別に。早く行こう」
「?」
カッコイイって思っちゃった。執事服に見慣れてるから私服が新鮮なのよね。
エミリィって呼ばれたときもなんかドキッってしちゃったし。
調子狂う・・・。
「わっ」
「危ない!」
リクトに手を掴まれる。
・・・・・・。
「なんで何にもないところで転ぶんだよ」
苦笑しながら言うリクト。
「五月蝿いわね」
「じゃ、行くか」
「初めは服屋からね!」
「はいはい」
いろんな店を寄って日が昇ってきたころ。
「そろそろ休憩しないか?」
「そうだね。そこのベンチにでも座る?」
「あ、座っといてくれ。俺、飲み物もってくる」
「はーい」
そういってリクトが走っていく。
そしてすぐ近くの店に入っていった。
手持ち無沙汰に手遊びを始める。
「おー、彼女一人ー?」
「はい?」
急に声を掛けられてへんな答え方をしてしまった。
「かわいいねー、良かったら俺たちと遊ばない?」
「え?いや・・・、人待ちなんで」
「いーじゃん、少しの間だからさ」
「だから、待っとかないと・・・」
グダグダと食い下がる男の人。
困っていると、男の人と私の間に誰かが割って入った。
「リィ、遅くなってごめん」
こっちに向かってリンゴジュースを差し出しながら微笑んでくるリクト。
「いいよ」
こっちも微笑み返す。
「で、アンタ何?」
改めて男の人に向き直るリクト。
「ちっ」
走り去る男の人。
名も知らぬ男の人、さよなら。二度と会わないことを願う。
「リンゴジュースありがと」
「いえ」
一瞬敬語に戻る。
「じゃ、飲み終わったら帰るか」
「うん。そうしたほうがいいと思う」
のみ終わって二人で並んで帰る。
そっとリクトの横顔を盗み見る。
『だって、リクト君。イケメンさんじゃないですか』
聞いたときは少し疑問におもったけれど、今は素直に同意する。
さっき助けてもらった時も思った。カッコイイって。
ずっとそばに居て欲しいな・・・・。
・・・・・・・・・・。
ん?今、何を考えた?
「どうした?」
いつの間にか盗み見る程度じゃなかったらしい。
「別に」
適当にごまかして歩く。
・・・・。
後ろを振り向く。
?今、誰かいた気がするんだけど・・・・。
リクトも後ろを向いていた。服屋と本屋の間の路地を睨みつけていた。
「いこう」
私はうなずいて城へ向かった。
(む・・・、エミリィさん見つけたから声を掛けるタイミング見計らってたら・・・。ナンパの男が来て、助けに入ろうかとしていたらイケメン君が来るし、そのまま帰ろうとするし・・・。って、え?この場所って・・・・)
次話!学校編!




