カコ
「父様」
「どうした?リィ」
仕事にひと段落をつけてこっちを向いてくれる父様。
あのあと、ちゃんと父様に報告した方がいいだろうってことになって。
「えーっと、あの、その、言いにくいんだけど・・・・」
「?何かしたのか?」
「あの、その、私が、王女ってこと・・・」
尻すぼみに言う。
「バレたのか」
「は、はい。ごめんなさい」
「どういう風に?」
「えっとね・・・・」
目をそらしながら答える。
「はぁーーーー」
聞き終えた父様は盛大にため息を着く。
「あれだけ、その話をする時は周りに気をつけろって言ったじゃないか」
「ごめんなさぁ~い」
あまり痛くない拳骨を一発くらって謝る。
「でも、父様。どうするの?」
「こうなったらもう公表するしかないだろう。なんでお前はごまかすことが苦手かね」
はぁ。ともう一度ため息をつかれる。
私はそれを自分でもわかほどどうでも良さそうな目で見つめていた。
「いいのか?ルナとも会えなくなるかもしれないぞ」
「いいのよ。ルナもそれを知っていて私といたんだから。それに、こうなるのは本当はずっと前でなければなかった。でしょう?父様」
ずっと前。私が父様に拾われたときに、私とルナは離れているべきだった。
離れているはずだった。
私がコレを招いた。
「なら、明日にでも公表しよう。もう、お前一人で外を出歩かせるわけにはいかない」
いいな。と今まで見たことのないほどのきつい表情。
私はコクリとうなずく。
「用件はそれだけか?」
「うん。忙しいのにごめんなさい」
いいんだよ。そういってとうさまは仕事に戻る。
私とリクトは黙って部屋を出る。
「あの、お嬢様。少々気になっていたのですが」
「なに?」
「前となにも変わってなかったっておっしゃってましたが、前にもひろまったことがあったんですか?」
「うん。似たような、ことがね」
私はつらつらと過去の話をする。
私が王女だと、私に知らされたばかりのときだった。
国境を越えた先にある小学校に通っていた私たち。
言うなといわれていたから言わなかった。けど、親友のルナにだけは話した。
それがいけなかったんだ。
『なんでそんな大事なこと黙ってたの?』
ルナの反応は冷ややかだった。
『違う、黙ってたんじゃなくて・・・』
『昔からそうだよ!エミリィは私に大事なことは話してくれなかった!』
取り乱したルナは私の手には負えなかった。
ルナは、今回のリオのように周りに私が王女であることを、私が回りの皆とは違う人であることを言いふらした。
国境を越えた先のこの学校は比較的貧乏な子が通う学校。
皆が皆私を無視し、苛めた。
『王女なんかがこんなとこにくんなよ!』
『王家なんて・・・、いままで貧乏な私たちをみくだしてたっていうの!?』
友人と思っていた人たちも全員が手のひらを返す。
『違う・・・、私は・・・』
どれだけ抗議しても聞いてもらえなかった。
どれだけ真実を言っても聞き届けられなかった。
苛められて、つらい思いをして、考えてみれば私はその学校に通う必要はなくなってたんだよ。父親が国王なんだから。
でも、私はその学校に通い続けた。
苛められるからって、つらい思いをするらって、避けちゃダメな気がしたから。
それにルナと酷い別れ方しかできてなかったから。謝って、事実を話して、仲直りがしたかった。
でも、いじめはいじめなんていう言葉では収まらないほどにエスカレートした。
王女と知って、言い寄る人が絶えない。
もう、やめよう。ルナなんてもう、どうでもいいじゃない。こんな事態を招いたのは考えてみれば彼女じゃないか。
そう思った矢先、小学五年生か六年生かの時に私は殺されかけた。『いじめ』で。
「いじめで?」
驚いた顔をするリクトに淡々と話す。
「そうよ。王女の私に取り入ろうとする人が近くに居て、遠巻きにする人たちは皆、私を憎む者、私を苛めるのを楽しそうに見て居る者、私を苛めて居る者それだけしかいなかったよ。私の味方なんていなかった。今回も同じ。流石に殺されかけはしなかったけどねー」
軽く言う。
あの時は・・・・。
刃物を向けてくるクラスメイト。その目には殺意は篭ってなかった。
最初のようにうらんでいるわけじゃなかった。ただ、ただ、苛めるのが楽しいから。そういう表情だった。
『いやーーーー!』
刃物が振り下ろされた。
感じるはずの痛みは感じない。
恐る恐る閉じた目を開く。
『!?ルナ!』
ルナの右腕が私に向けられたはずの刃物に貫かれていた。
『もう、止めなさいよ』
ルナの言葉の端々から怒気が感じられ、殺気までも感じられた。
楽しいから苛めてただけのクラスメイトにはそれは耐えかねるものだったらしく全員がへたり込む。
『エミリィ・・・』
『ルナ!』
私に申し訳なさそうな目で振り返る。
『今、先生よんでくるから・・・』
『ごめん』
動こうとした私に土下座する勢いで頭を下げるルナ。
『こんな事になるまで、私はなたの敵だった。こんな事態を引き起こした。一時の勘違いで、一時の感情で・・・・。あなたがどれだけ悲しんでいるか。どれだけつらいか知っていたのに・・・・。ごめん』
ナミダを落としながら『ごめん。ごめん』と謝罪の言葉を述べ続ける友人を前に私は動けなかった。
どんな声をかければいいのか分らなかったから。
『とにかく、先生呼んでくるよ』
やっとのことで出た言葉はそれだった。
「私も馬鹿だったなぁ・・・」
思い出せば、今でも泣きそうになってしまう。それだけ辛い事件だった。
「あ、お嬢様」
「ユリアさん。どうしたの?」
「少々リクトをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「だそうだよ。いってらっしゃい」
リクトをユリアさんと一緒に見送って私は部屋に戻る。
「で、何か用なのか?」
「あの人から連絡。私はそっちの部隊じゃないから知らないけど、急いだほうがいいんじゃないの?」
急いだ方がいいのはわかってる。わかってるのに・・・・。俺はなにもできていない。
「わかった。かわってくれ」
「どうぞ」
「リクトです」
『おう、リクト君?』
「え、副長!?」
『声がおおきいよー。もっと小さくはなそうねー。つか誰だとおもったの?』
「いえ。で、なんのごようですか?」
『そうそう、リクト。できないなら降ろすからって我らが総長殿がおしゃられてるよー。それだけー』
「あの、一つ聞いていいですか?」
『なんだ?』
「こんなに頻繁に連絡してて、突き止められないんですか?」
『それほど馬鹿じゃないよ』
にやりと笑う副長が容易に想像できる。
『じゃ、それだけー。ちゃんとしごとしろよー』
「はい」
連絡を切って自分の仕事に戻る。
「っと、我らが総長殿」
赤毛の女が部屋に入ってくる。
「煙管ふかすのはやめなって毎回言ってるだろう。セルタ」
口元を押さえて睨みつけてくるエルゼ。
「毎回聞いてないだろう。エルゼ。どうして自分で連絡しないんだよ。息子が心配すぎて連絡させるわりには」
「だれが息子だって?」
肩をすくめて両手を挙げる。
「私が親をなのっていい奴じゃないんだよ。わかってるだろう」
「あぁ、わかってるさ。アイツは俺たちとはちがう」
エルゼが少し悲しそうな顔をする。
親は名乗れないとか言ってはいるけど実の息子のように育てたんだからな。「違う」という事を実感させられると辛いものがあるんだろう。
(さぁて、どうなるかな・・・・)
サブタイトルどおり二人の過去かいてみました!
前回の番外編で言っていた、エミリィの傷口をえぐる過去の話です。
もう、最後の方まで突っ走ります!




