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一話・目覚め

え?読むの?


ありがとう。


もう一つの方はよ書け?


…きっとこれのおかげでもう一つの方が更に面白くなるはず…。

なんなんだよ…!なんなんだよ、ここは!?


風間剛かざまたけしは内心叫んでいた。


久しぶりに街の方に行くために、バスに乗って意識を失ったら…剛は元は病院であっただろう。…病室一室で埃まみれのベッドで寝ていたのだ。


剛は混乱する頭を必死に落ち着けて、考える。


(よし…!まずは落ち着け…。ゲームとかだと、こういう状況は錯乱したやつから死んで行くんだ。深呼吸だ…。深呼吸だ…)


剛は深呼吸を始めたが「っ…!」あまりの埃臭さと、薬品の臭いで鼻が曲がりそうになった。


「最悪だ…。よし…。落ち着け…。今日の行動を思い出せ」


不快気に顔を歪め、剛は今日の行動を思い出す事にした。



「………っ!…朝か…」


カーテンの隙間から、漏れ出る光に追いやれるように、ベッドから剛は起き上がり、まだ重い目蓋を無理やり開けて、窓から外を見る。


外では元気な小学生達が、登校している最中だった。


「…………」


本当なら剛も慌てて、準備を始めて、近くの中学校に登校しないと行けない時間だったが…。


「…早く起き過ぎたな…」


そう呟いて、剛はパソコンを起動させた。

特に用があるわけでは、ないのだが…それが剛に取っての日課なのだ。


部屋はベッド、ラノベやゲームを収納している大きめの本棚、勉強机、その横にデスク机と結構な値段がするデスクトップ型のパソコンが置いてある。


椅子に座り、YouTubeでお気に入りのボカロ曲を再生する。


それを聞きながら、目を閉じると…扉の外から【家族】の声が聞こえる。


琴美ことみ!遅刻するわよ…!」


「大丈夫だってば!…もうお母さんは心配し過ぎ!ここから西谷まで10分かからないんだから!」


「そんなこと言ったって…、総一さん…?」


「やれやれ…琴美、途中まで送ってやるから、行くぞ!」


「わぁー本当に?…じゃ行くー!」


「っ!」


剛は口を噛み締めると、イヤホンを取り出して、ぎゅっと目を閉じた。


幸せな【家庭】の音…だけど、剛には苦痛にしかならない音だった。


母は美しい、何歳か忘れたが、パッと見る限り20代中盤。よく見ても30代だとは誰も思わないくらい若々しくもある。


小学四年生の妹も美少女と呼んで、差し支えない容姿をして、勉強も運動もそつなくこなし、明るい性格からクラスの中心人物になっているらしい。

…戸籍上はともかく、遺伝子的には他人と言える二人なのだが…。


いや…妹は半分血が繋がってるんだけ?


ま、どうでも良いことだ。


母親には邪魔ものを見る目で、見られ(父親の前ではそれなりの愛想を振る舞う)子は親に似ると言うが、妹には同じように見られ、通りすがりに「ウザッ!」「死んでくれない?」「同じ空気吸いたくないんだけど…」とマゾなら絶頂に達する程の冷たい声と冷酷な目で言われる。

父親は無関心。それ以上でも、それ以下でもない。


父親が離婚して、再婚した時に言われたのが「親の責任として、大学までは面倒見てやる」だった。


ま、新婚生活に邪魔でしかない俺を施設にも入れずに、引きこもりになってなお。面倒を見てくれているのだから、感謝しなければならないのだろう。


音楽を聴きながら、そんな事を考えて、剛は30分ほど過ごすと、着替えを持って部屋を出てそそくさと浴室に入りシャワーを浴びる。


そしてさっさと体を洗うと、浴室を出る。


鏡に写るのは弛んだ体に、陰気な顔だった。


中学に入ってから、二年も引きこもってばこうなるは自明の理というヤツだろう。


専用のタオルで拭き、専用の籠に衣類を入れる。


ある程度溜まったら、母親が出かけてる隙に、剛は自分で洗うのだ。


季節は冬が終わり、少しずつ暖かくなりだす3月中盤だ。


だが、まだまだ肌寒いので、動き易く厚い生地のパーカーを羽織って、黒縁メガネを装備して家を出た。


白飯くらいならあるが、おかずに関しては母親は一切用意しない。


それは剛に取ってもありがたかった。


(何が入ってるか、分からないからな)


代わりに雑費などを含め、月に五万ほど父親から支給される。

ただ、携帯とパソコンの通信費は自分で払うので、代々手元に残るのは4万ほど…それでもこの年では結構な大金である。


いつもは白米に納豆や卵をかけて、過ごす剛だが、この日は好きなラノベの新刊が出る為に街に出て食べようとしていた。



住宅街を抜けて、学校から反対側の坂を上って行くと、駅前まで行くバスがこの時間なら、一時間に三本ほど走っている。


バス停に向かい歩いて行くと、ゲームなので見かける占い師の恰好まんまのじいさんがいた。


街中でたまに占い師を見かける事があるが、こんな恰好の人はいない。


関わらないように目を逸らして、早足で剛は歩く。


「待て!そこの小太り小僧!」


鋭い声をかけられ、反射的に剛は振り向いてしまった。勝手に濁ったような目を想像していたが、小学生の頃行った老人ホームでのボランティアで会った元、自衛隊にして、第二次世界大戦経験者のじいちゃんくらいに鋭く力のある目をしていた。


「…ふん。そうビクビクするな…。金は取らんから、ちょっとボランティアだと思ってワシの話聞いていけ」


ジロッと見られつい「はい…」と情けない声を上げて剛は頷いてしまう。


「…ふむ。お前さん学生だな?…ま、心配するな。この時間に学生がこの辺を何しとるんだ!とは言いまい」


そこで老人は一度言葉を切った。


「若い内は色々あるだろうさ。ま、年取って行くと面倒事も色々増えるんじゃがな」



そう言ってニヤリと笑う。


「ほれ…。両手だせ…ほぅほぅ…。あ〜…」


素直に手を出した剛の手相を見ていた老人は、気まずげな顔をした。


「えっ…?何!?」


その反応になんなんだ!?と剛は気になって仕方ない。


「ほれ…。適当にカード引いてみろ」


と言われ、ズラッと横に並べられたタロットカードを剛は引いた。


…そのカードは黒衣を纏い、大鎌を持つ骸骨の絵がかかれていた。


「…死神…」


「うわ…やっぱりお前さん死ぬな。死相が出てるわ、生命線は切れてるわ、死神を引くわ…。完璧に死ぬのぅ」

老人は気の毒そうにそう言った。

「えっ…?そ、そんな事あるわけないだろ!?」


「どう思うかは、お前さん次第じゃがな…。とりあえず…死なないようにあどばいすじゃ」


「あ、アドバイス…」

剛は息を飲み、老人の言葉を待つ。


「うむ。お前さんは不幸な事に英雄の相をしておる」


「な、なんで…英雄の相が不幸なんだよ…」


「たわけ…。話は最後まで聞かんか。英雄というのは、数々苦難や試練が襲い掛かる。それを乗り越えた者が英雄。その実力がない者は死者となるだけじゃ」


(…それはそうだろうけど…ふん?さてはこのじいさん、それを防ぐ為にって、何か買わせる気だな…)

剛は全てホラだと思い始めていたが…


「お前さん、儂が何か買わせるつもりだと思ったろ?まず道具とかじゃ無理だな。…生き残る道は…災いを味方にするのじゃな」


「はっ!?な、なんだよそれ…?」


よく分からない気持ち悪さを感じて、剛は老人に詰め寄ろうとするが「…」無言でジロッと見られただけで、その動きは止められた。


「詐欺をした事もあるが、これは本当なんじゃな。ま、頑張って生き残れ小僧」


そう言って老人は、あっという間に色々なものを片付けて、剛の肩をポンと叩いて、剛がやって来た方に歩いて行った。

「っ…!?な、なんだったんだよ…」


妙な薄気味悪さを感じて、剛は早足でバス停に向かう。


すると…ちょうどバスがやって来た。


気持ち悪さを払うように剛はバスに乗り、そして…剛の記憶はそこで途切れていた。


「…バスに乗った後の記憶がない」


剛は頭を抑え、記憶を引き出そうとするが、頭に鈍い感覚があるだけだった。


その時、周囲から衣擦れの音が聞こえた。


「だ、誰か…!?誰かいるのか!?」


剛は恐怖を感じながらも、他に誰かいる可能性に期待を膨らませる。

「…って…アッ!?んだよここは!?」


「…っ…!ここはどこだね!?」


「…ここは…!?」


「…はっ!?なにリアル?」


「あ〜?何だよここは…」


「何だ…ここは…?」


ざわざわとカーテンで隠された他のベッドから、人の声が聞こえた。


シャーとカーテンを開く音がいくつも重なり、声を発した人物達が姿を表す。


「なんだ…ァ?病院か…?ここは」


最初に声を発した人物は、一言で言えば不良だった。


前髪をワックスで上げ、服装は学ランを着崩したスタイル。体付きも見るものが見れば、鍛えられてると分かるほどには引き締まった体。


目が異様に鋭い事を覗けば、顔立ちはそこそこ整っている。


「………び、病院?なぜこんなところにいるんだ!?」


その次に声を上げたのは、中年の太ったサラリーマンだった。

仕立ての良さそうなスーツに、赤いネクタイを身に着けている。


なかなかお洒落なのだが、出っ張ったお腹のせいでなんとも滑稽な印象を感じる。


「…病院?なんで…」


次に剛の目に映ったのは、美しい少女だった。腰まで届く、艶やか黒髪に切れ長の目、整った鼻梁と桜の色のような唇。


制服を身に着けてる為、おそらく高校生だろう。このプロポーションで中学生なら詐欺だ。とにかく詐欺だ。


次に髪を派手に盛り上げている雑誌で見かける読者モデルくらいにはかわいい女子高生。


その次が

髪をワックス緩やかに立て、お洒落な服装をした、大学生くらいのチャラ男らしき男だった。


前髪を指でくるくる巻いている。癖なのだろうか。顔立ちも整っており、スタイルもモデル型だ。


同性から見ても異性にモテる、という印象を抱かせるタイプだ。


そして最後が高校生らしき男。一言で言うと主人公みたいな奴だ。


そこそこ整った顔に、勉強と運動をソツなくこなしそうな雰囲気。


そして気が利きそうな印象がある。


「…ここはどこなんだ…」


これでこの病室にいる人間は全員だろう。「チッ!なんだが分かんねえが、さっさと出るぜ」


不良の男は舌打ちをすると、スタスタとドアに向かい歩き、ドアを開けようとドアノブ掴むが…。


ガチャガチャ!ガチャガチャ!


「なんだ…?全然開かねえぞ」


ガチャガチャ!


不良が激しくノブを回すが、ドアはピクリともしなかった。


(やっぱり…。開かないんだ…。じゃ、これから起こるのは殺し合い?もしくは脱出ゲームとか?)


剛は顔を青白くさせながら震える。


意識を失って…気づけば、こんな如何にもな廃病院で目覚めたのだ。

テンプレートととして、何かが起こると剛は確信した。


普通の人間なら、そんな発想はしないだろうが、日頃オタク文化に浸かっている剛は自然と考えついてしまうのだ。


「…な、何をふざけてるんだ!?私が開ける!」


不良の様子を見かねた中年の男が、ドアに近づく。


「アッ!?」


「ひっ!?な、なんだね」

不良に睨まれながらも、何とか中年の男は体裁を保った。


「チッ!開けれるもんなら、開けてくれ」


不良は舌打ちすると、ドアから離れた。


ガチャガチャ!ガチャガチャ!


「あ、開かない?開かないぞぉ!?」


中年の男が信じらんないとばかりに、何度もノブを回すが、不良の男と同じようにドアはピクリとも動かない。


「ハァ!?じょ、冗談でしょ?…そ、そうだ窓から出れば」


茶髪の少女が、希望に縋るように窓に近づく。


「あ、あれ?開けるやつがないよ…」


だんだんと茶髪の少女の声から勢いが、失われていく。


「チッ!はめ込み式か。女、ちょっとどけ」


不良が窓近づいて呟くと、上着を脱いで腕に巻きつける。


「オラッ!」


格闘技のようにキレイな形ではないが、素人とは違う。殴る事に慣れているようなキれがある動きだった。

ガンッ!


「っ!…おいおい。全然手応えがねぇぞ?」


不良が信じられないような目を窓ガラスに向ける。


「…っ!ど、退いて!これをぶつける」


黒髪の少女が備え付けのテレビを、危なっかしい足取りで持ち上げて、窓にぶつけた。


ガンッ!


「そ、そんな…」


黒髪の少女が傷一つついていないガラスを見て、呆然と呟いた。


…ザッ…ザザッ…ザー。


投げつけたテレビに突然、砂嵐が映ると…一人奇妙なピエロの格好をした人間が映り込んだ。


『やぁ。良い慌てぶりだね。キャキャキャ』


ピエロは甲高く、耳障りな声で楽しそうに笑った。


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