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おいでよ因習村~迷い込んだら、限界集落の少女(年上美女)に捕まった~

作者: 鶏ニンジャ
掲載日:2026/04/16

「ここは……」


 道に迷った俺は、朽ちた大きな鳥居の前に出る。

 その先の民家へ続く道の脇には、彼岸花も咲き誇っていた。


「もしかして……因習村!?」


 鳥居には不思議な文字で書かれたお札が何枚も貼られている。

 間違いない。これこそまさに、SNSとかで話題になった因習村だ。


「帰りたいとこだけど……まあ、行ってみるか」


 好奇心は猫を殺すとは言うけれど、もうどうでもいい。

 彼女に振られ、貯金もパー。仕事も何もかも失ったんだから。


 俺は半ばやけっぱちで、村の入口の鳥居をくぐった。


 そこには少女……のような黒い着物を着た、俺より明らかに年上の女性がブルーシートに座ってタバコを吸っていた。


 時折、スルメイカをライターで炙りながら、缶チューハイを煽っている。


「えーと……すいません」

「あん?」


 女性はこちらを睨みつけてくる。


 酒焼けをしたようなハスキーボイス。

 見た目も俺好みで、ちょっとドキッとする。


「ちっ……めんどくせぇ。ちょっと待ってろ」


 彼女は立ち上がると手毬を取り出し、鞠つきをはじめる。

 しかも、めちゃくちゃ高速で。


「ふふふ……お兄ちゃん」

「そっちのほうが年上では?」

「ちっ!」


 不機嫌そうに、思いきり舌打ちをされる。

 どうやら黙って見ていたほうがいいらしい。


「ふふふ、お兄ちゃん……九頭竜様に怒られたくなかったら、あのお札を肌身離さず持っててね」


 彼女の指さす先には、台が置かれていた。

 因習村っぽい質素な感じだが、よく見れば金属製の台にボロい板を貼り付けたハリボテだ。


『九頭竜様のお守り札。大特価300円!! 商売繁盛、恋愛成就、学業成就、間違いなし!』


 派手な宣伝文句が並んだ張り紙が貼られている。

 そして、御札を見てみれば。


「……こ、これは」


 謎の龍っぽいマスコットに、それっぽい文字が書かれている……創英角ポップ体で。


「ああ、そりゃ、マスコットのクズルくんだ」

「それも気になるけど、このやっつけ感はなんすか?」

「役場の爺さんがタダ働きで作らされてやつだからな」

「神主さんとかじゃないんかい!」


 思わず突っ込んでしまう。

 しかも無償労働とか、因習村以前に悪しき風習過ぎる。


「あ、今なら『クズルくん缶バッチ』や『クズルくんアクスタ』もついて1000円だけどどうだ?」

「……微妙に悩む値段っすね」

「限定品だぞ? 因みに両方全10種類、ランダム販売」

「限定品でランダム商法!?」


 さすがにそれは悪どくないかい?

 いや、わかるよ?


 ランダム商法で稼がないとならないって事情は。

 でも、あの時のあの絶望感は……うっ、頭が。


「なんだ、買ってくれたら、あたしがちょっといいことしてやってもいいんだぞ?」


 彼女の方を振り向く。

 その大きな胸の胸元を少しだけ開けながら、彼女はニヤニヤと笑っている。


「け、結構です!」

「あはは、冗談だよ。冗談。じゃあ、行こうぜ」


 彼女はタバコを吹かしながらスタスタと歩きだす。

 まあ、ここまで来たんだから、ついて行ってみよう。

 俺もその後を歩く。


 しっかし、あんな姿は年齢=恋人な俺には刺激が強すぎる。

 でも、こんな美人とそういう関係になれるかもというのは、ちょっと興味はある。


 俺だって男だしね?


 などと思いながら歩いていると、足元の窪みにつまずいてしまう。


「うわっ!」


 重心が崩れる。立て直そうとするが、間に合わない。

 彼女の方に倒れ込む。


 むぎゅっ!


 目の前が暗くなる。


 やわらかい。

 びっくりするくらい、やわらかい感触に顔全体が包まれた。


 タバコと酒の匂いの奥に、かすかに甘い香りが混じっている。


 これって、まさか……彼女の胸に顔を突っ込んでる!?


「……おい、ただで楽しむつもりか?」


 低い声が頭上から降ってくる。

 我に返った瞬間、全身の血が顔に集中した。


「す、すいませんッ!」


 反射的に離れようとして、とっさに手をついた先がちょうど祠だった。


 ぽすっ。


 拍子抜けするような音とともに、祠の屋根がずり落ちた。


「あ」

「…………」


 女性がゆっくりこちらを見る。タバコの煙をゆっくり吐き出しながら。


「……やっちまったな」

「す、すいません、ちょっと触っただけで」

「あ、大丈夫だ。それよりちょっと待ってくれ」


 彼女はそう言うと手毬をつきはじめる。


「ふふふ……お兄ちゃん。九頭龍様に呪われちゃうよ……呪われちゃったら帰れないよ」


 それと同時に、どこからともなく半鐘の音が鳴り響いた。

 カンカンカンカン。


「え、なに? なになに??」


 俺が驚いていると……。


「お、鳴った鳴った」

「今年は早いのぉ」

「わしなんか六月じゃったぞ」


 気づけばどこの家からも老人が出てきている。

 お爺さんもお婆さんも全員顔が明るい。


 縁側でうたた寝していたはずのお爺さんまで、目をぱっちり開けて親指を立てていた。


 そこへ、いかにも村長という風体の老人が、袴姿で悠然と歩いてきた。

 早い。何かに乗ってきたのかと思うほど早い。


「……その祠を壊したんか!!」


 両手を広げ、天を仰ぎながら村長が叫ぶ。

 どっと沸く村人たち。


「やったぞい!」

「今年の予算もこれで安泰じゃ!」

「よっしゃ! さっそく源さんに連絡じゃ! 今回はどんな飾りを作ろうかのぉ!」


 村の老人たちは大盛り上がり。

 まるでダンスフロアのような熱狂ぶりだ。


「ちょっと待って、なんで皆さんそんなに嬉しそうなんですか」


 女性がスルメを一口かじりながら答える。


「そりゃ、予算の消化ができるからな。余らせると来年の予算が減らされるし」

「もっといろいろと使い道があるでしょ? 教育とか医療とか」

「いや、病気になったらこんなとこでまともな治療はできないから、普通に街に行くからな」


 言われてみれば、それはそう。

 こんな田舎じゃ大きな病気は治療できないのは間違いない。


 山奥でなにかあったときにもすぐには対応出来ないだろうし。


「でも、教育は……」

「あはは、なんであたしがこんな格好してると思う?」


 彼女は笑顔で聞いてくる。

 でも、その目は笑っていない。


「あ、もしかして……」

「この村で一番若いのはあたしだからな」

「限界集落過ぎる!」


 現状は予想以上にヤバかったらしい。

 いや、なんとなくそんな気はしてたよ?


 集まってきたのもお年寄りしかいなかったし。


「おほん……もうよろしいかな?」


 村長が咳払いをしながら、声を掛けてくる。

 そういえば、色々予想外過ぎてほったらかしにしてしまった。


「九頭竜さまのお怒りを鎮めるために、お主にはこれに名前を書いてもらわねばならん……」


 そう言って差し出された紙には『修繕費申請書』と書かれている。

 まあ、それだけじゃなくて、修繕費の見積もりから、申請理由、申請者まで全部印刷で記載されている。


 準備が良すぎる。


「この村には百年の歴史を持つ由緒正しき祠が……」

「そこのプレート。丸山建設さんが去年の三月に竣工したって書いてありますよ?」


 村長は一瞬だけ目を泳がせた。


「……風雨で劣化が激しくてな」

「去年の三月に建てたんですよね」

「厳しい土地でな」


 そんなこんなで結局、日が暮れるまで俺は現場検証につきあわされた。

 お役所仕事、ここに極まれりって感じで、めちゃくちゃめんどくさかった。


「文化的損失の程度は甚大……これは費用の見積もりをもう少し増やさねばならんかもしれぬのぉ」

「築一年ですよね」

「……よし! 村の衆よ! 祠再建の前に九頭竜様の怒りを沈めねばならぬ! 宴の準備じゃ!」


 村長が俺を無視して、野次馬をしていた村民に向かって高らかに宣言する。


「街に行ったよし坊に連絡せねば!」

「久々に孫の顔を見れそうですねぇ」

「予算は村役場から出るから、じゃんじゃん酒と食材を持ってくるんじゃ!」


 村人はいそいそと、各々の家に戻っていく。

 ……疲れた。


 こう、ただただ疲れた。

 もう、因習村はお腹いっぱいだ。


「……そろそろ帰ります」

「そうか」


 女性は新しい缶チューハイを開けながら、さして惜しむ様子もなく言った。


「帰り道わかるか?」

「迷って来たんで、正直わからないですけど」

「じゃあ送ってやるよ」


 立ち上がりざまに手毬をどこかへ放り投げ、歩き出す。

 鳥居まで戻ると、夕焼けで彼岸花が真っ赤に染まっていた。


「……綺麗ですね」

「そうだな」


 少しの沈黙。


「そういえば、寂しくないんですか?」

「ん? なんでだ?」

「だって、同年代の友達とか近くにいないんですよね?」

「ああ、そんなことか」


 彼女はタバコに火を火をつけると、ゆっくりと煙を吸う。


「あたしはこの村が好きだからな。学校もこの村にある分校で卒業したし、都会の水は合わないんだよ」


 少し寂しそうな彼女の横顔……彼女にそんな顔は似合わないと思う。

 だけど、よそのもの俺がどうこう言えるものでもない。


 僕には僕の、彼女には彼女の生活があるんだから。

 そんなことを思いながらしばらく歩いていると、彼女が突然、立ち止まる。


「さて、ここまで来たからにはもう隠すわけにはいかないな」

「はい?」


 女性がゆっくりこちらを向く。

 さっきまでの気だるそうな目じゃない。


 彼女は俺の肩をガシッと掴む。

 逃げようと思ったが、その目を前に動けなくなる。


「あ、あの〜?」

「あはは、こんな出会いのない村で若い男を逃すわけないだろ?」


 笑っているのに、目が笑っていない……まさに獲物を狙う獣の目だ。

 絶対に逃さないという意思が、掴まれた肩から伝わってくる。


「今日までマチアプで何回逃げられたことか……絶対に逃さないからな」

「何回逃げられたんですか?」

「十七回」


 即答だった。


「ちなみに鳥居の外には熊対策でセンサーが配備されててな」

「センサー……」

「通ったら鳴る。熊も出る」


 遠くで半鐘がカンカンと鳴り響く中、俺は悟った。

 この村より先に、俺のほうが詰んでいた。


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