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ミッション:ムスビ・アンテーン輸送船団護衛

 アイリスはセッティングを終えたイーリスのコックピットで、いつでも出撃できるように待機。一方、操縦士兼通信士兼船長兼砲手を兼ねるダイドウは一時も気を緩めることなく、改造したウルメのレーダーに神経を割いている。

 元々、哨戒艇として速度と索敵機能を充実させたサーディーン級だが、ウルメはその長所をさらに伸ばす形で改造が加えられている。軍の最新鋭のステルスかジャミングでもなければ、レーダーの監視を誤魔化すのは難しいだろう。


(戦争の影響でファーエデンの領内でアウトロー共が活発化しているのは確かだ。だが型落ちの旧式や中古品ばかりとはいえ、どいつもいつもバトルポッドや戦車に戦闘機で武装できているのは、おかしな話だ)


 高度に発達したオートパイロットのお陰で、ダイドウはレーダーに注視しながら考え事をする余裕があった。


(星系の外から稼ぎにやってきた連中は居るだろうが、それにしても武装の充実ぶりがおかしい。やはりザギオンが意図的に兵器を流出させて、ファーエデンに圧力をかけている可能性が高いか。軍事企業も積極的に動かして、正規軍以外の戦力を相当、持ち込んでいるな)


 ダイドウの想像した通りなら、ザギオンの正規軍から表向きは退役したか出向という形で民間軍事会社や軍事企業に在籍している軍人だけでなく、宇宙海賊や傭兵の身分を騙る者も少なくないはずだ。

 今回、アイリスが交戦する可能性の高い宇宙海賊も、ザギオンの軍人が身分を騙っているケースではないかとダイドウは疑っていた。そしてダイドウの疑いを確かめるチャンスは、早々にやってきた。


「む、アイリス、レーダーに反応あり。方位3-7-11、数は三。距離二七〇〇、近いな。スリープモードで無人機をばら撒き、輸送船の反応を捉えたら起動するようにプログラムしていたのか?」


 ウルメのレーダーレンジの内側で発生した反応に、ダイドウは相手が取った作戦を即座に看破した。航路は限られているにせよ、安い無人機であるにせよ、宇宙海賊風情が数を揃えるのは簡単な話ではない。

 それにこちらの使用する航路とタイミングをよく調べたか、あるいは内通者か、とダイドウは考えを巡らせていたが、それもアイリスの抑揚に乏しい合成音声に止められる。


『わたしたちはいつでもでられるよ』


「接近中の機体はコスモダガー三機だ。こいつらは狼煙代わりと考えていい。例のウインドエッジを含む増援が来るつもりで行け」


『りょーかい。あいりすといーりす、しゅつげきします』


 ウルメの左舷側のコンテナハッチが開き、ロングレールガンを装備したイーリスが滑り出て、すぐさま重力操作と推進剤の合同作業によって滑らかな加速を見せる。

 今回、アイリスとレッカの機体とで担当エリアを二分しており、コスモダガーはアイリスの担当方向からの接近だった。


 敵機接近の報せはウルメから船団全体に迅速に伝えられ、船団の速度が増した。

 アイリスとイーリスが出撃する一方で、レッカの機体は船団の後方二番目の輸送船から出撃する。アイリスと違ってウルメのような母艦を持たない二人は、依頼主の船に間借りしていたのだ。

 レッカの機体をホロモニターの片隅に映し、アイリスが登録されたペットネームを読み上げる。コスモダガーを射程内に収めるまで、わずかな余裕があった。


「きしゅは、ふぁーがん。ぺっとねーむは、らいじんぐふぉーす」


 アイリスの脳波を読み取ったイーリスが、ライブラリから該当するデータを表示した。まず機体名ファーガン。スケアクロウよりもマッシブで大柄な印象を受ける機体で、ファーエデンの一世代前の主力機だった。

 ファーガンは機体の頑丈さと整備性、パイロットの生存性を重視した機体で、運動性や機動性については平均といったところ。一般に流通している機体としては、上物の部類だ。ファーガンよりも古く、骨董品呼ばわりされるGSを使っている傭兵の方が多い。


 レッカのライジングフォースは機体の胸部を青、腹部と左肩を赤、それ以外は白く塗装されている。赤い角ばった頭部の黄色いバイザーの奥で、二つの鋭いツインアイが発光しているのがアイリスには見えた。

 ライジングフォースの右手には丸いセンサースコープ付きのビームライフル、左手には対光学兵器用のミラーコーティングを施したシールド。

 バックパックの左側に八連ミサイルポッド、左右の腰アーマーにビームソードのグリップが一本ずつ固定されている。


「かりょくはちょっとひくいけど、はんようせいのたかいそーびだね。らいじんぐふぉーすはくりふぉーどのきたいとおなじなまえだけど、おさがりかな?」


 ライブラリにある傭兵時代のクリフォードの愛機ライジングフォースと、レッカの乗るライジングフォースは武装こそ異なるが、カラーリングや機種に変わりはない。

 なにかしらの事情で傭兵を引退したクリフォードが、素質を見込んだレッカに譲り渡し、マネージャー業に励んでいる、といったところか。


「がんばってくれるといいな」


 そういった裏側の事情はアイリスには関係がなく、同じ仕事をする仲間として輸送船団を敵から守ってくれるのに役立ってくれればいい──アイリスにとっては、レッカ達に対する全てだった。

 レッカは事前の取り決め通り、担当エリアからの襲撃に備えて、センダントの距離を一定に保ち、アイリスに手助けしようとする動きは見られない。それでいい。

 敵の増援が来る可能性が高いこの状況で迂闊に動いて、持ち場を離れられる方が輸送船団の護衛を難しくする。


「このまえのひとたちよりもかしこいえーあいかな?」


 レッカとライジングフォースのことを忘れ、アイリスの意識は距離を詰めてくるコスモダガーへと注がれる。矢印のようなフォーメーションを組んでいたコスモダガーは、後方に広がる両翼の下に三発ずつ、合計六発のミサイルを懸架している。

 コスモダガーのAIは真っ先に、輸送船団を守るイーリスの排除を決めた。まっすぐに輸送船団を目指していたコスモダガーが軌道をずらし、三機が入れ代わり立ち代わり、交錯しながら迫ってくる。


「んー、ぐるぐるぐる、ぐーぱっぱっぱ」


 コスモダガーの不規則な動きをイーリスを通じて知覚しながら、アイリスの首のチョーカーからは不思議な歌のような声が発せられている。めまぐるしく三次元の動きを見せるコスモダガーをアイリスの視線とイーリスのセンサーが追い続ける。

 コスモダガーの一機が小さな弧を二度、新しく描いてからイーリスにミサイルをロックオン。輸送船団に併走するだけで、回避機動を取っていないイーリスを捕捉するのは簡単だっただろう。


「ぐ~ん、ぎゅううん……ぱ」


 『ぱ』のタイミングでコスモダガーの機首がイーリスを向くのに合わせ、イチイバルの銃身内部で電磁気力により加速された専用金属弾が発射される。

 ミサイルが主翼から解放されるよりも早く、イチイバルの銃弾はコスモダガーの機首と胴体の付け根に直撃し、その機体を真っ二つにへし折った。


「ぱーぱっぱ……ぎゅん!」


 僚機の撃破にAIが動揺も恐れもせず、残るコスモダガーは散開してイーリスを挟撃しようとしたが、その動きが予め分かっていたかのように、イチイバルは第二射を放ち、それは機体を捻っていたコスモダガーの機首を貫いて撃破。


「それで、きみはこうでこうのこう」


 コスモダガーの二機目がスクラップに変えられた数秒後、まるで見えない糸でつながっているかのように、イーリスの右手のブルースターの銃口が最後のコスモダガーを追い続ける。

 長方形の銃身から放たれた青白い光は、書道家の迷いのない筆のように勢いよく伸びて、宇宙海賊の尖兵を撃ち落す。


 数を揃える為の低品質なAIはともかく、戦闘用のAIは肉体的な制約のある人間の平均的なパイロットよりも、機動兵器のパイロットとして優秀な場合がほとんだ。

 コスモダガーを動かすAIはそれほど質の悪いAIではなく、コスモダガーの機動性を存分に引き出す程度の性能はあった。それを相手に百発百中の精度で攻撃を当てて、一発の無駄弾を出さないアイリスの方こそ、優れたパイロットだった。

 人為的に作り出された機動兵器用の制御デバイスという意味では、アイリスもコスモダガーを動かしていたAIと同類と言えたかもしれない。


「らくしょだー」


『アイリス、追加が来たぞ。エネルギー反応からして例のウインドエッジだ。どうやら近くに居たらしいな。反対方向からはドムラカン四機。こちらはライジングフォースに任せる。お前はウインドエッジに専念しろ』


「りょーかい」


 コスモダガーを上回る速度で急速に迫りくるエネルギー反応は、イーリスのレーダーにも捕捉されていた。うねうねと曲線の動きを何度も描いて、胸部に鎖に縛られた鷹のパーソナルマークを描いた風の刃の如き機体が、イーリスを見定めている。

 骨に最低限の肉を付けた程度の細い腕の先には、低出力だが連射性の高いビームガンが二丁握られ、バックパックのウイング状のパーツに、小型ミサイルをこれでもかと詰め込んだミサイルポッドが一基ずつ。


 ウインドベルと名付けた機体のコックピットで、黒いパイロットスーツを着込んだ痩せぎすの男は、瞬く間に手持ちのコスモダガーを落としたイーリスの動きに、興味をそそられていた。

 鷲鼻と青い垂れ目の神経質そうな三十代ごろの男で、名をバーフウと言う。気乗りしない仕事の中で、思わぬ楽しみを見つけ、唇が三日月のように吊り上がる。


「退屈な輸送船狩りが、思わぬ狩りに変わった。狩りで終わるか、戦いになるのか。宇宙という名前の空と海で、お前は漁師か狩人か?」


 酒に酔っているような戯言と共に、バーフウはウインドベルのウイングから、一斉にミサイルを放った。

 合計十を超えるミサイルが互いに抜きつ抜かれつ、あるいは直角に、あるいは曲線を描いてイーリスへと殺到する。イーリスのセンサーは迫りくるミサイルの全てを捕捉し、それをアイリスへと伝達する。


 もう何世代も昔からGSは戦場における膨大な情報を収集出来ているが、それを人間の側が処理できない関係が続いている。機体の高性能化に対して人間の性能がまるで追いついていないのだ。

 それを補う為にサイボーグ化や強化手術といった、人体に手を加える手法やOS、マン・マシーン・インターフェイスの開発など、数多くの手法が求められてきた。

 そのうちの一つ、強化人間であるアイリスは常人では処理できない膨大な情報をイーリスから受け取り、ブルースターとイチイバルの照準を合わせ、次々とトリガーを引いてゆく。


「ばんばんばん、ばんばばん」


 ビームとレールガンはコスモダガーを落としたように、恐るべき精度でミサイルを撃ち落し、無数の爆発の花が連なって咲き誇る。その爆発を回り込んだウインドベルが、イーリスの下方から機体を捻りながら迫っていた。


「目は良い。なら勘はどうだ?」


 ウインドベルの両手から微妙に照準をずらして、ビームが連射される。緑色のビーム弾丸はブルースターに威力では劣るとも、連射性は比較にならなかった。ましてやウインドベルは二丁拳銃だ。

 イーリスが迫りくるビームの矢の脅威をアラートで訴える中、アイリスの瞳には恐怖も焦りも浮かんでいない。


 わずかにコントロールスティックを動かし、フットペダルの操作で、イーリスをゆらゆらと緩やかな舞のように動かす。

 大して速度も出さず、重力場の指向性を大きく変えるでもなく、ほとんど負荷の無い小さな動きで、イーリスは複数のビームの隙間を縫い、無傷で避け切った。

 バーフウはその動きに素直に感心した。


「勘もいい。避けられたな。避けたな。まるで宇宙の海月だ。柔らかく、しなやかで、面白い」


 ウインドベルの放ったビームをエネルギースキンに掠りもさせず、ほとんどスラスターの使用もなしに回避するイーリスの動きは、バーフウからすると海月となるらしい。先ほどの発言といい、どこか浮世離れした感性のある男だ。

 一方でアイリスもまた、イーリスの傍らを通り過ぎ、あっという間に距離を離すウインドベルを見つめてぽつりと感想を零す。


「はやいね。はやいしうまいね」


 ミサイルとビームの返礼に、イーリスの両手が動き、ピタリと固定。発射されたビームと砲弾はウインドベル本体ではなく、その進行方向の未来位置へと向けて、なんの迷いもなく発射されていた。


「ほう!」


 そのまま一秒、進行方向を変えていなかったら、機体に直撃するビームと砲弾をバーフウはロックオンアラートが鳴り響くよりも先に、機体の太腿と肩アーマー先端のバーニアを稼働させ、二度、三度と捩じれた軌道を描いて直撃の未来を変える。


「おいおい、あまり心臓を高鳴らせないでくれ。うるさくて操縦に専念できなくなるぞ」


 戦いが始まる前は気だるげだったバーフウの口元は、いまや、抑えきれない期待に裂けるように口を釣り上げていた。もし、獰猛なその笑みを見たとしても、きっと、アイリスは表情一つ変えなかったろう。

名前有りの不良ベテランパイロットが相手です。アイリスは身体機能の快復に伴い、生体デバイスとしての機能を発揮しております。それに伴ってダイドウの眉間の皺は自覚のないところで深くなっています。苦労してるね。

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