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ミッション:宇宙海賊排除

 パトロールに発見されていたとは知らないアウトロー共は、ダイドウの予想した通りに民間船舶を狙う宇宙海賊の類だった。

 主要な航路や大きなスペースコロニー群から離れた場所にあるコロニー・ムスビは、獲物としての価値に乏しいコロニーだったが、彼らは実入りよりも安全性を優先していた。


 ダイドウからの報告にあった通り、彼らの戦力は横倒しにした缶詰に腕と姿勢制御用のバーニア付き四本脚を生やした宇宙用バトルポッド『ドムラカン』で構成されている。

 ダミー隕石と運んできたデブリで造った潜伏場所の中央に、使い古した全長三百メートル超の旧式輸送艦があり、その周囲に安全な潜伏拠点を構築している最中だった。


 潜伏拠点の整備を進める為に、バトルポッドがあちこちで働いているそこに、イーリスを搭載したウルメが秘かに接近していたのを、彼らは知らない。

 偵察用のドローンが新たに捉えた光学映像と熱源反応から、敵集団がまだこちらの接近に気付いていない事と拠点の整備に気を取られているのは明白だった。


『アイリス、準備はいいな? 敵はまだこちらに気付いていない。奇襲を仕掛けて一気に数を減らせ』


 ウルメの左舷コンテナの側面が開き、そこへハンガーベッドに固定されたイーリスがスライドしてゆく。


「あいりすといーりす、しゅつげきします」


 ハンガーベッドの固定が解除されるのに合わせ、バーニアを吹かして浮き上がったイーリスが、重力制御によって前方へ落下するように加速。更にバックパックのメインスラスターからも噴射光が噴き出し、機体が爆発的な加速を見せる。

 弾丸のように飛び出したイーリスが前傾姿勢を取り、ビームライフルとアサルトライフルの銃口を進行方向へと向けた。


 コックピットのアイリスは軽減されたGを華奢な身体で味わいながら、モニターに表示されるルートガイドに従って、敵集団の待つポイントを目指す。

 シミュレーターではない本物の戦場。本物の宇宙。コロニーの外に広がっていた世界。そしてなにより本物のGS。ようやく自分が与えられた役割を果たせている。

 GSのパーツとなり、その性能を引き出し、所有者の命令に従える。そのことにアイリスは喜びよりも居心地の良さを、安堵を覚えているのを、自覚しないままに感じていた。


 事前に確認できた敵部隊の編成はバトルポッド六機。どれも錆びの浮くような旧式で整備の行き届いていないのが見て取れる代物ばかり。

 同じ旧式でも完璧に整備されたイーリスとは雲泥の差だ。そしてパイロットの性能もまた同じく。無防備すぎて逆に罠を疑いたくなる中、アイリスは作業に集中する。トリガーに添えられた両手の人差し指が動く。軽い手応えだった。


「ばん、ばん」


 アイリスが最初のターゲットに選んだのは、廃船のデブリをダミー隕石と連結しようとしていたドムラカンだ。作業の為に非武装状態だった缶詰モドキに、青白いビームがまっすぐに伸びて行き、無防備な敵機の腰を後ろから貫いた。

 ダミー隕石やデブリの所為で射線は狭かったが、アイリスにとってさしたる問題ではなかった。突然の奇襲に気付く間もなく、二機目のバトルポッドがこちらも右肩付近をビームに貫かれ、爆炎の花へと姿を変える。


『な、なんだ? ボビーの奴が爆発したぞ! チャックもだ』


『事故りやがった? 違う、ビームに撃たれた』


『くそ、敵襲かよ。コロニーガードに見つかってたのか!?』


『見張りの奴らはなにをしていた!! その目玉は飾りもんかよ、馬鹿が!』


 ろくに暗号もかかっていない通信を傍受するのは、ひどく簡単だった。宇宙海賊にしても練度というものがまるで感じられないあたり、アウトローの中でも落ちこぼれと言っていいだろう。

 ダイドウがちょうどいい実戦相手、もっと言えば経験値稼ぎには適当な相手だと判断するのも当然だった。アイリスはやっぱり、だいどうはきづかいやさんだ、と確信する。


 ビームの発射と同時に機体を捻り、進行方向を大きく迂回させたイーリスを、敵集団は見失っていた。非武装のドムラカンが慌てて輸送艦へと戻り、警戒の為に武装していた三機が、イーリスの姿を求めて右往左往する。

 遮蔽物となるダミー隕石とデブリの輪の外にいる彼らを、アイリスは赤い瞳にレティクル越しに映す。彼らに向ける慈悲も侮蔑も、アイリスには縁遠い感情だった。任務達成の為の条件であり、要素であり、排除すべき敵。それがすべて、それですべてなのだ。


 ジグザグと稲妻のような奇跡を宇宙に描くイーリスから、青白い荷電粒子の矢が発射され、迎撃行動に移るバトルポッドの胸を貫く。

 GSと異なりエネルギースキンを持たないバトルポッドの装甲は、呆気ないほど簡単にビームに屈していた。三機目の撃墜に残るドムラカンはイーリスの機影をろくに捕捉できないまま、めったやたらに攻撃を開始し始めた。


 どちらとも右手にバトルポッド用のマシンガン、左にレーザーガンで武装している。GSを相手にするには、あまりに火力が低すぎる。まともにコロニーガードと事を構えるのを諦めて、航路を行く民間船舶に狙いを定めたのも理解の行く貧弱さだ。

 狙いを付けない盲撃ちは時と場合によっては、奇跡的な命中弾を出すこともあるが、速度もなにもかも違い過ぎるイーリスを相手にしては、奇跡は起きそうにもなかった。


 獲物の周囲を泳ぐ鮫のように旋回していたイーリスが、鋭角の弧を描いて残る二機のドムラカンに急接近をはかる。イーリスの速度を追い切れていなかったアウトロー達にとっては、死が目前に迫ってくるようなものだ。

 盲撃ちがいっそう激しさを増し、マシンガンとレーザーガンの残弾が見る見るうちにゼロへ近づいてゆく。

 アイリスからすると敵機は射撃をしている間、ほとんど動かずにいるのが不思議なくらいだった。戦う分には狙いやすくてありがたいが、質の低い相手だとこんなものなのかと思わずにはいられない。


「ばいばい」


 二機のドムラカンの中間地点を通り過ぎるようにイーリスを動かし、すれ違いざまにビームと徹甲弾をプレゼントしてゆく。ドムラカンのパイロット達は、アイリスからのプレゼントに気付く間もなく、機体を撃墜されていった。

 見る間に半壊した敵部隊だが、まだ闘志は萎えていないらしい。武装を終えたドムラカンと輸送艦の右舷にあるハッチからGSが姿を見せたのだ。


『アイリス、事前の情報にはなかった敵だ。同じGSが相手だ。警戒を怠るな。機種はオロン。ザギオンで使われているガラクの一世代前の機体だ。重装甲とパワーを売りにしている。正面から撃ち合うような真似は避けろ』


「うん。わかった」


 オロンはガラクのように全体的に丸みを帯びた機体だった。太く分厚い四肢にコートのように長いフロントスカートやリアスカートを備え、頭部はまるでコック帽のように縦長で、ガスマスクのような口元と横長のツインアイが目立っている。

 黄色いマッシブな機体は、大型のビームランチャーを装備していた。直撃すればイーリスのエネルギースキンはあっという間に剥ぎ取られてしまいそうだ。虹の女神を相手になんとも粗暴な武器を持ちだしてきたものだ。


『これから一仕事って前に、とんだケチがついちまったな。仲間をやってくれた礼だ。二度と使い物にならないジャンクにしてやる』


 敵集団にとって切り札であるGSの投入が、戦意を喪失しない理由のようだった。

 オロンのパイロットはアルコールに焼けた割れ鐘のようなの声で、苛立ちをたっぷりと乗せて威圧的なセリフを吐いていた。

 そんな言葉ではアイリスの意識を微塵も揺らすことは出来ない。

 事実、アイリスは切り札の投入に安心して、注意力が散漫になっていたドムラカンに対してさっそくビームを送り、気を取られていたドムラカンのパイロットはモニターを青白い光が埋め尽くすのと同時に、この世に別れを告げた。


「ゆだんたいてき、ひがぼーぼー」


『くそ、この野郎がっ』


 バトルポッドの全滅にオロンのパイロットが頭に血を昇らせて、初速の遅い機体でデブリの防壁からゆったりと飛び出す。


「えい、えい」


 のんびりやさんだなあ、とアイリスはモタモタした動きのオロンにアサルトライフルの連射を叩き込み、風通しを良くしてやろうと仕掛けた。

 オロンのエネルギースキンがアサルトライフルの銃弾を弾き、その度に白い光が飛沫のように散っては宇宙の闇に溶けて行く。

 オロンを中心に据えて歪な楕円軌道を描いて貼りつくイーリスを、ビームランチャーの銃口が必死に追いかけ回し、照準が追い付かないまま緑色のビームが伸びて行く。


 ブルースターよりも高威力のビームだが、当たらなければイーリスになんの影響も与えられない。速度に不規則な緩急をつけて、機体を軽く上下させるだけで、ビームはあらぬ方向へ飛んで行ってしまう。

 正規の訓練を受けた正確さも、我流で戦場を生き抜いた狡猾さもない動きだ。多少、荒事に慣れて、暴力を振るうハードルの低い粗暴さだけのアウトローがパイロットなのだ。


「だだだだだだ」


 ビームランチャーの狙いを定めるのに集中して、単純な機動になっているオロンへ向けてイーリスは湾曲した機動を描き、背後を回り込んでゆく。

 同時にアサルトライフルとガトリングガンを連射すれば、まるでオロンと糸で結ばれているような軌跡を描いて次々と命中してゆく。

 まるで外れる気のしない標的に、アイリスはこれが本当に実戦なのかと思考の片隅で怪しんだほどだった。ひょっとしてダイドウが自分の調子を確かめる為に用意したマッチポンプなのでは? そんな考えさえ浮かんでいる。


『う、うわあ、だめだ!?』


 ちょうど背後を取る頃にはオロンのエネルギースキンを食い破られて、自慢の重装甲にしこたま徹甲弾を撃ち込まれたパイロットが、悲鳴混じりに脱出装置を起動させていた。

 オロンの首元の装甲が弾け飛び、コックピットブロックが緊急射出される。まともに整備をしていれば数日は漂流しても生きて行ける備えがしてあるものだが、この体たらくでは怪しいものだ。


『敵機動兵器の排除を確認した。アイリス、敵母艦の武装と推進器を潰せ。それから降伏勧告をする』


「いけどりするの?」


『ああ。使い古した輸送艦だが、使い道はある。それに他に仲間がいる可能性もないわけではない。生きた情報源は残しておいた方がいい』


 ダイドウ自身、あまり可能性は高くないと思ってはいるが、彼らが先遣隊である可能性も一応は捨てきれない。

 ファーエデンとザギオンの戦争が始まってから、お零れに与ろうとする傭兵や無法者共の流入が相次ぎ、ろくでなし共が徒党を組むのも珍しくなくなっている。


「りょうかい。もうすこしつきあってね、いーりす」


 守ってくれる機動兵器をすべて失った輸送艦など、イーリスの前では手足の折れた鳥も同然。施された武装の類も、建設途中のデブリやダミー隕石も、アイリスがダイドウの指示を忠実に実行するのに、なんの妨げにもならなかった。

 輸送艦の乗員数十名と脱出していたドムラカン、オロンのパイロット数名を拘束し、アイリスは初めてのミッションを被弾ゼロで達成することが出来た。


 拘束したアウトロー共を輸送艦の一室にまとめて放り込み、コントロールをウルメに同期させて、コロニー・ムスビに帰還する。

 その道すがら、ウルメの格納庫にイーリスを着艦させたアイリスは、ヘルメットを外してチューブドリンクに口を付けていた。

 オレンジ風味のビタミンウォーターを一気に飲み干す。味も香りも分からないし、喉の渇きや身体の火照りはなかったが、戦闘が終わったとメンタルを切り替えるのに役立つ。


「だいどう」


 ブリッジのダイドウに呼び掛ければ、すぐにダイドウの顔がホログラフィックモニターに浮かび上がる。

 実戦に投入するのは時期尚早かと案じていたアイリスが見事な戦果を挙げたのに、喝采よりも安堵を覚えていたダイドウだが、鉄面皮はいつもと変わらない。


『どうした? バイタルデータ、機体データ共に問題はないが、どこか調子が悪いのか?』


 呆気ないくらい簡単に武装集団を蹴散らしたアイリスだが、やはり実戦は違ったかとダイドウが案じる中、アイリスはうまく言葉を見つけられず、口を開くのにいくらかの間を必要とした。


「えっとね、うんとね。とてもかんたんだったから、つぎはもっとむずかしいにんむでもだいじょうぶだよ」


 あまりに簡単だったからダイドウが予め仕組んだ任務だったのかと疑っていたが、アウトロー共を拘束した時の様子からして、ダイドウの根回しはまずなかったとアイリスでも分かる。

 そうなると本当に、事実として彼らが弱かった。それに話は尽きる。

 結果として民間船に被害が出る前に航路を脅かす脅威を排除出来た上、オンボロだが輸送艦も拿捕している。上々の戦果だ。


『そうか。お前が自信をつけるのも納得の結果だった。次からの仕事はお前の意見を踏まえて、見繕うとしよう』


 ダイドウは額面通りにアイリスの言葉を解釈して、見た目はいとけない少女の自信たっぷりな様子に、微苦笑を浮かべたようだった。

 アイリスも結局は自分の考えすぎだと割り切った。とりあえず自分の傭兵デビューが上手くいったのは確かなのだから。それでいいことにしよう、とアイリスは飲み込んだ。


「うん、よろしくね」


 顔は相変わらず無表情のままだったが、少しだけアイリスの声音は柔らかかったかもしれない。

アイリスはあまりに簡単すぎて不審を抱き、ダイドウはあまりに簡単に終わったことでアイリスの性能を認めて安堵と両者の間で内心が分かれています。

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