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ミッション:不明敵機撃退

 幸いにして基地の主力を引き付ける囮部隊は、充分な仕事を果たしてくれているようで、民間人を乗せた輸送ヘリ全てが飛び立っても、敵部隊が戻ってくる反応はなかった。

 不幸だったのは輸送ヘリが危険区域から離脱するのを見届けて、ダリア達も帰投しようとしたその矢先に、ボスの輸送機が急速に接近してくる反応を捉えたこと。

 そして、その反応がザギオンのエースが駆るGSであったことに尽きる。


『ダリア、ライラック、三時方向から高速で接近してくる反応を捉えた。数は一、識別はザギオンだ。気を付けろ。基地の主戦力とは別の敵だ』


「ちっ、単独行動ってことは相当に自信のある奴だな。味方とはぐれたマヌケなら大歓迎なんだけどよ」


『撃墜しますか? それとも帰投を優先しますか? マスター』


『離脱を優先する。ここで戦う必要はない。合流ポイントを再設定する。それまでなんとしても時間を稼げ。生存を最優先にしろ』


 離脱を優先とはいえ、接近中の機体の速度を考えれば、合流作業中に輸送機に追いつかれる可能性もある。多少なり機動力を削いでおく必要があるだろう。

 ほどなくしてダリアとライラックのスケアクロウのレーダーも、超音速で近づいてくる反応を捉える。ボスの告げた通り数はただ一機。


「デカいな。二十五メートルはあるか? ガラクじゃないのは当たり前として、新型? こんな前線の後方にね」


 望遠モードで捉えたのは、ガラクやスケアクロウよりも五メートルも大きな赤一色のGSだった。装甲も武装もカメラアイの光も、なにもかもが赤い。これなら機体のフレームも、ジェネレーターも、赤いかもしれない。

 スケアクロウよりも洗練されたスマートな人型をしており、華奢な印象はなく、全体的に鋭角のラインを描いている。鋭い刃を集めて人型を成したような姿だ。背中のバックパックからは折り畳み式の大きな翼が伸びていた。


 見た限り武装は左右で異なる形状のライフルらしきもの。それに背中から伸びる二門の砲身だろう。他にも内蔵武器か何かを警戒する必要あり、とライラックは判断した。

 新たな敵のツインアイとその中心にある丸い三個目の瞳の輝きに、こちらを捕捉していると感じたのは、ダリアの錯覚ではないだろう。狩人が獲物を捉えた、そんな感覚だった。


「しかし、頭も胴体も手足も、おまけにバックパックも赤一色かよ、目立ちたがり屋なこって」


『ライブラリに照合する機体無し。ザギオンの新型の可能性が高いわ。パーソナルマークはないけれど、相応のパイロットが乗っているはず』


 ダリア機の重力制御ユニットが唸りを上げて、重力の鎖を引き千切って飛翔する。空飛ぶ案山子というわけだ。

 先行するダリア機の影に隠れるようにして飛び上がるライラック機のリニアキャノンが唸りを上げて、まずは牽制の砲撃が空の向こうの敵へと伸びていった。

 距離はあったがそれでも敵はリニアキャノンの射線を完全に見切って、ひらりと避けてみせる。優雅とさえ見える動きに、敵パイロットの力量と機体性能の高さが如実に表れていた。


「先手必っしょ!?」


 返礼はすぐにあった。敵機の背中の砲身から、赤い荷電粒子ビームが二条、ダリア機を直撃するコースで発射されたのだ。

 舌打ちを打つよりも速く、ダリアは機体を上昇させて、機体の爪先を掠めるに留める。エネルギースキンを大きく削る出力に、機体からの警告がヘルメットのバイザーに表示される。


「ビームまで赤いのかよ、徹底しているな。嫌いじゃないぜ、好きでもないけどな!」


 ライラックのリニアキャノンが断続的に発射される中、ダリアも右肩の四連装ミサイルを発射と同時に機体を左右に細かく振りながら、両手のマシンガンのトリガーを引き絞った。

 狙いを正確は定めていない。照準を意図的に散らして、数発の命中弾だけでも出せればいいと割り切った射撃だった。


 散らした銃弾とリニアキャノンの砲弾の中を、敵機は縫うように飛び回り、一発の被弾どころかかすりもしない。

 本物の生きた鳥かと錯覚するような動きだ。よほど高性能な重力制御・慣性制御ユニットを搭載しているのだろう。


 敵機が体を捻りながら恐ろしく小さな旋回半径を描いて、ダリア機を正面に捉えた。両手のライフルの銃口から、赤いビームの奔流と無数の銃弾が連続して発射された。

 戦闘機とは異なる人型である事の優位の一つに、腰を捻る、腕を振るなどの動作によって瞬時に方向転換が可能な点が挙げられる。


(右はライフル、左はマシンガンか)


 ダリアは機体の両脚を大きく振って機体を捻り、上下を入れ替えて回避しながらマシンガンとチェーンガンのシャワーをくれてやる。四連装ミサイルも残弾を空にする勢いで撃った。どちらかというと重量を軽くする為だった。

 ライラック機のリニアキャノンとバズーカも合わせれば、被弾は免れない筈の攻撃を、しかし、赤い新型は稲妻を思わせる鋭角の機動を灰色の空に描いて、突破してみせた。

 ダリアの青い瞳には、赤い稲妻が走ったようにしか見えなかった。網膜に焼き付けられるほど鮮烈な稲妻だ。


 例え強化人間やサイボーグでも、特殊な装置やシステムがなければ耐えられない機動には、その一種であるダリアをしても脱帽する他ない。

 既にボスから新たな合流ポイントの座標データが送られているが、まだ敵の機動力を削ぐには至っていない。

 羨ましいくらいの高性能、というよりは持て余して振り回されそうな性能を見せる敵機に、ダリアが舌を巻く一方で、敵機のパイロットもまた旧式のスケアクロウ二機で渡り合う二人に感心していた。


「このじゃじゃ馬を相手にこうも戦うか。ファーエデンの正規軍ではない。傭兵か? ふむ」


 機体の赤色とは別の白く厚いパイロットスーツに身を包んだ青年は、灰色の瞳にスケアクロウ二機を捉えながら、少し間違えれば彼方まで飛んで行ってしまいそうな機体を繊細にコントロールしている。

 スケアクロウの左胸に施された、ダリアとライラックの花束のパーソナルマークが、機体のライブラリから該当する情報を引き出す。


「傭兵部隊『ガーデン』。ザギオン嫌いのオーナーが経営する民間軍事会社の子飼いと鉢合わせするとは。噂通りの手練れ揃いだ」


 ザギオン連邦の誇るエースパイロットの一人、ラウス・ライウンはただのテストが思わぬ実戦になってしまったイレギュラーにも動じず、新型機『フルゴル』に振り回されず、乗りこなし続ける。

 フルゴルのバックパックの装甲が二か所スライドし、内蔵していたミサイルが顔を覗かせた。素早くダリアとライラックが気付き、ほとんど同時に合計二十四発のミサイルが発射される。


「これはどう対処する?」


 降り注ぐビームの合間を縫うようにして迫りくるミサイルに、ダリアとライラックは回避を余儀なくされる。

 ダリア機のチェーンガンが唸りを上げて避け切れないミサイルを撃ち落し、ライラックもハンドガンを巧みに使い、迫りくるミサイルの迎撃を成功させた。


 高速で空を飛ぶ二機の周囲にミサイルの爆発が連続する中へ、フルゴルからのビームが次々と撃ち込まれる。一撃一撃がエネルギースキンに多大な負荷を与える威力だ。

 ダリアは機体を襲う衝撃に支援AIがダメージを表示するよりも早く、やられたと直感していた。コックピットの直撃こそ避けられたものの、左の脇腹を直撃しており、エネルギースキンが剥がされている。


 ダリアはしくじった、と口にする間も惜しみ、まずは爆炎の中から愛機を飛び出させると、フルゴルはこちらの頭上を取っていた。

 赤い光が破壊をもたらすべく、次々と降り注いでくる。機体性能もそうだが、相手のパイロットの力量も自分達より上だと、ダリアは認めざるを得なかった。


(こうなったらやることは一つっきりだぜ)


 ダリアとライラックの考えは一致していた。ボスからの指示も生存を優先するものだった。ならばここは逃げることが最善手。

 右に左にと跳ねるように飛ぶフルゴルの機動を予測し、ライラックがバズーカの残弾を撃ち尽くす勢いで連射した。対GSよりも対施設、対艦武器としての価値が高いバズーカに、フルゴルが当たるはずもない。

 事実、ラウスはなんの脅威も感じずにバズーカの合間を縫い、命中弾を出さないはずだった。それを覆したのは、弾速の遅いバズーカをダリア機のマシンガンとライラック機のリニアキャノンが撃ち抜き、空を飛ぶ龍のように爆発が広がったことだった。


 フルゴルのエネルギースキン越しにも伝わる震動に、ラウスはじゃじゃ馬の示すエラーに目を細めながら、失われそうになるバランスを微細な操縦で維持する作業に神経を割いた。

 そこへダリアとライラックのスケアクロウから、マシンガンとリニアキャノンの残弾をありったけ撃ち込まれる。


 一発でも当たれば儲けものと、二人は命中を確認する間も惜しみ、ボスから送られてきた再合流ポイントを目指して、機体のスラスターが悲鳴を上げる勢いで最大加速を命じた。

 ヘルメットのバイザーに映した後方の映像からは、爆炎を突き破ってくる敵の姿は見つけられない。命中弾が出る幸運に恵まれたか、あるいはなにかしらの不具合が出たのか?


「クソッ!」


 油断しわけではない。ないが、爆炎を貫いて伸びてきた赤い光を、ダリア機は避け切れなかった。機体に走る大きな衝撃がダリアの身体を揺らし、すぐさまアラートがコックピットで大合唱を始める。

 それでもダリアはボスとの合流を目指して、機体に前進をひたすら命じた。第二射はない。射程距離から出たのか、向こうも当たるとは思わずに撃ったのかもしれない。


『ダリア!』


 久しぶりにボスの大声を聞いた、とダリアは口元に笑みを浮かべた。その端から赤いものが次々に流れ始める。フルゴルの放ったビームはスケアクロウの被弾していた左脇腹を再び抉り、胸部にあるコックピットにも大きなダメージを及ぼしていた。

 強化手術のお陰で随分と死ににくい身体になったお陰で、まだ意識を繋いでいられるが、ダリアの生体反応が低下している状況に、ボスは焦っているようだった。


(へへ、思ったより冷血ってわけでもねえんだ)


『ダリア、敵機の追撃はありません。機体のコントロールをこちらへ』


 ライラックはいつも通りの涼し気な声音だったが、少しだけ硬い響きだ。


(ライラックのこんな声も、初めて、聞いたな)


 コックピットを後ろから直撃されていたら、一瞬で蒸発していたろうから不幸中の幸いだろうか? どうであれダリアは自分に残された時間は短いと感じていた。

 破損したコックピットの破片が腹部を貫き、灼熱の痛みが流血の喪失感がひっきりなしに襲い掛かってきている。それでも、まだ喋る余力はあった。


「……気の利いたことなんか言えねえが、ボス、次はもう少し、役に立つ奴を買いな。それと、ライラック、あたしより、上手く、やれよ」


 なんとかそれだけ言い切って、ダリアの意識はどうしようもなく深い暗闇の中へと沈み、ほとんど時を同じくしてダリアのスケアクロウもまた、灰色の空に爆発の花を咲かせるのだった。

 ラウスは二基のスケアクロウの片方が爆発した反応を確認し、意識を戦闘から切り替えた。可能ならば追撃をしてもう一機も撃墜したいところだったが、次々と表示されるエラーメッセージが、それを許さなかった。


「直撃を当てられたわけでもなく、爆炎に晒されただけでコレか。エネルギースキンとて貫かれていないというのに。箱入り娘にしても加減というものがあるだろうに。博士には甘やかしすぎるなと、忠告させてもらおう」


 各武装へのエネルギー供給やセンサー群に生じたエラーは相変わらずだが、飛行には問題ない。

 テスト飛行の最中に不審な反応を捉えて、ちょっかいを出しに来たのが実情だが、想定を超える強敵だった為にフルゴルの脆弱さを知ることが出来た。


「ガーデンか。ザギオン連邦の依頼は滅多に受けない、ファーエデン寄りの傭兵部隊だったな。それならまた戦場で会う機会もある。その時は遠慮なく摘ませてもらうぞ?」


 自身の力量に対する確かな自信と共に、ラウスはそれだけ呟くとやや慌てた様子で、フルゴルを帰投コースへと乗せた。


「さすがに重力制御ユニットのエラーは洒落にならんぞ……」


 赤いお嬢様の新たな悲鳴には、さしものザギオンのエースもお手上げなのだった。

新型に乗った敵エースとの不運な遭遇戦でした。

ダリアは主人公ではないのです。

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