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ミッション:クロズ・ウェポン・システムズ工場救援

 ルナアークでの思いがけない出会いの後、アイリスに待っていたのはやはりと言うべきか、ダイドウの請け負ってきたミッションの数々だった。

 A.M.S.の支社があるルナアークでは、ガーデンとダイドウへの信頼と実績は既に積み重なっているが、アイリス個人に対する評価は未知数だ。

 だからこそダイドウは新人傭兵がこなすには、難易度の高い任務をあえて受諾し、アイリスの評価を高めようとしていた。


 ルナアークに拠点を置く、さる軍事企業に潜入していた産業スパイが、機密情報を持って脱出するのを阻止する依頼。

 アイリスは戦争の影響で封鎖された地下通路の一角で、産業スパイと脱出の手引きをしていた敵対企業の持ち込んだバトルポッドを相手に、ビームと銃弾の雨を叩き込み、産業スパイを生きたまま拘束して、依頼主に突き出した。

 エネルギー反応と極力、音を出さないようにイーリスを動かすのは楽しかった、とアイリスはダイドウに報告している。


 ダテマの各都市からファーエデンの防衛基地へと送られる補給物資の護衛と、襲撃してくる宇宙海賊の撃退依頼。

 アイリスは積載量限界まで物資を詰め込んだ輸送船を襲撃してきた宇宙海賊の小艦隊を、味方の戦闘機とバトルポッド部隊と協力し、敵艦隊のブリッジと推進部にビームとプラズマとミサイルを撃ち込んで、どいつこいつも宇宙の藻屑に変えてやった。

 今回は初めての依頼の時と違い、そもそもダイドウに鹵獲品を手にする権利が無かったので、気楽に戦えたと、アイリスはツララに語っている。


 ファーエデンの大手通信企業からの依頼で、エビナス近隣の宙域に配備された通信衛星の破壊を狙う傭兵達からの防衛依頼。

 通信衛星を狙い、多方向から襲い来る傭兵達は、複数種のGSを投入。アイリスは常に多対一を強いられ、ルナアークに来てから最も手強い任務となった。

 かつてない困難に見舞われたアイリスは、知識でしか知らなかった色んなGSと戦えて為になったとポジティブな意見を口にしたが。


 これらの任務をこなし、着実にアイリスの評価が上がってゆく中、今日もまたアイリスは新たな依頼の最中にあった。

 ダイドウが子飼いの傭兵を使い潰している、と外部の人間なら判断するようなペースである。

 ルナアークの港湾ドックに停泊するウルメの中で、アイリスはイーリスのコックピットの中から、ブリッジに居るダイドウからの説明を受けていた。

 その人間味のない顔に、短期間で複数の依頼をこなしたことによる疲労の色はない。

 アイリスはパイロットスーツに着替えていたが、ヘルメットは膝の上に置いている。依頼の内容に応じて、イーリスの武装をチョイスする、という状況である。


『エビナスの地元企業クロズ・ウェポン・システムズからの依頼だ。ルナアークから三百五十キロの地点にある工場が所属不明の武装勢力に攻撃を受けている。工場の警備部隊が応戦中だが、旗色は悪い』


 コックピットのホロモニターに戦場となっている工場の様子が映し出され、警備部隊のホバー戦車や自動砲台、バトルポッドが数で勝るテロリストを相手に必死の防衛戦を演じている様子が映し出される。

 テロリストの持ち込んだ機体は、スケアクロウやファーガンよりも更に旧式のGSだったが、テロリストにしては潤沢な戦力を持っているのが、彼らの背後に有力な組織の存在を臭わせていた。


『テロリストの迅速な排除が、依頼内容だ。工場内には製造中のバトルポッドやGSの部品があり、それらと施設への被害を最小限に抑えて欲しいと希望が出ている。被害によっては報酬額が減額されるが、依頼の達成と同時にお前自身の生命も重要だ。無理に依頼主の希望を叶えようとして、リスクを招く必要はない』


 アイリスはダイドウの言葉に首を傾げながら、心底不思議そうに尋ねた。


「だいどうのたちばなら、わたしをつかいすてにしてでもおかねをかせぐのを、かんがえるものじゃないの?」


『そうだな。そうする者は珍しくないが、俺のやり方ではないだけだ。アイリス、お前を管理していた闇医者は廃業してしまったし、新しくお前の代わりを用立てるのは簡単ではなくなった。お前は、自分の考える以上に価値のある存在だと自覚しておくんだ』


 ダイドウは私情ばかりでなく、アイリスというパーツの補充が困難になった事情を語り、自らを人間扱いしないアイリスが自身を丁重に扱うように促す。


「うん、わかった。かえがききにくくなっちゃったんだね。それならながもちするようにたたかうよ」


 そうだが、そうではない、と言いたくなるのを、ダイドウはぐっと飲み込んだ。

 個性的な振る舞いを見せるアイリスだが、その根底に自分がGSを動かす為のパーツであるという認識が、深く根付いている。

 それこそが強化人間の強みであり、運用方法には違いないのだが、ダイドウはそう割り切った運用を繰り返してきたにもかかわらず、強化人間達を人間扱いする非効率的な拘りを持ち続けていた。


 彼がその拘りを捨てるべきだと考えているのか、それとも捨ててはならないと考えているのかは、ダイドウ自身にしか分からない。

 ダイドウの内心に思いを馳せる事もなく、アイリスは受け取った工場のマップデータと戦闘状況を読み込み、今回の依頼でイーリスに持たせるべき武装を素早くチョイスし、外で待機しているクレールに素早く伝える。


「くれーる、ぶきはこれとこれでおねがい。ざいこあるよね」


『ええ、もちろん。シミュレーターと実機でのテストも済んでいますから、問題なく使えますよ。今回の依頼内容を考えれば、ある意味では流れ弾が一番怖いですから、悪くない選択です』


 通信画面の向こうでクレールが宇宙用作業服を着たまま、タブレット端末を操作して反対側の格納庫に収蔵されている武装を、クレーンが掴んでイーリスの右手と左のサブアームに装備させてゆく。

 イーリスの右手が握ったのは、ムスビとアンテーン輸送船団護衛の際に使用したロングレールガン『イチイバル』、バックパックの左サブアームが掴んだのは、専用の鞘に納められた実体剣『ザンテツ』。


 依頼主側の警備部隊と施設に、流れ弾による被害を与えないよう配慮した結果のチョイスだ。テロリスト側も工場の制圧や資材の奪取を目論んでいるのなら、無闇な発砲を避けるはずだが、工場の破壊が目的の可能性も十分にあり得る。

 今も奮闘中の警備部隊が全滅する前に駆けつけて、共同でテロリストを撃退するのを、依頼主はご希望だ。警備部隊の社員が亡くなってしまったら、遺族に見舞金を支払わなければならないし、失った戦力と人材の補充もコストがかかるからだろう。


 低重力の衛星上という条件で、GSの速度ならば、工場までの距離はわずか、と表現するべきものであった。

 高速移動用の装備を用意するほどではなく、アイリスはウルメを出撃してからあっという間に戦闘の行われている現場へ到達する。


 地下に設けられた工場への入り口となる頑丈なゲートの周囲に残りの警備部隊が布陣し、半数以上が破壊された自動砲台がレールガンやビームをテロリスト側へ、弾薬を惜しまない攻撃を加えていた。

 破壊された砲台に倒壊した建物、機体の四肢や半身を失ったバトルポッドが、戦場のあちこちに散乱し、時折、ジェネレーターや残りの弾薬が誘爆を引き起こしている。


 警備部隊は横に倒した卵に手足を付けたバトルポッド『ハードエッグ』数機が迎え撃ち、それを十数機に及ぶテロリストの部隊が嬲るように、じわじわと包囲の輪を縮めている。

 運用している兵器はテロリスト側の方が旧式だったが、数で勝る優越感が彼らに不必要なサディズムを発露させていた。


 ハードエッグは電磁バリア付実体盾を左手に、右手にはレールバズーカやマシンガン、ビームキャノンと武装は様々だ。互いを庇うように身を寄せ合い、可能な限り死角を減らして武器を撃ちまくっているのは、大した根性と覚悟と言えた。

 逃げ出す者が居てもおかしくないのだが、逃亡者が居ない現状からして、指揮を執っている警備部隊の隊長は、人望の篤い人材なのだろう。


「管制室、自動砲台はどんなエラーを吐こうが、撃たせ続けろ。火線を絶やしたら、テロリストのゴミ共は、雪崩みたいに襲い掛かって来るぞ!」


 地下の管制室に怒鳴りつけるように、警備隊長は指示を飛ばした。エキゾチックな雰囲気の褐色の肌に、毛先を緑色に染めた赤毛の女性だ。

 血の滴るステーキにかぶりつくのが似合う野性味のある美女だが、部下は怖気づいても逃げ出さないのだから面倒見がよいのだろう。


「お前ら、ここが踏ん張りどころだよ。兵器の質ならこっちが上! 地の利もある! あたしとあんたらなら、やってやれないことはないさ!!」


 数少ない砲台からの砲撃を回避した、金属のカエルを思わせるバトルポッド『キラートード』に、警備隊長のハードエッグが撃ったレールバズーカの砲弾が直撃し、前傾気味のキラートードを跡形もなく吹き飛ばす。

 月を彩る薄汚い爆発を目にしても、警備隊長に喜びの色はない。焼け石に水よりはマシ程度の戦果だと、正確に状況を把握しているからだ。


 アイリスとイーリスが戦場に飛び込んできたのは、このタイミングだった。

 イーリスのエネルギー比率を戦闘モードに切り替えて、テロリスト集団の横腹を突く方角から、イチイバルの矢を立て続けに三連射。

 テロリストが事前に起動した強力なジャマーも、ここまで接近すれば効果は薄い。ましてや常人よりもはるかに機体の齎す情報を受け止め、理解できるアイリスならばなおのこと。


「わきがあまいよ。かげからひとさし、だね」


 嬲るのに飽きて、前に出ようとしたキラートード三機が、まるで予期していなかった攻撃を無防備に受けて、それぞれ右の脇腹や頭部、腰を吹き飛ばされて新たな残骸へと変わる。

 テロリスト側がイーリスの接近に気付けなかったのは、ダイドウもまたジャミングを仕掛けていたからに他ならない。


『クロズの警備部隊、聞こえるか? こちらは傭兵部隊ガーデン。依頼に基づき、そちらを支援し、テロリストを排除する。識別信号を送る。間違えて撃ってくれるなよ。修理代は遠慮なく請求するからな』


 最後に冗談めいた一言を付け加えたのは、ダイドウなりのユーモアだったのか、判断の難しいところだ。

 だが、たった一機でも救援が来たとなれば、会社から見捨てられていないのだと分かる。それは、警備部隊に希望を感じさせ、士気を上げるのには十分だ。


「はは、言ってくれるね! それならテロ屋共に弾を当てられないように気を付けなよ。そうなったら修理代は自腹なんだからね」


『聞こえていたな、アイリス。価値のあるアドバイスだ。出来る限り実行してゆけ』


「あいさー」


 テロリストの動きはまばらで、変わらず工場へ攻勢を仕掛ける者とイーリスの迎撃に向かう者が、てんでバラバラに動き出している。明確な指令系統がないのは、その不ぞろいの動きだけで明白だった。


「たたかうのがへたなのに、かずはいっぱい。つかいすてにされたひとたちかな?」


 たとえ旧式でもこれだけ動く兵器を用意できる力のあるテロリストにしては、あまりに統率が取れておらず、またあまりに被害を軽視している。

 まともな武装勢力や軍事組織であるのなら、せっかく数を揃えた兵器と人員をこんな雑な扱いをしたりはしないだろう。


「ふつーはわたしをこのひとたちみたいに、つかいすてにするんだろうなぁ」


 いつもよりぼんやりとした口調で、アイリスはそう呟いた。


「わたしは、ものをだいじにするおーなーにひろわれたんだなあ」

ぼちぼちアイリスの名前もあがり、指名での依頼が来てもおかしくはない頃合いになってまいりました。

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― 新着の感想 ―
そろそろ謎の傭兵ライトと戦ったり共闘したり謎の傭兵二人と戦ったり共闘したりする頃ですね……。 軍が友好的であればいいのだけど……
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