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アフター:傭兵&宇宙海賊

 バーフウとギゲールらを退けた後、先に補給に入ったのは、パイロットの消耗が大きかったライジングフォースだ。

 そこらのテロリストや宇宙海賊共とは違い、高度な訓練に裏打ちされた技量を持つギゲールとの戦いは、数の不利を負わされたこともあり、レッカに大きな疲労を齎していた。

 数の不利を覆す為に連射を余儀なくされたビームライフルの残弾は心許なく、肩のミサイルは空になっている。


『よおし、レッカ、よく生きて帰ってきた。護衛対象の以外もない。上出来だぞ』


 輸送船の甲板に固定されたシャトルの中のクリフォードは、汗を滴らせている弟子の戦果を褒めた。途中、アイリスからの絶妙なアシストがあったとはいえ、機体にダメージらしいダメージもなしに、戦い終えたのは賞賛に値する。


「アイリスさんに助けられました。敵ですけど、撤退したふりをしているだけってことはありませんか?」


『ああ、それはない。俺とダイドウさんの方でレーダーをチェックしているが、連中、躊躇うそぶりも見せず、退いている。俺の経験上、少なくともあいつらはマジで逃げたぜ。連中とは別のアウトロー共が来るかもしれんが、今は補給と休憩に専念しておけ』


「はい。武装はこのままで行きます」


 二人の使っているシャトルはGS一機の積載が可能なタイプで、ウルメよりも更に小型な代物だ。ウルメには居住性、積載量の他、GSの運用能力でも劣る。あくまでGSの運搬のみを前提としている。

 一応、予備として積んでおいた他の武装に持ち替える程度のことは出来るが、本格的な修理や整備はとてもではないが不可能だ。

 レッカはヘルメットのバイザーを空けて、コックピットのボックスを開いてチューブドリンクを取り出して、勢いよく飲む。吸収性の高いエナジードリンクの強烈な甘みが、レッカの披露した肉体を潤してゆく。


「ふう、それにしても凄いな、アイリスさん。あんな小さな女子なのに、パイロットとしては僕以上だ。自分がGSと戦っている間に、僕の援護をするなんて。クリフォードさんは強化人間って言っても、ピンキリだって言っていたけれど、たぶん、アイリスさんは上澄みの方だ」


 レッカも新人傭兵とはいえ、これまで命懸けの実戦を三度経験し、腕利きの傭兵であるクリフォードの厳しい指導を受けてきた身だ。多少は敵パイロットの技量が分かるようになっている。

 ギゲールのオロンが下がってから、アイリスの戦いを見ていたが、傭兵として二度目の戦闘だというのが信じられないくらい、クレバーな立ち回りをしていた。


「一緒の依頼を受ける相手で助かった……か。情けない。自分の弱さがこんなに情けないのは、久しぶりだな」


 シャトルに収容されたライジングフォースが補給を受けている間、アイリスはウルメと一定の距離を保ちながら周囲への警戒を続けている。

 ブルースターとイチイバルの弾倉を交換しているが、それだけで簡易整備と補給もまだな状態だ。ウルメのブリッジで、ダイドウはそんなアイリスのバイタルに目を光らせていた。


「戦闘前後で脳波に大きな乱れはなし、か。焦りも、恐怖も、高揚もない。脳に手を加えられた強化人間ならば当たり前の反応ではあるが、アイリスもやはりそうなのか? アイリスでも?」


 ダイドウの脳裏をよぎるのは目覚めてこれからの短い時間の間で、アイリスの見せた普通の強化人間らしからぬユニークな反応だ。先ほどの賞賛の要求も、大多数の強化人間には見られない反応だ。

 ダリアのように人間的な情緒をある程度、取り戻したか残していた例は、レアケースなのだ。それを踏まえるとアイリスは明らかにレアケースだが、そのくせ、戦闘中の反応は大多数の側と、相反する属性を兼ね備えている。


「いや、戦闘中に恐慌に陥らず、焦りもしないのならそれに越したことはない。アイリスが俺の予想を超えて優秀であるのは、紛れもない事実だ。今はそれだけでいい」


 そう自分を納得させるダイドウは、その考えが問題の先送りなのだと果たして自覚していたかどうか。

 ダイドウが悩んでいようと時間が停まるわけではなく、ライジングフォースの補給とパイロットの休息が終わり、イーリスがウルメの格納庫へと収まる。


 ブルースターとイチイバルを作業アームに預け、イーリスもハンガーベッドに固定される。オートで進む流れに機体を任せて、アイリスはコントロールスティックから手を離す。

 旧式とはいえ常人よりも強化された肉体でも、戦闘の疲労はあるものだ。ウインドベルの速度とバーフウのテクニックを捕捉する為に負った疲労は、先の宇宙海賊退治とは比較にならないレベルだった。


 いつもと変わらない様子だが、アイリスなりにリラックスしていると、戦闘中もイーリスのコンディションをモニターしていたクレールから通信が繋げられて、アイリスの顔色を確かめようとじっと覗き込んでくる。

 アイリスのケアはクレールの担当ではなかったが、どうにもアイリスのことを放ってはおけないらしい。これまでアイリスのように自分よりも年下のパイロット達を、何人も見送ってきた影響だろうか。


『うん、バイタルは安定していると聞いてはいましたけれど、間違いはなかったようですね』


 安堵の息を吐くクレールに、アイリスはいつもの抑揚に乏しい調子で答える。


「わたしのちょーし、おかしなところはないとおもうよ」


『ええ。先生もそう言ってはいましたけれど、やっぱり直接見た方が確信できますからね。メカでも人間でもそれは同じことです』


 クレールの言う先生とは、これまでアイリスを含む強化人間達のメンテナンスを担当してきた女医だ。今もウルメの医務室で待機している女医は、ヤキモキしているに違いない。


「わたしはばっちり。いーりすもばっちり。だとおもうけどどうかしら」


 クレールは左手に持ったタブレット端末に素早く視線を巡らせて、専門家としての意見を口にした。イーリスの周囲には、四本脚の箱のような自動整備ロボットが何機も貼り付いて、各所のコンディションをチェック中だ。

 これらの自動整備ロボットは破損個所があれば迅速に必要な部品のリストアップから、在庫があれば運び出して交換もしてくれる。


『ええ。ジェネレーター、アクチュエーター、フレームにもろもろの消耗は最低限。エネルギースキンの負荷もありませんし、本当に戦闘の後か怪しいくらい。色々と身構えていたのに梃子を外された気分です。うん、アイリスさんの腕がピカイチってことですよ』


 アイリスのシミュレーターと最初の宇宙海賊退治の実戦データを見れば、そこらのアウトロー共ならば問題はないと、クレールとて頭では分かっていたが、先ほどのGS乗りは水準以上の実力者だった。

 それを相手に被弾なしで戦い抜き、追い払ったアイリスの技量には、心底から驚かされている。これまでダイドウが引き取ってきた強化人間達の中でも、指折りの逸材だ。


「さっき、だいどうにもほめられた。えっへん」


『社長が? へええ、こんなこと言うとあれですけれど、意外ですね。……でも、お給料をケチるような人ではありませんし、褒め言葉もケチらないのは理解できるかも』


 在庫処分を待っているような旧式の強化人間を買いあさり、戦力として運用する──ひいき目なしに見れば鬼畜外道のそしりを受けて当然の所業だ。

 従業員であるクレールにしても、ダイドウに対する外部からの評価を否定できないが、雇用主としては誠実な方だと思っている。

 だからいつもの無表情を少し歪めて、なんとかアイリスを褒めようとするダイドウの姿を想像するのは、そう難しいことではなかった。



 アイリスとレッカ達がひと時の休息を得て、また新たな敵の出現に備えている間、バーフウとギゲールは待機させていた母艦を目指す途中で合流していた。

 ウインドベルはミサイルこそ空になったが、機体へのダメージはほとんどない。ギゲールのオロンにしても、ヘビーマシンガンとビームランチャーを失い、左肩に被弾こそあったが、戦闘を継続できる程度に被害を抑えている。


 コスモダガーとドムラカンが全滅したのは小さくない損失だったが、お互いが無事であるのならば、二人にとっては大きな問題ではなかった。

 所詮、上の連中からすれば失っても惜しくない捨て駒なのだ。自分達を含めて、というのが癪に障るが。ギゲールはこちらに合わせて速度を抑えてくれているウインドベルに機体を寄せて愚痴を聞かせた。


「バーフウさん、ちょいと熱中しすぎですよ。お陰で船に一発も撃ち込めやしなかった」


「お前にしては手際の悪い。相手は本物の“赤い閃光”ではなかっただろ」


 二人の間には口調同様、気安い雰囲気が流れていた。仕事の失敗を嘆いてもいなければ、悔いてもいない。二人にとっては、是が非でも成功しなければならない仕事ではなかったらしい。

 こんな二人の態度と言葉を知ったら、襲われた側は怒りのあまり、頭に血を昇らせて握った拳を震わせるだろう。


「そりゃま、そうですがね。センスの良い若手ってところですわ。経験を積めば俺なんかはあっという間に追い抜く。そういうタイプです」


「はは、それなら今のうちに片づけた方がよかったのかもしれないな。“赤い閃光”本人ではないにしろ、機体の名前は引き継いでいるようだし、まったくの他人ってわけでもなかろうさ。“赤い閃光”はザギオンの依頼を滅多に受けない傭兵だった。その関係者なら方針も受け継ぐだろ」


「俺達が今みたいな宇宙海賊ごっこを止めるよう命令されたら、またあの傭兵とやり合う機会も巡ってくるかもしれませんがね」


「ははは、お互い、軍の主流派から外れたはぐれ者だからな。退屈な任務をやらされているのは、同意するぞ。風は吹いてこそ、水は流れてこそ腐らずに済む」


 この二人はどうやらダイドウの推測していた通り、ザギオン連邦の軍人が命令によって宇宙海賊のふりをして、ファーエデン共和国に打撃を加えるべく、民間船を襲撃していたようだった。


「他所では言わんでくださいよ。ろくでもない仕事でも、それが正式な命令ならまだ飲み込めますけどね、失言が元で牢屋送りは嫌ですぜ」


「そうだな、それは俺も嫌だな。鎖で繋がれるのは御免被る。それと俺が戦った相手だが、あれはガーデンの新顔だぞ。良い腕をしていた」


 バーフウはイーリスに施されていたアイリスの花のマーキングを、見逃していなかったのだ。花をパーソナルマークにしている傭兵は珍しくはないが、なおかつ凄腕でこの星系で活動している傭兵となると数は限られる。

 あくまで推測と勘を重ねてのものであり、バーフウをして確証があるわけではないが、彼はそうに違いないと確信していた。

 今や引き取り手の少ない強化人間を積極的に運用し、一級のパイロットへ仕立て上げる変わりもの傭兵部隊の話は、ファーエデンで戦っているザギオン兵の間ではそれなりに知られている。


「ガーデンですか。露骨にファーエデンに肩入れしている腕利き部隊でしたっけね。旧式化した強化人間とはいえきちんと整備していれば、並みのパイロットよりもはるかにマシになるってわけか。ただの酔狂で強化人間を集めているわけじゃないようで」


 ギゲール自身は強化手術の類を受けていない通常の人間だ。ザギオン連邦軍の強化人間も何人か知っているが、最新式の施術を受けていて肉体、精神面共に安定している。

 その点、旧式の強化人間達は、安全性を保障されていない手術を受けた影響で、仮に手術が成功しても、定期的なメンテナンスが必要になるなど運用コストの高さでも知られている。


「旧式の強化人間となるとメンテナンスの技術や装置、知識の類も、今じゃ喪失しているだろうから、維持するだけでも一苦労。いくや安売りしても、その後の維持コストが高すぎて軍隊やPMCでも買わないケースがほとんどなんですが……」


 旧式強化人間の欠点をつらつらと口にするギゲールだったが、その欠点を踏まえて運用するイレギュラーとつい先ほど、上司は交戦したのだ。その上司はと言えば愉快そうにこんな風に宣う。


「ガーデン、ひいては経営母体のA.M.S.は珍しい稀な例だったというわけだ。たまには気まぐれな風が吹く方が、楽しいものだ」


 このバーフウの独特の感性と我を通す性格が、軍の上司との折り合いが悪く、当時から部下だったギゲールを巻き込んで、こんな後ろ暗い汚れ仕事を任される羽目になったのだが、バーフウはまったく堪えていない。

 ギゲールとしてはファーエデンの正規軍と戦うよりは危険性が低く、罪悪感と母国と自分に対する嫌悪感にさえ目を瞑れば、今の宇宙海賊稼業も嫌いではない。


「なんでも惑星エビナスで試験中の新型機が、ガーデンの二機とやり合ったと風の噂だ。その時にどちらかが撃墜されたか、パイロットが死んだかして補充したのだろうな。ふふ、俺達もエビナスに降りられれば、またさっきの奴と戦えるかもしれないな。くくく」


「今回の仕事は失敗しましたし、そんな俺らを手柄を立てられる前線に呼び戻してくれますかねえ? このまま汚れ仕事を任せっぱなしにするんじゃないですか?」


「ふうむ、それもそうか……困ったな。やはり仕事は真面目にこなさいといけないか?」


「そりゃそうでしょ」


 この人はパイロット以外に何も出来ないんじゃなかろうか、と部下になって以来、何度目になるのか分からない感想を、ギゲールは抱くのだった。

バーフウらは海賊ごっこをしている、裏方の軍人さん達でした。あんまり乗り気ではありませんでしたが、アイリスとの再戦をモチベーションにして、バーフウはやる気を出しそうですね。

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