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ミッション:民間人救出

体を改造された美少女パイロットがメカに乗って暴れ回るお話です。

 空は分厚い灰色の雲に覆われて、陽の光は岩石と僅かばかりの草木しかない大地に届いているかどうかさえ怪しい。地球を飛び出した人類が開拓した、とある辺境惑星の風景だ。

 ダリアはそんな荒涼とした光景を、鋼の兵器のコックピットで見ていた。コックピットの前面が半球形のホロモニターとなっており、時速数百キロで流れて行く光景が刻々と映し出されている。


 ダリアは色素の抜けた白い髪をショートカットにした、身長が百五十センチあるかどうかの小柄な女性だ。そんなダリアが全高二十メートル近い機動兵器のパイロットだと知ると驚く者は多い。

 肉付きの薄い身体に貼りつく黒紫色のパイロットスーツは、胸部や手足などをプロテクターで守っている。ヘルメットも同色で、降ろしたバイザーに戦闘時には各種の情報が投影される。


 それらの装備に身を包んでも、華奢を通り越してか細い体格は隠せず、パイロットの真似事をしている子供と勘違いされてもおかしくはなさそうだ。

 当のダリアからすれば侮ってくれる分には自分の仕事が捗るから、いちいち訂正するつもりはない。ダリアの仕事とは傭兵として機動兵器を駆り、依頼主の意向に沿って破壊をまき散らすことだ。


『繰り返しになるが、基地に拉致された民間人の救出支援が今回のミッションだ』


 ヘルメットを通してダリアの今の所有者からの通信が届いた。闇医者からダリアを購入し、今日まで危険度の高い任務に送り出してきた所有者だ。

 ダリアの見た限り、四十歳にはなっていないだろう。いつも何かに耐えているような表情を浮かべ、眉間に皺の刻まれていない所を見た記憶がない。


「忘れちゃいないよ、ボス」


『軍の部隊が救出を終えるまで敵戦力を引き付ける、でしたね』


 ボスに答えるダリアの相棒の声も若い女のものだった。

 名前はライラック。ダリアに比べて上背があり、切れ長のこげ茶色の目を持ち、ダリア同様、身体をいじくりまわされた影響で白くなった髪を、背中の半ばほどまで伸ばしている。

 ダリアもライラックも今のボスに買われて、与えられた名前だ。二人とも昔の名前は忘れている。あるいは強化手術を受ける際に、消されてしまった。


 命懸けのミッションを命じられるには、どちらもまだ若いが、それほど珍しい話でもない時代だった。

 ミッションに挑む二人の声に、過度な緊張による硬さはない。

 これまで何度もくぐった修羅場が、彼女らに鉄の精神力を与えていた。加えてそれぞれに施された強化手術の影響で、感情や記憶を一度、ぐちゃぐちゃにされているのも大きな理由だ。


『民間人が収容されている施設の位置を忘れるな。流れ弾一つ、通さない覚悟で臨め』


「厳しいオーダーだけど、いつものことか」


『そうですね。それに基地の主力は依頼主の部隊が引き付けてくださっていますから、私達が相手をするのは少数です』


 今回、ダリア達の依頼主はこの惑星を領有する星間国家の正規軍だ。ボスにどんな伝手があるのか、取ってくる依頼はこの正規軍や政府からのものが少なくない。


「敵さんの数が少ないんなら、弾代と修理代を節約できるように心がけるか」


 正規軍からの依頼だから報酬は高額だが、それに伴う経費はこちら持ちだ。命には代えられないが、節約できるところは節約しなければならない。会社勤めの悲哀である。


『作戦エリアに間もなく到達する。ジャミングとミサイル発射のタイミングを間違えるな。収容所の確保、司令部と砲台の破壊を優先。いいな?』


「ダリア、了解」


『ライラック、了解』


 ほどなくして、花の名前の少女達の頭上を、後方から発射されたミサイル群が白煙を引いて、通過していった。

 ここまで二人の機体を運んできた輸送機から、ボスの操作で発射されたミサイル群である。ダリア達の目指す先に格納庫やコンテナ、発電施設やエネルギータンク、固定砲台などを備えた軍事基地があった。


 レーザー主砲を搭載したホバー戦車の他に、二本足の上に平べったい胴体を乗せ、180mmキャノンやミサイルポッド、マシンガンを装備した兵器『バトルポッド』の姿がある。

 ライラックの言った囮、つまり基地側にとって敵部隊の接近が発覚し、基地戦力の大部分が出撃したその後だった。

 今も基地の遠方で敵味方が激しい戦闘を行っている情報が届き、基地には恐怖と緊張と興奮の入り混じる雰囲気が満ちている。


 不意に基地に大きな警報が鳴り響く。鼓膜を破いてしまえと言わんばかりの警報は、基地への敵機接近を知らせる、最も歓迎すべからざる音だった。

 にわかに慌ただしさを増す基地の中で、バトルポッドや固定砲台の照準が上空へ向けられた。ボスの仕掛けたEA──電子攻撃により基地のレーダーがノイズを吐き出す中、上空から無数のミサイルが飛来する。


 接近中の敵部隊が囮だったと悟った基地の司令が臍を噛む間に、基地から次々と発射される砲火の数々がミサイルを絡めとり、一発も基地に落とさずに空中で爆散させることに成功する。

 そして爆発したミサイルの中から、かすかな陽光を浴びて輝く粒子が霧のように基地に降り注いでいった。レーザーやビームといった光学兵器の威力を減衰させる、アンチビームフォグだ。ごく短時間だが、これで光学兵器の脅威はほぼなくなった。


 大型のビーム砲台やレーザー主砲を搭載した戦車の火力が、一時的にではあるが大きく封じ込まれた状況の出来上がりだ。

 予定通りフォグを詰めたミサイルがすべて撃墜されたのを確認して、基地を目掛けて一気に距離を詰める鎧を纏う巨人のような影が二つ。その中にダリアとライラックが乗っている。


 この時代を象徴する人型機動兵器“GigantギガントSilhouetteシルエット”、通称GSである。

 宇宙進出と惑星開拓初期に、大量生産された作業用ポッドやワークローダーを始祖とするこのロボットは、人類が現代に蘇らせた古き神話の住人の似姿であった。

 人類の版図で広く普及するGSは、ダリアとライラックが命を預ける商売道具でもある。

 二人に施された強化手術はGSを始めとする機動兵器をより効率的に動かす為の、生体パーツ化を目的としていた。


 数多くの軍や企業がGSを手掛ける中、ダリアとライラックは同じ機種に搭乗していた。

 暗い海の色を思わせるダークブルーの機体は直線的なパーツで構成され、凹凸の少ない胸部と、人体に寄せたシルエットを描いている。

 頭部の青いゴーグルの奥で、二つのカメラアイが朧月のように輝いていた。

 機体名称“スケアクロウ”。

 案山子を意味するこの機体は、市場への流通からすでに十数年以上が経過した旧式に分類されるが、クセのない操縦性と整備性が高く、その上、低価格とあってこれまで膨大な数が生産されている。


「ライラック、あたしの支援は最低限でいい。あんたは砲台と司令部を潰しな」


『大丈夫ですか? 主力が抜けているとはいえ、あちらにもGSが残っていますよ?』


「お留守番しか出来ないような相手だ。問題ない」


 ライラックの返事を待たず、ダリアは機体を跳躍させて、基地を囲う防壁を飛び越えた。

 機体のバーニアが大きく噴射炎を発して、数百メートルをジャンプ。空中で愛機の両手に握らせたマシンガンを連射する。

 老舗銃器メーカー製のマシンガンは実用性もさることながら、リーズナブルな価格からスケアクロウ以上に広く普及している。

 口径80mmに達する銃弾は、混乱を立て直せていないホバー戦車やバトルポッドを上空から貫き、見る間に穴だらけに変えて、弾薬や動力の誘爆を引き起こす。


 毒々しい爆炎の花があちこちで咲く中、レーザー砲とプラズマロケットポッドで武装した戦闘ヘリの一団を認めて、ダリアは着地前からスケアクロウのバーニアを細かく噴射し、空中で常に動き続ける。

 常に動き続けて的を絞らせない。GS戦闘の基本中の基本である。

 機体が落下に切り替わる中、ダリアの脳波とコントロールスティックの操作を受けて、左肩の追加装甲に乗せられたチェーンガンが作動し、舐めるように戦闘ヘリに銃弾を叩き込んでゆく。


 撃ち落される戦闘ヘリから発射されたプラズマロケット弾は、一発もダリアの機体に命中もしなかった。

 戦闘ヘリが次々と爆散してゆく中、ダリア機は着地寸前に足裏とふくらはぎのバーニアを噴射して着地の衝撃をほぼ相殺。

 着地と同時に基地内部を滑るように移動して、銃弾をばら撒きだす。


「安物のAIを乗せた安い兵器ばっかりか。あっちこっちに戦争を吹っ掛けて、戦線を広めたツケだね、こりゃ」


 ダリアは誰に聞かせるでもなく淡々と感想を呟き、ヘルメットのバイザーに投影されたレティクルの中心に敵機を捕捉して、銃弾をプレゼントする作業に集中する。

 機体の右肩に乗せた四連装ミサイルポッドの標的を求め、ダリアの視線は時速数百キロの速度で流れて行く画面の中で、四機のバトルポッドをロックオン。


 AI制御のバトルポッドは回避行動よりも、ダリア機への攻撃を優先し、180mmキャノンや機体側面の六連装小型ミサイルポッドの発射体勢にあった。

 バトルポッドの火器が火を噴くよりも速く、ダリア機から発射されたミサイルが直撃して、無人兵器達をまとめて吹き飛ばした。新たに基地を彩る赤黒い大火と爆煙に、ダリアは既に関心を失っていた。


 ダリアが基地内部を縦横無尽に駆け巡って、ひっかきまわす中、ライラックは機体を防壁の上に着地させると、アンチビームフォグで一時的に無力化した砲台潰しに動いていた。

 ライラックのスケアクロウは、背中のバックパックに長大な砲身のリニアキャノンを装備した、長射程高火力を追求した仕様となっている。

 素早くターゲッティングを終えたライラックはリニアキャノンから専用弾を放ち、最大火力を備えた脅威を容赦なく貫く。基地から供給される電力で稼働する砲台は、誘爆を引き起こすでもなくそのまま沈黙する。


 ダリア機に基地内の無人機が引き付けられている間に、ライラックは次々と防壁からリニアキャノンの軌跡を砲台へと目掛けて伸ばし、一つ一つ丁寧に潰す作業を続ける。

 背中のリニアキャノンや機体の右手が握る400mmバズーカ、左手のオートマチックタイプのハンドガンも接近してくる敵が居ないから、今のところ、出番はない。


『全ての固定砲台の沈黙を確認。ダリア、司令部を破壊次第、そちらの援護に入りますが、今すぐ助けは必要ですか?』


「問題ないよ。出来の悪い無人機相手だから、大した苦労もないさ」


 ダリアはマシンガンの銃身下部にあるボックス型マガジンを、バックパックから伸びた折り畳み式サブアームで交換。

 残弾を示す数字がフルに戻るのを視界の片隅に映し、倉庫の影から姿を見せたモスグリーンの人型に視線を滑らせる。この基地を保有するザギオン連邦の主力GS、“ガラク”だ。


 スケアクロウが直線で描かれた人型とするなら、ガラクは重量感のある丸みを帯びた人型のシルエットを描いている。

 腰からひざ下までカバーするスカート状の装甲と、顔面の半分を埋める巨大な眼球状のパーツが特徴的だ。鈍重な外見に相応しい重装甲の防御性能と耐久性は、スケアクロウよりも確実に上の相手である。


「ようやくおでましか。油断していたのか知らないが、無人機とは一味違うかい?」


 ガラクが両手で構えた四連銃身の90mmガトリングガンが、銃身の猛烈な回転と共に、銃身上部にあるドラムマガジンから供給される弾丸を吐き出し始める。

 今時のGSの主武装はビーム兵器だから、アンチビームフォグの散布に慌てて実弾系の装備を引っ張り出してきたのだろう。猛烈な銃弾のシャワーは、ダリア機が一秒前まで居た空間を貫いていった。


 ダリア機はガラクの右側面に弧を描くように移動していて、両手のマシンガンから放たれた80mmの銃弾が、饅頭を重ねたようなガラクの上半身を乱打する。

 GSがバトルポッドや戦車よりも強力な兵器として評価されているのには、装甲表面にジェネレーターから供給されるエネルギーを張り巡らせ、第二の装甲“エネルギースキン”として高い防御力を発揮する点が上げられる。


 バトルポッドならとっくに爆散するだけの銃弾を浴びせられても、ガラクはエネルギースキンを大幅に削られるだけで、なんとか耐えている。

 ガラクのパイロットは機体を襲う衝撃に揺さぶられながら、ガトリングガンを撃ち続ける。流れ弾が基地の施設に次々と穴をあけて行くが、そこまで配慮する余裕が失われていた。


 無思慮な銃弾のばら撒きは、一気に距離を詰めたダリア機がチェーンガンも含めた銃弾を至近距離からガラクの腹部、人間なら臍のある位置に叩き込んだ事で止まった。

 休みなく浴びせられる銃弾にエネルギースキンが剥ぎ取られたところで、機体の急所に集中砲火を浴びせられて、ガラクは見る間に息を引き取ったのだ。ガラクのコックピットは胸元にあるから、運が良ければパイロットは助かっているだろう。


「さてもう一機……」


 ダリアは、おっとり刀で格納庫から出てくる二機目のガラクの反応を捉えていた。そちらも片づけるかと機体の向きを変えたその矢先に、ライラック機から発射されたリニアキャノンの連射が、二機目のガラクの胴体を抉って沈黙させる。

 リニアキャノンの一発目がエネルギースキンを大きく減衰させ、わずかな時間差で発射された二発目が胴体を貫いたのだ。


「司令部はもう潰したのか? 相変わらず仕事が早い」


 先ほどまで立っていた防壁の上から基地内部へと降り立っていたライラック機の姿に、ダリアは素直に賞賛の言葉を零した。

 共に仕事をこなす相方が有能であるのは、歓迎するべきだ。仕事の成功率が高くなるのはもちろん、生存率の高さにもつながるのだから。


 厄介だった砲台とGS、司令部の破壊に加えて無人機もことごとく叩き潰せば、基地の人員は脱出の一手しかない。逃げ出す連中の始末は依頼に含まれていないから、ダリアもライラックも放置した。

 基地の人員があらかた居なくなった頃に、依頼主であるファーエデン共和国軍の救出部隊を乗せた輸送ヘリの一団が空の彼方に姿を見せた。

 囮部隊が引き付けている基地の主力部隊が戻ってこない内に、民間人を救出して連れ出さないといけないから、時間との勝負だ。


 民間人の救出作業でダリア達に手伝えることはない。じりじりと急かされるような気分で、警戒を続けながら作業の終わりを待つばかり。

 じれったい気持ちで救出作業を眺めていると、収容所から解放された小さな子供を連れた親子連れの姿がモニターの片隅に映り、ダリアは無意識に呟いていた。


「無事に帰れるといいけど」


 自分でも口にしていると気付かなかった言葉を、ライラックの耳は拾った。


『帰れても家が瓦礫の山になっている方ばかりでしょうね』


「ああ、まあ、そうか。そうなると避難所行きになるわけね。まあ、敵国の収容所に閉じ込められるよりはいいよな」


 モニターの向こうで父親に背負われた小さな男の子が、ダリアのスケアクロウに向けて、小さな手を振っていた。

 無骨な機械の巨人が、自分達を助けてくれたと幼いなりに理解していたのだろう。手を振るばかりか、笑顔までついていた。


「あたしとライラックも、昔はああだったのかな」


 ダリアはもうそれ以上は何も言わず、ただ、親子連れが輸送ヘリの一台に乗り込むまで、その姿をモニターの片隅に映し続けた。

チュートリアルの終了です。

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