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第21話 情報収集


 バルドと話をしようということになって、俺たちは早朝に以前利用した居酒屋に向かうことになった。なんでもバルドはここの常連らしくて、店主とも仲がいいらしい。思わぬところで繋がっているもんだな。


「そういえば、バルドとはどうやって知り合ったんだ?」

「王国で人望のある冒険者を探してみたの。そしたら、村から戻ってきた彼が人望も厚いって。まさか同じタイミングであの村から出てくるなんて、すごい偶然よね」

「確かにそうだな」


 そんな話をしながら俺とリアは居酒屋へと歩みを進めていく。早朝で非常に朝日が気持ちがいい。雲は微かにあるが、今日はまさに晴天という感じだった。


 居酒屋の中に入ると、店主が丁寧に一礼をして出迎えてくれる。


「おはようございます。バルドさんにご用事ですよね?」

「はい」


 店主は老齢の紳士という感じで、非常に物腰柔らかい人物だった。


「こちらです」

「ありがとうございます」


 俺たちはそして、店のさらに奥へと案内されていった。そこは個室になっていて、よく見るとその部屋には魔法式が刻み込まれている。なるほど。どうやら、密談をするために用意された専用の部屋ってことか。


「ユーリ! 久しぶりだな!」


 座っていたバルドが立ち上がると、彼は俺に向かって握手を求めてきた。俺はそれに応じて、彼の分厚い手を握り返す。前回会った時とは違って、その顔つきは非常に晴れやかになっていた。


 そして俺とリアが隣に並んで、その真正面にバルドが着席する。


「こちらサービスでございます」


 店主が持ってきたのはコーヒーだった。正直非常に助かるが、サービスは流石になと思って俺は金を払う意思を示す。


「流石に払いますよ」

「いえ。ユーリさんからいただくなんて、とても。では失礼します」


 ん? なんか俺のことを知っているような口ぶりだったが。そう思っていると、バルドが口を開いた。


「すまねぇな。一応、ユーリの凄さは伝えてあるんだ。でも安心してくれ。ここの店主は絶対情報を漏らさない。未だにこの場所が残っているのがその証拠さ」

「なるほど」


 とりあえずは、理解を示すが……凄さって、バルドに何か見せたっけ……あぁ。そういえば、スキルを無効化したときに話をしたのか。その時に片鱗でも感じ取ったのだろうか。


「で、リア様から話は聞いたぜ」

「様はやめてください。私はもうただの冒険者ですから」

「そうか? じゃあ、リアでいかしてもらうぜ」

「はい」


 二人がそんな話をして、改めてバルドは俺に視線を向けてくる。


「で、王都の情報を知りたいのか?」

「あぁ。ただ、バルドは戻ってきたばかりなんだろう。知っているのか?」

「もちろん。すでに情報は色々と集めてあるぜ。もちろん、冒険者ギルドも把握してないものもある」

「それは助かるな」


 バルドはニヤッと笑みを浮かべる。実際のところ、人脈というものは非常に重要である。冒険者ギルドも無条件で情報をくれるわけではない。やはり、冒険者同士の方が質の良い情報が飛び交う。俺も人脈作りは王国に来て取り組もうと思っていたが、まさかあの村の繋がりでいいように転がっていくとは。やはり、何があるのかわからないものだな。


 といっても今回はリアのおかげではあるが。


「それで何が知りたい?」

「冒険者が行方不明になっている事件などは聞いていないか?」

「行方不明か……ダンジョンに潜って死ぬと基本的には魔物に食われるから、死体は発見されない。その場合は行方不明扱いになるが、事件ってことは人為的なものを追っているのか?」

「追っている……そうだな。これはオフレコで頼みたいが、帝国の暗部が王国に侵入しているかもしれない」


 俺はここでバルドに情報を開示する。もちろん、その根拠を訊かれることになるだろうが、ここは駆け引きをしなければならない。俺はすでにある程度の解答を用意していたのだが、バルドの反応はというと──


「なるほど。確かに帝国の噂はここ最近よく聞くな。小国を統合して、着実にその侵略域を伸ばしている。王国に来ていてもおかしくねぇな」


 ん? なんか、リアの時といいどうしてこんな物分かりがいいんだろうか。逆になんか肩透かしを食らった気分になっていた。


「俺の情報がどこから来たものか気にならないのか?」

「ん? いや、俺はユーリを信じてるからな。別にそんな些細なことは気にしてないぜ」

「えぇ。彼は私と同じ《《理解者》》であり、《《同胞》》だからね。ユーリのことはちゃんと信じてるわよ」


 ん? なんか二人の目が爛々《らんらん》と光っているような──そんな感覚を覚える。俺はいつの間にそんなに人望を集めていたんだ? まぁ、スムーズに話が進むのならいいかと思って特に言及することはなかった。


 ただ着々と謎の外堀が埋められているような気もするが……まあ、気のせいだよな。


「帝国の暗部が王都に来ているか……流石に聞いてねぇな。ただ、最近は違法な魔道具が流されている噂は聞くぜ。なんでも闇属性の魔道具が多いとか」


 それだ。間違いなく、その大元は帝国に繋がっているだろう。すでに破壊工作は行われているということだな。


「大元は帝国の可能性が高い。売人の特定は無理か?」

「うーん。相手も相当の手練れなのか、全く掴めないんだよなぁ……俺としてもユーリが知りたいのはこれと思って色々と先に調べたが、まだ足は掴めない」

「いや、それだけでも十分だ」


 そう。足が掴めない、ということは相手はそのことを隠したがっている。逆にそれは、帝国が暗躍している証拠でもある。バルドにそのことを聞けただけでも、俺としては非常に十分だった。


「ねぇ、ユーリ」


 トントンとリアが肩を叩いてくる。


「どうした?」

「その大元を調べればいいの?」

「そうだな。そこが帝国の暗部へと繋がっている可能性が高い」

「分かったわ! じゃあ、頑張って調べてみるね?」

「いや、あんまり無理をする必要はない。最悪、敵対することになる可能性もある」

「あっ……そっか。下手にバレると良くないよね? ちゃんとこっちの情報を秘匿して、相手を探れってことよね? ごめんね、ユーリに迷惑は絶対にかけないから!」

「あ、あぁ……」


 いや、普通に自分の身を案じてほしいという意味なんだが──ただ、そこまで理解しているのならいいか。リアは王国に来てからというもの、かなりの聡明さを見せている。俺としては非常に助かるが、想像以上の行動力で驚くというか……。


 この席を用意したのもリアだしな。俺は彼女に本当に助けられている。今度、ちゃんとしたお礼をしないとな。


「俺の方でももう少し探ってみるぜ。何か情報があれば、リアに伝えることにする」

「いや、直接俺でいいが」

「ううん。ユーリは今、やることがあるんでしょう? 大丈夫。絶対にユーリには伝えるようにするから。ちゃんと私の方で情報を精査して、資料も作っておくから! ね。任せてくれる?」

「あぁ。助かるよ」

「うん!」


 うん。もはや秘書じゃないか? でもリアの目はキラキラと輝いているし、下手に断るのはやる気を削ぐよな……俺はリアにその辺りのことは任せることにした。


 そして解散となって俺はイヴと冒険者ギルドで会う約束をしていた。いつものように、イヴは無表情でクエストボードの前に立っていた。


「すまない。ちょっと遅かったか?」

「いえ。私も今来たところです」

「そうか」


 ただこのやりとりも慣れてきた。イヴとしてはこれが通常運転のようなので、俺も必要以上に気にしないようになっていた。


 二人でクエストを選んでダンジョンに潜ろうとした時、俺は背後から声をかけられる。



「──へぇ。妹さんと仲がいいみたいね」



 そこにいたのはリアだった。先ほど別れたばかりだったが、どうしてここに?


「ちょっと近くまで来たから、挨拶をしようと思ったの」


 そういうことか。そういえば、まだリアとイヴは挨拶をしていなかったしな。俺はイヴにリアを紹介する。


「なるほど。イヴ。俺と一緒に行動しているリアだ」

「リアです。よろしくお願いしますね?」

「は、はい。イヴと申します。こちらこそよろしくお願いします」


 リアはニコニコと笑って挨拶をする。俺としては二人が仲良くやってくれればいいと思っているが。あれ。なんかイヴが少し動揺しているような気もしたが、気のせいか?


「じゃあ、私はこれで。またね」

「あぁ」

「はい……」


 二人の挨拶は無事に済んだ。リアは今は一人で行動しているが、いずれは合流するかもしれない。その時は二人に仲良くして欲しいが、きっと大丈夫だろうな。リアはすっかり憑き物も落ちた感じで、ここ最近はとても快活な様子を見せているし。今の挨拶でも、リアは機嫌がいいみたいだったしな。そう思っていると、イヴが話しかけてくる。


「あの……リアさんとはどのような関係なのですか?」

「ん? まぁ普通に仲間って感じだな。色々と縁があってな」

「なるほど。そうですか」


 イヴは相変わらず無表情なままだったが、これにも慣れてきた。特別俺を嫌っているわけではなく、これが普通なんだな。


「さ、行こうかイヴ」

「はい」


 二人でダンジョンに潜っていく。もう慣れたもので、道中の魔物に苦戦することはなかった。


「お兄様は……その。本当にリアさんとは何もないのですか?」


 なぜかイヴはその話を掘り返してきた。顔に全く感情が出ないし、声色も変わることはないので、言葉以外でその真意は分からない。


「あぁ。別に何も……うん」

「何ですか今の間は」


 イヴは途端に鋭い目つきになって、追及してくる。


 思えば、一緒に寝たりしているのはどうなんだ? 何もないが、なぜか俺は後ろめたい気持ちになっていた。


「いや、本当に何でもないぞ」

「ふぅん。ま、いいですけど。私は全く気にしていないし、別にお兄様とリアさんがどのような関係だったとしても気にしていません。えぇ、全くもって気になりませんとも」

「お、おう……」


 いや、気にしてないを三回も言っている時点で気にしてるだろ。それからイヴは早足で進んでいってしまう。


「イヴ。ちょっと早いぞ」

「別に普通です。お兄様が遅いだけです。ふん」

「……」


 明らかに不機嫌だよな? 大きな変化はないが、やけに早口だし……。


 その真意は結局分からないまま、俺たちはさらに深部へと進んでいくのだった。

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