第18話 王都レヴァリア
ここレヴァリス王国の王都はレヴァリアと呼ばれる。世界最大の魔法大国であり、世界の中でも有数の大都市である。
まず特徴的なものといえば、《グラン・レヴァール城》だろう。城下町を一望することのできる丘の上にそびえ立っている王城はこの国の象徴でもある。後に主人公のテオはその王城に向かうことになるが、それはまだ先の話である。
城下町は騎士団の駐屯地、大聖堂、市場などが集まる場所でかなり活気のあるエリアだ。
城壁と門に関しては、頑強な城壁と見張り塔が並び、東西南北に巨大な門がある。夜間は厳重に閉ざされていて、脅威となる魔物が入ってくる隙はない。
北側には貴族街と商業区が存在している。貴族の屋敷が並ぶ静かな地区と、商人たちが集まる賑やかな広場がある。主に商人と取引するときは、北区へと向かうことになる。
そして、最後にこの王都レヴァリアで最も有名なのは──世界最難関ダンジョンの一つである、レヴァリアダンジョンである。
最下層は不明で、現在は七十層まで攻略が進んでいる。冒険者にも色々と種類がいるが、この王都には俗に言う《攻略組》と呼ばれる冒険者が多い。彼らは金銭目的ではなく、最難関ダンジョンを踏破したという名声を得るために日夜戦っている。
とまぁ、王都のダンジョンはかなりの難易度になっている。
そして現在、俺は妹のリアの後ろを進んでいたが、流石に兄としての威厳もあるので彼女の隣に並ぶ。
「お兄様。私の隣にいると危ないですよ。急に魔物が襲ってくるかもしれませんので」
「大丈夫だ。まだ上層だろう? それくらいの魔物なら俺も問題はないさ」
「そうですか」
「……」
うん。やっぱり、どうやって会話を続ければいいのか俺は分からなかった。どこまでいってもクールで淡々としている。それがイヴの良いところでもあるが、ただまぁ……屋敷で一緒に暮らしていた時もそんなに会話をしてないしなぁ。
イヴが実は可愛いものや甘いものを好んでいるのは知っているが、それで話が広がるとは思えなかった。
「最近は──」
しばらく黙って歩みを進めていると、イヴが口を開いた。
「迷宮守護者が再出現しているようなので、一応は気に留めておいてください。お兄様」
「迷宮守護者か……確かにそれは危険だな」
迷宮守護者とは十層ごとに存在する非常に強力な魔物のことを指す。迷宮守護者はすでに何体か討伐されているが、時間が経過すれば再出現する。そのため、冒険者常にその危険性も考える必要がある。
「まず五層へと向かって、そこから転移陣で十層に向かいます。お兄様。戻るなら今ですよ」
元々Fランクの冒険者がここのダンジョンに挑戦することはほとんどない。よほど無謀な馬鹿しかいないだろう。それほどまでにここは危険な場所なのだ。普通の冒険者であれば、魔物と対峙しただけで命を落としてしまう。
しかし、俺はまぁ……本気を出せば軽く五十層程度でもいけそうだが、もちろんそれは伏せておく。それに俺としてもまだ、偽光属性をさらに高めていきたいと思っている。そうだな。時間があるときは、ソロで深くまで潜ってみるとするか。
「あぁ。問題はない」
「……私は忠告しましたからね?」
俺とイヴはさらに深部へと向かっていく。五層に存在している転移陣に魔力を込めると、俺とイヴは十層へと転移していった。
熱い。この場所に来て思ったのは、まずそれだった。空気全体にかなりの熱がこもっていて、岩肌は赤黒く爛れ、至る場所で火が噴き出している。周囲は完全に紅蓮の世界と化していた。ダンジョンは階層によって特徴がある。ここの十層はマグマエリアになっている。
「お兄様。魔力防御はできますよね?」
「あぁ」
俺とイヴは一瞬で魔力防御を展開。そもそも、魔力で自分の肉体を覆っていなければあっという間に熱で死んでしまう。十層からは特に高度な魔力運用が求められる。魔力総量はもちろん、それを持続できるだけの体力。冒険者として求められることは非常に多い。その分、このダンジョンにはレア度の高い素材などが多くあったりもする。
「サラマンダーですね」
「みたいだな」
蛇のような尻尾とギザギザの背ビレからは煙を立ち上がらせている。肉体は高熱を帯びていて、鷹に似た顔の落ち窪んだ眼窩の中で鋭い黄色い瞳が揺らいでいる。
サラマンダーは俺たちの存在を知覚。こちらへと近寄ってくる。その間にも、イヴはすでに腰に差しているレイピアに手をかけていた。
抜剣。細く優雅に伸びる直剣で鏡のように磨かれた銀色の刃は、周囲の光を反射している。そう。イヴは別名──《閃光の剣姫》と呼ばれている。スキル中心の戦いを得意としていて、原作では近接戦世界最強の一角となるほどだ。
「──いきます」
イヴは身体強化と高速移動を発動。火球を放ってくるサラマンダーの攻撃を半身ズラしただけで躱して一気に距離を詰める。そしてイヴは相手の急所を的確に突く。心臓を貫き、サラマンダーはその場に倒れ込んでいく。
まるで演舞のような立ち回り。一切の無駄はなく、洗練された動きだった。もちろん才能があるのは大前提だ。彼女は世界でも有数の戦闘スキルの才能を持っている。が、それ以上に努力も凄まじい。一体どれだけの努力をしてきたのか。まだ、十五歳と言う若さでこの領域にいるのは才能だけでは説明がつかない。
俺はただただ、イヴの戦いに見惚れていた。この世界のキャラクターたちは皆が勇敢さを持って敵と戦う。一見無謀な戦いでも、その先が死地だとしても、戦いに向かう。俺は改めて、この世界のことが好きなんだと再認識する。
「ふぅ。こんなものでしょうか」
イヴはキンと音を立ててレイピアを納める。微かに金色の髪が熱風で靡く姿はどこか勇ましかった。
サラマンダーは全部で五体ほどいたが、あっという間にイヴは全てを討伐してしまった。この程度であれば、もはや朝飯前って感じだな。ただ戦い方には、ちょっと問題があるような気もするが……俺は素直にイヴに思ったことを伝える。
「イヴ。凄いな!」
「別に普通ですよ」
「そんなことはない。もちろん才能も凄いと思うが、めちゃくちゃ努力したんだろうな。それがよく分かる戦い方だったよ」
「………っ!」
そう言うとイヴはなぜか顔を背けた。あ、あれ……もしかして、何か地雷でも踏んでしまったか……? 明らかに不機嫌になった気がしたし、また嫌われてしまったか……。
「すまない。気に障ったか?」
「いえ。別に。では、先に進みたいところですが──この先はもっと危険な魔物が出てきます。お兄様。やはり、もう引き返した方がいいと思います──」
と、話をしている最中のこと。倒れて絶命しているはずのサラマンダーが突如として立ち上がって、イヴのことを丸呑みにしようとその巨大な口を開けてくる。その速度はあまりにも速く、サラマンダーもそれを虎視眈々と狙っていたのだ。
「え──?」
おそらくはあのサラマンダーは特殊な個体。心臓が通常の個体とは別の場所にあって、絶命したふりをしていたんだ。そのことに気が付かなかったイヴは咄嗟に反応をするが、間に合わない──
「──闇槍」
俺は即座に魔法式を構築。闇槍を射出して、そのサラマンダーの頭部を確実に撃ち抜いた。今度こそ、その個体は絶命した。
「イヴ。レイピアは確かに急所を突くのには適しているが、今みたいに例外もある。基本的には魔物は頭部を破壊にするのが好ましい。といっても、頭がなくても体だけで動ける魔物もいる。常に魔物との戦闘は最後まで気を抜かない方がいい」
「え? 今のって闇属性……魔法? それにかなりの速度……私、その速度で槍系統の魔法を発動できる人は初めて見ました……」
「あ」
イヴは俺のことを信じられない、という目で見つめていた。
や、ヤベェ……イヴがやばいと思ったので、一瞬だけ片鱗を出してしまった。それとついアドバイスもしてしまったが……な、なんとか誤魔化せるか? 俺が脳内で言い訳を考えていると、イヴが再度口を開いた。
「お兄様」
「は、はい!」
あろうことか、イヴは明確な敵意をもって俺の喉元へレイピアを突きつけてきた。
「──あなた、何者ですか?」




