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第17話 冷たい妹


 西の大国はレヴァリス王国。東の大国はラグナス帝国。そして現在、ラグナス帝国の侵略はすでに始まっていた。帝国にはいくつかの皇帝直属の暗殺部隊が存在している。皇帝直属の特務機関であり、機密性が高く権力者の意向をそのまま反映する組織だ。


 役割は政敵の排除、裏の外交工作など皇帝が敵と判断した相手を完全に摘み取る精鋭部隊。帝国独自の教育機関で育てられた暗殺者たちは、各地で猛威を奮っていた。これまでは小国などを完全に支配して、帝国はその勢力を確実に伸ばしていた。そして彼らはついに、レヴァリス王国という大国まで飲み込もうとしていた。


 世界統一。帝国の元で全ての国を統治する。それがラグナス帝国の目的である。


 『力こそ正義』『弱者は強者に支配されるべき』その信条を元に帝国は進み続ける。侵略と恐怖、力と支配──これこそが帝国の根幹だ。



 そして暗殺部隊の一つ──灰燼アッシュと呼ばれる部隊は現在、王国内部へと侵入していた。


「どうやら、協力者は死んだようです」

「ん? そうか。ま、あの指輪には自爆の魔法式を組み込んである。情報が漏れることはないだろう」

「セドウィンが拷問されて漏らしている可能性はないのですか?」

「あいつには重要な情報は渡していない」

「流石です」


 王国のとある宿の一室で、二人の男女が話をしていた。身なりは一般的な市民そのものであり、彼れらをひと目見て疑う人間はいないだろう。


「そういえば、あちらの情報はどうなっているんだ?」

「光属性の冒険者テオですか」

「あぁ」

「それは別部隊が動いています。担当は霧影ミストですね」

「ふむ……まぁいい。この采配は皇帝の意向。私たちは自分の仕事をこなすだけだ」


 帝国も実際、一枚岩ではない。皇帝が絶対の権力を持っているが、下の組織ではそれぞれが敵対している──とまではいかないが、協力関係ではない。これは皇帝の意向であり、常に競争を強いているのだ。


 そして帝国は光属性に一番警戒していた。その属性はあまりにも発現する人間が少なく、帝国に担い手はいない。人工的に光属性を生み出そうという、帝国魔法省の非人道的な実験でも再現はできていない。


 仮に帝国が苦戦するとすれば、それは光属性の使い手。だからこそ、彼らは現在確認されている主人公のテオにリソースを割いている。


 暗殺組織である灰燼アッシュは、その大役を与えられなかった。その事実にリーダー格の男は悔しさを覚える。が、彼もプロ。感情と理性は完全に切り離している。彼はこの王国で破壊工作に取り組んでいた。現在の目標は、王国にいる高位の冒険者を暗殺して戦力の低下を狙っている。


「対象の冒険者のピックアップは済んでいるな?」

「もちろん。狙い目はAランク冒険者のイヴでしょう。若手の中では頭ひとつ抜けており、スキル重視の戦闘スタイルのようです」

「……スキルか。それなり厄介そうか」


 魔法使いを暗殺するのは容易い。近接戦に持ち込んでしまえば、魔法使いなど瞬殺できるからだ。しかし、スキル使いになるとそうもいかない。暗殺においての耐性も高く、それもAランク冒険者。帝国は決して、王国の上位冒険者のことを侮っていない。


 またイヴをターゲットにしているのは、若い芽を摘むという目的のためである。



「それと……まぁ、これはあくまで追加情報なのですが」

「なんだ?」

「聖女候補の一人が冒険者になったようです。教会では話題になっているようですね」

「聖女候補が……?」

 

 彼はその情報を聞いて、まず違和感を覚える。そもそも聖女候補なんてものは、戦闘力でいえば脅威にはならない。それがどうして冒険者などしているか。理解はできないが、彼は取るに足らない情報だと判断した。


「その情報は切り捨てていい。今後はイヴの情報を集めろ。確実にる」

「はい。承知いたしました」


 だが、彼らは知らない。王国の中で誕生してしまった最強の使徒がいることを──。すでにこの世界の原作ルートは崩壊しつつあり、ユーリを中心として新しい世界が生み出されようとしていた。




 †




「ふわぁ……朝か」


 いつものように早朝に起床。俺はベッドから起き上がってカーテンを開く。今日も気持ちのいい晴天である。さて、朝食を軽く取ってから冒険者ギルドにでも向かうか。可能であれば、イヴとパーティーを組むことができればいいが……うーむ。


 昨日の感じからして明らかに嫌われている感じだしな。屋敷で過ごしていた時も、ほとんど話をしていなかったし。


 その時、コンコンとドアがノックされる。間違いなくリアだろう。


「おはよう、ユーリ」

「あぁ。おはよう、リア」

「朝食は準備してきたわよ」

「あぁ。それは助かる」


 自分で準備をしようと思っていたが、リアが既に用意してくれていたか。非常に助かるな。俺たちは室内にあるテーブルについて、食事を取る。


 焼きたてのパンにハムとチーズ、さらには野菜も挟まれている。朝食としてはすぐに取れるし、味も問題はない。


「これ、リアが作ったのか?」

「うん。材料買ってきて、切って詰めただけだけどね」

「それでも凄いと思う。最初の時を考えれば、かなりの進歩だ」

「も、もう……そのことは忘れてよ……っ!」

「ははは」

「ただユーリの好みとかあったら遠慮なく言ってね? 今後はご飯は私が用意するから」


 リアはじっと俺のことを見つめてくる。普通に会話をしているだけだが、それはなぜか圧があるような気がした。


「まぁ別に好き嫌いはない。なんでもいいが、俺も料理ぐらいはするが」

「だめ! 私の練習にならないから! だからね? 任せてくれない?」

「あ、あぁ。そう言うならいいが……」

 

 まぁリアがやる気があるのなら、別の止める理由はない。そして俺たちは食事を終えて、これからの話をすることに。


「ユーリ。私、色々と考えたんだけど……しばらくは一人で動いてみようと思うの」

「ん? 一人でか?」

「えぇ。ユーリに頼り切りだと良くないと思うし、帝国の動きも自分でも色々と調べてみる。冒険者ランクも一人で頑張ってあげてみるね。それに、ユーリは妹さんに用事があるんでしょう? 私は邪魔しないから。あ、でも。夜ご飯は一緒に食べようね? その時にお互いの情報交換ってことで。しばらくはこれでどうかしら?」

「あぁ。問題はない」


 非常にスムーズな提案だった。というか、あまりにも物分かりがいいというか。きっとこの調子でいけば、テオのパーティーとリアが合流するのが楽しみだな。


 もちろん、俺はテオにリアを任せた後は一緒のパーティーには加入しない予定だ。俺には死亡フラグもあるしな……。



 そして俺はリアと別れて冒険者ギルドへと向かう。ただ正直なところ、イヴに次の勧誘で断られたら俺は諦めるつもりだった。彼女をさらに強くしたいとは思うが、イヴはきっと今のままでも大丈夫だろう。リアとは違って、彼女はすでにAランク冒険者だからな。


 俺は冒険者ギルドへと辿り着き、イヴがいないか周囲を伺ってみるとちょうどクエストボードの前に彼女が立っていた。


 あまりの美貌に周囲の男たちは見惚れ、声をかけようとしているがそれもできない。イヴから明らかに、近寄ってくるなという雰囲気を放っているからだ。だが、俺はイヴに声をかける。


「よ、よう。イヴ。おはよう!」

「お兄様。おはようございます」


 丁寧に頭を下げるが、淡々と挨拶をしてくるイヴ。その表情には一切の感情など宿っていないかのようだった。


 うん……まぁ、これは俺の知っているイヴそのものだな。実際に原作でもそれほど喜怒哀楽を表現するキャラではない。クール系のキャラって感じだしな。


「今日はなんのクエストを受けるんだ?」

「そうですね。Sランクになるためにも高ランクのクエストを受けようと思っています」

「へ、へぇ……昨日の続きだが、俺と一緒にパーティーを組むのはどうだ?」

「お兄様のランクはFランクですよね? 私と同じクエストを受けてもほとんどランクに影響はありませんよ」

「イヴがどれくらい強いのか見てみたいと思ってな! 兄として妹の成長は気になるものさ!」

「へぇ。そうですか」


 う、うん……相変わらず塩対応で俺に対してなんの感情も見せてこない。ぐすん。少し悲しくなってきた……。


 また、冒険者ギルドにおいて自分のランク以上のクエストを受けることは推奨されていない。仮にソロであれば、飛び級のようなこともあるが、高ランクの冒険者と組んでも下の冒険者に恩恵はない。それは違法なブースティング対策のためである。


 ただ俺は、今のイヴがどれくらい強いのか見てみたかった。俺は自分のランクを上げることに興味はないからな。あまり目立つと、帝国に目をつけられることは明らかだ。それに……おそらくは、既に帝国の暗殺組織が動いているに違いないと俺は考えている。


 テオがターゲットにされているのは知っているが、イヴもその対象になっているかもしれない。イヴなら一人で乗り越えることができるだろうが、最低限の協力はしたいと思っていた。


「ただ……そうですね。お兄様がそこまで言うのでしたら、いいですよ」

「いいのか?」

「はい。ただし、ついてこれない場合は置いていきますから」

「あぁ。分かったよ」


 俺はイヴとパーティーを組み、ダンジョンへと潜っていくのだった。その際「どうせ、着いてこれないと思いますけど……」とぼそっとイヴがつぶやいた。


 なるほどな。一度同行を許して、完全に諦めさせるって魂胆のようだな。俺はどう振る舞うか考えつつ、イヴの後についていく。


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