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05

「蕾ちゃん、大学に連れてきてよ」

 

 そう、若葉さんに言われたのは蕾ちゃんと出会ってから一ヶ月ほどが経った頃だった。


 「最近、早く帰るようになったけど、どうして?」


 という話の流れから、蕾ちゃんの名前を出したところ、予想以上に若葉さんが興味を持った。

 

 若葉さんと私、そしてそれを若葉さんづてに訊いた奥谷君の間では、蕾ちゃんの話で持ち切りになった。そして、とうとう会ってみたいという現実的な話が出てきた。


 その日の帰りに、蕾ちゃんにその話を持ち出した。


 蕾ちゃんも、昆虫が好きな人ともっと関わりたいだろうし、二人が知り合えばもっと楽しいはず。そう、思っていた。


 「土曜日って、予定空いてる?」


 「はい。空いてます、けど?」


少し戸惑っている様子。


 「その日にさ、よかったら私の通っている大学に来ない?」


 「中学生なのに、いいんですか?」


 「大丈夫だよ。食堂を開設してたり、小さい子とかもよく来るから」


 私の大学は休日になると、ここに入ろうと思っている高校生やレジャー施設として小さな子供もよく来ている。


 「私が所属している昆虫研究会で、いろんな昆虫を飼っていたり、資料があったりするからそこを見に行かない?その研究会の人達も蕾ちゃんのこと聞いて歓迎してるから」


 「行って、見たいです」



 日曜日になり、制服姿であの場所へ向かった。


 蕾ちゃんは二分ほど後に、私服で来た。白のトレーナーに紺のジーンズと、大人っぽい服装。


 「芽生さん。おはようございます」


 少し声がかすれていて、緊張しているようだった。


 「おはよう」


 そう言いながら、私も高校生の見学までは大学なんて、行ったことなかったな、ということを思い出す。私も、見学のときは足が震えるほど緊張してたな、と。


 「出発進行!」


 少しでも和めばと。若葉さんが移動のときにする掛け声を真似してみた。


 「お、おぉ?」


 やはり、私のキャラではないのだろうか。


 「ふふっ。面白いです。ありがとうございます」


 柔らかい表情になって笑う。

 

 私は、この蕾ちゃんの笑う表情が結構好きだ。

 


 私たちは大学へと歩き出した。


 歩く間に、大学の説明や昆虫研究会の説明をざっとした。


 三十分ほど歩くと、大学が見えてくる。


 

 「昆虫研究室」に着くと、ドアの先に研究会の全員が集まっていた。

 

 若葉さん。奥谷さん。鈴川さん。


 ありがたかった記憶を思い起こし、三人の紹介を考える。こうこうこうな人だよ。とか、そういうの。


 蕾ちゃんがもじもじしながらドアを開けるのをためらっていると、勢いよくドアが開いた。


 若葉さん。その後ろに奥谷君。


 「えと、この人が」


 私が言いかけたが、若葉さんの声に呑み込まれる。


 「私が部長の川上紅葉だよ。よろしく」


 人に人を紹介する仲介役。ちょっと、やってみたかったのにな。


 指先を相手に向けながら、蕾ちゃんを見てはきはきと話す。それに照れるように笑う奥谷君。


 

 若葉さんに促されて教室に入っていく蕾ちゃんの後をついて行く。


 「死骸しか見たことがなかったので、生きている姿を見れて嬉しいです」


 黄緑色に輝く翅に赤い縦筋が入った美しいからだ。



 ヤマトタマムシ。体長3,4cm。前羽」が工芸品の材料として使われたり、最も美しいとされる昆虫のひとつ。


 「確かに。しっかりと生きている状態の遭遇は少ないよね」


 二人は、いろんな昆虫の話で盛り上がっている。


 私が蕾ちゃんを連れてきたはずなのに。私のことは置いてきぼり。


 きっと、最初だから盛り上がってるだけなんだって思いこむようにしても、やっぱり話すのが上手な若葉さんの方がいいんだろうなって、嫌な考えが頭を巡ってしまう。


 



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