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 「つぼ、み、ちゃん、わ、かば、さん」


 3mほど先にいる二人に向かって叫んだ。つもりだったけど、息切れがひどくて、かすれた声しか出ない。


 ハア。ハア。ハア。ハア。


 「芽生ちゃん?大丈夫?」


 私が来たことに驚きながら、ハンカチと水筒を差し出す若葉さんと蕾ちゃん。


 私はそれを両手に受け取って、道端に座り込んだ。

 

 2人に感謝を伝えるつもりだったのに、また、世話をかけてしまって、情けない。


 ハア。ハア。

 

 頭からぼたぼたと垂れてくる汗を拭う。渡された水筒を口をつけないように気を配りながら飲む。が、疲れて手が鈍って、顔にバッと、水がかかった。


 「涼し」


 もう、疲れすぎて、鈍ってる自覚はある。


 「大丈夫ですか」


 慌てて、スポーツバックを開けて、タオルを出す蕾ちゃん。


 

 10分ほど経った後、私の呼吸が落ち着いた。


 「芽生さん、もっと体力つけてください」と、蕾ちゃんに叱られた。



 「ごめん」


 今、言うことじゃなかったかもしれない。けど、今言わないと有耶無耶になってしまいそうだから。一呼吸おいて続けた。


 「ごめんなさい。蕾ちゃん。若葉さん。自分の事ばっかりで自分だけが苦しんでるって思いこんでた。ずっと自分の事しか考えてないのに、自分が置いてかれたら、逃げた。藻掻こうともせずに、無駄になったとしても、藻掻くべきだった。簡単にこれが現実だって、受け止めた。ごめんなさい」


 あんなに水を飲んだはずなのに、口が乾く。


 「逃げたのは、ずるいって思います。でも、藻掻かずに諦めたのは、そんなの、芽生さんだけじゃないです。私だって、藻掻いてないで勝手に諦めたのに、相手のことを羨ましく思ってたし、妬んでた。自分ばっかって。若葉さんのときも、私、こうなるってわかってたのに、動かなかった。ごめんなさい」


 

 「芽生ちゃんは悪くないよ。ただ、私が自分勝手に行動して傷つけたんだよ。芽生ちゃんに凄く感謝してるのに、そのことを忘れて、置いてきぼりにしちゃってた。ごめん」


 確かに置いてきぼりにされるのは寂しかった。


 だけど、それが云いたかったわけじゃない。置いてきぼりにしないでなんて、人任せなことをこの期に及んで言いたくない。


 今まで、自分から話しかけたり、動いたりしてこなかったから、経験不足だし、力不足だけど、人に頼りっぱなしじゃなくて、自分で動きたい。自分で自分のやりたいことを主導して、楽しみたい。


 気を使われる存在になりたくない。


 傍から見れば仲間だけど、自分だけが仲間じゃないような静かに刺さる苦しい寂しさをもう、味わいたくない。


 「そうじゃないんです。確かに、置いてきぼりにされるのはさみしかった。だけど、だからって、気を使って話しかけて欲しいんじゃないです。それって、傍から見たら仲間だけど、苦しいから」


 「そう、だね。苦しい。自分だけが仲間外れって苦しいよ。泣きたくて泣きたくて泣くが怖くて、途方もなく不安で、みんな敵に思えてくる。全部が信じられなくて、自分を殺したくなってくる。」


 蕾ちゃんが、鼻から息を吸い込んで、空を仰いで、言った。



 冷たい息を吸い込んで、私の目から涙が落ちた。川のように終わりなく垂れてくる。すっと、涼やかに。


 若葉さんがニカっと、笑った。そして、下を見て、続けた。


 「そうだね。苦しい。弱いのに強がって、風船みたく刺されると、バっと苦しさが溢れてくる。」


 

 「うん。それは嫌だから、難しいかもしれないけど、頼りないかもしれないけど、自分で動きたいんです。必死に頑張ります、から」


 2人は深呼吸をして、頷いた。


 「改めて、友達。いや、親友になろう」


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