高校時代の仲間5人が集まる毎年恒例の「闇鍋会」。今年のルールは「驚かせる食材を持ち寄ること」。鍋の中は大混乱!
闇鍋の夜 ~驚きの食材を求めて~
土鍋の中で、ぐつぐつと怪しげな音が響く。立ち上る湯気には、出汁の香ばしい香りが匂っている……
はずなのに、どこか甘ったるく、ツンと鼻を突く酸味も感じられる。
「さあ、今夜は特別な闇鍋だ。覚悟はいいか?」
篠崎がニヤリと笑う。高校時代からの仲間五人で集まる、毎年恒例の闇鍋会。
今年の幹事は篠崎で、「驚かせる食材を持ち寄ること」というルールを設けたのは彼だった。
「じゃあ、まずは俺から」
高橋が箸を伸ばし、鍋の中を探る。ぐにゅりとした柔らかい感触の物体に触れ、ゆっくりと持ち上げると——
「……これ、たい焼きじゃね?」
揺れる茶色い皮の中から、どろっとしたあんこが溶け出している。それがスープに溶け込み、怪しげな甘い香りを放っていた。
「おい、誰だよこれ入れたの!」
「俺! たい焼きって、皮は小麦粉だろ? 鍋の具材と相性いいかなって思って!」
篠崎が誇らしげに言う。
「いや、ねえよ!」
仕方なく口に入れる。ふやけた皮がスープを吸い込み、食感はもはやない。あんこの甘さと出汁のしょっぱさが混ざり合い、カオスな味が口の中に広がる。
「……ヤバいなこれ」
全員が爆笑する。
「次は私ね」
藤崎が慎重に箸を入れる。手探りで何かを掴み、そっと持ち上げると——
「えっ、これ、マシュマロ?」
ふわふわだったはずの白い塊は、鍋の熱で溶けかけてどろどろに崩れ、鍋の表面には白い泡がぷくぷくと浮かんでいた。
「まさか鍋でマシュマロを溶かすことになるとは……」
恐る恐る口に運ぶ。ほんのり甘いが、スープの醤油の香りと相まって、まるで失敗したスイーツのような味になっている。
「……うわ、微妙……!」
「業務用だから、固まると思ったんだけどなぁ」
「それ、どういう発想?」
次に箸を伸ばしたのは鈴木だった。鍋の中をかき回し、何か丸いものをつかみ上げる。
「……えっ、目玉!?」
「うん。マグロの目玉」
マグロの目玉はスープを吸ってぶよぶよになり、つまむと崩れそうな状態になっていた。
恐る恐る口に入れると、コラーゲンがドロリと溶け、出汁と一体化していた。
「……絵面がヤバいことになってる」
「美味しい?」
「うーん……まぁ、味は良いからギリギリ飲める」
「飲むなよ!」
全員が笑う。
「じゃあ、次は私!」
石田が箸を入れ、何かをすくい上げた。それは、細長い茶色い物体。
「……えっ、これ、ダメなやつじゃない?」
「まさか!かりんとうだよ !」
「いや、これ、溶けてデロデロになってるよ……」
見た目はすでに、かりんとうではなく、どう見ても犬のふ○のようになっていた。
恐る恐る口に運ぶと、ほんのり甘い生地とスープのしょっぱさが相まって、絶妙に変な味がした。
「うん……言葉にできない味」
「つまり?」
「まずい」
全員がまた爆笑する。
「じゃあ、最後は俺な」
「お前は、これを使え」篠崎に、お玉が渡される。
「……」
篠崎が無言で、お玉を入れゆっくりと何かを引き上げる。
「……え、これ、ガム?」
鍋の中から現れたのは、カラフルなガムだった。
「おいおいおいおい!」
「鍋の熱で柔らかくなって、もしかしたら新食感になるかと思って」
「ならねぇよ!!!」
「それだけだと、普通だからスープと一緒にどうぞ」
諦めて口に入れると、スープの味と絡んで、噛むたびに妙なしょっぱさとフルーツの香りが広がる。しかも、温かいガムは、歯にくっつく最悪の状態だった。
「おえええええ!!」
篠崎が悶絶する。
「一口で、いくからだろ!」
「これ、飲み込めねぇ……!」
「ガムは飲むなよ!」
全員が腹を抱えて笑った。
こうしてすべてを完食し、今年の闇鍋会も無事(?)に終わった。
来年は、もう少し普通の食材を入れよう——
そう話ながらも、誰一人その約束を守る気がないことを、全員がうすうす感じていた。