「酒を飲むと本性が出る」は真実なのか?
まずはお酒でもどうぞ。甘くて美味しいよ。
ところで、よく「酒を飲むとその人の本性が出る」っていうけど、あれは本当のことなのかねえ。
一見その通りに思えるけど、なんか納得いかないんだよね。
酒ってのは要はアルコール飲料だ。アルコールってのは詳しくは知らないが、脳みそを麻痺させる作用があるらしい。
言ってみれば、体に異常をもたらす毒だ。
酒を飲んだ人は毒に侵されてる状態といってもいい。
例えば猛毒の青酸カリを飲んで苦しんでる人がいて、それがその人の本性かっていうとそんなことないよなぁ。
酒の弱い人はたった一杯でベロンベロンになっちゃうけど、あれが本性だって言われても本人だって嫌だろう。
日頃よく働いてる人が酒でぐっすり眠っちゃって、「ああ、本性は寝たがりの怠け者なんだ」と言われたら絶対怒るだろ。
……とまぁ、極端な例ばかり言ったけど、よく言われるのは真面目な人が酒を飲んで、酔っ払ったらキレたり暴れたりして、ああこれが本性かなんて言われるやつだ。
「酒飲むと本性が出る」って言われる事例の大半はこういうやつだと思う。
だけど、これだってどうなんだ?
内心では日頃から「こいつムカつく」「あいつ殴りてえ」みたいなことばかり考えてるけど、そんな自分を押し殺し、懸命に真面目に生きてる人がいたとする。
この人が酒を飲んで、中の「こいつムカつく」「あいつ殴りてえ」が表面化してしまったとする。
こうなると、この人は“本性はヤバイ奴”って認定されちゃうわけだが、酒さえ飲まなければこんなことになってないはずで、なんか可哀想にも思えちゃうんだよな。もちろん、酒乱なんて悪いことなんだけどさ。
もっというと、心の中はすっごく邪悪なんだけど、一生それを隠し通したまま普通に人生を終えた人がいたとして、結局そいつの本性は邪悪なのか? そうでないのか? 俺としては隠し通したその努力含めてそいつの本性だと認めてやりたいけどねえ。
心の中の邪悪さが同じ100の人間が二人いて、一方は抑制する力も100、もう片方は抑制する力が0だったとする。前者はどうにか真面目に生きられるけど、後者は多分なんかやらかしてムショ行きにでもなるわな。だけど邪悪さは同じ100。この二人の本性は同じ。と言われたら、なんか納得いかんわな。どう見ても前者のがマシだもの。
よく集団が極限状況に追い込まれる的な映画とかアニメで、こういう時って大抵日頃優等生な奴が発狂してパニック起こして、「優等生の中身はこんなもん」なんてストーリーが展開される。逆に普段はパッとしない奴が意外なリーダーシップを発揮して活躍するけど、あれだってフェアじゃない気がするわ。
極限状況になるなんてことがなきゃ、優等生はおそらく一生優等生のままだったわけで。極限状況という特別すぎる状況のせいなのに「優等生だったけど、中身はどうしようもない奴だった」って評価になっちゃうのは気の毒だよね。
だいぶ話が脱線しちゃったかな。何が言いたいかって言うと、酒を飲んでその人が性格変わったり、何か変貌したりしたところで、それが本性とは限らないってこと。
俺としては、色々と心を抑えて日常生活を送ってる普段の姿こそが本性、そんな考えを持ってる。
だから、これから俺が何か変わっちゃっても、それが俺の本性だなんて思わないで欲しいんだ。
そう俺はね、普段は抑えてるんだけど、女の子にイタズラするのが好きでね。酒飲むと体が熱くなって、その衝動がどうしようもならなくなるんだ。君と会う前にもつい一杯飲んじゃって、こうなるともう抑えられない。言葉巧みに女の子を誘って、人気のないところに連れ込んで、後はやりたい放題ってわけ。
君みたいな可愛い女の子は初めてだから、今日は特に楽しませてもらおうかなって思ってる。
ああ、ちなみにさっき君に飲ませた酒はね、甘いけど結構度数高いやつでね。しかも睡眠薬を混ぜてあるから、君ももうすぐ眠っちゃうと思うよ。
え、なに? 君にも酒を飲むとそういうところがある? 日頃抑えてるものが抑えられなくなってしまう?
へぇ、そんなのがあるなら眠っちゃう前にぜひ見せて欲しいなぁ。
……ん?
あれ、あれれ?
君、そんなに歯が鋭かったっけ。目も赤くなってるような……頭には角生えてるし。
まさか……ひょっとして……それが君の本性かい?
完
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