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第4話 イケメン男子は振り向かない(解決編1)



「で、こうして生徒会の仕事を後回しにして部室に来てあげたけど、調査が終わったって本当でしょうね?」

 響谷先輩を偵察しに行った、その日の放課後。

 事前にメールで呼び出しておいたエリカ先輩からの問いに、ぼくははっきり「はい」と首肯した。

「それで、依頼者である東條先輩がここにいるのはわかるけども──」

 言いながら、エリカ先輩はいつものデスクで憮然と腕を組みながら、東條先輩と同じソファーに座っているとある人物に目を向けた。

「どうして、そこに響谷先輩までいるわけ?」

「あ、それ、ウチもさっきからずっと気になっていたんだけど……」

 隣に座る響谷先輩にちらちらと視線をやりながら、エリカ先輩の言葉に同意する東條先輩。想い人が間近にいるのだ。そういう反応をしてしまうのも無理はない。

「前もって連絡しておかなかったのは謝ります。本当にすみません」

 ソファーの横──つまり東條先輩たちから見て壁際に立つぼくは、小さく頭を下げた。

「でもこの件を解決するには、どうしても響谷先輩にこうして立ち会ってもらう必要があったんです」

「待って!」とそこで、東條先輩が突如ソファーから立ち上がって、怒声を発した。

「それって、ウチの依頼内容を響谷君に話すかもしれないってことでしょ? そんなの絶対に嫌よ!」

「でもここに響谷先輩がいないと、あとで色々困ることになると思いますよー?」

 ぼくの右隣に並ぶみずきちの言葉に、東條先輩は「どういう意味?」と怪訝に眉根を寄せた。

「依頼者の希望を叶えるには、この状況は必須ということだ」

「剛ちゃんの言う通りです」

 左隣に立つ剛ちゃんの言葉に頷きつつ、ぼくは話を進める。

「単に調査結果を報告することも可能ではありますが、それだけでは信じてはもらえないと思って、響谷先輩を呼ばせていただきました。ぼくたちの勝手な判断でこのような気まずい状況を作ってしまったのは申しわけないですが、少しだけぼくたちに付き合ってはもらえませんか? 絶対に悪いようにはしないと約束しますので」

「……まあ、そっちがそこまで言うのなら……」

 渋々と言った感じで、ソファーに座り直す東條先輩。

「あと、響谷先輩にとってもこれから都合の悪いことが起きるかもしれませんが、どうかぼくたちの話に最後まで付き合ってもらえませんか?」

「……なんだかよくわからないけど、なにか重要な話があって僕も呼ばれたんだよね?」

 横目で東條先輩の様子を窺いつつ、響谷先輩は続ける。

「いいよ。詳しい事情は知らないけれど、僕が関係していることなんでしょ? だったら最後まで付き合うよ。このまま帰る気にもなれないし」

 ありがとうございます、と二人に頭を下げて、ぼくは「それで」と話を切り出した。

「再度東條先輩の依頼の確認をさせてもらいますが、響谷先輩に好きな人がいるかのどうかを確認してほしいという件で合っていますよね?」

「……っ! そ、そうよ!」

 一瞬だけ響谷先輩を見たあと、東條先輩は頬を赤らめてすぐさまそっぽを向いた。

「え? 僕の好きな人? なんで東條さんがそんなことを……」

 あ、そっか。二人は前に同じクラスになったことがあるだけで、特別親しい仲というわけじゃないんだっけ。だから響谷先輩も東條先輩の想いに気付いていないんだ。

 で、当の東條先輩はいうと、響谷先輩の問いに「そ、それは……」と言葉を濁したあとに、そのまま閉口してしまった。まだ自分から想いを告げる勇気はないというわけか。

 自分でセッティングしておいてなんだけど、ここまで来たらさっさと告白してもいいんじゃないかなと思うんだけどなあ。

 まあ、まだ調査結果を報告したわけではないし、それからでも遅くはないか。

「それで率直に結論を述べますと、響谷先輩に好きな人はいないと判断しました」

「ほ、ほんと!?」

 バッとさっきまで背けていた顔を僕の方へと戻して、東條先輩は驚き共にそう聞き返してきた。

 そうですよね? と響谷先輩に訊ねると、響谷先輩は「え? まあうん」と戸惑いがちに首肯した。

「そ、そっか……。あれ? でもだったら、どうして響谷くんは秋山さんのことを気にしていたの? 好きな人はいないのに……」

「それは恋愛感情とかではなくて、単に別のところに惹かれていただけなんですよ」

「……? どういうこと?」

 無言で響谷先輩の方を見る。そんなぼくの意図が伝わったのか、響谷先輩は困ったように眉を八の字にして、

「話していいよ。というか、君にはとっくに気付かれているみたいだしね」

 そう苦笑しながら言った響谷先輩に、ぼくは少しだけ罪悪感を覚えた。

 探偵をやっていると、どうしても他人の秘密を暴かなきゃいけない時がある。今がまさにその時なんだけど、こればっかりはどうにも慣れないなあ。響谷先輩から事前に了解をもらってはいるから、多少は気持ちも楽ではあるけれど。

「で、由太郎。結局響谷先輩は、秋山先輩のどこに惹かれていたのよ?」

 どうやらエリカ先輩も続きが気になっているようなので、ぼくも「今から説明します」と話を戻した。



「響谷先輩が恋愛感情以外で秋山先輩に惹かれていた理由……それは声です」



「「声?」」

 エリカ先輩と東條先輩が、揃って首を傾げた。

「はい。響谷先輩は秋山先輩が好きだったわけではなく、声が好きだったんですよ」

「はあ? 声が好きってどういうことよ?」

「ウチも、なにがなんだかよくわからないんだけど……」

 うーん。そこまで難しい話でもないんだけどなあ。エリカ先輩や東條先輩みたいなタイプの人には、想像しにくいのかもしれない。

「そこまで悩むようなことでもないだろ。オレみたいな熟女好きがいるように、声が好きな人間も世の中にはいるってだけの話だ」

 と、助け船を出してくれた剛ちゃんに、エリカ先輩は少し黙考して、

「……それってつまり、響谷先輩が声フェチだったって言いたいわけ?」

「声フェチとはまた違いますね。秋山先輩の声が好きと言うよりは、同じ声質を持った声優さん──さらに言うなら、その声優さんが演じているキャラが好きなんですよ。ちなみに檸檬れもんちゃんっていう銀髪碧眼のアイドルなんですが、今期アニメの中でもかなり人気のあるキャラクターだったりします」

「え。声優さん? キャラクター???」

「……もしかしてそれって──」

 頭に疑問符ばかり浮かべる東條先輩と違い、エリカ先輩だけはぼくの言わんとしていることがようやく理解できたようだった。

 当然だ。なぜならエリカ先輩は、ぼくのオタク話をよく聞かされているのだから。

 とどのつまり──



「響谷先輩は、オタクだったってこと……?」



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