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第2話 イケメン男子は振り向かない(事件編2)



「三年の東條とうながマキよ」



 言いながら、東條先輩はテーブルに置かれた紅茶入りのティーカップを手に取って口に運んだ。

 見た目はいかにもギャルと言った感じ。茶髪のロングで、メイクもばっちり。スカートも校則違反すれすれまで短くしてあり、今にも組んだ足から下着が見えそうだった。

 うーむ。ぼくの予想では、意外と白と見た(おパンツの色が)。

「あら。けっこう美味しいじゃん」

 と、邪なことを考えていたぼくに、東條先輩は少し驚いた顔で賛美を口にした。

「エリカ先輩自ら厳選して選んでいる茶葉なので。ちなみにそれ、アッサムだそうです」

「へー。紅茶に詳しいなんて、なんかカッコいいわね」

 東條先輩の褒め言葉に、ふふんと鼻息が漏れる音が背中から聞こえた。背中を向けているのでぼくからは見えないが、きっとエリカ先輩が得意げに胸を張っていることだろう。

 ちなみに紅茶を入れたのは剛ちゃんだ。ああ見えて剛ちゃん、家事スキルが万能なのである。たぶん少しでも熟女に気に入られるためだろう。家事が得意な男子って、女性から見てポイントが高いみたいだし。

「それで、さっそく相談内容に入りますが……」

 ぼくも合間に紅茶を飲みつつ、そう話を切り出す。基本的に相談者から話を聞くのはぼくの役目なので──エリカ先輩曰く、見た目だけなら一番ぼくが人畜無害そうで警戒心を与えないからだとか──ここからが重要となってくる。気を引き締めねば。

「メールでも拝見させてもらいましたが、片想いしている人がいるんですよね?」

「うん、まあ……」

 と若干顔を赤らめて視線を逸らす東條先輩。

「それで告白しようと思ってはいるが、どうにも相手には好きな人がいるらしく、それが本気の恋なのかどうかを調べてほしいと。これで合っていますか?」

「うん。それで合ってる」

「片想いって話だけど、その相手とは顔見知りなんですかー?」

 と、横で耳を傾けていたみずきちが不意に質問を投じた。

「同学年の男子で、去年同じクラスだったわ。好きって気持ちに気付いたのは、三年生に進級してからだけど……」

 みずきちの服装に一瞬眉をひそめる東條先輩であったが、普通に周りが受け入れているのを見てか、すぐに表情を戻して質問に答えた。

「なんで進級してから? 二年生の時は男として意識してなかったとか~?」

「その時はまだ、話し友達くらいにしか思っていなかったから。前々からカッコいいとは思っていたけれど、元からすごく人気者だったし、好意自体あっても憧れみたいなものなのかなって思い込んでいて……」

「それが進級してクラスが離れた途端、一気に想いが溢れてきてしまったと?」

 ぼくの問いに、東條先輩は恥ずかしそうに目線を伏せてこくりと頷いた。どうやら見た目に反して、意外と純情なようだ。

「でも、好きな人を調べてほしいってことは、その片想いの人、まだだれとも付き合ってないってことでしょ? 人気者ならいつ恋人が出来てもおかしくないし、今のうちにさっさと告白した方がよくないですー? だれかに取られる前に~」

「そこに関してはぼくも同じ意見だなあ。仮に好きな人がいたとしても、自分から告白しない限りは付き合うことすらできないわけだし」

 そんなぼくらの意見に、それまで静かに話を聞いていたエリカ先輩が「バカね。相手に好きな人がいるかもしれないこそ、負担になるような真似をしたくないのよ。女心がよくわかっていないわね」と苦言を入れてきた。

「そこにいる金髪の子の言う通り、勝算のない告白をしたくないっていうのもあるけど、向こうに迷惑だけは掛けたくないの……」

 告白されて迷惑かなあ? 東條先輩、ギャルギャルしいけど顔は可愛い方だし、告白されて悪い気はしないと思うんだけど。う~ん、女心はよくわからん。

「根本的な話になるが、そもそも、その男が他のだれかに恋をしているという確証はあるのか?」

 ポットを片付けながら訊ねた剛ちゃんに、東條先輩は表情を曇らせて、

「……ううん。でもあれは、きっと恋をしている目だと思う。だってあんな表情、今まで見たことないもん」

 女の勘ってやつか。当てになるようなそうでもないような、微妙なところだなあ。

「それって、その片想いの男子の好きな人がだれなのか、見当が付いているってこと?」

 みずきちの素朴な疑問に「なんとなくだけど」と頷く東條先輩。

「その子、彼と同じクラスなんだけど、見た目は地味だし、周りにいる子も真面目系だし、ウチが見ている限り、特に目立つようなこともなにもしてないのよ」

「じゃあ、なにか特別な特技を持っているとか、それこそ全国レベルで有名な人物だったりはしないんですか?」

「ウチもそう思って、あの子の名前で色々検索してみたことはあるんだけど、どれも関係ないことばかりで……」

「まあ、好みは人それぞれだからな。ただ単にその男が地味好きって線もあるだろ」

 剛ちゃんが言うと説得力が違うなあ。さすがは現役の熟女マニアだ。

「もしも……もしも本当にその地味系の人に恋をしていると判明したら、東條先輩はどうするおつもりなんですか? さっき迷惑を掛けたくないと言っていましたけれど」

「それは……」

 ぼくの質問に、東條先輩は少しの間視線を彷徨わせたあと、ややあって意志が固まったようにまっすぐ目を見据えた。

「……今はまだ、どっちも決められない。けど、もしも好きな人がいるとわかっても諦めきれなかったら時は、ちゃんと彼に告白しようと思う。そうでもしないと、前を向いて進めない気がするから……」



 ──たとえ、それで気まずい関係になったとしても。



 そうはっきりとした口調で告げた東條先輩に、ぼくは「ほう」と感心してしまった。

 東條先輩って、見た目よりもずっと恋愛に対して真面目な人だったんだな。いかにもパリピな感じだったから、失礼ながらもっと尻軽な人なのかと思っていた。素直に反省だ。

「とりあえず、調査を始めるのなら早めの方がいいよね。受験とか就職試験とかで忙しくなる前に」

「だな。もう本格的に受験勉強を始めている者も多いだろうが」

 みずきちと剛ちゃんの言葉に、ぼくも無言で頷く。相手が受験生だと色々気を遣う必要がありそうだし、依頼を受けるなら慎重に調査を進めないと。

 でもその前に、ぼくらにはしなくちゃいけないことがある。

「エリカ先輩。どうしましょう、この依頼」

 ぼくの問いかけに、エリカ先輩は腕を組んで瞑目した。

 依頼を受けるかどうかの最終決定は、部長であるエリカ先輩にある。普段は生徒会の仕事で忙しくてメールで確認を取る場合が多いが、今回は珍しくちゃんと参加してくれている──だったら、本人に直接訊く以外の選択肢なんてあるわけがない。

 まあそれとは別に、エリカ先輩に華を持たせてあげたいという気持ちもあるけれど。

 本当は毎日でも部活動に参加したいだろうに、生徒会の仕事もあってなかなかそこまで手が回らないエリカ先輩に、少しでも充実した時間を過ごしてもらいたいのだ。それくらいしか、今はエリカ先輩に喜んでもらえる術を知らないから。

 まあ、いつか絶対恋人として幸せになってもらう予定だけれどね。

 しばらくして、エリカ先輩は「とりあえず」とおもむろに口を開いて、

「……あんたたちはどうしたいと思っているわけ?」

 気付けば、探るように片目を開けていたエリカ先輩に、ぼくも「そうですね……」と真摯な気持ちで答える。

「真剣に悩んでいるようですし、依頼を受けていいんじゃないかなと思っています」

「ボクもユタに賛成~。恋に悩める乙女をこのまま放っておくのも後味が悪いしね」

「というより、断るわけにもいかないだろう。恋愛探偵部だったらなおさらな」

「わかったわ」

 ぼくたちの返答に、エリカ先輩は静かに首肯した。

「話を聞く限り、至ってまともそうだし。この依頼、受理するわ」

 もしやエリカ先輩、また変態が関わっているかもしれないと危惧して、さっきまで黙考していたのかな? 相変わらず疑い深いなあ。

 とはいえ、依頼は受理されたのだ。あとはぼくたちの出番である。

「……本当? 本当にウチの依頼を受けてくれるの?」

 縋るような目でこちらを見つめてくる東條先輩に、ぼくは「はい」と胸を叩いた。



「この依頼、ぼくたち恋愛探偵部にお任せください!」



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