『おぞうに』しか食べられないお正月!?
※ 武頼庵(藤谷K介)様主催の「正月はこれでしょ」企画参加作品です。
※ 武頼庵(藤谷K介)様主催『この作品どう?』企画参加作品です。
『明けましておめでとう!』
ゆんちゃんのおうちは、今年も一家四人そろっての元旦をむかえました。
今年こそは寝ないで年越しをすると意気込んでいたゆんちゃんでしたが、気がついたらもう朝になってました。ざんねん。
でも、元旦には特別なお楽しみがあります。それは通販でお取り寄せしたおせちセットと、そして──2種類のお雑煮。
何と、ゆんちゃんのおうちでは毎年2種類のお雑煮が作られるのです。
ゆんちゃんのパパは関西出身、ママは関東出身です。味の好みにだいぶ違いはあるけど、普段はうまくゆずり合っています。おそばは関東風、おうどんは関西風という具合にね。
ただ、お雑煮の味についてだけはどちらもぜったいにゆずらず、結婚したころからそれぞれのお雑煮を作っているんだそうです。
パパのお雑煮は白みそ仕立て。サトイモやダイコンなんかが入っていて、煮た丸もちもすこしとろけるようで、甘めのやさしいお味。
ママの方はおしょうゆとミリンのおすまし風。焼いた切りもちと鳥肉、シイタケ、カマボコなんかも入っていて、きりっとした味わいがすてき。
──ちなみに、好き嫌いの多いかずや兄ちゃんは、インスタントのお吸い物に焼いたおもちを入れて『ぼくはこれがいいんだ。あー、マツタケうめー』とか言っています。それ、本物のマツタケは入ってないんですけどね。
ゆんちゃんはどちらのお雑煮も大好きで、特にかわるがわる食べるともうおはしが止まりません。でも、はふはふ言いながら食べていると、今年もまたあの質問タイムが始まってしまったのです。
「ゆんちゃん、ママのお雑煮の方が好きよね?」
「いーや、パパのお雑煮の方が美味しいよなぁ?」
──ほんとに困った人たちです。どちらを選んでも、選ばれなかった方はものすごーくふきげんになっちゃうんですから。毎年、この後のごきげん取りがたいへんなんですよね。
でも、今年のゆんちゃんは一味ちがいます。前もって、とっておきの答えを思いついていたのです。
「どっちのおぞうにも大好き! だから、ゆんちゃん、およめさんになったら両方とも作るの!」
「あら、うれしいこと言ってくれるじゃない」
ママはにこにこしていますが、なぜかパパは真っ青になって何やらつぶやいています。
「そ、そんな……。ゆんが嫁にいくなんて──?」
あれ。なんでよろこんでくれないんだろう。
そう首をかしげていると、かずや兄ちゃんがからかうように横から言ってきました。
「馬鹿だなあ、ゆん。おむこさんの味の好みがちがったら、もう1種類作らなきゃいけないんだぞ?」
あっ、そうか。
「いや、おむこさんもご両親の味を受けついでいたら全部で4種類だ。それだけいっぺんに作って食べるの、たいへんだぞ?」
お、お雑煮が4種類も!? それだと、ほかのごちそうはいっさい食べられなくなっちゃいそうです。
ショックを受けているゆんちゃんを見て面白くなってきたのか、かずや兄ちゃんがさらに続けてきます。
「ゆんはまだいいぞ。ゆんに子どもができたらその子はなんと8種類だ。そのまた子どもは16種類だぞ。そのまた子どもは──」
「かずや、何ばかなこと言ってるの。そんなにお雑煮の種類なんてあるわけないでしょ」
ママがあきれ顔で止めようとしますが、かずや兄ちゃんは止まりません。
「あれ、ママ知らないの? 日本全国には、お雑煮の種類が山のようにあるんだよ。
丸もちか切りもちか、それを焼くのか煮るのか、それに味付けとか具材もバラバラでさ。
僕、前に本で読んだことあるんだ。
──ゆん、中にはお雑煮のもちにあんこを入れるところもあるんだぞ?」
えええ──っ、うそでしょ!? そんなの、味がぜんぜん想像できません。
「あのねぇ、そんなに全員の好みがバラバラになるわけないでしょ。せいぜい2・3種類までよ」
「まあ、それもそうかな」
そうママとかずや兄ちゃんの話は落ち着いたのですが、ゆんちゃんの耳にはまるで入ってきません。
まさか、自分がどっちのお雑煮かを選ばなかったばかりに、そんなことになってしまうなんて。4種類までならまだ何とかなりそうですが、その中に自分のきらいなものが入っていたら──。
それに自分の子どもやその子どもにまで、お正月におぞうにしか食べられないような、そんな『おもいしゅくめい』をせおわせてしまうことになるなんて──。
ゆんちゃん、実はとんでもなく『つみつくり』なことをしてしまったんじゃないかな……。
そんなわけでゆんちゃんは、せっかくの元日を暗い顔で考えごとをしながらすごすことになってしまったのです。──なぜかパパも、ですが。
次の朝。
「おはよう! ──あれ、パパ、元気ないね?」
パパは昨日に引き続き、今日も青白い顔です。ゆうべよく眠れなかったのかな?
それにくらべて、今朝のゆんちゃんは元気いっぱいです。なぜなら、ゆうべ寝る前にあるアイデアを思いついていたからです。これなら作るお雑煮の種類がどんどん増えなくてすむ。──ゆんちゃんって実は天才なんじゃないかな。
「パパ、ママ、かずや兄ちゃん! ゆんちゃんいいこと思いついたの! これなら、作るおぞうには2種類のままでいいんだよ!」
「あらあら、なあに?」
「おっ、何だ? およめさんに行くのはやっぱりやめるのか?」
パパの顔が少し明るくなった気がします。よーし、この天才的アイデアを聞いたらパパはもっとよろこんでくれるはず。
「ううん、ちがうよ。
ゆんちゃんはね、お雑煮のない国の人のおよめさんになるのっ!」
──ママとかずや兄ちゃんは、なぜかお腹をかかえて笑いだしてしまいました。
パパが真っ白な顔で動かなくなってしまったのは──ゆんちゃんの天才っぷりにおどろいたからなんでしょうね、きっと。