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「発砲!」
オールはそう言い、大砲の引き金を引く。しかし、大砲は軋んだ音を上げて、熱を周囲に走らせ…
暴発した。
ドドーン!
周囲の人を巻き込んで、大砲は爆発を起こし、爆風によって砂煙が巻き起こった。
「陛下!!」
少将は慌てて駆け寄るも、高熱と煙が収まるまでは中に入って行くことができなかった。兵士たちは皆煙を見ながら立ち尽くしていたり、辺りを右往左往していて、それを見た少将は指示を出した。
「前衛部隊は予定通り戦闘に入れ!後衛部隊は全員集合しろ!」
指示を聞いた兵士たちは次第に散っている煙を見ながらも持ち場に移動し、事件現場には野営地から来た後衛の人たちが集まった。
「水を持ってきました!」
寄って来た兵士の一人が水を持ってきて、煙に水をかける。煙が晴れていくのを見て、少将は様子を確認しに入る。
「陛下!」
カン!
駆け寄った少将が持っていたナイフを煙の中から現れたオールが蹴り落とす。
「なっ!」
少将は驚きの声を上げ、思わず倒れ込む。
「…やれやれ、僕を狙うのはいいにしても、周りもまったく気にせず巻き込むとはね。」
「…陛下!生きておられたの…ですね…。」
少将はオールの声に言葉を詰まらせた。
「…暴発事故だけでは、そこまで重い責任を取らせるつもりはなかったが…
これはどう説明するんだ?」
オールは地面に落ちたナイフを拾い上げる。
「まさか、魔法でもなくこんなものを使うとは…。
予備プランまでしっかり練っておくのが策士というものだよ。…大砲の暴発は確かに重大な怪我を引き起こすものだが…、こういうものがあるんだよ。」
オールはポケットから壊れたアクセサリーを取り出す。
「これは致命傷を受ける時に一度だけ身代わりになってくれる魔道具さ。
…隣の人たちにも渡しておいて正解だったよ。ここまで無遠慮だとは思っていなかったけど。」
そうオールが言った時に、ちょうどオールの隣に並んでいた兵士たちも煙の中から無傷の姿を現した。
「さて、一応君の弁解を聞こうか…、バレドリア少将。」
地面に崩れ落ちていたバレドリア少将は立ち上がると、開き直ってこう言った。
「つけあがるなよ!上級国民風情が!
俺たちはお前らが優雅にお茶を飲んでいる間も血や汗を垂らしているんだ!
俺らには不平を言う権利がある!悪しき執政者を滅ぼす権利がある!なのにお前らは俺たちの不満を聞こうともしないどころか選挙権を奪い、貴族がさもいい事をしているかのように中流の民たちに空事を並べている!
選挙にも訴えられないなら、俺たちはここで政府を変えるしかないんだ!第13班、殺せ!」
すると、オールと共に電車に乗っていた銀等級の兵士が一人前に進み出た。
「…甘かったですね。」
するとその兵士は少将を蹴り倒し、気絶させた。
「陛下。他の者たちも鎮圧しました。撤収準備も整っております。」
その兵士は陛下にそう言った。
「マーレ。先に向かっていてくれ。」
「承知しました。」
その兵士…マーレはお辞儀をして、鉄道の停車場へと向かった。それを見送ったオールは兵士たちに向き直った。
「…わかっている。君たちが不満を抱えていることは。
信じてもらえないだろうが、僕は今の政治を変えようとしてきたんだ。しかし、他の者たちに阻まれてしまって、今となっては国王は実際は形だけだ。そして、僕はその状態に諦めを感じてしまっていたんだ。
少将の言葉は僕にとっては重い言葉だった。彼は何も間違ったことを言っていない。ある人にも言われたが、僕は現状をもう一度動かないといけない。しかし、国民を巻き込み、戦争を劇場とするのは正しいやり方ではない。元々苦しんでいなかった国民を苦しめるのは、君たちにとってはある種の報復かもしれないが、これは更なる亀裂を生むのみだ。僕は戦争を終わらせ、言葉と法によって、君達を助けたい。
もちろん、僕が信用に値しない人物であれば、ここで殺してくれて構わない。王家の遺産も好きに使うといい。
もし、僕をこのまま返してくれるというのなら、君たちの世界をより良くする事を約束するよ。」
オールはそう言って歩き出す。兵士たちは何も言わず、ただ道を開け、品定めするような目だったが、壊れた身代わりのアクセサリーを握った兵士が声を上げた。
「今回が恩義があるので、今回は無事に帰ってください。
ですが次に会った時は…、見逃す気はありません。」
どうやら彼は人望のある兵士のようで、そう言った瞬間、他の人の視線は見送る視線へと変化した。
「ありがとう。」
オールはそう言って立ち去った。
★ ★ ★ ★ ★
「陛下!ご無事ですか!」
電車に乗り込むとマーレはオールにそう声をかける。
「もちろん、心配させて悪かったね。バレドリア少将も乗っているのか?」
「縛って貨物車両に載せてあります。代わりに指揮をとれそうな知り合いもいたので彼に任せて起きました。」
おそらく今回は不意をついた形だろうが、他の銀等級の兵士を倒し、少将も一撃で気絶させるマーレの実力は相当なものだ。味方であって良かったと、マーレの心配そうな表情を見ながら、オールは思った。
「早く戻ろう。セバスチャンやルナのこともあるしね。」
しばらくしない内に電車は走り出し、戦場から段々と遠ざかって行く。
「…陛下。」
「どうしたんだ?マーレ。」
「倉庫内に毒ガスがありました。使用方法のラベルを見るに、魔獣のみに効くものでした。」
「…待て。それが軍が行っていた『勝つ用意』か?」
「その可能性が高いです。…ルナ様たちの方でも、既に事が起きている可能性が高いです。」
「…。」
ガタン!
すると突然、電車内が大きく揺れた。
「様子を確認してきます。」
電車が止まってしまったのを見て、マーレは運転席の方へ向かった。オールは窓の外を確認していたが、誰かが乗り込んできた事に気づき身構えた。
「…。」
乗り込んできたのは、全身を鎧で覆った兵士だった。彼は迷う素振りを見せずにオールが乗っている車両へと向かう。
「…ウィンドランス。」
オールを目掛けて放たれた風の槍が放たれる。オールは何とかそれを躱したが、追撃がすぐに飛んでくる。
「ハンドレッドボルト!」
音で侵入者に気づいたマーレが後ろから兵士に一撃を喰らわせ、オールの方に駆け戻り、追撃の槍も撃ち落とした。
「どうやら線路が爆破されたようで、復旧には時間を要します。
…僕たちがここまで戻ってくることも想定されていたようですね。」
「…ああ。実に計画通りだ。
あにバカ少将も処分できて、総監はご満悦だろう。」
侵入してきた兵士はマーレの言葉にそう返す。その余裕から、マーレとオールは只者ではない空気を感じ取った。
「…あなたは誰なんですか。」
「陸軍大将アズレド、貴様らを冥土に連行するよう命じられた。」
「…ずいぶんと大物が来ましたね。
陛下は下がっていてください。こいつは僕が片付けますので。」
「では、参る!」
そして電車の中で魔法の音が轟いた。




