introduction(2)
「それでは、受験番号28番の方。どうぞ。」
「はい。」
紫髪の女の子が入ってくる。
「そちらにお掛け下さい。」
「ありがとうございます。」
そういって、女の子は腰かける。姿勢はきちんとしていて、好印象。容姿も相まって、非常に所作が美しいように見える。
「早速なのですが、実技を行います。今回の内容はフレイムでこの板の中央部だけをきれいに焦がしてください。燃え尽きたり、広めに焦がしたら減点です。」
今回の試験はかなり難しい。ある一点に少しだけ力をかける。これほど難しいものはない。
「それではお願いします。立っても座っていても構いません。」
「それでは…。」
女の子は座ったまま、板をボッと燃やす。
火は一瞬で消えて、中央部だけきれいに焦げた。燃え尽きてもいない。ちょうどいい火加減だ。範囲も適切。中央に描いてあった円とほぼ一緒の範囲を燃やしている。これは最高評価だ。
「ありがとうございました。大教室でお待ち下さい。」
「失礼しました。」
これは期待できるな。
で、できた…。魔流操作すごい…。
昨日の夜、ガルドラに教えて貰ったのは魔流操作、ただそれだけ。
「魔力感知では魔力の流れを感じているだろう?魔法の発動場所は実はそれに流されることで決まっている。魔法の発動位置を読めるなら知っていると思うが…。
まあそれはいい。話を戻すと、この流れを制御することで、魔法を好きな位置に発動させられる。また、相手の魔流が強くなければ、発動位置を変えることもできる。自分の魔流を操作できるぐらいまで弱めて、制御した上で強くすれば、魔法使いよりも正確に魔法を打つことができる。
魔力感知は魔獣は先天的にしか覚えられない、が覚えている数は意外と多い。魔獣の勢力をあげるきっかけになるかもしれない…。」
と、長々と話されたけどほとんど覚えていない。覚えているのはその次で
「まず魔力感知で流れを感じる。その流れをどう変えるかだが、尻尾だ。尻尾を少しずつ動かして調整する、それだけだ。」
最初からそれだけ言ってくれればなぁと思ったところ。
実際これだけで精度が大幅に改善した。理論はいまいち分からんけどこれはすごい。
試験は無事終わり、帰ったら、ガルドラは私のベットの上に転がっていた。昨日からずっとここにいる。
「どうだったか?」
私を見るとガルドラは訪ねる。
「結構できたよ。実技もミスはなかったし。」
「そうか…。受かるといいな…。」
「受かってもらわないと困るんだけど。」
これは私の生活がかかっている。不合格だったら私は路頭に迷うばかりだ。さらに受かったとしても特待生でないと、途中で生活困窮者になってしまう。さらっと流せるものではまったくない。
「それはすまんな。少し考え事をしててな…。」
確かに昨日と比べると明らかに上の空だ。
「何かあったの?」
「いや、なにもない。心配しないでくれ。」
「それならいいけど。」
というか、いつ帰るんだ?
「お前が合格したらだ。」
不合格したらどうなるんだろう。
読心術で読んでいるはずなのにガルドラは答えなかった。
翌日、合格発表を見に、受けた魔法学院、ルエール魔法学院へと向かった。レンガ造りの正門を入って少し奥にあるところに黒板がたくさん並べられていて、そこに合格者のリストが貼り出されていた。近くに仮説テントが張ってあってそこで入学手続きも行っている。
すごい緊張する。こういうとき、見たいけど見たくない、願望のままでいたい、そういう気持ちになる。でも、止まってたら、私の全てが…消える。ラストチャンス、運命の分岐点、もう変えることはできない。
勇気を振り絞って、見る。
私の番号は28番。なかったら、負けだ。
特待生、2、5、…28。
あっ、あった…。生きる希望を叶える唯一のルート。その最初の門を突破した。
なんと言っていいか分からない。ただ、その表しがたい喜びが私を覆った。
そして、入学手続も済ませ、家へと帰るとガルドラはいなくなっていた。
…言いたいことがいっぱいあったのに。受かった今となっては感謝の念しかない。
急にさびしくなったな…。もともとこれが普通のはずなのに。
既に日が暮れかかっている。カーテンを閉めようとしたけれど、夕日をぼんやりと眺めてしまっていた。
…。…しまった。…問題に気づいてしまった。入学してからどうばれないようにすごすか、だ。
見た目は問題ない。ただ、魔力感知で一瞬でバレてしまうのだ。ガルドラと会った時、私の魔力感知でも魔獣か魔法使いの判別は容易にできる。おまけに透明化魔法はいっさい無視だ。魔流操作で誤魔化すことも一応可能だけれども、かなりの高等テクでそれを常時行うのは容易ではない。
でもさ…魔力感知使える人ってなかなかいない気がする。今まで魔力感知が使える人に会ったことがあるならその時点でバレているはず…、つまり…大丈夫なのかな?うん…大丈夫!魔力感知使えそうな人の前だけ魔流操作使えばいっか!
入学式は来月8日、その時から私の新しい生活が始まる。期待を膨らませながら、白いベットに飛び込むと暗い空が目に入る。流れ星がその夜空をかけていった。