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「術解!」
セバスチャンさんは術解を発動し、青いオーラを身に纏う。
「連殺!」
セバスチャンさんは一瞬で距離を縮め、セルビア総監に一撃を加える。
「ちっ!」
そしてその硬直に二撃三撃を叩き入れ、回避を許さない攻撃を仕掛ける。
「フリーズ!」
セルビア総監は一瞬足を凍らせることで動きを止め、間合いを取り直す。しかし、セバスチャンさんの攻撃は止まらない。
「烈迅拳!」
またすぐに距離を縮め、攻撃に入る。セルビア総監は氷の剣で受けようとしたが、一瞬で砕かれ、拳を何発も食らった。
「…この執政総監と同じぐらいの年だろうに、気迫がまったく違うじゃないの。
やっぱ国王はこんな優秀な人を雇えて羨ましい。…こっちはろくな教育すら受けられない人もザラだというのに。」
セルビア総監は毒付く。
「君たちにはこっちの気持ちなんかまったく分からないだろうね。
分からない奴に何言っても分からないだろうから、お話は終わりだ。術解。」
セルビア総監も術解を発動する。
「お遊びは終わりさ。」
強烈な寒波が部屋に満ち、雪や霰混じりの風が部屋に吹き込んでくる。その寒さは私がある程度相殺しても、足が震えるほど。霰のせいで全身が物凄く痛いし、雪のせいで視界も悪い。
「炎神の加護。」
私は炎になることで、寒さと霰の痛みは解消できる。でもセバスチャンさんにも同じ魔法をかけるほどの技量は私にはない。身体強化を主体とする人だから他の魔法を使う人に比べれば大丈夫だろうけど、それでも長期戦は辛いだろう。
「ブリザードランス。」
魔力感知で何とか飛んできた氷の槍を避ける。ただ、視覚の方が魔力感知よりも効率よく情報を処理できるので、視界の悪さを無視できるという程でもない。おまけに相手の魔法のパワーも物凄く上がっていて、ちょっと掠っただけでも少し皮膚が凍りついてしまう。まともに食らってしまったらそのまま攻撃の餌食になってしまうだろう。
「ハッケイ!」
「シールド。」
セバスチャンさんとセルビア総監の声だ。どうやら攻撃は主にセバスチャンさんに向かっているようだ。私は魔力感知で場所を特定しながら、私も攻撃を行う。だけれども、あまり効いている様子はなさそうだ。
「冷気で火力が落ちてる…!」
何とかこの冷気を和らげないと私の攻撃は有効打になりそうにない。…何とか、その何とかがあれば…。
「龍翔天上!」
「氷雪星。」
二人の魔法がぶつかった衝撃は次第に強くなり、その余波はこちらまで響く。辺りのものは凍りつき、吹き飛ばされ、ぶつかり合う。氷が非常に硬いので、もの同士がぶちかっても削り合うのみで、新たな凶器となって、私を四方八方から襲ってくる。
「…あれ、待てよ…。」
閃いたかも。
「レンゲキ!」
「スノーバースト。」
ぶつかり合う衝撃が次第に弱くなってきた。魔力感知で見ると、セバスチャンさんの魔法が段々と弱まっているのが分かる。仕掛けるタイミングを見計らっていたけど、そろそろセバスチャンさんが限界だ。
相手は隙を見せてくれない。常に周囲に警戒を張り、不意打ちもまったく許さない。賭けではあるが、ここで行くしかない。
「グランドファイヤ・ショット!」
私はセルビア総監を狙って、炎弾を放つ。そして続けて
「フレミナルレーザー十六連!」
敢えてセルビア総監を外してレーザーを16本放つ。別に闇雲に打っているわけじゃない。囲うように16個、すると…
「シールド。」
相手は攻撃を防ぐしかなく、位置が固定される。そう長くは持たないが、そこは気合いだ。私は一気に近づき…
凍った部屋の箪笥を投げつける。
「…!」
当たった。これだけ魔法がぶつかり合っても割れたりしない氷だ。強度は相当なもの…、当たればただでは済まない。当たった瞬間、部屋の冷気がぐっと弱まったのが感じられた。
ここで終わらせる!!
「今です!グランドヒート・オーバー!」
「破天必殺!」
いけえええええええええ!!!
★ ★ ★ ★ ★
「はぁはぁ…、大丈夫ですか?セバスチャンさん。」
部屋の冷気が弱まったのを確認し、私は大きく息を吐く。部屋の壁は大破していて、外の様子がここからそのまま見える。お互いの技量が相当だったことが感じられる。
「…流石に…、老体には堪えますね。」
セバスチャンさんの服はボロボロだ。ところどころ凍傷も起こしている。私は患部を優しく温めながら、今にも倒れそうな体を支えていた。
「オールさんは大丈夫でしょうか…。」
「…陛下なら心配ないでしょう…、マーレも若い…。
このまま職務復帰できなさそうな私よりも、随分と余裕な表情で帰ってくるでしょう。」
セバスチャンさんの声は非常に弱々しい。虫の息そのものだ。早く病院に運ばないとまずい…。
「ずいぶんと余裕そうじゃないか。」
すると突然、氷の槍がセバスチャンさんの槍を貫く。咄嗟のことで私はセバスチャンさんを庇うこともできず、氷の槍は胸に深く突き刺さる。
「セバスチャンさん!」
反応はない。心臓に手を当てても拍動は無い。
…死んでいる。
「…ああ…。」
油断していた。人の死は何回も見てきたけれども、目の前で死ぬ光景は何度見ても一つ残らず記憶にこびりつく。命は重い。そこには自分が見るものと同じ、それ以上の長さの別の記憶がある。命がいくつも積み重なって今の世界を形作る。欠いていい命などない。
そんな重いものを目の前で失ってしまったら、その重み、責任は私の心に深くのしかかる。…今回は完全に私の責任だからなおさらだ。
「…さてと、一人潰したから格段にやりやすくなったね。ここまで痛かったのは久しぶりだよ。」
私の目の前にセルビア総監は姿を現す。術解のオーラはさっきよりも強い。魔流も違う。
「さあ、こっちのターンだ。」




