表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

社畜の俺はJKと夢を見る。

つまらない毎日。しかし多忙な毎日。

 



 ピピピッ


 ピピピッ


 ピピ――ガッ!



「――......」




 めざましの頭を押さえ込み、黙らせ、俺は目を閉じたまま思考を巡らせる。



 眠気にまみれた頭を抱え、逆算を開始。あとどのくらい寝ていても大丈夫なのか?どれだけまだ幸せな惰眠を貪る事が可能なのか?文字通り、夢と現実のせめぎあいだ。


 しかし、この塩梅をミスると仕事に遅れるし、ましてや一日中上司の冷たい目にさらされ、ただでさえ疲労度の濃い仕事が過労死レベルに達してしまうかもしれない。それだけは嫌だ。俺はまだ生きていたい。


 ――......はあ。起きるか。


 這いずるように布団から出て、眼鏡を探す。大抵の場合、疲労困憊での布団へ潜り込み、後にスマホのゲームをしながらの寝落ち。なので、寝る直前までいた眼鏡が消えていてもその行方を知らないし、視力の悪い俺の目では寝起きも相まって捜索は困難を極める。


 んー、この辺か?......あ、あった。良かった。壊さなくて。


 探しだした眼鏡を装着し、寝癖がひどい頭をかきながら身体を起こす。

 時計に目をやりながら洗面所へよろよろ向かう。


(時間が......朝ごはん食えねえな......)


 スマホを片手に選曲しつつ、鏡の横に置いてあるくたびれた歯磨き粉のチューブを捻り、歯ブラシで歯を磨く。


(......これ、これでテンションあげよう)


 再生を押すと流れ出した好きなアーティストの曲。しかし心は踊らない。何故なら曲の歌詞とは違い、俺がこれから向かう先には希望もなければ展望も無い、つまらない会社だからだ。


 与えられた仕事を事務的に、作業感すら覚える手順でこなす。しかしそんな簡単な仕事でもミスはおきる。それは俺がポンコツなのか、人がそういうものだからなのか分からないが、まあ、ミスれば上司からお叱りが飛んで来るのだ。

 俺はそれがたまらなく嫌で、とてつもないストレスになる。嫌で嫌で、速攻で辞表を書いて出して家に帰り、趣味で大好きなネトゲの世界へとダイブしたくなる。


 そうだ、辞めたい......俺はこの生活費を稼ぐだけの、なんのやり甲斐もない仕事を辞めたい。けれど、それは出来ない。

 辞めてしまえば、次の仕事が見つかるという保証はない。

 見つからなければ生活も出来ないし、大好きなネトゲやゲームも出来ない。


 だから社畜として必死に社会の歯車を回しているのだ。理不尽や不安感に押し潰されるギリギリのところで。


 そうして俺はいつものように扉を開けた。



 ガチャン――......



 ◇◆◇◆◇◆



 ......――ガチャン


「......」


 仕事から帰宅した俺は、はあ、と心の中で溜め息をつく。一人暮らしの部屋に愚痴を撒いたところで虚しいだけなので言葉にはしない。

 脱ぎ捨てた靴に消臭剤をぶしゅう!と吹き掛け、乱暴に捨て置く。


 しかし、そんな心身共に疲労している俺だが、この仕事から解放されネトゲにイン出来るこの時だけは少しばかり元気になる。


 PCを起動させ、スーツを脱ぐ。スマホの攻略サイトを眺めながら、あいつとの話のネタになるような事を探す。

 あいつ......そう、俺にはネトゲで知り合った友人がいる。そいつはいつも明るく、俺の仕事での愚痴を聞いても嫌な顔をせず、「うんうん、わかるよ」と言ってくれる。

 同じ社会人なのか、「働くって大変だよね」とか「私も最近、身体がキツくてさ~」とか理解を示してくれる。


 そんなあいつとの出会いは二年前。いつものようにネトゲで遊んでいたら、道に迷っていたあいつを発見し、近場の町まで送ってあげたのが始まりだ。




 ――あの猫耳の女の人。迷っているのか?


『あの、お困りですか?』


 急に知らない奴に話しかけられたせいか彼女は黙りで此方を見つめる。もしかして、チャットうてない?

 頭にあるあの葉っぱはビギナーの証だ。チャットで話すことになれてなくても不思議ではない。

 

『あ、はい』


 お、喋った。


『実は友達とはぐれてしまって』


 成る程、それでうろうろしてたのか。


『もしよければこの先の町まで案内しますよ? お友達もきっとそこにいるかと』


『すみません、助かります』

『いえいえ』

『私、まだこのゲームはじめたばかりで』

『ああ、成る程。 ここは迷いやすいですからね』

『はい』


 ここは本当に迷いやすい。俺も初心者の頃迷いに迷って一時間くらい無駄にしたっけ。この道を作った開発をめたくそに言ったもんだ......懐かしいな。


 そんなこんなで無事に町へと到着。手を振るモーションでお別れしようとした時。振り向き彼女はこう言った。


『あの』

『はい?』

『お礼がしたいのですが』


 律儀なプレイヤーさんだな。珍しい。


『いや、大丈夫ですよ。 お気になさらず』

『お願いします、何かさせてください』

『いやいや、初心者さんを助けるなんて普通の事ですから』

『そこを何とか』


 そこを何とか!?何故にそこまで食い下がるのか。しかし、この調子では簡単には解放してもくれなさそうだ。うーむ、お礼といってもゲームマネーなんて貰えないし、始めたばかりじゃアイテムだって貰えない。けれど、逃げるのも可哀想だしなあ......。


『そうだ、じゃあ』

『はい、何でも言ってください!』

『じゃあ、その文字通りに。 何でも言わせてもらおうかな』

『?』

『俺の愚痴を少しばかり聞いてほしい』

『愚痴をですか?』


 変な提案だってことも理解している。けれど、他に何も思い付かないし、逆にこれで逃げてくれれば有り難い。

 変な噂は立つかもしれないけれど。


『わかりました!』


 え、わかりました!?


『いつでもどうぞ!』


 わかっちゃったか~。まあ、仕方ない。こうなったら愚痴らせて貰おう。ここ最近のネトゲの愚痴を。




 そんな愚痴の言い合いが不思議と心地よく、いつの間にやらプライベートな話もするようになり、果ては会社での愚痴を言うまでになった。

 そんな感じでいつも一緒にいるようになり、ネトゲ嫁にもなってくれて、俺の生活を支えてくれている大切なフレンドになったのだ。


 ずっとネトゲに居られれば良いのに。ネトゲで幸せを感じれば感じる程にリアルがどうでも良くなる。俺は今年でもう三十歳。しかも会社では出世の兆しも見込みもなし。

 ずっと......このままだったらどうしよう。いや、違う。ずっとこのままだ......このまま、朝起きて仕事に行き、帰りネトゲをし眠る。また朝起きて......そのサイクルから抜け出せずにきっと四十、五十、六十と歳を重ねて、彼女も妻も出来ずに死んでいくんだ。


 ああ、憂鬱になってきたな。何か......何か楽しいことはないか。この退屈で絶望的な毎日から抜け出せる、何か。



『やほー! インしてますかー』


 あ、ネトゲ嫁。


『居るよ。 おかえり』

『おお、ただいまー!』

『お疲れ様』

『うん、お疲れ様~!』


 あ、ヤバい。さっきまで余計な事考えてたから、何も喋る気しない。気持ちが、心が澱んでる。


『......? どした?』

『いや。 ちょっとネガティブになってるだけ』

『また会社でやなことでもあったの?』

『会社、と言うか』


『と、言うか?』


『全部かな。 あんまり未来が明るくないような気がして』


 あー、ちょうめんどくさい奴になってる。いつもの愚痴とかとは違って、こんなんどうしようもない。

 返答するのでさえめんどくさいような、こんな事今まで言ったことも無かったのに。

 そんな事に気を遣えなくなるくらいに、本当にまいってるのかもな......。


 謝ろ。



『うんうん、わかるよ!』


 え、わかるの。


『いや、無理しないでいいよ。 ごめん、めんどくさい事言って』

『......? 何が?』

『いや、流石にこれはネガティブ過ぎてめんどくさいだろ』

『そんな事無いよ。 私もいつも思ってるもん』

『え?』

『このまま頑張っても先があるのかな?とか、報われるのかな?とか』


 ああ、この人もそうなのか。何だか心にかかってた靄が晴れた気がする。話して良かったかもしれない。

 自分と同じ場所にいる人が存在する。辛さを、苦悩をわかりあえる......これだけでまだ頑張れる気がする。


『ありがとう。 元気でた』

『いえいえ』


『ところでさ』

『?』

『こないだ君、駅前のカフェで本読みながら珈琲飲んでたって言ってたよね?』

『あ、うん』


 確かに言ったが。それがどうしたのだろう。


『前に駅の近くにペットショップ、カフェ、本屋さんがあるとも言ってた』

『......うん? うん』


『お仕事はスーツを着ている』

『着てるけど』


 何なんだ?何を確認されてるんだ、これは?


『おっけー』

『何が!?』

『あはは、こっちの話』

『ええ』


 俺はその質問の意味を次の日に知る事になるのだった。




 ◇◆◇◆◇◆



 いつも通りの朝。身体が疲労で重い......早く休みが欲しい。そんな身体を無理やりおこし、時計を見る。


「――あ、やべ......え、マジ?」


 時はとうに出社予定時刻を過ぎていた。慌てて会社に連絡をいれるも、上司には怒鳴られ「お前のようなやる気の無い奴がいると周りに影響するんだよ!今日は来るな!」と言われてしまった。

 これは本当に来るなということか?それともただあたりたかっただけ?

 ......どちらなんだろう。


 あー、なんか考えんのも面倒くさくなってきたな。なんでこんなに苦しんでんだ?

 どっから間違えた?俺の人生は、一体どこから。


 ......いや、どのみちこうなっていたのかもしれない。働くってのは想像以上にキツくてツラいモノだっただけだ。

 好きなことを仕事にしてはいけないと誰かが言っていたが、あれは本当かもしれん。好きなことでさえ嫌いになってしまったら、残るものは何も無くなる。

 そうなれば......。



 気がつけば行きつけの喫茶店に来ていた。


 ネトゲでもして気を紛らわせれば良かったのかもしれないけど、どうにもじっとイスに座っていられなく、ふらふら歩いていた。

 ここまでの記憶もあまりない。そりゃそうだよ。寝坊からの無断欠勤......クビか?まともに頭を回せる訳もない。......本当にダメ人間だな、俺は。



 カフェに入ると、客は少ない。とりあえず奥の目立たない席へと向かう。するとパタパタと店員さんが走りよってくる。


「あ、お一人様ですか」


 あ、あまりのテンパりように勝手に席へつこうとしてた。......恥ずかしすぎる。


「......は、はい、すみません。 一人です」


 一人。俺は......孤独だ。もし、これで仕事をクビになり無職となれば、不況の世の中だ。どこにも行き場は無い......バイトとかで食い繋いで、正社員などもう夢に消え、手が届かなくなる。これは詰みか。



「......」


 ん?......なんか、いつの間にか隣の席に誰かが居る。おかしい。他にも空いてる席は沢山あるのに......。


 しかも勘違いでなければ、視線を感じる。


 見られて......る?何で?い、いや、気のせいだろう。そう思いチラリと横目で見てみた。

 帽子を深く被っていて、更にサングラスまでかけている。なので顔を確認することができない。しかし知り合いでは無さそうだ。この時間にここにいるということは職場の人間ではないし、かといって友人かと問われれば答えはノーだ。何故なら俺に友達と呼べる人はネトゲの中の、しかもネトゲ嫁くらいなもので、リアルにはいない。


 そして何よりこの小柄な体躯は女性だろう。ほのかに香る柑橘系の爽やかな香水の匂い。帽子の下から流れている美しく艶やかな長髪。それは漆黒と呼んでも差し支えのない程の深みのある黒で、けれども不思議な事に透き通るような印象を受けた。


(すごい綺麗な人だな......芸能人?)


 しかしだから、どうしたと言うんだ。悲しいことに俺には女性の知り合いなど居ないし、居たこともない。なのでこの人は俺の知人であるはずもないのだ。


 しかし、彼女はじーっとそのサングラス越しでも分かるほどの視線を送ってくる。怖いんだけど......。



(......どうしよう)


「......あの」


 鈴が鳴るような美しい声がした。やはり女性だった。


「え、は、はい......?」

「私、わかりませんか」


 彼女はそういうと、帽子をとりサングラスを外した。



「あ」


 間の抜けた俺の低い声。彼女の明るく美しい声とは対象的で、一瞬で赤面してしまうくらい恥ずかしくなる。


 しかしそれは些末な事だった。俺は彼女の一般人離れした容姿をみてそんな気持ちは吹き飛んでしまう。


 その眼の輝きは視線を合わせた者を惹き付け、小さな鼻と耳は愛らしい小動物のそれで庇護欲をかきたてられ、そして、見ただけで柔らかいであろうとわかる彼女の唇は薄くひかれたリップでより魅力的な力を有していた。


 そう、正体をあらわした彼女は紛れもなく美少女と呼ばれる類いの人種......そして、着ていたパーカーを脱ぐとあらわれた制服によりわかる事実。彼女はJKだった。結論を言うと




 え、誰だ?こんな美少女JKなんて知らないぞ。




 俺にはこのJKが誰なのか全然わからなかった。そして不安になってくる。もしかして、これはそういう詐欺?

 裏から男達が出て来て、「オッサン、JKと楽しく会話したんだから金よこせよ!」とか始まるんじゃないか?ヤバい、怖すぎる。


「えっと......お金は持ってないです」

「何がっ!?」

「だから、俺なんかに話しかけても何も出ないですよ......」


 彼女はその整った美しい顔を歪ませ、何いってんだコイツ?みたいな顔をする。


「あのー、何か勘違いしてませんか」

「勘違い?」

「私、別におごって貰おうとか思ってませんよ」

「......お金ではない?」

「違いますよ!」


 怪しい。こんな冴えない俺に近づく女なんているものか。絶対詐欺か何かでしょ。......いや、でも一応聞いてみるか。


「じゃあ何の目的で話しかけてきたんですか? あ、もしかしてお金じゃないとすると......宗教的な?」

「違います。 あー、でも......そっか。 そうですよね」


 店の出口はあそこ。もし、トイレに仲間が待機していて急に出てきたとしても、頑張れば逃げれる......あ、でもお会計しないと飲み逃げになる。犯罪者にはなりたくないな。どうしよう。


「......今日は、読書しないんですか」

「え、ああ、まあ......ん?」


 あれ?何でこの人俺がこのカフェで読書しているの知ってるんだ?前に偶然見ていたのか?

 良くある手口か!占い師とかがつかう、事前調査しておいて言い当てたように錯覚させる。この歳でそんな手口をつかうなんて!


「そーだ! 私、前にオススメされた本、読みましたよ。 秋の頃にって本」

「え、それは」

「ふふ。 私の事、わかりました?」


 確かにオススメした。俺はその「秋の頃に」と言う小説を人に進めた事があるのだ。だが、しかし俺には友達がいない。ネトゲの嫁が唯一俺が友達と呼ぶに相応しい相手ではあるが。しかし、そんな事があり得るのか?


 でも、俺はその小説の話しは()()()()()()()()()()()()()



「......君は、もしかして。 ネトゲの嫁か?」


 俺がそう聞くと、彼女は首をかしげ口元を綻ばせた。


「正解。 やっとわかりました?」

「......嘘だ。 何で......俺がわかったんだ?」


 するとネトゲ嫁は非常に不服そうな顔をして答えた。


「そこまで驚かなくても......だって、思い出しても見てくださいよ。 駅前のカフェ、ペットショップに本屋さん。 更には起きた事故や、天気、眼鏡、等々......特定されない方が不思議では」

「け、けど......まさか会いにくるなんて思わなくて」

「あー、えっと。 言ってませんでしたが、私もこの近くにすんでるんですよ」

「そんな訳......」


 そんな訳ないだろうと言いかけ、言葉をひっこめた。そうでないと説明のつかない事ばかりで、俺は嫌でもこの事態を飲みこむ事になった。


 さらにそれが確定することで、もう一つ辛い事が浮き彫りになる。


「けれど、どうして話しかけたんだ? みての通り、ただのオッサンだぞ?」

「ええっ」

「金もないし」

「いやいや、そのネタはもう良いですってば......っ、......ぷっ、く、あはははは!」


 ......え、急にどうしたんだ?こ、これからか!?黒幕登場!?


「な、何がおかしい......!?」

「いや、だって......ネトゲと同じなんだもん。 その卑屈でひねくれた所。 そのまま過ぎて、おかしくて笑っちゃった! ふふっ」

「悪かったな。 さあ、幻滅したろ? (俺が)捕まる前に帰ってくれ」


 そう言った。最悪だ......重なっていく負の連鎖に、心も荒みリアル、ネットにおいての唯一のフレンドである彼女を傷つけた。

 これは、仕事もプライベートも詰んだな。実家にでも帰って親に頭をさげ、引きこもりにでもなるか。


 何もかもが辛すぎる。


「幻滅も何も、いつもと変わらないじゃないですか! 自分、どんだけかっこよく見えてたと思ってるんです?」

「え、いや......」

「あ、わかった。 平日の昼間なのにこんなところに居て荒れてるって......ずばり、遅刻&無断欠勤!? どう、当たりですか!?」

「当たりだよ。 寝坊して遅刻、会社には来るなと言われて、鵜呑みにしてここで油売ってる。 つーか、なんでそんな嬉しそうなの?」

「いやいや、嬉しくはないですが。 そっかぁ」


 あれ、でもネトゲ嫁もおかしくないか?平日だよな?学校は?


「て言うか、そっちも何でこんな時間にこんなとこいるんだよ」

「私はお仕事なので。 サボりとかじゃないですよ、そちらと違ってね!」

「うぐっ......って、は? お仕事?」

「そうです。 お仕事」


 JK、つまり学生だよな。


「私、YouTubeで歌を歌っていて、そのレコーディングにこれから行くんです」

「え、マジで?」

「マジマジ」


 えええ。俺のネトゲ嫁、YouTuberだったの?


「ち、ちなみに登録者数とか、どんな曲歌ってるの?」

「登録者はもうちょいで100万人ですね!」


 100万!?


「曲は、「花咲時雨」とか、「涙月」とか......知りませんかね?」

「え、それ、スポーツドリンクのCMに使われてるやつ? 涙月は、恋愛映画の......!?」

「おお、知ってましたか! そうです、それ」


 えー、ホントかなー?こんな事ある?


「ちょ、何ですかその顔!」

「おい、顔にケチつけんな! 傷つくだろ!」

「いや、違う! そうじゃない!!」

「......時にネトゲ嫁よ、それを証明できますか? 君がそのYouTuberだと言う証明を!」

「あー、証明か。 うーん......」


 言っといて何だが、証明って難しいよな。歌い手さんの証明......やっぱり歌う事?だとしたらカラオケとかに行かねばならないが、三十歳のオッサンがJKとカラオケに二人きりで入っていったらヤバくね?捕まりそうで怖い。


「じゃあ、はいこれ。 私の電話番号」

「なぜ!?」


 なぜ!?(なぜ!?)


「今すぐには証明できませんが、今日の夜にそちらがよければ証明しましょう」

「通話で歌うって事か?」

「そうです。 他に思い付かないし」

「まあ、妥当か......って、JKと通話ってヤバくね?」

「どんだけですか! ただ通話するだけなのに!」

「いや、この御時世でしょ。 オッサン怖くて」

「オッサンて! そんな老けて見えませんけどね。 あー、でも髪もうちょい切って眉整えたらかっこよくなりますよ!」

「ならんだろ」

「えー、私を嫁にするならそれくらい気を遣ってほしいんですけど」

「いや、嫁て。 ネトゲでの話でしょ」


 ......え?何その顔。


 目を見開き過ぎではなくて?目ん玉こぼれおちるぞ。


「ど、どうした?」

「なんで......あの時、私の事好きだって......嘘だったんですか」

「えええ」


 彼女の潤んだ瞳から、目尻を伝い涙が落ちる。


「私、本気だったのに......あなたとなら幸せになれるって」


「いや、マジかよ」

「マジですよ」

「いやいや、見て? こんな冴えなくて仕事だって遅刻してサボるような男だ......ろくなもんじゃないぞ」

「......でも、いつも頑張ってたじゃないですか」


 いや、頑張ってたと言うか、頑張るしかなかったと言うか。


「愚痴をこぼしながら、会社でひどい目にあって孤立したりしながら......それでも頑張ってた。 そんなあなたと一緒だったから......私もここまで頑張って来れたんです」


 そうか、彼女もリアルで苦労してるんだ。


「私も、苦しくて、辛くて......仕事も学校も全て投げ出しそうになりました。 でもあなたがネトゲで愚痴を言ってる時、この人も同じなんだって、私一人じゃないんだって思えたんです」


 YouTuberとしての仕事と学業の両立......簡単な事じゃない、よな。


「......けど、俺は......もう、多分、会社もクビだ。 落ちるとこまで落ちる......きっと這い上がる事さえ出来ない所へ」


 俺とのネトゲでの日々が無駄ではなかったってのは嬉しい事だ。けれど、この先に道は無い。証明だのなんだのと求めといてあれだが、そうだ......いつまでも、こんなオッサンに付き合わせていると可哀想だ。

 全部、終わりに――




「まだです。 まだ終わってない......!」


 ――え?


 彼女の瞳が俺の心を掴む。反論する余地を与えない程に。



「私は、あなたの嫁ですよ? 嫁にすると言った以上、ちゃんと貰ってくれないと困ります」


 困りますって、お前まだ学生......。


「あ、うん。 そうですね、うん、言いたいことはわかります。 私がまだ子供だと、嫁になんか出来ないと......そう言いたいんですよね」


「あ、ああ......」


「でも、だから......私があなたの嫁になれるその時まで一緒に頑張りませんか?」


 えーと。......マジで?


「マジです!」


 心読まれた!?


「私は本気です......本気であなたのお嫁さんにしてほしいんです!」


「な、なんで......そこまで俺にこだわる。 他に同級生とかイケメンがいるだろ。 そんだけ可愛けりゃ選び放題だろ」


 彼女の頬が少し赤らんだ。


「だって、言ってくれたじゃないですか。 私が辛い、苦しいって愚痴をこぼした時、全部黙って聞いてくれて......」


 ああ、確かに......一度だけひどく荒れていた時があったな。


「覚えてますか? あなたはこういったんです」


 ......覚えてる



『辛かったな。 でも、お前には俺がいる。 お前は俺の嫁だ。 お前が俺を支えてくれたように、俺もお前をずっと支えるよ。 だから、一緒に頑張ろう』



「......もう、終わりなんですか?」


 多分、俺の人生においての一番大切なモノを、今、失いかけている。


 そうだ


 この人は俺を必要としてくれている。


 こんなダメ人間な俺を。




 俺は誰かに必要とされていたかった。頑張る理由が欲しかった。


 今、それに気がついた。いや、気がつかせてくれた......俺のネトゲ嫁が。


「俺で良いのか?」

「はい、あなたが......あなただから良いんです」


「一緒に頑張ってくれるのか......俺を、信じてくれるのか」

「信じてなければこうして会ったりしません」


「お前を嫁に貰っても良いんだな」

「はい。 その日を......ずっと待ってます」


 失いたく無い夢が出来た。



「悪い、俺......ちょっと会社行ってくる。 遅いかもしれないが、そんときはそんときだ。 別の道みつける......信じてくれるか?」

「! ......はい!」


「一緒に頑張ろう」

「頑張ります!」


 これから人生どうなるかわからないと言うのに心が軽い。どうしてかはわかっている。彼女のお陰だ。


「......ところでレコーディングは?」

「え、あ! ......ち、遅刻ですね。 あはは......」

「マジで!?」

「い、急ぎましょう!」

「お、おお、行くぞ!」


二人で手元のドリンクを急いで飲み干す。その動きはぴったり同時で、ネトゲのでのコンビネーションのように無駄に息が合っていた。

トンとテーブルへ空のカップを置き、二人顔を見合わせ、笑みがこぼれる。


「あ、夜......」

「わかってる! また夜にな!」


「はい!」


晴れ晴れとした青空のように澄んだ笑顔で彼女はこたえる。二人のこれからを予感しているかのように。




 俺はいつかネトゲ嫁を嫁にする。






 そうして、「社畜の俺はJKと夢を見る」のだった。







もし、面白いと思って頂けたなら、広告の下にある★★★★★を押して評価して貰えると、めっちゃくちゃ嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵なストーリーですね。 たった一人だとそのままだけど、二人になると乗り越えられるものがある。目標もできる。 卑屈にならずに互いに支えあって二人の未来を築き上げて欲しいです。 読ませて頂き…
[良い点] ベタな展開、安心できるストーリー 多分、長い話への展開のための準備かな [気になる点] 社畜、美少女など手あかの付いたような肩書きは すこし残念。 [一言] 全くの逆設定の話もトライして欲…
[良い点] 序盤の描写、朝起きてから会社に行くまでの心情が心に刺さりますねぇ。 すぐに感情移入できてしまいます。 そして、ネトゲの交流から現実へ。 日々の仕事に疲れた社会人を癒してくれます! [一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ