ひとりきりの場所
改札を通って、反対側のホームに向かう。
階段を降りていたとき、電車が止まった、と放送が流れた。
ホームの真ん中でぼーっと立ちつくした。
またか。
なにか大切なことがあるときに限って、いつもこうなる。
まるでどこかで観察されているかのように、見えない壁が現れる。
空の向こうからすべて見られているのだろうか、と思ってしまう。
頭のなかにあった決意を完全に打ち崩すかのごとく雷が鳴り響き、横なぶりの大粒の雨が降り注ぐ。空の怒りは増していた。
仕方なく、待合室に逃げ込んだ。ガラス張りで仕切られている安全な空間。
まるで、水槽のよう。中には誰もいなかった。
ビダビタ、とガラスに当たる雨音だけが耳に響く。
また放送が流れた。倒木で一時、運転見合わせとの知らせだった。
待ち合わせに遅れそう、とメッセージを送る。
ここにいても仕方ない、外にでよう。
扉に手をかけた。だけど、扉が開かない。
窓ガラスは雨粒に加え、水蒸気で曇り始めていた。
中から外の様子がよく見えない。不安が過ぎり、母親に電話をしたが繋がらない。
思わず、ガラスを叩いてしまった。もちろん、ムダな抵抗。
構内にはもうだれもいないかもしれない。駅にいるのはこの場以外に駅員だけ。
そして、駅員はきっと気づいていない。ここにひとり、人がいることを。
駅に電話をしてみるが、また繋がらない。携帯をよく見ると圏外になっていた。
近くで雷でも落ちたのだろうか、この待合室には電波が届いていない。
ここから出る手段がなくなった、と思うと逆に諦めがついた。無人島にいるわけではない。
この天気も時間が経てば解決する。この町だって時間を経て、今は元通りになっている。
そう言い聞かせた。
ただ、喉がかわいて少し辛い。
エアコンがないので室内はかなり蒸し暑い。
またアナウンスが流れた。運行は夕方まで見合わせになった、と。
今日はもう家に戻るしかない。残念な気持ちに反して、少しだけほっとした。
安心したためか、急に眠気が襲ってくる。
シートに少しだけ横になった。