第9話偽りと怒り
「えっ」
ヒーローである赤き戦士は崩れ落ちるジュンの姿に動揺する。
彼の変身名はファンタジー、様々なファンタジーロールプレイングゲームに登場するモンスターの力を使って戦うヒーローだ。
「ザーガ………先輩?」
その言葉をジュンは不思議に思いながら、セイギに支えられる。
「大丈夫かい? ジュン」
冷静で、しかも優しい口調でセイギはジュンに右肩を貸す。
「あぁ、なんとか」
その声を聞いた瞬間、ファンタジーの中で怒りが込み上げてきた。
「お前、ザーガ先輩のニセモノか!」
ジュンに勢い良く指を指す。
それは2人にとって赤き戦士の殺意が伝わる行動だった。
「なんだ。そのザーガって?」
「惚けるな! ザーガ先輩をどこへやった!」
気が高ぶっているファンタジーに、セイギはため息を吐く。
「君はなにか勘違いしている。ジュンはニセモノなんかじゃない。俺の大事な仲間。仲間をバカにされて、苛立ちを覚えない奴はただのクズだよ」
セイギの言葉に対して。
「ふざけるな! この戦いにおいて生き残れるのはただ1人! 友達ごっこしてる場合じゃないんだよ!」
ファンタジーの怒りが限界を超え、ソードガンから本の様な変身アイテムを引き抜き、再び装填する。
『ミノタウロス・マジック』
「君の言っていることは矛盾している。ザーガと言うヒーローを先輩と言っておきながら、それを否定するのかい?」
「黙れー!」
ソードガンを振りかぶった次の瞬間、セイギがノーモーションで一気に加速し、赤き戦士の頭部を殴り、電柱に吹き飛ばし、叩きつけると、まるでなにもなかったかの様にジュンに右肩を貸す。
「言葉には特別な力がある。人を動かす原動力にもなれば人を殺す刃にもなる。なんでもかんでもカッコつけて言うもんじゃない」
忠告と挑発が入り混じるセイギの言動。
ジュンはセイギの戦闘力が高いことを十分理解している。
あのマシンガンを思わせるハイスピードなパンチのラッシュ。
それに加え4つのフォームチェンジを持ち、どんな状況にでも対応できる。
「やめとけセイギ、あいつは俺達にとって弱者だ。いじめたらかわいそうだろ」
とりあえずこう言っておけば戦いをさせないで済む。
そう思いながら偽りの微笑みを浮かべ、言葉を述べる。
「それもそうだね」
納得したようにセイギはこれ以上の武力を行使するのをやめた。
後ろを振り返り、その場を離れる。
心の中でホッとするジュンにトランスフォームは大きなため息を吐く。
「ジュン、まさか戦いたくないから言い訳してるんじゃないだろうなぁ?」
その言葉にジュンは心臓の鼓動を加速させながらも、動揺する自分を抑える。
「トランスフォーム、ジュンはダークヒーローとしか戦わないんだよ。戦いたくないのは当然の事だ」
「マスターは極端だなぁ」
「正義には優しく、悪には厳しく、だよ」
セイギは左手の人差し指を立て、自慢げに上を指す。
ヒーローと思い込んでいるダークヒーロー。
ジュンにとって利用する対象であるこのダークヒーローに、徐々にだが仲間として見る目が変わっていった。
「クソ、クソ。ニセモノと黒い奴、絶対に俺が倒す」
ソードガンを強く握り締め、ファンタジーはジュンとセイギを追いかけようとする。
だが奪牙がビルの窓を突き破り、ムチで攻撃を仕掛けられ、アーマーから火花が散る。
「グハッ!?」
「みつけたぞ………俺と戦え!」
デッキケースからカードを引き、左肩の装填口に入れる。
『アバター』
女性の機械音と共に4人の奪牙が現れ、一斉にカードを引き、左肩に装填する。
『ソード』
『ナックル』
『ソード』
『ハンマー』
モンスターを模した武器を装備した2人の奪牙。
その中で、2人の1人の奪牙はなんとスペリガンのビームサーベルを、また1人の奪牙は倒したヒーローの武器、ドリルが取り付けられたハンマーを持っている。
「「「「「さあ、楽しませてもらうぞ」」」」」
全員でファンタジーに襲いかかる奪牙、しかし。
『ドラゴン・ファイナルアビリティ』
ベルトの真ん中ボタンを押し、男性の機械音と共にファンタジーが赤きドラゴンのオーラを身に纏い、咆哮を上げ、火炎放射を奪牙に向け、撃ち放つ。
あまりの火力に奪牙達は大きく吹き飛ばされ、分身である3人。
「うん?」
燃える道中をよく確認すると、分身の1人を身代わりにし、攻撃を防いだ奪牙の姿があった。
消滅していく分身を左に投げ飛ばし、悪魔の様な高笑いを上げる。
「いいぞぉ、こんなにも殺しがいがある奴は久しぶりだ」
奪牙にとってこれは体を慣らすデモンストレーションでしかない。
左に首を回し、笑いながらファンタジーに急接近する。
ファンタジーは慌てて奪牙に向けてソードガンを連射するが、装甲は硬く、一気に距離を詰められる。
顔をひたすら殴られ、蹴り飛ばされる。
頭を抱えながら立ち上がり、変身ベルトから変身アイテムを引き抜くと、ホルダーからまた違う本型変身アイテムを取り出し、手動で開く。
そしてページを見せつけるように、変身ベルトに装填する。
『スライムターチェンジ』
体が青く変貌し、スライムを思わせる青いコーティングがさせれている。
「姿を変えられるのかぁ。面白い!」
楽しそうに笑いながら繰り出される奪牙の拳。
だがファンタジーの体は攻撃をすり抜け、逆に背中を斬られ、ヒビが入り、血が溢れ出すのだった。