第6話 ワニの歌声
「みーつけた」
セイギの声で少女はこちらを振り返ると、恐怖で表情が歪む。
「お前なぁ、そんな言い方したら怖がられるのは当然だろ」
ため息を吐くジュンに、ますます恐怖に拍車がかかり、涙が流れ、立ち上がり逃げようとするが、転んでしまう。
「ちょっと君、あまり動かない方がいい。ここは危ない人がたくさんいるんだ」
ジュンが少女に近づこうとすると、震えながら四つん這いで逃げようとする。
「あなた達だって怪物なんでしょう! だってその巻いてるの、怪物が巻いてたのと同じやつだったもん!」
ジュンとセイギは確信した。
彼女は見てきたのだろう。
ヒーロー達が殺し合うその姿を。
いや、もしかしたら襲われたこともあったのかもしれない。
セイギは優しい笑みを浮かべ、少女の前に立つ。
「君がヒーローを怖いと思っていることはよーく分かったよ。でもさ、俺達は………」
その続きを言おうとした次の瞬間。
「セイギ! 敵だ!」
叫ぶジュンの前に現れたのは、不敵に笑いながら歌っている男だった。
「ヒーミンは〜火に強い。ミーミンは〜お〜よげる。トビミンは〜高く飛ぶ。リキミン力持ち。ドクミンには、毒がある…………あぁー」
目を閉じながら、ゆっくりと首を左に回す金髪に染めた30代の男。
ワニ柄のジャケットの下に黒いシャツ、ダメージジーンズを履いている。
「お前達、俺と戦えー。戦って楽しませろ!」
目を見開き、カスれた声で右手にワニの顔の装飾が付けられたデッキケースを思わせる変身アイテムをジュン達に見せつける。
すると左腕にバトルディスクと言われる機械が装着された。
「バトル、スタート!」
デッキケースをバトルディスクに勢いよく装填する。
巨大なカードが出現し、男を包み込む。
ワニを思わせる茶色い戦士。
鱗のような装甲が脅威の防御力を誇ることが察せられる。
彼の変身した姿の名は奪牙。
再び首を左に回し、「アァー………」と唸りを上げた。
「かっ、怪物!?」
少女の事に眼中などない様子でデッキケースからカードを引き、左肩のカード装填口に入れる。
『ウィップ』
女性の機械音と共に突如として現れたワニの尻尾の様なムチをしならせ、地面に叩きつける。
「アァー………さあ、変身して戦え!」
奪牙の挑発とも取れる言動。
戦いに飢えた野獣を感じさせるその姿は、ダークヒーローその者だ。
「いくぞセイギ」
「分かった」
ジュンは顔を両手で覆い隠し、セイギは右手を拳にし、肘を折り曲げる。
「「変身!」」
右サイドボタンを押し、光に包まれる。
ジュンは白き戦士に、セイギは黒き戦士に変身を完了した。
「早く隠れろ。戦いに巻き込まれても知らないぞ」
「うっ、うん」
少女は不安そうに首を縦に振ると、家の中に窓から侵入し、テーブルの下に隠れる。
「ハァ!」
叫び声と共にムチを強くしならせながら、奪牙はセイギに叩きつけようとする。
「ディフェンス!」
トランスフォームの掛け声により、セイギの姿が黒から緑へと変貌した。
ムチによる攻撃はまったく効かず、奪牙は首を傾げる。
「君の攻撃はそんな物かい?」
「パワー!」
今度は赤へ変貌し、セイギは奪牙を右拳で容赦なく腹を殴る。
そのパンチ力は凄まじく、奪牙の体は大きく吹き飛ばされ、庭の花壇を粉々にした。
「アァー………」
しかし、奪牙は無傷、すぐに立ち上がり、デッキケースからカードを引き、左肩のカード装填口に入れる。
『アバター』
女性の機械音と共に4人の奪牙が召喚される。
「5つ子になったところで、俺達は倒せないぞ」
ジュンの皮肉に、高笑いを上げ、カードをさらに引く。
「「「「「じゃあもっと面白くしてやる」」」」」
首を左に回し、左肩の装填口にカードを入れる。
『『『『『アタックファンクション』』』』』
「まずい、必殺技が来るぞー!?」
ジュンは知っていた。
アタックファンクションの意味、それは必殺技だ!
躱そうとするが、疲労がピークに達し、その場に倒れる。
ワニの二足歩行モンスター、クロコメモリーが奪牙5人の後ろから突然現れ、それに合わせ、奪牙達は一斉にジュン、セイギに向けて走り出す。
そして高く飛び上がると、両足によるドロップキックの体勢に入る。
クロコメモリーはそれに合わせ、姿に身やわない猛スピードで2人に口を大きく開けながら突進してくる。
「スピード!」
トランスフォームの掛け声で、セイギの姿が青く変化する。
(間に合えー!)
セイギは膝を曲げ、一気に加速、ジュンを抱え、その場を逃走した。
攻撃が空振りに終わった奪牙は、苛立ちで叫びを上げ、家の窓を左足で蹴り破り、中に侵入する。
すると、少女がテーブルの下で隠れていたので、八つ当たりにテーブルを投げ飛ばす。
「来ないで!? 化け物!?」
「小娘、お前を殺しても面白くない。さっさと消えろ!」
奪牙の怒鳴り声に、泣きじゃくる少女。
「うるせぇよ。黙ってここから居なくなれ。戦えねぇ奴には用はないからなぁ!」
怒りが限界を超え、少女の首を右手で掴み上げ、勢いそのままに玄関へ投げ飛ばす。
宙を飛ぶ少女の体を受け止めたのは、金色の戦士、スペリガンだった。