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ヒーローズロワイヤル  作者: ガトリングレックス
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第5話歪んでいくジャスティス

ジュンが耳を澄ませると、近くで少女が息を荒くしていた。


「見つけた。まずは変身を解除しておいてくれ。また逃げられても困るだろ」


「分かった。感謝するよ」


「そう言えばなんで誤解なんて招くことをしたんだ?」


セイギはジュンの質問に、変身を解除しながら答える。


「俺は挑まれた戦いで勝利をもぎ取った。しかしその現場があまりにもバイオレンスでね。女の子には恐怖だったんだろう。結果怪物扱いだ」


白と黒が入り混じった短い傷んだ髪、左に泳ぐ左目の瞳、白のシャツの上に黒のジャケット、ゼブラ柄のズボン、40代ほどのその男性はにこやかに笑みを浮かべている。


ジュンも変身を解除すると、強烈な脱力感に襲われる。

しかしここで気を抜いてはいけない。

誰も信じられないこの状況で、気を許す余裕なんてないのだから。


「なるほどな。お前が何者かは知らない。でも戦う意思がないならそれで良い」


「じゃあ案内よろしくね」


セイギの言動はなにか恐怖を覚える。


(特撮作品においてこういう奴ほど危険度が高い。気をつけて行動しなくちゃな)


特撮が大好きなジュンには分かる。

こいつは危険な存在だと。

だが今はこのセイギと言う男と協力し、少女を見つけるのが先だ。


ジュンは耳を少女の息の音に集中する。


その時だった。


「スピードを体感しろ」


どこかに隠れた男の声が聞こえたと思えば、何かを振るう音が聞こえる。


『アドー………』


酷くガラガラな男性の機械音と共にジュンとセイギの前に現れたのは、ウォーズにやられたはずの黄色き戦士、アドーだった。


「あいつは、確かダークヒーローに倒されたはず」


「なんだって?」


アドーは突如として剣を左手で取り出し、ベルトの右サイドボタンを右手で押す。


『ブーストアップ』


ノーモーションで見えないほどのスピードで加速し、2人に襲いかかる。


(そんなスピードで俺を倒せると思ってるのか?)


だがジュンには理解できる。


ゆっくりと見えるその動き、駆け回る足音。


滑稽(こっけい)だな。俺には見える、聞こえるぞ、お前の動きがすべてな)


顔を疲労で歪ませると、両腕をクロスし、顔を両手で覆い隠す。


「変身………」


静かに掛け声を言うと、右手でベルトの右サイドボタン押し、光に包まれる。

執行人の姿になり、アドーの振り下ろした剣を掴み、握り壊した。


動揺することもなく、アドーは再び加速…………できない。


「逃すかよ」


首を片手で掴み上げ、ジュンはアドーの首を容赦なくへし折った。


消滅するアドーの姿を見て、正直に感じたことを述べる。


「2度と俺の前に現れるな、黄色いの」


変身を解除し、疲労に耐えながら、「俺について来い、女の子を探してやる」と言ってセイギと共に歩みを進めた。



(まさか、あのスピードについていける者がいるとは)


禍々しい漆黒のソードガンを持つ、フードを被った頭蓋骨を思わせる白い頭の紺色の戦士。


(駒が1つ減ったのは軽い損害だが、あいつを倒すとなると大量に駒が必要となる。かと言って無駄に使うのは俺にとって不利な状況になってしまう)


考えを巡らせながら、魂の数を確認する。


(魂はまだたくさんある。あいつを処理するのは後回しにしておこう)


この戦いは生き残れば世界を救うことができる。

つまりヒーローの魂を大量に回収して帰ることができれば、それだけ元の世界での戦いも有利に進められる。

しかしそれは生き残れたらの話。

いかに戦わずにいられるか、人数が分からない以上把握が難しい。


(あくまで俺は生き残れればそれでいい。世界を救うことに興味などない。ただ生きる場所がないと困るからなぁ)


その場を立ち去る紺色の戦士の姿はまるで死神の様だった。



ジュンは少女の息づかいを耳でしっかりと捉え、急ぎ足になる。


「この家の庭だ」


その案内にセイギが複雑そうな苦笑いを浮かべる。


「俺さ、元の世界では嫌われ者だったんだよね」


「いきなりなんだよ」


「まあ聞いてくれよ。俺達は悪い奴を倒していた。それで警察に追われることになってね、相棒達がいなければ処刑だったんだよ」


「まさか、お前が言う『悪い奴』てのは怪人じゃなくて………」


「君が言いたい通りの事だよジュン。俺が倒していたのは犯罪者、つまり『人間』だ」


ジュンの遮られた言葉。

その続きを述べられ、あの絶望の記憶が呼び起こされる。

メグとジライヤがウォーズの必殺技をくらい、死亡したトラウマ。

人は『殺意』『自殺願望』『病気』などの様々なことで簡単に死ぬ生き物。

そしてゲームやアニメとは違い、死んだ者は絶対に戻ってこない。


怒りをむき出しにし、ジュンはセイギのジャケットの裾を両手で掴み、顔を近づける。


「おいおい、痛いじゃないかぁ。それに君だってこの世界で1人ぐらい殺しているだろう」


「…………!」


「図星みたいだね。数とかは関係ない、罪は罪なんだよ。でも今はそんな縛りはない。楽しもうよ。正義による悪への殺戮を」


ヘラヘラと笑うセイギの表情はイかれているを通り越して壊れている。

ダークヒーローであることを完全に理解した。


だが………


ジュンは手を離し、なにを思ったか、「すまん」と謝罪の言葉を述べる。


「俺も同じ考えだ。悪は絶対にこの世から消してやる」


「うん、一緒に頑張ろう」


セイギに引き込まれていくジュンの心。


(人間とは共通点を見つけると心を許してしまう傾向がある。まったく、マスターの様な者にも仲間ができるとはな)


セイギの変身ベルトであるトランスフォームは彼らの姿に安心しながらも、敵に警戒を続けるのだった。



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