第4話 メタモルフォーゼ
光りに包まれて行く町。
消滅して行くヒーロー達。
「これが戦争だ!」
悪魔の様な高笑いを上げながら光を放つウォーズ。
そんな中、光をベルトに吸収し、突然変異した者がいる。
赤だった装甲が白く変貌し、複眼が黒くなる。
「グヲーーーーー!」
叫び声が聞こえ、何事だと思ったウォーズはその方向にハンドガンの銃口を向ける。
現れたのは…………
怒り狂ったジュンだった。
「お前は許さねー!」
仲間を倒された怒り、まだ見ぬヒーロー達の死への怒り、その両方がジュンに偽りの力を与える。
唸る拳、繰り出される蹴り。
ウォーズの体は大きく吹き飛ばされ、信号機に激突する。
ヒビ破れる肉体、溢れ出す血液、朦朧とする意識。
「誰も犠牲にしない、そんな考えが甘かった。お前の言う通り、人間は実に醜い、俺も、お前も」
「まさか………アトミックボムをくらって………耐える奴がいるとは………」
噛み合わない2人の会話。
「俺は耐えたんじゃない。キレてんだよ!」
怒りに身を任せ、ジュンは拳を作り、膝を曲げ、姿勢を低くする。
「ふん!」
足をバネにし、高く飛び上がると、爆裂を右足に執着させる。
左足を曲げ、右足をウォーズに向けドロップキックの体勢に入る。
「オリヤーーーー!」
避けようとするウォーズをジュンの右足は捉え、信号機ごと吹き飛ばす。
アスファルトの上に叩きつけられ、悶えるウォーズ。
爆裂する体、薄れて行く意識の中、蹴りの破壊力に耐えきれず、爆死した。
「ジライヤ、メグ、俺はお前達みたいに優しくなれない」
核の雪が降る町で生き残った1人の戦士。
彼は怒りを偽りの力へと変える。
「ダークヒーローはすべて潰す。絶対に」
その言葉は決意と憎しみが混じり合い、執行人と化した鬼人は歩き続けるのだった。
何時間経っただろうか。
住宅地に到着し、敵がいないか辺りを警戒する。
するとかなり近くの方で少女と思われる悲鳴と男性であろう声が聞こえてくる。
「ダークヒーローか、潰す!」
疲れた体にムチを打ち、肩を回しながらため息を吐き、音を辿って歩き出した。
「待ってくれ、あれは誤解なんだ」
「いやー! 来ないでー!」
黒き戦士が追いかけているのは、長い白髪の少女。
走るスピードはこちらの方が早い、一気に距離を詰める。
あともう少しで手が届く、そう思った次の瞬間。
突然現れた黄金の戦士、スペリガンに拳をくらう。
しかし黒き戦士は拳を受け止め、弾き飛ばす。
スペリガンはアスファルトの上に腕を鳥が羽を広げる様にして着地し、突如として右手でビームサーベルを取り出す。
「なんだよ。君、俺は彼女の誤解を解くために話し合おうと…………」
「この戦いにおいて同情などを求めるな!」
「強情だなぁ。今時流行らないよ。そう言うの」
「それ以上喋るな、弱く見えるぞ」
「分かったよ。でも言っとくけど、俺の衝動を抑えたこと、後悔するよ。きっとね」
右足を前に出し、黒き戦士は全身から紫のオーラを放出する。
「いくぞ!」
走り出すスペリガンに対して、拳を作り、無防備な状態になる。
(なんだ? あのいかにも攻撃してほしいと言った体勢は?)
(さあ、賭けに乗ってこい)
黒き戦士の得意とする攻撃。
それは敵の攻撃を躱し、攻撃を仕掛けるカウンター。
(これは倒すチャンス、ここで逃す物か!)
賭けに乗ったとも知らず、スペリガンはビームサーベルを振りかぶり、斜め右方向に豪快に振るう。
「勝負だ」
黒き戦士の思惑通り、振るわれたビームサーベルをすれすれで躱し、オーラを纏った拳を弾丸が装填されたマシンガンで乱射するが如く、スペリガンの腹に何百発のパンチをくらわせる。
あまりのラッシュに耐えられず、装甲がヒビ割れていく。
(賭けに勝った)
黒き戦士は強烈なフィニッシュブローをスペリガンにくらわせ、大きく吹き飛ばす。
家の窓を突き破り、テーブルを破壊、リビングを転がり、スペリガンはその場で気絶した。
「さて、トランスフォーム、あの子を探しに行こう」
「おうさ! それにしても突然人を襲うとは、この世界の人間は野蛮だなぁ」
可愛らしい声が変身アイテムであろうベルトから聞こえ、黒き戦士は頷きながら歩きだす。
「世界を守るために戦ってるって言ってた奴が確かいたなぁ。まあそんなの興味ないけど」
「おいおい、もしそれが本当なら我達も世界を守るために戦わねばならないのではないか?」
「俺達は死人、つまり生き返えらせてもらった身だ。礼を仇で返す、そんなことしたらこの戦いのゲームマスターに申し訳ない」
そう言いながら手を合わせ、親指以外の指先を離したり、触れ合わせたりを繰り返し、鈍い音を響かせ続ける。
「とりあえず誤解を解かないと。近くに隠れてるはずだ」
「あいあいさー」
その軽いノリに、黒き戦士は鼻で笑う。
すると、執行人がゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「君は?」
「俺はタナカジュン、お前がヒーローを気絶させたのをこの耳で聞いた」
「耳で聞いた? まあいいや。仕方ないだろう、挑まれたんだからぁ」
異常に発達した耳で聞いた男の声。
少女を追いかけていた男の声だ。
「ちょっと良いかな。俺はヤマダセイギ、戦っていたら女の子に怪物と勘違いされてね、誤解を解きたいんだ。どこへ行ったか知らないかい?」
「戦わないのか?」
「質問しているのはこっちだ。質問には答えてもらうよ」
「……………分かった。俺の能力で探してやる。そのかわりだが、もし女の子に危害を………」
「そんなことしないよ。ヒーローなんだから」
セイギの自信有り気な言葉に、ジュンは(なんだこいつ)と危険視しながら、耳を澄ますのだった。