表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリン飯  作者: ブランケット少佐
第一章
9/66

9話 地獄

「オロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」


 チロは、えずき続けていた。


「ん゛ま゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


 まずい! 

 そう叫ぼうとしたが、あまりの粘り気に、舌を上手く動かすことすらできない。


「べふっ! べふっ! ぶっ! ぶぶぶぅっ!」


 必死に口から追い出そうとするが、ボンドのように変質したスライムは歯や舌や上顎(うわあご)にベッタリと絡みつき、おいそれと出て行ってはくれなかった。


 地獄だ!


 助けて!


 チロは地面を転げ回りながら、口の中に発生した異常事態に悶え苦しむ。


(……っそうだ、なにか他の物に(まと)わりつかせて吐き出せば!)


「ばっふばっふばっふ………じゃりじゃりじゃりじゃり!」


 チロは手当たり次第に地面の土を頬張り、口の中で撹拌(かくはん)した。


「ぐえっ! ぺっ! ぶふぇっ!」


 そして、できる限り口内の異物を吐き出しながら、池に向かって走り出す。


 今必要なのは、なによりも水だ。


 土を口の中に放り込んだだけでは、やはり粘りつくスライムを全て除去することはできなかった。


 水で、洗い流さなければならない。


 かつてないほどの速度でチロは走り、そして池にたどり着く。


 そして水を『浄水』で清める余裕すらなく、(じか)に池に口を付けると、そのまま水を吸い込んだ。


「ガラガラガラガラッ、ペッ、ペッ! オェッ!」


 何度も何度もうがいを繰り返し、ようやくスライムは口の中から消え去った。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…………」


 チロは池の(ほと)りにうずくまり、荒い呼吸を繰り返す。


 衝撃のマズさであった。

 

 異世界に転生して、一番のピンチであった。


 もし池を発見する前にスライムを食べていたら、口の中のスライムを除去できないまま、チロは発狂していたかもしれない。

 

 それくらいまずかったのだ。


「はぁっ、はぁっ、二度と…………もう二度と、スライムは、食わないぞ…………」


 そう強く決意をし、チロは倒れ込んだ。


 気力も体力も、もはや限界だった。


 口の中に残るスライムの後味と、池の水のミドリガメのような臭いに打ちのめされながら、チロは異世界の厳しさを改めて思い知ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ