63話 過去からの贈り物
────その日、ゴーダは以前にチロたちと訪れた湖に足を運び、ひとり黄昏ていた。
「レナ……」
静かな湖面を見つめながら、ゴーダはポツリと呟く。
その瞳に写っているのは、現実の光景ではない。
それは、過ぎ去りし過去の幻影。
かつて夫婦の契りを交わし、今もまだ心からの愛を捧げている、ひとりの女性の姿だ。
「はぁ……」
ゴーダは野太いため息をひとつ吐くと、手元に転がっていたチロの頭ほどの大きさの小石を掴み、湖に向かって放り投げた。
ドボンッ
というそれなりに重い音とともに飛沫が上がり、湖面が波打つ。
この湖で、ゴーダは妻であったエルフのレナと、よくデートをしたものだ。
そしてふたりで水飛沫を上げながら、○○○や×××や□□□など、詳しくは描写できない色々なことをしたものである。
「ふぅ……」
アンニュイなため息をもう一度吐き、ゴーダは湖に投げ込む手頃な石が転がっていないか、視線を彷徨わせた。
しかし、目に付くのはゴーダと同じくらいに大きさな岩だけ……
仕方なくゴーダは立ち上がると、その岩に向かって歩いていき、おもむろに殴りつけた。
ドゴンッ!
という轟音とともに、あっさりと岩が砕け散る。
ゴーダはその砕けた岩の中から手頃な大きさのものを選ぶと、また湖のそばに座り込み、手に持った岩を投げこんだ。
バッシャァンッ!
今度のは先ほどの四倍くらいの大きさだったため、豪快な音とともに水柱が上がった。
ゴーダの全身にも雨のように水飛沫が降り注ぎ、それと同時に────
べちゃり、と何かが頭に張り付いてきた。
「……ん、こいつは」
頭から引き剥がしたソレを見たゴーダは、懐かしそうに目を細めた。
そして、
「チロんとこに持ってって、コイツでなんか美味いもんでも作ってもらうか……」
と、その凶悪な顔に笑みを浮かべた。
レナはいなくなってしまったが、ゴーダには最愛の娘も、守るべき仲間も、そして懐かしくも新しい友人もいる。
かつて生きていた場所から遠く離れたこの世界で、ゴーダは決して、ひとりではなかった。




