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ゴブリン飯  作者: ブランケット少佐
第一章
19/66

19話 暗闇の奥には

 洞窟の入口に戻ってきた。


 目の前に広がる暗闇の奥に、無数のヒルヒルが潜んでいるのを想像し、チロの背筋に寒気が走る。


 おそらく大丈夫だろうと当たりはつけているが、念のため手の先に『微光』を発生させると、恐る恐る暗闇に向かって差し出した。


 薄い明かりに包まれた手が、闇に飲み込まれていく。


 そのまま動かず、二秒…………三秒…………



 ヒルヒルの襲撃は────なかった。


「ふぅ……」


 やはり、ヒルヒルたちは熱で獲物を感知し、襲いかかっているようだ。


 安堵の息を一つ吐くと、念の為手に塗っていたドリンギ汁を腰ミノで拭い、チロは洞窟の奥に歩を進めた。


 だが、ヒルヒルの襲撃がないからといって、洞窟探索は楽なものではなかった。

 

 岩肌がむき出しの地面はただでさえ歩きにくいというのに、何やら表面がヌルヌルとしていて、しかも『微光』の足元さえ照らせないほど弱い光量が、それに拍車を掛けていた。


 何度も(つまず)き、転びそうになりながら、それでもチロは洞窟の奥にと進んでいく。


 そして、


「おぉ……っ」


 たどり着いた場所に広がる光景に、チロは目を見開き、声を上げた。


 そこは広々とした、美しい空間だった。


 洞窟の天井部分にはぽっかりと大きな穴が空いており、そこから太陽の光が差し込んでいる。


 その光に照らされた中央の辺りには綺麗な湧水が湧き、周りには様々な植物が生い茂っていた。


 だが、なによりもチロの目を奪ったのは────






「なんだこれ…………水晶か?」

  

 所々に隆起(りゅうき)する、白く透き通った鉱物の(はしら)だった。


 近づいて、触れてみる。


 キラキラと、陽の光を(はじ)いて輝くその水晶の表面は滑らかで、冷たかった。


「うっ……」


 不意に、感動がこみ上げてきた。


 チロの前世である『田中一郎』は、無気力な人間だったが決して無感動なサイコパスではなかった。


 いい映画を観たりすれば、人並みに感動したり泣いたりもしたものだ。


 だがこれは、この感動は、違う。


 これは、他人の作り出したものに共感しての感動ではなく、自らの努力と挑戦によって生み出された、自分だけの感動なのだ。


「俺、生まれ変わって、よかったなぁ……」


 この世界に転生して初めて、チロは心からそう思えた。


 食べ物はまずいし、娯楽はないし、どこもかしこも危険に満ち溢れていて、平穏や安心とは程遠い世界だ。



 だけど今、自分は生きている。


 生きるということ自体に、喜びを感じている。


 そのことが、どうしようもなく嬉しく、そして大切なことのように、チロには思えたのだった。

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