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柱神の巫女~貴方の「愛」は信じない~  作者: 葉摘 紅茶
02 アスラン
13/17

ずっと君を愛していた 4

 冷たい視線でこちらを見つめるリステラにアスランは敢えて冷静な表情を保ち続ける。

 本当は彼女を問い詰めたい衝動に駆られていたが、そんなことをしてはリステラはますます何も話してはくれないだろう。

 なんと声をかけるべきか迷っていたところに、小さく溜息を着いたリステラが問いかけてきた。


「それで、御用とはなんなのでしょうか」


 さも帰ってほしそうな口調。

 なんの用事もない、とばかりに発せられた言葉にアスランはとうとう我慢できなくなった。


「用件は分かっているんだろう? なんで僕との婚約を破棄したんだ? 君はあんなに僕を愛してくれていただろう? それともあれは嘘だったのか?」


 ――駄目だ。和解するために話し合いにきたのに、これではリステラを責めているようではないか。


 頭ではそう思うのにアスランは言葉を止めることができなかった。


 あの日。城下町から望む景色を眼下に、草原の大樹の下で求婚した日。長く胸に秘め続けた想いを告白したあの日、リステラは笑顔で応えてくれた。


 本当に幸せそうな笑顔で、今まで見たどんなものよりも綺麗なあの笑顔をアスランは覚えている。

 あの日交わした誓いに、思いに嘘はなかった。互いに誓った婚約は果たされるはずだった。

 だからアスランは十年間待ち続けた。


 それなのに。

 十年間待ち続けた結果が、リステラのまさかの婚約を拒否するという裏切りによって無くなってしまった。

 アスランの十年間は否定されてしまったのだ。


 ――リステラ。あの日のあの言葉は嘘だったのか? だったらあの笑顔はなんだったんだ?

 なら何故、昨日目が会った時、一瞬辛そうな顔をしたんだ?

 答えてくれ。僕は君の本心が知りたいんだ。


 今すぐリステラに詰め寄って確認したい。胸に去来する思いが溢れそうになり、アスランはぐっと耐えた。

 しかし。リステラは冷たい視線を崩さないまま、なんの抑揚もない声で言い切った。


「そのことですか。その件は昨日お答えした通りです。私はもう貴方を愛してなどおりません」

「――ッ!!」


 目を合わせもせずに言い切ったリステラに、アスランは激昂した。

 まだ並べられたばかりの湯気がたった紅茶や、パンが乗っているテーブルを力任せに叩き、怒りを顕にする。


 叩いた拍子に紅茶のカップがひっくり返り、白いテーブルクロスにシミを作っていくのが見えたが、それに構う余裕すらなかった。


「僕はそんなことが聞きたいんじゃない! 何故婚約を破棄したのかと聞いてるんだ!!」


 語気を荒らげ、怒声を響かせるアスラン。

 しかしそんなアスランに対し、リステラはどこまでも冷静に対処する。

 どこか事務的な口調で。まるで、意図的に心を閉ざしているかのように。


「少しは落ち着かれたらどうですか、アスラン殿下。それに私が婚約を破棄するのにそれ以外の理由がなければならないのですか? 第一貴方にとってもこの事態は願ってもないことでしょう。貴方が王族として負っていた役目から解放されたのですから」

「……え?」


 思いもよらぬリステラの言葉に、アスランは虚をつかれた。

 リステラの言いたいことが理解できなかった。


 自分にとって願ってもないこと? 王族として負ってた役目から開放された? 


 アスランにとって王族としての役目など常日頃から教育として刻み込まれてきた。

 しかしそんなことは教えられてはいない。

 リステラが婚約破棄することが自分にとって何のためになるのか、アスランは()()()()()()のだ。


「リステラ、君は何が言いたいんだ? 僕が王族として負っていた役目? 解放された? 君との婚約が何故そんなことに繋がるんだ? さっぱり理解できない」


 眉をひそめて訳が分からず首を振るアスランに、リステラがこの時初めて表情を見せた。

 片眉を釣り上げ、空色の瞳に怒りを込めてアスランを射抜くように見据えた彼女は、何も知らない彼に自らが十年間前に知り得た真実を暴く。


 密かな悪意によって意図的にアスランに知らされることのなかった、王族の秘された役目。

 それは。


「『柱神』に選ばれた者と婚約し、その者が役目を終えたら結婚する。それがこの国の王族の代々の義務である」


 なぜなら。


「『柱神』の役目を終えた者は神気をその身に宿す。長年『天蓋』と一体化し、受け止め続けた神気は、やがてその者の身体を蝕む毒となり――その者を殺してしまう」


『柱神』に選ばれた者は代々短命。

 役目を終えた『柱神』の中で数十年と生きられた者は存在しない。『柱神』の役目を終えた巫女の余命はせいぜい数年。


「王族はその『柱神』の巫女の最期を看取るまで伴侶とし続けなければならない。それが王族に課せられた義務」


 それ故に。


「貴方は私を愛しているのではなく、王族としての義務で私と婚約をしただけなのだから。それを人は愛とは呼びません。貴方は私を愛してはいない。王族としての義務を果たしていただけに過ぎないのです。私はそれを十年前から知っています。だから私は貴方との婚約を破棄したのです」




 だから私は貴方を愛することをやめたのです、と締めくくるようにリステラに告げられ、アスランは目を見開きただ立ち尽くすばかりだった。



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