歯車世界
第一章歯車世界
この世界では、生まれ落ちた瞬間に成すべき役割が定められる。
勇者が勇者として生まれ、魔王として生まれた者と戦う事が決定付けられているように、誰一人として例外なく、役割に殉じるように出来ていた。これが神の成した理であり、世界は必然的に、歯車のように噛み合い廻り続けた。
歯車世界客観的に世界を観測した者は、まさに見たまま、簡潔に命名した。
魔王バルガスのいる世界は、決められた歯車が決められた歯車を回す事で、世界という大きな歯車を複雑でありながらも、綺麗に回帰するように創られていた。
人が生まれ育ち、文明が起こり、科学が発展したとしても、必ず最後には回帰する。なぜなら、そういった役割を持った大きな歯車も、世界には存在しているからだ。
それが魔王であり、勇者だった。
魔王は発展した文化を壊す存在であり、勇者はそれを護る存在である。発展した文化のレベルによって、魔王と勇者のステータスは変動し、文化が高ければ魔王が強く、文化が弱ければ勇者が強いといった調整も存在していた。
世界は歯車のように廻り続ける。しかし、現在の歯車世界は、魔王という大きな歯車が微妙に狂い始めていた。文明を破壊すべき魔王が文明を楽しみ、定められているはずの役割を果たさない。
文明の発展は魔王を際限なく強くする、歯車世界に定められたルールは絶対のものであり、魔王バルガスの強さは今、勇者がどれ程の鍛錬を積み重ねたとしても、けして到達する事のできない物となっていた。
文明と共に魔王は成長する。そして、ある程度文明が成熟した段階で、魔王は世界征服を開始するように出来ていた。
魔王が文明を滅ぼし、世界征服も終盤に差し掛かった所で、文明の崩壊と共に成長する勇者によって、魔王は倒されパッピーエンドを迎える。
そして第二第三の魔王が静かに産声を上げるのである。
歯車世界はこのような形で永久に廻り続ける。これが、歯車世界が歯車世界と呼ばれる所以であり、乱れる事も狂う事もけしてないハズだった。
しかし、歯車世界に君臨する魔王バルガスは、一向に文明を滅ぼす気配はない。
そして等々、魔王バルガスは魔王としての役割を行使する事無く、魔王バルガスの時代に生まれてくる勇者のすべてを滅ぼしてしまった。
歯車世界を織りなす、魔王という大きな歯車の狂いに世界のシステムは、世界の歯車がこれからも廻り続ける為に、異世界から強制的に魔王を滅ぼす役割を持った者達を呼び寄せた。
永久機関であったはずの歯車世界に生じた狂いに、観測者は好奇の目を向ける。
世界のシステムは世界を正すのか壊すのか。
働く予定にないシステムが働いた場合に何を起こすのか、複雑な永久機関に対する一つの答えに観測者は興味深々だった。