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要塞アストラと四天王ルンファ5

ルクレツァアからアストラまでの道のりは、空路なら三時間、航路だと約二日の時間を必要とする。アストラ自体が船として動いている事もあり、アストラの移動先次第では、航路だと到着時間にかなりのバラつきか生じる事になる。

今回の場合、上空にドラゴンが出現した事で、アストラは普段よりもかなり離れた場所に移動しており、到着に三日は必要になるというのが船長の見解だった。

つまりこれは、後三日という時間を、船に揺られなければならないという事であり、その事実にワタルは両手両膝を付いて、絶望していた。

「オロエロアロエロアァ・・・・」

 口から、キラキラと光るものが海に向かって吐き出される。

 キラキラを吐き出すワタルの顔は、血の抜けた蒼白色で、頬は痩せこけていた。

完全に船酔いである。

「情けない男ニャフレロォエ・・・」

「お前もなオエラァ・・・」

 ワタルの隣では、エインが同じようにキラキラを吐いていた。

キラキラを吐くエインの尻尾は力なく垂れ下がり、黒毛で分からないが顔色も随分と悪そうだった。

同じ船酔いのワタルの目を通して見たなら、黒ネコなのに白く見えるくらいに、エインも苦しそうであり、そう見えるワタル自身かなり限界にきていた。

「お互い、乗られる事に慣れていても、乗る事には慣れなかったみたいニャン・・・」

「うまいね・・・でも、白い方は全然余裕そうに見える・・・」

「あれは、ナナが馬鹿みたいに安定してるからニャン・・・」

「なるほ、ゲロレロレロロ・・・」

「ニャフロロレアレア・・・」

 会話をして気持ちが悪くなったワタルは、海に向かって再びキラキラを吐き出し、ワタルに貰いキラキラをするように、エインも同じように吐き出した。

 エインいわく、馬鹿みたいに安定しているナナはというと、遊びなのか修行なのか、張られている帆の頂上で、潮風に揺れる事もなく座禅を組んでいた。座禅を組むナナの膝の上には、オーデが丸くなり、気分良さそうに眠っている。

 出航の直前まで、船の上でナナに追い回されているオーデの様子を、エインはニヤニヤと笑いながら見ていたが、今の様子を見る限り、オーデが勝ち組である事に疑いはなかった。

「オェッ・・・」

「ニャフ、本当に最悪な気分ニャン。船なんてもう二度と乗らないのニャン・・・」

「同じく・・・」

 同じ境遇に置かれた結果、少しだけ仲良くなった二人は、互いの背中を擦り合いながら、ただ時間が過ぎるのを待った。

 気分は最悪の最悪だったが、同じ苦しみを分かち合える仲間がいるというのは、良い事だとワタルは思った。




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