要塞アストラと四天王ルンファ4
ルクレツァアの港には巨大ガレオン船が幾つも停泊していた。
全ての船に多くの荷物が運び込まれており、世界一周の大航海でも始まりそうな雰囲気があった。荷物を運び入れている殆どの者が屈強で人相も悪い為、海賊の大船団と言われたなら、普通に信じてしまいそうだった。
「とても観光客を乗せる船には見えませんわね」
「野蛮で汚いのニャ」
「ハッハッハ。すまねぇな。空にドラゴンが出たせいで、今は空路が使えないんだ。そのせいで物資を運ぶには船を使うしかねぇし、ドラゴンが出たって事は、海が荒れるからな。普通の状態で人や物を運ぶ事はできねぇんだわ。このタイミングでアストラに向かう物好きな観光客も、今日はあんた等しかいねぇしな」
「ドラゴンとは、中々面白いワードですわね」
「こっちとりゃ面白くねぇよ。飛行船とかち合う場所を飛んでるだけで、今は災害を振り撒く気配はねぇが、いつ気紛れを起こすか分かったもんじゃないからな」
「そうですの」
「まぁ、なんであれ、俺達はプロだからな。あんた等は全員無事にアストラに届けてやるよ。ちいなみに俺は只の案内役で、船には乗らねぇがな。がっははっ」
オレンジのバンダナを頭に被り、左目に眼帯を付けた、海賊のカタログのような姿形をした男はそう言うと、豪快に笑ってみせた。
「でかい口なのじゃ」
「器もデカイしアソコもデカイぜ。とまぁ、無駄話はこれくらいにして付いてきな。あんた等が乗る船まで連れてってやる。て、これが俺の仕事なんだけどな。がっははっ」
男は豪快に笑った後、勇者ワタル一行が今日乗る船まで案内した。
「ほげ~、オーデやエインよりもずっと大きいのじゃ。これに乗るのか?」
間近で見るガレオン船は、迫力満点で兎に角でかく、ワタルも思わず「ほげ~」と唸ってしまうようなサイズ感だった。通常のRPGだと、この船を手に入れるイベントのようなものがあったりするわけだが、さて、どうなのだろう。
「あっ、ちなみにオーデやエインよりも弱いから、穴を開けたりするなよ」
急な嵐にも耐えるガレオン船とはいえ、船体は主に木で出来ており、ナナが攻撃すれば海の藻屑となる事は想像に難くない。
ナナであれば、これが鋼鉄製の戦艦であったとしても、迎える結果に大差ない気はするけど・・・。
「もふもふ~了解なのじゃ」
「オーデもナナと一緒に暴れるなよ」
オーデの背中にだらしなく全身を預け、オーデの白い毛並にもふもふと顔を埋めるナナを見ながら、ワタルは一応オーデにも注意しておいた。
オーデとエインは形態変化の際、大きさをある程度コントロール出来るらしく、現在のオーデ巨大な化け猫ではなく、体長一メートル程の白豹の姿をしていた。ちなみにナナは、黒猫のエインよりも白猫のオーデを気に入っているようで、背中を貸している以上、オーデもまんざらではなさそうだった。
「オッタルのくせに命令とはいい度胸ニャー。喰われたいのかニャー?」
「ごめんなさい」
鋭い牙を見せられ威嚇されたワタルは、すぐにオーデに謝った。
この猫、本当怖い。
「オッタルは、チキンなのニャン」
「いやいや、強気に行ったら死ぬから、これが普通。ザ、正常」
子猫状態で肩に乗っているエインの呆れ口調に、手と首を左右に振りながらワタルは、これが普通の常識的な判断である事を訴えた。鋭い牙を持つ猛獣に、牙剥き出しで威嚇されたらビビるのは普通で、恐れるのが正常だ。これに「馬鹿言うなよははっ」と、笑って返せる奴の方が、余程異常で頭のネジが飛んでいる。
「勇者なら、ヤバイと分かっていても、立ち向かうものじゃないのかニャン」
「勇気と無謀は違うって、偉い人も言ってるし、そんな事は断じてしない」
「ダサい男だニャン」
「敗北の美学って言えばカッコイイ」
「あぁ言えばこう言うのニャン」
「ふふっ。ようやくオッタルにも、色が付き始めたみたいで安心しましたわ」
「色?」
「感情や個性といったものですわね。今までが無かったとは言いませんが、色として表現出来ていたかと問われると、そうではなかったと思いますわ」
「胸糞悪くて気持ちが悪いという意味では、色はあったニャン」
「ふふっ。確かにそうかもしれませんわね」
「えっ、フレイヤもそう思ってたの?」
胸糞悪くて気持ち悪い奴だった。という事を否定するつもりはないものの、フレイヤがエインの意見に賛同した事は、少しだけショックだった。
「そう思われていなかったと思ってるオッタルに、驚きなのニャン」
「エインはさっきから、酷い事言うな」
「ただ事実を言ってるだけニャン」
「ふふっ、重要なのは過去ではなく今ですから、過去に付いて言われた所で、気にする必要はありませんわよオッタル」
「まぁ、うん」
過去があるから今があると考える事も出来たが、ワタルの場合はフレイヤの言う通り、過去よりもはるかに今の方が重要だった。過去が重要だったなら、女神に会うこともなく、元いた世界で平和に暮らしていた。
ワタルがここに居るという事実が、過去の不要さを物語っているに等しかった。
「準備が出来たみたいだから、船に乗り込んでいいぜ。段差になってる足元には、くれぐれも気を付けてくれよ。それでは、良い旅を」
「レッツゴーなのじゃ」
オーデに乗ったナナを先頭に、勇者ワタル一行はガレオン船の中に乗り込んだ。
活気ある野郎達の声と共に帆が張られ、間もなくしてガレオン船は中心要塞アストラへと向かって出航した。




