勇者の日常と魔王の目覚め5
「・・・して、わざわざこの場に集まった理由は何だ?情けない話だが、この魔王バルガス、今起きたばかりでな、状況は把握していない」
たっぷりと間を使い、四天王一人一人に目を移していったバルガスは、集まった理由を四天王に投げ掛けた。
「バルガス様が酷く落ち込んでいるのではないかと危惧し、我等四天王、誠に勝手ながら魔王城に集結させて頂きました」
「そんな感じ~。ばるたん元気出せ☆」
ガルマが魔王直属の部下らしく丁寧に回答した後、何処かのJKのようにファルが適当な感じで同意した。実際は四天王でもないにも関わらず、何と気安いのだろうか。
あまりの気安さに、うん、元気だす☆とバルガスは思わず答えそうになった。バルガスはこういうノリが嫌いではなかった。
「ごほん。このバルガス、別段気落ちしているわけではない。・・・いや、落ち込むべき現実をまだ、受け入れていないと言った方が正確かもしれん」
ザッコが持ってきたサブの携帯端末に触れはしたものの、メインのパソコンや端末、ゲーム機にバルガスはまだ触れていなかった。
ここまで長い時間、ゲームに触れずに過ごしたのは、実に半世紀振りの事だった。
半世紀前にはまだ、テレビゲームと呼ばれる物さえ、存在していなかったからである。
バルガスは、ゲームという物がこの世に誕生して以来、今の今まで第一線でプレイし続けている、生粋のゲーマーでもあった。
神ゲーから糞ゲーまで、バルガスがプレイした事のないゲームはないと言ってしまって良い程、バルガスはゲームに人生を捧げている。
ゲームはバルガスにとって、人生そのものだった。
そしてそんな人生の中で、とても重要なイベントをバルガスは逃した。
琴美ちゃんのスターイベントだ。
ゲームのヒロインに幾度となく恋をし、ソーシャルゲーム毎に推しキャラが一人以上いるバルガスは、決して一途な魔王ではない。
しかしそれでも、琴美ちゃんはバルガスにとって特別な女の子だった。
普通の女の子が、スターの階段を少しずつ上っていくサクセスストーリーとでも言えばいいのか、琴美ちゃんがスターになるまでの道のりは、順風満帆なものではなかった。
最初からスターの座が約束されていた子達とは違い、最初は声もなければSRカードも無かった。アイドルというよりは、アイドルに憧れる女の子として、少し顔を出すだけのモブ子のような扱いをされていた。
それが少しずつ変わっていき、SRが出て、声が付いた。
SSRが出て、専用の歌も出るようになった。
イベントにも、メインで起用されるようになった。
アイドルに憧れた普通の女の子は、いつしかアイドル達と同じステージに立ち、そして・・・。
最初期から琴美ちゃんを推していたバルガスは、この瞬間をファンや恋人というよりはまるで親のような気持ちで見守り、待っていた。
しかしバルガスは、普通の女の子だった琴美ちゃんが、スターとして輝く瞬間を見ていない。
その瞬間は既に終わっている。
このような現実を受け入れる事など、到底出来るはずがなかった。
「琴美ちゃんのスタイベに参加出来なかったのに、やけに落ち着いてるから変だと思ったけど納得だな。まぁ、今日はオフ会じゃないし、魔王としての威厳を保ってるだけの可能性もあるけど」
「城もバキッてるもんね☆」
「オフカイデハナイノダ、フケイガスギルゾ、ジグール、ルンファ」
「別に構わん。が、この魔王バルガスを煽りに来たと言うのであれば、相応の覚悟はして貰うぞジグール」
バルガスは玉座に腰掛けたまま、ぐっと拳に力を込めた。怪鳥ガルーダの頭蓋によって創られた玉座の装飾は、バルガスに握り潰された事で粉々に砕け散った。
四天王は、得意ジャンルは違えど、バルガスと同じようなゲーマーの集まりでもある。その中でもバルガスと同じアイプロガチ勢であるジグールは、廃課金のアルバムコンプ勢だった。
ジグールは琴美ちゃん推しではないものの、アルバムコンプ勢である以上、琴美ちゃんイベントにおける限定SRも限定SSRも所持している事に疑いはない。
俺は持っているのにお前は持ってないの?
遠回しとはいえ、仮にこのように煽ってきているのであれば、四天王とはいえ生かす理由は無かった。
「こわ~☆」
「煽ってないからやめてくれ。ていうか、全然冷静じゃねぇ」
「この魔王バルガス、まだ冷静だ。まだ、な」
言葉とは裏腹にバルガスの周囲には、黒い闇のオーラが広がり始めていた。
バルガスはまだ冷静ではあるものの、もう冷静では無くなっていた。
「このままでは、バルガス様が闇堕ちしてしまいますね」
「魔王なのに、闇堕ちとか意味不明だぞ☆」
「マオウトシテ、アルベキスガタデハアル」
「そうなると、俺達も四天王としてあるべき姿にならないといけないからなぁ、却下で」
「ですね。私もまだ記録を塗り替えていないRTAが何本も残っておりますし、魔王様の闇
堕ちは歓迎すべき事柄ではありません」
「タシカニ」
「流石は、ばるたんが選んだ四天王って感じだぞ☆」
「貴女もその一人なのですが、まぁ良いでしょう。バルガス様。どうかこちらを御覧下さい
ませ。貴方はまだ、何も失ってなどいません」
ガルマはそう言うと、一台の見覚えのある携帯端末を取り出し、端末の画面が見えるよう、バルガスに向かって差し出した。
バルガスはドス黒いオーラを全身に纏ったまま、画面を見た。
携帯端末の画面には、キラキラの星に埋め尽くされた、最愛の人物が映し出されていた。
「琴美・・・ちゃん・・・」
輝きはSSRであるが、見た事はない。
「この端末はバルガス様の物であり、琴美ちゃんも当然バルガス様の物。どうぞ確認して下さい」
「・・・」
ガルマから携帯端末を受け取り、バルガスは画面を指で操作した。
キラキラの星に埋め尽くされた琴美ちゃんから、太陽の下で満面の笑顔を浮かべる琴美ちゃんに画面が切り替わり、画面にはLV300という数字と200のスタミナ。そして、バルガス・マオ・ウーというバルガスの真名が表示されている。
そこからまた画面を操作しアルバム画面を開くと、イベントSRの琴美ちゃんも、限定SSRの琴美ちゃんのアルバムもしっかりと埋まっていた。どれだけ指でスライドさせたとしても、アルバムに空白はない。
すべてが完璧に登録されていた。
「ワレラシテンノウ、マオウサマガプレイシテイタ、ホボスベテノゲームノログイント、イベントクリアヲサセテイタダイタ。ユエニ、コノジュウサンニチデ、マオウサマハナニモウシナッテハイナイ」
「なん、だと・・・」
「イベントを自ら走れなかった事は悔しいかもしれないけど、俺が風のように走っておいたから、イベランはちゃんと一位だぜ。限定SSRもランク最大にしてあるし、それで艦隊が組めるようにもしてある。月末の請求額については、知らんけどな」
「このSRを見る限り、貴様の推しである柳さんもイベントに参加していたのにか?」
「おいおい。手も脚も二本あるんだ。二つの端末をプレイするなんて事余裕だろ?俺はあんたと同じ、廃課金者の廃ゲーマーなんだぜ?」
「愚問だったか」
バルガスもゲームをする時は基本マルチタスクだ。十のゲーム位であれば同時進行させる事は確かに可能だった。もっともこれをする時は、イベントの周回やスタミナ消費をするだけの、所謂作業プレイに限られた場合だが・・・。
「という事で、俺等四天王が集まったのはこんな理由だ。まぁ集まっていたのはもっと前だけどな」
「魔王様が謎の戦士にやられているお姿は、SMSで見ていましたからね」
「ダカラスグニトンデキタ」
「死んでたら、葬式の準備をしないとだもんね☆」
「お前達・・・その動画はちゃんと消したであろうな?」
「殺ってみた動画に投稿して、百万再生されてるぞ☆」
「この状態で消したとしても、きっと増えてしまうでしょうね」
「この魔王バルガスは、魔王なのだぞ?なぜ魔王が殺される動画が、100万回も再生されるのだ」
おかしいだろ。常考。
「国のTOPが動画内で玩具にされる事は、よくある事だぞ☆」
「魔王様は圧政を敷いていませんからね。悪ふざけをする連中が増えてしまうのも仕方ありません」
「いやいや、それお前等やろ、がい。何他人事にしとる、ねん」
バルガスは思わずツッコミを入れた。
どう緩く考えたとしても、発端は四天王だった。
魔王の最高幹部四人が、魔王を馬鹿にしていたら、他の奴等だって悪ノリくらいはする。赤信号皆で渡れば怖くないというヤツだ。
「でも、俺達の忠誠心は今見せただろ?」
「まぁ、確かにその通りだが」
「愛されるのは、素敵な事だぞ☆」
「そうですね。兎に角魔王様が闇堕ちせずに済んで良かったです」
「ファル的には、世界征服を開始しても全然構わなかったんだけどなぁ☆」
「ワレハスコシコマル」
「ガメオンよ。そんな事はないから安心しろ。この魔王バルガス。今は世界征服なんかよりも、琴美ちゃんイベントのコミュを等倍速で読む方が大切だからな。貴様等も用が済んだら帰ってもいいぞ。いや寧ろもう帰ってくれ」
「ひでぇ」
「タシカニ」
バルガスと四天王が明るく会話を交わす中、悪魔神官のザッコだけが冷たい目でそのやり取りを静かに見つめていた。
バルガスは世界征服を行わない。しかしそれでも歯車は、廻っていた。




