勇者の日常と魔王の目覚め4
四天王が魔王城に来城した事を知らされたのは、バルガスが天を仰ぎながら涙した直ぐ後の事だった。
四天王とは魔王と四天王という名目ではなく、ギルドのオフ会という名目で、親睦を深める事はあったものの、魔王城で会う事は、200年の間で一度もなかった。四天王を四天王として任命したのは、ゲーム内で気の合う仲間だったというだけで、魔王の部下として、小間使いする為ではなかったからだ。
そんな四天王が、今このタイミングで魔王城に来たという事は、四天王に対してもザッコが余計な事をしたと考えるのが自然だろうか・・・。
「ザッコよ。次に下らない事をしたなら、貴様はこの魔王バルガスの経験値にする。その事を忘れるなよ」
「ははっ」
バルガスの言葉にザッコは片膝を付いた状態で胸に手を当て、恭しく頭を下げた。
それっぽい行動を取ってはいるものの、意味をきちんと理解しているかは、怪しい所だった。
「ふん。まぁ、よい。では、間もなく来る四天王を待つとしよう」
バルガスは玉座に背中を預け、四天王を迎えるに相応しい、魔王らしいポーズを取って、四天王が来るのを待った。
四天王は四天王の名の通り四人居る。
四人全員がバルガスと同じ魔人と呼ばれる種族であり、バルガスと同じように発展した科学に応じて、ステータスにボーナスが付与されていた。
四天王も今のバルガス同様、レベルは低いものの、付与されるボーナスによって、四天王という名に相応しい強さを持っていた。
そんな四天王が魔王の城に集まる。
魔王として初めて四天王と接する事になるバルガスは、冷静を装いカッコイイポーズを決めているものの、心臓はバクバクと脈打ち、手は小刻みに震えていた。
勇者に会う時は何も思う事はないものの、近しい者に会う時は少し緊張する。
だが、そんな様子を億尾にも出さないのが、魔王バルガスだった。
間もなくして魔王城の扉が開かれ、四天王が魔王バルガスの前に姿を現した。
オフ会の時のような気安い雰囲気はなく、重々しい空気を纏ったまま、四天王はバルガスが座る玉座の前に立ち並ぶ。そして、ゆっくりとその場で片膝を付き、忠誠を示すように胸に手を当てた。
魔王と四天王の適切な距離感が、そこにはあった。
「ふむ。遠路はるばるご苦労であった」
バルガスは恰好を付けながら、四天王に労いの言葉を掛け一人一人に目を移した。
バルガスから見て左端に居るのは、風の戦士ジグール・フルドル。
魔人特有の肌は緑色。銀色の髪をしているものの、頭の殆どは黄色く派手な バンダナによって覆われている。目は赤く、中心だけが深い黒色をしている。歯はワニやサメのようにギザギザで、鼻は小さな穴が二つ空いているだけだった。全体的に細身であるものの、戦うべき筋肉はしっかりと備わっており、疾やそうだという印象を抱かせる。実際、ジグールは誰よりも疾やい男だった。
ジグールの隣に居るのは、ルンファ・アーカイガ。
魔族特有と言っていいのか、肌は濃い茶色。髪は銀と紫が入り雑じったソバージュヘアで、前髪を大きなあめ玉がついたゴムで留めている。顔全体に濃いメイクが施されており、目や口がやたらと強調されていた。体型は絵にかいたボン、キュッ、ボンで、服と呼ぶにはあまりに面積の小さい布からは、上からも、下からもおっぱいが溢れ出ていた。へそにはピアスが填められており、タイトな黒スカートも短く、少し角度を変えたなら、簡単に中身を見る事が出来る。下着は虎ガラであり、純白を愛してやまないバルガスは、下着が見えたところで、興奮する事はなかった。
続いてガルマ・ゲルマ。
魔人特有の肌は桃のようなピンク色。髪は黒で、綺麗な7、3分けで固められている。伊達なのか、眼鏡にレンズは入っておらず、その奥には温情のない冷たい目があった。口も無表情に固く結ばれ、ピシリと糊のきいたベージュのスーツと相まって、インテリやくざのような、そんな印象を受ける。口調も性格も穏やかであるが、穏やかであるからこそ、バルガスはガルマにだけは畏怖の念を抱いていた。兎に角目が怖いからだ。
最後にガメオン・メルオレン。
魔人と言うよりも、一言で言うならば炎だ。人の形をしてはいるものの燃えている。かろうじて目や口の位置は分かるが、そこが確実にそうかと問われたなら、自信は揺らぐ。目も口も、炎の揺らぎによって出来る模様だと言われたなら、そうも見えるからだ。それ以外の特徴はこれといって特にはない。実際に温度を放っているわけではないものの、近くにいると熱い気がする。
以上が魔王バルガスに従う四天王。といっても、ルンファに至っては、当人ではなく、その側近であるフィル・フェルムと呼ぶ事が正しいのだが、その事を知っているのは、バルガスだけだった。
ちょっとした優越感である。
もっとも、今はそんな事はどうでも良いのだが・・・。




