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勇者の日常と魔王の目覚め2

目を開けると見慣れた景色が広がっていた。

頭は若干ぼ~っとするものの、ここが玉座の間である事に疑いはない。

何かと戦闘を行っていたような気もするが、今一記憶はハッキリとしない。記憶の中で玉座の間は半壊していたはずだが、玉座の間に戦いの跡は何一つ残ってはいなかった。

バルガス自身にも傷はなく、斬られた跡も何処にも残ってはいない。

アレは本当に、ただの夢幻だったのだろうか。

バルガスは思考し、詳細を思い出そうと努力した。

しかし、記憶の詳細が浮き出て来る事はなく、その代わりに体がカタカタと震え始めた。

バルガスは過去を思い出す事に恐怖していた。

「この魔王バルガスに一体何があったというのだ・・・ザッコ。おいザッコよ」

「はっ、ここに」

 バルガスの呼び掛けに、悪魔神官のザッコは直ぐにバルガスの目の前に姿を現した。相変わらず甲高く耳障りな声であったものの、ザッコが現れた事にバルガスは少しだけほっとするのを感じた。

「何があったのか説明しろ。アホ」

「説明と、申しますと?」

「この魔王バルガスが、玉座で眠るなどという事はありえん。なぜそうなったかについて説明しろと言っている。ボケ」

 バルガスは、基本的に睡眠は取らない。

 仮に眠る場合があったとしても、玉座で眠るという事はあり得なかった。

玉座というのは、魔王らしいポーズを取りながら勇者を待つ場所であり、バルガスにとっての唯一の仕事場。どれ程ゲームに夢中になっていても、勇者が来たらきちんと対応する位には、バルガスは仕事に対して真摯に取り組んでいた。

「バルガス様は、流浪の戦士に勝負を挑まれ、敗北なさいました。腕を斬られ、脚を斬られ、腹を斬られ、背を斬られ、ボロ雑巾のように捨てられました。バルガス様が玉座に座られていたのは、土下座し命乞いをしながら糞尿垂れ流して気絶していたバルガス様が、あまりに不憫であった為、ザッコめが魔王らしいポーズに整えたのでございます」

「こ、この魔王バルガスが、そんな醜態晒すはずないだろ。馬鹿」

「はい。ザッコめにも信じられない光景でしたが、何度映像を確認したとて、バルガス様は醜態を晒しておいででした。SMSで四天王にも確認して頂きましたが、アレはバルガス様当人で間違いないかと」

「やめて。ちょっ、何、人の醜態をSMSで流してるの馬鹿なの、死ぬの?」

「はい。バルガス様は死にそうになっておりましたが、このザッコ、回復魔法には定評があります故、見事に回復させる事に成功致しました」

「・・・貴様は本当に、話が通じていそうで通じないな。取り敢えずその映像は消せ。魔王の醜態が広がってしまっては、部下に示しが付かなくなるではないか」

「既に四天王によって多くの者達に拡散されました故、今更消した所で変わる事はないかと」

「何なのお前。私の事嫌いなの?」

「そういった感情は持ち合わせておりませんが、ザッコめはバルガス様の忠臣である事に疑いはございません」

「この魔王バルガスは、今や疑いしか持っていないがな」

 どのような敗北をしたのか、バルガスは未だに思い出せてはいなかったが、汚らしい戦士が唐突に現れ、勝負を挑まれた事は思い出していた。そしてその戦士を呼び出したのは、他でもないこのザッコだった。

 気持ちの悪い見た目や声といい、魔王バルガスを誑かし、何かを企んでいる可能性は十分あった。魔王の副官というのは、裏切り者が務めるものだと相場が決まっている。

「それは何とも、悲しいお言葉にございます」

「ふん。で、この魔王バルガスはどれ位眠っていたのだ?ボケ」

 普段は殆ど睡眠を必要としない体であり、ザッコは回復魔法を得意としているという事は、長くても一日位だろうか。すぐに戻るとチャットをしたギルメン達には、後で誤っておかねばならないな。

「13日にございます」

「ザッコよ。貴様は本当に話が通じないな。この魔王バルガスが聞いたのは今日の日付ではない。この魔王バルガスがどれ程眠っていたかだ。何時間と言い換えてもいいぞ。カス」

「316時間と42分にございます。この時間バルガス様は眠っておられました。因みに本日は26日にございます」

「・・・ふむ、それはマジか?」

「マジにございます」

「という事はあれか、琴美ちゃんのイベントは終わったと、貴様はこの魔王バルガスに宣告しているのか?殺すぞ」

 バルガスは殺意を宿した目で、ザッコを見た。

「琴美ちゃんのイベントというものを、ザッコめは知りませんが、バルガス様が13日以上眠り続けた事も、本日が26日という事も事実にございます」

「・・・」

 ザッコの言葉に頭が真っ白になったバルガスは、現実を否定するように頭を小さく左右に振った。

 ザッコの言った言葉が事実とするなら、15日から開催される予定だった琴美ちゃんイベントが既に終わっている事を意味する。アイドルプロデュース~ウィークリースター~は、名前の通り1週間でスターを育てるゲームだからだ。

 ようやく、スター候補に琴美ちゃんが選ばれたと、ウキウキで待っていたというのに・・・。

 こんな事があり得ていいのか、いや、ない。

 だが実際、既に手遅れとなってしまっている事に疑いはない・・・。

 運営に直訴するか?

 バルガスはいちファンとして好きの度を超えた事によって、アイプロ運営の筆頭株主として名を連ねていた。その為、バルガスの言葉が鶴の一声となって何とかなる可能性は十分考えられた。

 裏から、撮り逃したカードを廻して貰う事は恐らく可能だろう。

「バルガス様?」

「いや、駄目だ」

 愛は金で買える。しかし、こちらの愛をフレンドやライバル達に知らせる為に必要なのは、金よりも時間だ。バルガスは琴美ちゃんイベントを走っていない。その時点で数多いる琴美ちゃんファンの中で、最下層に落ちてしまった事に疑いはない。イベントを走らない奴など、ファンと名乗る価値はなく、そんな奴が限定SSRを自慢した所で、鼻で笑われる。

限界まで重ねた限定SSRを持った状態で、イベントランキングで1位を取る。

これをして初めて愛で勝ったと言えるのだ。

金で買った愛だけでは、誰にも祝福などされない。

バルガスは誰しもが認める、琴美ちゃん親衛隊隊長にならなければいけなかった。

バルガスはドンと床を踏み付けた。

城全体が震動し、踏み付けた床には大きな亀裂が走った。

「バルガス様、如何なさいましたか?」

「ザッコよ、ケータイを持ってこい」

「はっ。すぐに」

「くそっ、なぜこんな事に」

 バルガスは再び床を踏み付けた。

 床に出来た亀裂は壁を走り、魔王城にある窓ガラスを砕いた。

「バルガス様。持ってまいりました」

「・・・こっちじゃない、が、まぁよい」

ザッコが持ってきた携帯端末は、アイプロがダウンロードされている物ではなかったが、バルガスが確認したかったのは、アプリの中身ではなく時間と日付であった為、それが分かる物であれば、何だって良かった。

バルガスは携帯端末を操作し、時間のチェックをする。

何処をどう見たとしても、ザッコが言った日付が記され、惰性でログインをし続けていたアプリのログインボーナスも、当たり前のように途切れていた。

終わった。

すべて終わった・・・。

バルガスは天を仰ぎ、静かに涙を流した。


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